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第72話

「あの祭壇に魔物が集まっている、ということなのでしょうか」



 ラズが言った通り、祭壇を中心に魔物が集まっているように見える。

 そのうちの1匹が立ち上がり、祭壇にむかって歩き出した。すると祭壇から黒い影のような触手が出現し、魔物に絡みつく。

 そして――魔物は干からびて灰になった。



「なにあれ……」


「魔力を集めているらしいな」


「なんのためにでしょうか」



 ベリーもラズも動揺しているようだった。

 すると<バキッ>という音が後ろから響く。



「あっ」



 ラズが枝を踏んでしまったらしい。

 その音に気づいたのか、鳥型の魔物がこちらに視線を合わせている。



「クエエェェェェェェェ!!」



 そして叫び出した。

 ただ叫んだだけではない、超音波のような円形の衝撃波を発している。

 その衝撃波は俺達のいる場所に到達し――



「……なっ」



 【気配遮断(シャドウ)】を打ち消した。

 それにより魔物達が一斉にこちらを見る。



「えっ、どうして?」


「【気配遮断(シャドウ)】が看破されたんだ」



 驚くベリーに対して俺は説明をする。

 あの鳥は討伐ランクCの《コカトリス》に似ているが、そんな能力持っていただろうか。



「グエェ!」



 《コカトリス》は(ひづめ)を上にあげた。

 そして振り下ろし、近くにいた魔物を攻撃。


 攻撃を受けた魔物は悲鳴をあげながら倒れて動かない。攻撃によって命を落としたのだろう。《コカトリス》は次々と攻撃を繰り出していき、魔物達は抵抗もせずに無残に絶命していく。



「な、なんなのあいつ……」


「……わからない」



 ベリーもシリュウも唖然とそれを見守っている。ラズは無言で俺の裾を掴んでいた。



「あの魔物は《コカトリス》でいいんだよな?」


「……おそらく」


「《コカトリス》には気配看破の技があるのか?」


「……それは……聞いたことがない」


「もしかして亜種なんでしょうか」



 ラズが震えた声で呟いた。

 そうこうしている内に、魔物は《コカトリス》だけになる。



「クェェ!」



 《コカトリス》は魔物の亡骸を全て吸い込んだ。取り込んだというのが正しいかもしれない。

 物理的にはありえない質量の魔物達をブラックホールのように吸い取ったのだ。



「ググググッ」



 《コカトリス》は濁った声を出しながら大きくなっていく。



「グエエエエエ!!」



 そして5メートルほどにまで成長した。



「あれって……」


「……《グレイブス・コカトリス》」


「ググ、グレイブス・コカトリスってAランクの!?」



 《グレイブス・コカトリス》は《コカトリス》の最上位種で討伐ランクはB+からAランクとされている。鶏の胴体に蛇のような尻尾を持つ。図鑑によれば眼光から石化効果のある光を放ち、巨体に似合わない素早い動き、斬撃を通さない硬い皮膚、羽があるのに空を飛べないことが特徴の魔物である。



「……本物なら逃げれない」


「Aランクなんて聞いてないわよ」


「ど、どうしましょう」



 皆が諦めの表情を向ける中、俺の内側で<ドクンッ>と脈打つものを感じた。



 【サタンの加護】



 頭の中に浮かぶ文字。そして身体の中からどす黒い魔力が流れるのを感じた。



――――――――

【サタンの加護】

・感情の変化により、魔力量、気力量が増加する。

――――――――



 俺の感情が高ぶっているということなのだろうか?

