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第68話

いつも誤字報告ありがとうございます!

「~~♪」



 大浴場で身体を流すリンシア。

 表情からは上機嫌な様子が伺えて、鼻歌まで歌っていた。クレイから貰ったネックレスのおかげだ。


 リンシアの周りには誰の人影もない。リンシアは他の王女達とは仲が良くないので、誰も入らない時間を狙って入浴するようにしているからだ。


 一通り身体を流した後、お湯に浸かる。そしてしみじみと考えるのだ。これからのこと、王族のこと、商会のこと、交流会のこと、そしてクレイのことを。



「クレイ……」



 リンシアはうっとりした表情をしながらクレイのことを思い出す。

 プレゼントなんかで喜んでいる自分はまだまだ子供なのだろうと思う。だがクレイから貰ったというのがすごく嬉しかった。そしてそれが自分を守るためだということがさらに嬉しい。

 王女という立場を忘れるほどに、クレイへの気持ちは強くなっている。


 自分は王族で、クレイと結ばれる可能性は絶対的に低い。聖騎士としての地位を獲得すればそうなる可能性もあるのだが、第2王子であるルシフェルそれを許さないだろう。ルシフェルは最近大人しいが、何かを企んでいる節があるのも事実だ。


 だけどクレイと結ばれる未来があるかもしれない。



「ミロード兄様が国王になれば……」



 第1王子のミロードが国王を注げば第3王女である私の嫁ぎ先が聖騎士でも許してくれそうなのである。

 だが、ラバール商会による利益によってリンシアの力が増しつつあるので、他の有力な貴族と結ばされそうなのは否めない。



「考えても仕方ないですね」



 未来のことを考えていても仕方ない。

 リンシアはクレイから貰ったネックレスを外し、手に添えて見つめ始めた。

 3色の石がハマった綺麗なデザイン。クレイはこのデザインも自分で決めたのだろうか。それを考えているクレイの姿を想像するだけで幸せな気持ちになる。



「クレイっ――」



 考えれば考えるほど気持ちが大きくなる。リンシアはネックレスを握りしめてクレイのことを思った。

 するとネックレスは一瞬だけ薄く光を放つ。



「あれ、今光りましたか?」



 何が起きたのだろうか。

 そして大浴場に――



 クレイが現れた。



「えっ?」



 リンシアは一瞬の出来事なので困惑した。

 クレイを想いすぎて幻覚をみているのだろうか。さらにクレイはタオルを1枚巻きで上裸である。



「ん?」



 クレイも困惑している様子ではあったが、すぐに状況を把握したらしい。

 

 落ち着いた足取りで前に進み――湯船にゆっくりと浸かった。



「ほ、本物!?」



 リンシアは小声でつぶやいた。そして顔を真っ赤にしてパニックになっている。でも大声は上げなかった。声を上げれば大騒ぎになり、メイドたちが駆けつけてくる。そうなればクレイはただでは済まない。

 この状況でその思考にたどり着けたリンシアはあとで自分を褒めるだろう。



「……」


「……」



 そしてどうしてか、しばらくの間お互い無言でお湯に浸かっている。

 その沈黙を最初に破ったのは――



「落ち着いたか?」



 クレイだった。視線をリンシアには向けずに正面を見据えている。



「あ、あのあの……えっと……」



 リンシアはまだパニックだったようで、言葉がうまく出せない。



「先に謝っておくが、すまない。【転移】の発動条件を強制にするべきではなかった」



 クレイは落ち着いた様子で原因を説明してくれた。ネックレスに記憶されていた【転移】が発動してしまったらしい。それによって強制的にクレイがここに【転移】したのだ。



「わ、私こそすみません。取り乱してしまって……」



 クレイが落ち着いているせいか、リンシアも次第に落ち着きを取り戻していく。



「いや、悪いのは俺だ」


「それとありがとうございます」


「なぜ感謝?」



 間違えたとリンシアは思った。

 普段は細身であるクレイだが、意外にも筋肉質な外見に見とれてしまったからである。

 

