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第71話

時は少し遡る。



「君にやってもらいたい依頼がある」



 俺は冒険者ギルドのギルマス、ガロウの執務室に呼び出されていた。朝早くに受付嬢のセナが手紙を届けてくれたのだ。

 手紙は「依頼があるので早急にギルドまで向かうこと」という雑な内容だった。



「内容次第だ」


「ハハハ! 内容は簡単だ。森の調査をしてほしい」


「森の?」


「最近王都周辺の魔物の動きが活発になっているエリアがあるんだ」


「この前のグリフォンと関係があるのか?」


「関係性は不明だが、関係してないわけではなさそうだ。そして悪魔の目撃例も出ている」


「なに、悪魔の?」



 俺は眉をひそめた。サタンのような悪魔が出現したということなのだろうか。



「にわかには信じ難いがな」


「詳しく聞こう」


「順を追って説明しよう。皇国の冒険者ギルドへ、皇国領で翼を生やした(おびただ)しい量の魔力を放出した黒い人形が魔物達に命令をしていたという目撃談が寄せられた」


「その人影が悪魔と?」


「そうだ。そして特徴的なのが、そこには小さな祭壇のようなものがあって、その周辺に魔物が集まっているようなんだ」



 実はこの情報は数日前にグリムから先に聞いていた。

 グリムはサタンとの戦いから本業の教員の仕事をこなしつつ熱心に悪魔を含めた他国の噂を調べていたからだ。



「そこの調査に関しては他国ということもあり、王都のギルドが動こうとすると色々と面倒なことが起きる。だからクロード家の者が貴族として調査に行くことになっていて、数日前には出発している」



 それもグリムから聞いていた。

 唯一悪魔を目撃した実力者として、クロード家の調査に混じってくると言っていたな。


 聞きなれた家名に頭の中でヘラヘラと笑っているヴァンのことを思い浮かべた。

 あいつも調査に向かっているのだろうか。



「話が見えてきた、王国の魔物もその悪魔の影響がある可能性があるということか?」


「察しが早くて助かる。王国領での魔物の活性化も悪魔の影響なのかどうかを調べることが今回の依頼だ」


「なるほど」


「あくまでも今回は調査だ。なるべく魔物との戦闘は避けて無茶なくより多くの情報を集めてほしい」


「わかった」


「報酬金についてはパーティーで金貨30枚(30万B)別途情報によってプラスになる」


「パーティー?」


「そうだ、パーティーだ。今回は同行者が3人いる。Bランク冒険者とDランク冒険者2人だ」



 俺は同行者がいることに驚いた。

 しかし、こういった依頼にはパーティーで受けるのが普通みたいだ。



「大丈夫なのか?」



 思ったよりも低ランクでという意味でガロウに伺った。



「大丈夫だと判断している。グリフォンのような魔物はあれ以降発見されていないからな。皇国領の方向なので道案内の者、探索と補助魔法が使える者、隠密関係の魔法が使える者、そして――君が前衛だ。あくまでも戦闘は保険だからな?」



 ガロウはいぶかしげな目で釘を刺してきた。

 俺を戦闘狂認定しないでほしい……まぁ当たっているが。



「……依頼の日時は?」


「早めに調査に向かって欲しいとは思っているが、今からは出発できるか?」


「いきなりだな。俺は行けるが他のメンバーは揃っているのか?」


「揃っている。セナ、呼んできてくれ」



 セナは元気に返事をして退出する。

 そしてしばらく待っていると、3人の冒険者を連れて再び入室した。

 その3人のうち2人は見知った顔であった。



「クレイじゃない、久しぶり!」


「クレイさん、お疲れ様です」



 俺の姿を見た直後に挨拶をした2人。

 グリフォンから助けた冒険者、剣士のベリーと魔術師のラズである。



「ハハハ! そういえば顔見知りだったな、案内役兼前衛のベリーくんに、探索兼補助のラズくん、そして彼がBランク冒険者のシリュウくんだ」


「……」



 話を振られたシリュウは無言で頭を下げた。

 どうやら口数の少ないタイプらしい。



「俺はクレイだ、気軽に呼んでくれ」


「……よろしく」



 俺の言葉に短く返したシリュウ。

 顔を下半分通気性の良さそうな布で隠していて、いかにも隠密が得意そうな軽装備で動きやすい格好をしている。



「自己紹介も済んだようだし、行ってきてくれたまえ」



 このメンバーで大丈夫なのかと不安になりはしたものの、今回は戦闘がメインではない。

 いざとなったら戦闘を避けて逃げればいいのだから。


 こうして俺達は魔物の調査任務に向かったのだった。







 王都領の森の中を俺達は散策をしていた。



「最近流行っているラバール商会の《ルリクロ》の服が本当に可愛くて、この間3着も買っちゃったわ」


「わかります、私も《ルリクロ》の可愛いアクセサリー買っちゃった」


「それ可愛い! ラズって私よりも女の子っぽいから本当に困っちゃうわぁ」



 ラズとベリーは女同士……いや、男女で会話に花を咲かせていた。

 ラバール商会に関する服やアクセサリーに関しては前世の記憶を活かして俺がデザインして、セリナや商会メンバーが直したものだが、あえて何も言わない。

 俺とシリュウはそれを聞きながら前を歩く。



「それにしてもラバール商会の商品は凄いわ、《ザイソー》にも便利な商品が多いし」


「うんうん、法国にはあんな便利な商品なかったから」


「……どっちだ?」


「それは左よ」



 分かれ道に差し掛かり、シリュウが会話に花を咲かせているベリーに伺った。ベリーは皇国出身であり、皇国領付近の地域の道にも詳しいので今回は案内役として依頼に参加している。