 加護を貰ってから半年経つが1度も発動したことがないのになぜ今発動したのだろう。

 こいつと戦えということなのだろうか……。


 俺は自然と足を進め、前に出た。そして立ち止まる。


 身体に疼く黒い魔力が感情を更に高ぶらせる。

 だが今回はこれを利用してやろう。




「お前達は何故冒険者になった」



  俺はこの先使わないと思っていた()()()()()させ、演説を始める。



「こんな時に何を言ってるの?」


「もう一度聞こう、お前達は何故冒険者になった」


「なぜって……私は家族が貧しかったからこの道しか選べなかったわ」



 後ろから聞こえるベリーの声は落ち込んでいるように感じた。この場にいる後悔からだろう。



「わ、私は法国の生き方が嫌で抜け出したくて冒険者をやりました」



 続いてラズも答えていく。



「シリュウはどうだ?」


「……妹の生活のためだ」


「妹……両親は?」


「……とっくに他界している」


「そうか……お前達は強くなりたいか?」



 返答はないが、迷っているような空気を感じる。なら追撃しよう。



「『功績を上げたいか?』」


「私は……強くなれるものなら強くなりたいわよ。功績だって上げたい。私を馬鹿にしたやつらを見返したいわよ」


「私も、強くなりたいです」



 ベリーもラズも意思の篭った返答をする。



「ではここで提案だ、俺達であれを倒そうじゃないか。ほうっておいたら被害者が出てしまう」


「倒せるの……?」


「『倒せる』」



 俺は言葉をはっきりと響くように発した。



「……俺は……」


「シリュウ、命を落としたくないと迷っているのだろう。妹思いなのだな。だが安心しろ。俺たちは死なない」


「……どういう――」


「『俺たちなら倒せる。これは絶対だ』」


「……倒せるのか?」


「あぁ、あんな鳥は障害にならない。お前達はあれを超えてさらに強くなるのだ」


「私たちで……?」


「そうだ、もう一度言おう『絶対に倒せる』ここで倒さねば、犠牲者が出るだろう」


「倒せる……」


「倒すんですね……」


「……倒す」


「『倒すぞ』」



 どうやら成功したようだ。皆の言葉はやる気に満ちている。

 俺は直後 《グレイブス・コカトリス》に殺気を放った。







 体の弱い妹を置いて死ぬわけにはいかない。シリュウは常日頃からそう思っていた。

 14歳で両親を無くしてから冒険者になり、稼ぎのいい王都に妹と一緒に移り住んだ。


 命を優先した任務選びの為に隠密系の技をひたすらに磨いた。戦闘になっても1対1なら勝てるようにと訓練をひたすら繰り返した。そして5年が経ち、気づけばBランク。9歳になった妹は夢を持つようになった。


