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第7話

 リンシアの言葉を聞き入れ、俺はソファーに腰かけた。

 メイドはすかさずリンシアに紅茶を用意し、何も言わずに後ろで控える。メイドとしての仕事はしっかりこなしているようだ。



「仲がいいんだな」



 メイドに視線を送りながらリンシアに問いかけた。



「えぇ、でもリルとメルだけは特別なんです」



 リンシアは紅茶を飲みながら、微笑んだ。メルはあの赤髪の護衛メイドのことだよな。そしてこのメイドはリルという名前らしい。

 


「まぁ、こいつの教育はなってないけどな」



 俺も紅茶を飲みながらメイドに再び視線を送った。



「リルはメイドとしては一流ですよ。でもそのリルが初対面の人にここまで心を打ち解けるなんて驚きです」


「これって打ち解けているのか……?」



 苦笑いをした俺に対してリルは舌をペロっとだして挑発してきた。

 侮辱されていたような気もしたが、メイドとしての仕事は出来るみたいだ。

 先ほどのコントのようなやりとりは心を許しているからだろう、と無理やり納得させることにした。



「それより本題です」


「やっと大浴場か」


「そっちもありましたね」



 リンシアは「そういえば忘れていました」と言いたげな表情をした。



「むしろ今回の大本命だぞ」


「大浴場は好きなだけ使ってください。王族専用、上級貴族専用の時間帯以外は好きに使っていいですよ。場所は後でリルに案内させます」


「よし!」



 俺は即座に立ち上がり歩き出す。ひとっ風呂浴びてこよう。



「まだもう1つの本題があります!」



 リンシアが立ち上がり慌てて俺を制止させる。



「ん~……わかった――話してくれ」



 少し考える素振りを見せてから、再びソファーに腰を下ろしティーカップを口に運んだ。

 もともともう1つの本題、聖騎士の方の話がきっかけでここまで来たということも事実であったためだ。話ぐらいは聞こう。



余程(よほど)大浴場に思い入れがあるんですね……ここまで付いてくるぐらいですからね」



 リンシアは少し呆れながら小声で(つぶや)いたあと、本題を切り出してきた。



「もう1つの本題というのは私専属の騎士、つまり聖騎士の話です」


「俺みたいな身分もない男がホイホイと聖騎士になれるのか?」



 当然の疑問をぶつけてみる。



「正直今の現状ではほぼ無理です」



 そう言ったリンシアの表情は少し暗い。やはり思った通りであった。聖騎士になるには色々な条件があるはずだと。

 騎士にはなるつもりはないので好都合なのだが、リンシアの見せる表情が何故か気になり、話を聞いてみることにする。



「今の現状では……か。聖騎士になるにはどんな条件があるんだ?」


「聖騎士になる条件、それは王族が運営する学園の聖騎士科を出ていること。

 優秀な功績を収めること。

 聖騎士になるための試験を受けて合格すること、の3つが条件です」


「試験の内容は?」


「試験の内容は王国騎士との1対1で戦い、認められることです。そこで強さが求められることになります」



 勝利が条件ってわけじゃないんだね、なるほど。てか学園ってマジかよ。



「試験が理由でないとするならば……学園に入学することに条件があるということか?」



 俺は消去法でほぼ無理なことの理由を探った。



「そのとおりです。学園には聖騎士科、騎士科、魔法科、普通科、冒険科の5種類があります。聖騎士になれるのは聖騎士科の生徒のみで、基本は聖騎士科は爵位を持った者か、その子息しか入れません」



 「基本は」か。それにしても学園なんてものはめんどくさいことこの上ないな。

 前世では(まっと)うする前に人生を終えたが、無駄な時間だったと思っていたからである。



「じゃあ俺は無理ってことじゃないか」


「基本は無理です。でも国王……お父様が許可を出せば特別枠として入ることが出来ます」


「確か病気で寝込んでいると聞いたんだが」


「はい、そのとおりです。今、国の指揮は第2王子であるルシフェル兄様がとっている状態です」



 その第2王子が許可を出さないというわけか。俺みたいなスラム出身者に国王ですら許可を出すとは思えないのだが。まぁなんにせよ学園に通いたくはない。



「病気の原因は不明。意識はあるのですが、医師からは絶対安静……そして少しずつ病気が悪化している状態なんです」



 悲しそうに言うリンシアの表情が、何故か前世で愛していた妹の沙奈と重なった。

 俺がいない世界で退屈かもしれないけど、沙奈(さな)元気にしてるかな。



「……なるほど、どんな症状なんだ?」



 少し思い出に耽ってしまった。

 深入りするつもりはなかったが、こんな質問をしたのも悲しそうな表情をするリンシアが沙奈に重なったからだろう。



「いきなり倒れたと聞きました……そのあとは満足に歩けなくなり、目眩(めまい)を訴え始めたと思ったら嘔吐(おうと)、手足の痙攣(けいれん)が見られています。国の(かか)えている回復魔導師達の回復魔法でも治らず、医術を極めた専門家達も原因不明と。症状は悪化していくばかりなんです」


「……いつからだ?」



 俺は症状から可能性のある病気をいくつか頭に浮かべて質問した。妹である沙奈にもしものことがあったときのために前世での現代医学書をほとんど記憶しているからだ。我ながらとんでもないシスコンぶりであるが、愛がなせる技だろう。



「……2週間前ぐらいです」



 リンシアは少し考えてから俺の質問に答えた。期待と不安半々という表情をしている。質問の意図を読み取ったのだろう。



「脳か…」


「この症状の原因を知っているのですか?」



 小声で言った俺の言葉にリンシアが即座に反応した。



「まだ確定という訳では無いが症状を聞く限り、脳に影響を受けている病気なのは確かだが……」



 脳に影響のある病気は重いものでも放射線治療で治せる場合がある。だがそれは前世での話。この世界で脳の病気にかかればほとんどの確率で死に至るだろう。



「お願いします。お父様を治せる方法があるなら、教えてください」



 リンシアは頭を下げた。王族が頭を下げることの意味はスラム育ちの俺でも理解している。

 後で控えているリルも驚き、目を見開いていた。



「見てみないことにはわからないが、俺のようなならず者が国王に謁見出来るわけないだろ?」


「なんとかします」


「リンシア様、それでは他の派閥、ルシフェル様に付け入る隙を与えることになりますよ?」



 リルがすかさず止めに入る。その表情からは心底リンシアを心配しているように感じた。



「回復魔法師も医者も、みんな諦めました……もう死を待つのみと宣告されているお父様を救える可能性があるのなら、私はそれにかけたいの」



 リンシアはリルに真剣な目でうったえた。



「クレイ様を信じるんですね?」



 リルの言葉にリンシアの視線が俺に流れる。



「さっきも言ったが見てみないとわからないし、脳の症状は全て重症の部類に入る。ほとんどの場合は死を待つのみだ」



 俺は無表情でリンシアに答えた。



「それでも、可能性があるなら見てください」


「……わかった。見てみるだけ見てみよう」



俺はリンシアの決意を込めた瞳を見て答えた。

ほんの一瞬、大浴場まだ?って思ったことは内緒である。





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