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第79話

「どうした?」


「いえ、ミカエルから【メッセージ】が」



 【メッセージ】は遠くの誰かに思念を飛ばせる次元属性魔法なのだが、あくまで【魔法改変】により開発した俺のオリジナル魔法であった。ティアラも【魔法改変】を持っているとはいえ同じ魔法を開発していことに、俺は少なからず驚いた。


 そして最初は澄ました表情をしていたティアラだが、少しずつ深刻なものに変わっていく。



「これから皇国に行かないと行けません」



 【メッセージ】が終わったのかティアラは血相を変えて立ち上がろうとするが身体がよろけてしまう。

 俺はすかさずティアラの身体を支え、その様子に疑問をぶつけた。



「何がおきたんだ?」


「皇国、中央都市の城に悪魔が2体も出現したらしいですわ。早く行かないと大変なことになります」



 男性である俺が身体に触れているにも関わらず、嫌な顔ひとつせずに淡々と話すティアラ。

 それだけ緊急なのだろう。


 ティアラが中央都市に向かう手段としてはおそらく【転移】を使うのが1番有効だ。だけどそれには問題があった。



「魔力がもうないだろう」



 ティアラには【転移】どころか、まともに魔法を使う魔力が残っていないのだ。

 もし使おうとすれば魔力切れで死ぬ危険性すらある。



「それでも行かなきゃいけません……私の目的のために。それに腐った国ではありますが皇国は大切な場所ですから」



 儚げな表情で語るティアラ。その表情を見つめていた俺の中で何かが動いた。



「俺が行こう」


「えっ?」


「俺が《ラグナ》として皇国へ行き、悪魔を消滅させる」


「意味がわかりませんわ。なんで他国の住民であるあなたが私の国を助けようとしているのですか?」


「国は関係ないだろう。それに皇国には王族もいる」



 その言葉にティアラは少し考えてから口を開く。



「魔力があるっていっても、あなただって1回でも【転移】を使えば無くなるぐらいの魔力量じゃない。それで悪魔に勝てるとでも思っているのですか? それに皇国へ赴いたこともないでしょう」