 「私、歌を伝える仕事をしたい」


 そう妹は呟いた。だけど歌う仕事なんて聞いたことがなかった。わかるのは妹は病弱で普通の仕事は難しいこと、それを叶えるためにはお金が必要だということ。

 Sランク冒険者になれば稼ぎががらっと変わる。それで体の弱い妹を楽させて、夢は叶うんだと教えてやりたい。


 シリュウは妹を支えるために冒険者として功績を上げて稼ごうと思うようになった。

 そして妹の夢をどうにか叶えようと――



「グエエエエエ!!!」



 《グレイブス・コカトリス》は咆哮を上げ、突進を繰り出す。咆哮による衝撃はを纏っている。



「躱すぞ!」



 クレイの言葉に吸い寄せられるようにシリュウの身体が反応した。

 それはラズもベリーも一緒であった。



「シリュウ、牽制だ」


「……了解」



 あれからどれくらいたっただろう。

 先程から激しい戦闘を繰り返しているが、クレイの指示はまるでシリュウ達の事を理解しているかのように的確で、その通りに動けば有効打を与えられる。


 目の前に立つクレイの姿が神々しく映る。

 それを見ているだけで、身体を流れる魔力が上がっているような気さえする。

 自然とシリュウの口元が緩んでいった。



「ラズ、シリュウの身体強化。ベリーは後から回り込み尻尾を切り落とせ」


「わかった」

「わかりました」



 ラズとベリーは同時に返事をしたが、その指示をする前から身体が動いているようだった。

 まるでその指示が頭に直接流れてくるように感じている。



「グエエエエエェェェ!」



 《グレイブス・コカトリス》は叫び声をあげ、眼に光を帯び始めた。おそらく石化の魔法だろう。



「ベリー、後ろへ飛べ。シリュウはそのまま牽制しろ」



 このまま牽制を続けたらシリュウは石化してしまうだろう。だけど何故か安心感を得る。



「……了解」



 クレイの指示通りにシリュウは牽制を続ける。グレイブス・コカトリスの眼光は向けられている。



「グエエ!!」



 光を放つ瞬間、グレイブス・コカトリスは鈍い雄叫びをあげて上を向いた。

 そして石化の光は上に向かって放たれる。

 クレイは口元を綻ばせながら、拳をグレイブス・コカトリスの後ろから突き刺していた。



「シリュウ、一撃かませ。ラズ、攻撃魔法の詠唱」



 その言葉にシリュウは取っておきの技を放つ。



「【心技・闇蛍(しんぎ・やみぼたる)】」



 魔力をありったけ込めた暗器でグレイブス・コカトリスの腹を貫く。そして闇属性魔法を放った。



「ベリー、ラズの魔法のあと、背中の傷口を狙え」


「【ロックグレイブ】」



 ラズの魔法は地属性3級魔法。

 地面から岩の刺が出現し、グレイブス・コカトリスを襲う。

 3級魔法とは思えない魔法の威力である。



「やぁぁぁぁぁ!」



 そしてベリーの剣撃がグレイブス・コカトリスの背中を貫く。



「グゴエエ!」



 グレイブス・コカトリスに蓄積されたダメージは相当なもので、よろけているようだ。

 だが一向に立ち上がる。そして雄叫びをあげて魔法を詠唱しているようだった。

 さすがはAランクといったところだろう。



「まだ、倒せないの……」



 見なくてもわかる、皆そろそろ限界だ。思考に体力が付いてこないのだ。

 かく言うシリュウも足がよろけそうになっている。



「よくやったぞ。そろそろ疲れてきただろう。あとは任せろ」


「……何を言って――」



 目の前にいたクレイの姿は一瞬にしてグレイブス・コカトリスの上空に移動していた。



「【絶拳】」



 その瞬間、轟音が響き渡り、凄まじい衝撃による地響きと砂埃が辺りを襲った。

 しばらくして、砂埃が止み始める。



「楽しかったな」



 そこには口元を緩めたクレイと、無残な姿になったグレイブス・コカトリスの亡骸があった。





「楽しかったな」


俺は口元を綻ばせながらシリュウ達を見つめた。ベリーとラズは口をあんぐりと開けている。


「……信じられない」


「ちょ、ちょっと今の技、何よ!!」


「ク、クレイさん本当に人間ですか?」



 一同が目を見開き、信じられないものを見ているような驚きの表情をしている。



「トドメを指したのは俺だが、みんなで弱らせたのは事実だぞ」


「いやいや、私たちもう限界だったからね? それにあの鳥だってまだまだ戦える状態だったじゃない!」


「だから限界まで戦った。そのおかげで前よりも強くなれただろ?」


「確かに……今でも信じられません。普段とは違う自分がいたような感じでした」



 俺の中の黒い魔力は無くなっていた。解消されたという解釈でいいだろう。

 今回はパーティーで倒したかったというが本音である。

 だからわざわざ【英雄の言霊】を使ったのだ。


 【英雄の言霊】自身の潜在意識に語りかけてやる気を出させる魔法である。ある種の洗脳魔法だが、この技は誰もが使える訳では無い。王族や皇族のような上に立つものが使って始めて効果を発揮する魔法なのである。


 それにプラスで【アリエルの加護(愛の返報)】によりパーティー自体の力を底上げしたのだ。



「みんなで倒したのは事実だ」


「私たち……たった4人でAランクの魔物を倒したんだ」


「でも最後の一撃のおかげ感は否めないですけど……」



 的確な意見を述べるラズを無視して俺は話を逸らす。



「《グレイブス・コカトリス》は高く売れるだろ? 分け前はきっちり四等分にしようぜ」


「売れるもなにも、白銀貨数十枚はくだらないわよ! 四等分でいいの!?」


「……それは助かる」


「あの……この祭壇なんですが……」



 一同分け前の話しで盛り上がる中、ラズの言葉で祭壇のことを思い出した。

 祭壇に目を向けると禍々しい魔力がうっすらと感じている。



「破壊しませんか?」


「なぜだ?」



 サラッと呟いたラズに対して、俺は疑問をぶつける。



「法国に住んでいた頃、読んだ本にこれと同じような祭壇を見ました。悪魔を呼び出す祭壇だったような気がするんです」



 悪魔を呼び出す祭壇。

 確かにそれなら辻褄が合うことも多い。



「破壊しても大丈夫なのか?」


「呼び出されれば祭壇は壊れますが、その前に祭壇を壊せば溜まった魔力は霧散するはずです」


「考えても仕方ないし、放置してても呼び出されちゃうのよね? なら壊しましょうよ」


「……そうだな」



 俺はサクッと祭壇に【剛拳】を放つ。

 祭壇は粉々になり、魔力が霧散されたのを感じた。



「……何も起きない」



 シリュウは小声で呟き安堵している。

 ラズもベリーも安堵している様子を見せていた。



「集まっていた魔物も戻っているようだ。とりあえず、撤退するか」


「そうね」



 魔物の動きの調査を終えた俺たちは王都に戻っていくのだった。





 冒険者ギルドへの報告が終わり、自宅への道を進む。

 すっかり夜になってしまったようだ。


 ギルドへ到着して早々に報告をしたのだが、ガロウは驚いているようだった。

 そして《グレイブス・コカトリス》の亡骸を見てさらに驚いていた。

 今回の功績により、俺に対してはBランクへのランクアップ試験の推薦がなされた。Aランクの魔物を倒した事、そして悪魔の祭壇を壊したことの功績なのだが、《グレイブス・コカトリス》を倒した功績に関しては皆に口を揃えて「クレイの手柄」と主張されたのだ。

 こうなるのが嫌だった俺はメンバー一同で倒したと主張した。それも事実だったのでパーティーメンバーにそれぞれ少しずつ功績が増えるということになった。


 そして今回の情報を他国に回すための手配をすることになり、ギルドは忙しくなるとのことだったのでこの話しに関しては後日ということになった。


 俺は自宅の門を開き入口に向かっていく。



「ただいま、って誰もいないか」



 エミルとアリエルは商会の手伝いで丸1日屋敷を出ている。帰りは深夜になるだろう。



「ん?」



 俺は足を止める。

 誰もいないはずの屋敷の庭に気配を感じたからだ。

 その気配は後ろに立ち止まりこちらを見ているようだった。



「誰だ?」



 俺は振り向き、その気配に訪ねた。



「やはりバレてしまいましたか」



 そう言って少女が姿を現す。妖艶な笑、煌びやかな黒髪、目の前に現れたのは第3皇女の《ティアラ・フリシット・クリステレス》だった。

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