 ちなみにラズは法国出身である。


 こんな風に関係ない話をして入るが、ラズは【サーチ】を発動させて仕事はしっかりとしている。

 もちろんシリュウは【気配遮断(シャドウ)】を俺たちに使ってくれていた。



「シリュウって口数少ないけど、キャラなの?」



 質問をしたベリーに対してシリュウは眉にシワを寄せた。



「……人見知りだ」


「人見知りかー、気を使わなくていいよ! ね、ラズ」


「うん、大丈夫ですよ」



 「気を使わなくていい」ができたら苦労しないのだ。とシリュウの心の中の言葉を代弁してみる。



「……善処しよう」



 シリュウの前向きな返答をした。

 ベリーは気さくなタイプなので時間が解決するだろう。



「シリュウのその鞄もラバール商会の商品じゃない? なんか"漆黒"って感じでカッコイイね」


「……わかるか?」



 シリュウは何に対してなのか、ニヤケながら返答した。



「うん、"隠密"系にピッタリなデザインよね、その"黒い羽"とか」


「……フフ」



 何やらシリュウのツボにハマったらしい。

 漆黒や隠密、黒い羽などの言葉に反応しているように見えた。

 ちなみにそのバッグのデザインに関してはゲームの知識を活かして作ったものだ。ターゲットはもちろん独善的に振る舞うのが好きな方々だ。



「みなさん、東から1匹の魔物がこちらに向かってます」



 会話の中突然ラズが険しい顔をして警告を発した。



「バレてるの?」


「……そんなはずはない」


「向かっては来るけど、こっちの動きに反応しているようには感じないから多分通り過ぎるかも」


「1匹ぐらいなら倒す?」


「やめておけ【気配遮断(シャドウ)】が解ける」



 【気配遮断(シャドウ)】はあくまでもこちらからアクションを起こさなかった場合だけのものだ。

 相手に触れたりすれば忽ち【気配遮断(シャドウ)】自体が溶けてしまうのだ。



「来ます……」



 すると1匹の《ルビー・ウルフ》が草むらから飛び出し、そのまま道を横断して草むら入って行った。



「《ルビー・ウルフ》……本当に通り過ぎただけみたいね……」


「ラズ、他に何か見えないか?」



 実はというと俺も【サーチ】を発動させている。

 《ルビー・ウルフ》が向かった方向を目指している魔物は他にもいたからだ。



「あれ、もう1匹違う方向から走ってきてます」


「こっちに向かってるの?」


「いえ、先程の《ルビー・ウルフ》と同じ方向のような……」


「何かあるのかしら?」


「行ってみるか」


「……わかった」



 俺たちは《ルビー・ウルフ》が向かった方向に足を進める。

 ちなみにパーティーリーダーは何故かシリュウよりもランクが低い俺になっている。


 シリュウ曰く、自分は口数も少なく戦闘にも向かないのでリーダーを任せたいらしい。

 ベリー情報によるとシリュウは隠密関係の依頼をこなしてBランクに上がってはいるが、1vs1の戦闘なら腕も立つということだ。

 ガロウのやつが何か吹き込んでいる線もありそうだが、あまり目だとうとしない姿勢には好感が持てそうだ。



「……対魔物戦は出来るか?」


「苦手ではない」


「……もしそうなったら援護を頼む」



 必要最低限のやり取りを交わしつつ前に進む。

 もしものときは戦うというのがシリュウの考えのようだ。


 しばらく前に進んで行くと【サーチ】の範囲に魔物の群れが入っていく。

 距離は5キロ先、数にして20ぐらいではある。



「この先に魔物の群れがいる」


「わかるんですか?」



 ラズは目を見開き俺を見た。それはベリーもだった。



「探索系魔法は俺も使えるんだ」


「ガーン……私の意味って……」



 顔を俯けるラズ。あまり口外したくなかったのだが、今回は魔物も多いので早めに対応させるために告げたのだ。



「群れってことは、そこに集まってるの?」


「そうだな」


「……探索対象」


「あっ私のサーチ範囲に魔物が入りました。数は20ぐらい」


「……警戒」



 俺たちはゆっくりと身を潜めながら、魔物の群れに寄っていく。


 すると開けた草むらが目に入った。

 そこには魔物たちが集まっており、その中心には小さな祭壇のようなものが建てられていた。

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