 ティアラの言う通りである。さきの戦いにより魔力をかなり使ったのだ。

 さらに【転移】は1度行った事のある場所へしか使えない。



「俺が魔力を渡すから【転移】はティアラが使ってくれ。俺よりも消費魔力が少なくて済む」


「……わかりました」



 ティアラは少し考えながらも首を縦に振った。

 苦手である異性の魔力を取り込むのだから少しはただをこねると思ったのだが、あっさり了承してくれた。

 緊急時でも状況を整理して柔軟に対応出来るその姿勢は素直に凄いと感じる。



「だけど、あなたの魔力も少ないのでしょう。皇国には援軍の騎士達がいるにしても、それで悪魔を倒せるのですか?」



 その言葉に、俺は思わず唇を綻ばせた。



「俺は誰にも負けない」


「………………そう」



 しばらくの沈黙の後、ティアラは瞳を一瞬揺らし短く返事をした。

 そして真剣な眼差しを俺へ向ける。



「あなたを信じますわ。それにこの私を移動手段に使うのですから、絶対勝ってくださいね」


「もちろんだ」



 茶化すように呟くティアラに対して俺は笑みを浮かべる。

 その表情につられてか、ティアラも口元を緩ませた。



「今回は特別です。行きますわ」



 ティアラはそう言って少し照れながらも手を差し伸べた。

 俺はそれを優しく掴むと、ティアラもしっかりと掴み返してくる。


 そしてお互い全身が青白く光りを帯び始めた。



「あなたの魔力は綺麗ですね」


「ティアラには負ける」


「お世辞はいりません」



 これは世辞ではない。戦いの最中ティアラの纏っていた魔力は無駄が無く、繊細で綺麗に制御されていたからだ。

 そのまましばらく魔力を分け与えていくとティアラの口が開いた。



「もう大丈夫ですわ」


「これだけでいいのか」



 素直に驚いた。俺が【転移】で使う魔力量の1/5も分けていないからだ。



「これで充分、お釣りが来ますわ」



 これが【極・次元魔法】か。

 そう思いつつ、俺は【アイテムボックス】から例の仮面を取り出して装着した。

 仮面はしっかりと顔面に張り付き、髪と身長が少しだけ伸びていく。



「行くぞ」


「その声……それにそんなことも出来るんですね」


「まぁな」



 俺は仮面を改良して【声の変化】、【顔への固定】の他に認識を間違えさせる効果を寄与していた。

 他の者には身長が高く、髪型も変わって見えるはずだ。



「転移先は中央都市の私の部屋です。そこから直接向かってください」



 ティアラがそう言い終えた直後、視界がパッと切り替わった。

 広々とした豪華な部屋、おそらくここがティアラの部屋なのだろう。

 同時に2つの邪悪な気配が外から感じる。



「サクッと行ってくる」


「その自信、拝見させていただきますわ」



 俺は頷き【気配遮断(シャドウ)】を発動させ窓から外へ出た。そして邪悪な気配の元へ【飛行(フライ)】で移動。



「あれか」



 するとすぐに闘技場のような場所が見える。会場にはチラほら人の影が見えていて、舞台にはたくさんの騎士が血を流し横たわっている。

 そこには見慣れた騎士が膝をついていた。それに倒れている者の中にはグリムとミロードもいるようだ。

 端っこには10メートルほどの牛の顔をした悪魔、真ん中には角を生やした2メートルほどの大きさの悪魔がいる。



「……そろそろショータイムを始めましょうか」



 遠くではあるが悪魔の声が小さく聞こえる。そして魔力を集め出した。

 俺はどんな系統の魔法を使おうとしているのかすぐにわかった。これを発動されたら闘技場が消し炭になる。



「悲痛を叫び死にゆく人間の魂はさぞ美味しいでしょう。散りなさい――【煉獄の爆界(ヘル・ノヴァ)】」



 俺はティアラから【完全再現(アブソリュート)】した魔法を同時に発動させた。



「【光の絶氷(シャイニングフリーズ)】」


「発動しない? どういうことだ」



 悪魔は戸惑いの表情を浮かべている。そして俺に気づいたのかその原因へ視線を向けた。

 それにつられてかアリーナ席で散っていた人達も俺に視線を向け始める。



「俺は《ラグナ》お前を滅ぼす軽いショータイムを始めようか」







 何をされたんだ。

 腕を組み宙を優雅に飛んでいるラグナを見つめながらベリアスは思った。

 周りの皇族や貴族達は逃げることも忘れて「あれがラグナか」「サタンを倒した英雄の」と口々にしている。


 だが同時にラグナの色濃く美味そうな魂にベリアスの口元は思わず緩んでいた。

 それに消費されているのか、ラグナの魔力はほとんど感じないのだ。魔力だけで言えば膝をついている赤髪の騎士の方が上である。



「これはこれは、あなたが噂のラグナさんですか。どうも」


「お前に知られる筋合いはない」



 禍々しくも透き通ったラグナの声がベリアスの耳を通る。

 そしてラグナは(おもむろ)に手を(かざ)した。

 すると上空から巨大な光の剣がベリアスに向けて落ちてくる。ベリアスは軽やかにそれを躱すと、光の剣は地面に突き刺さり霧散していく。


 その挑発にベリアスの笑顔はさらに増した。



「この状況で魔力を無駄使いですか。本当に人間はカスしかいないようだ」


「勝った気でいるのは早いんじゃないか?」


「弱った羽虫を潰すだけの作業ですが?」



 ――あぁ、早く食べたい。この会場の皇族や騎士、さらにあのラグナの魂を食べられれば僕の階級は上がり4大悪魔になることも夢ではなくなる。それに余裕を見せるあの態度を圧倒的な力で蹂躙したらどんな反応を見せるだろうか。

 そう思いながらベアリスは顔を歪ませた。


 そして手を翳し魔法を発動させる。

 発動させるのは【灼熱の槍(クリムゾンランス)】――ラグナの上空から業火に焼かれた槍が降り注ぐ。


 ラグナはまるで作業のようにそれを見ずに躱した。

 だけどベリアスは再び笑みを浮かべ、ラグナを見やった。



「なかなかやりますね。でも先程の魔法は闇属性以外には使えないようですね」



 すると唐突にラグナは背中を向けた。



「おやおや、逃げるんですか? 僕が逃すと思いますか?」


「終わりだ」



 そしてラグナが短く口ずさんだ。



「は?」


「もう終わりだ。つまらない戦いだった」


「何を言っているん――」




 次の瞬間、ラグナの魔力が爆発するように膨れ上がった。それは感じたことのある見慣れた魔力。


「【(アンチ)次元(ディメンジョン)魔法(フィールド)】」



 途端に身体が何かの衝撃によって上へ吹き飛ばされた。

 いつの間には宙を浮いていたはずのラグナは地上に立っていた。さらに地面から強大な魔法陣が出現――そこから6色の巨大な光がまっすぐベリアスへうち放たれた。


「【アトミック・ブレス】」



 ベアリスは【転移】を発動させようとするが、発動しない。



「なっ」



 次第に6色の巨大な光はベリアスを覆っていった。その高密度な魔力にベアリスの身体は消滅していく。



「この魔力は……サタンの――」



 そしてその光に包み込まれたベアリスは一片の塵すら残さず完全に消滅したのだった。

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