 中でも腹筋や胸筋がすごく良かった。



「いえ、間違えました」


「フッ……」



 鼻で笑うクレイ。その余裕の態度に何故か「悔しい」という感情が芽生えた。



「クレイは私には興味ないんですね」


「どうしてそうなる」


「だってクレイは冷静じゃないですか! 私はなんと言いますか……恥ずかしくて胸が張り裂けそうなのに……」



 リンシアは怒りをぶつける勢いで言い放つ。

 クレイはそれでも視線をリンシアには向けずに冷静に口を開いた。



「この場面で俺が取り乱してたら大変だろう」


「クレイは見たくないんですか?」


「だからどうしてそうなるんだ」



 クレイは「何を?」とは聞かない。冷静に呆れている様子だった。

 その態度が女としてのプライドに火をつける。



「どうなんですか?」



 普段はこんなに熱くならないリンシアだが、今日は何故か違った。



「仮にも王女なんだからそういうことを男に問うな。リンシアが見られたくないと思うだろうから俺は視線を逸らしているんだ。見ていいなら見るぞ」


「えっ……」



 思いがけない言葉に冷静になる。

 自分のために見ないようにしていたということは、本当は見たいということなのだろうか。



「そ、そのままでいいです」



 自分が発した言葉を恥じたリンシアは落ち込み気味に顔を半分湯に沈めた。

 確かに王女として、淑女としても大胆な発言である。

 だけどそれはクレイを想う気持ちからなのだ。



「ネックレスの魔法も書き換えたかったが、帰った方がいいか?」


「……いえ、お願いします」



 少し惜しい気もしたがすぐに考えを改める。



「俺は視線を向けないようにするから、手にネックレスを置いてくれ」



 そう言ってクレイは手を差し出した。

 リンシアはゆっくりと近寄っていき、クレイの手にネックレスを置く。



「すぐ済む」



 クレイは魔法を発動させたのか、ネックレスが何度か光を帯びる。そして小さな魔法陣がネックレスの上で形成され――消えていった。



「よし……魔法自体は変わらないが、【転移】はリンシア自身が飛ぶのと、発動するかを任意で決めれるようにした。一度行ったことのある景色を思い描いて【転移】したいと願えば1回分【転移】出来る」


「……ありがとうございます」


「そのかわり使用したら魔抱石を取替えないといけなくなるから、乱発は避けてくれよ? 緊急事態用だ」


「わかりました」


「じゃあそろそろ行くぞ……俺もちょうど入浴中だったんでな」


「も、もう少しだけ、一緒に……」



 それを聞いたクレイは視線を逸らしながらも、リンシアの頭をポンポンと優しく撫でる。



「のぼせてしまうだろ。そろそろ上がったほうがいい」



 敵に向けるクレイの拳は凶器にも等しい。

 だけどそんな凶器とは違い、頭を撫でている手は優しかった。

 リンシアはその優しい手を掴み頬に引き寄せた。



「ありがとうございます」



 クレイは何も言わない。

 リンシアが満足するまでクレイは手を預けるのだった。







 王族交流会初日、とある建物の展望エリア。俺はヴァンと共に街を見渡していた。

 どうしてヴァンといるのか、それはもちろん偶然見かけたからだ。見かけたというよりは見かけられたという方が正しい。俺は街を見渡せるこの場所へ赴こうとしていたところ、ヴァンが声をかけてきたのだ。

 ヴァンは警備のためにこの展望エリアを見張っている。学生にして警備を頼まれるとは流石は"剣帝"の2つ名持ちというところだろう。


 王都の街並みはいつも以上に活気で溢れていた。王城へと続く中央通りには左右に人の行列が出来ていて、パレードの如く豪華な演奏が流れている。

 警備体制は万全で、衛兵達が散らばり、しっかりと警戒している。



「いよいよだぜ」


「皇女はこんなにも人気なのか?」



 王都の人達は皆歓迎ムード。皇女を見たこともない者も多いはずなのにだ。



「毎年、王族交流会はこんなもんだぜ。だけど今年はいつもよりは盛り上がってる感じがするな。おそらく皇女様が美少女って噂のせいだろう」


「"麗姫"だろ?」


「そうだぜ、見るものを魅了する絶世の美少女って噂だ。それに美しさだけじゃなくて強さも兼ね備えているらしい。俺も一目見たいぜ」



 ヴァンは目を輝かせている。下心というよりは好奇心で言っているのだろう。同世代で強い者には目がないからな。



「男嫌いって噂なんだろ? お前がお近づきになる事は叶わなそうだな」



 調べた情報によると、第3皇女は男嫌いらしい。



「そうらしいんだよな、自分のために女騎士を集めた騎士団を作るぐらいだそうだぜ」



 それは相当なものである。

 どうしてそんなにも男嫌いなのかという情報はなかったが、何かあったのだろうか。

 だが政治的にも男性貴族と関わることは多いように思える。嫌いと言ってもトラウマレベルのものではないらしい。



「って言ってる間に入場だ」



 ヴァンの言葉に俺も目線を送った。王都の正門が開き、馬車が5台並んで入ってくる。

 その中で2台目の馬車だけが一際目立つ豪華な作りをしていた。

 そして馬車を動かす者も女性のみ。男嫌いの噂は本当らしい。

 それに――



「王国よりも技術が進んでいるように感じるな」


「そうか?」


「あぁ」



 一見王国と変わりない馬車ではあるが、車輪の部分には衝撃を緩和するためのサスペンションが構成されているのが見えた。

 それに馬車の窓がマジックミラーのようになっている。外側から内側は見えないが、逆は見れるような作りなのだ。


 ヴァンは俺の言葉を流しながら辺りを警戒している。



「皇女様は顔を出さないんだな」



 先頭の馬車からは女性達が顔を出し、手を振っていた。

 しかも顔が整っていて綺麗な女性達である。おそらく例の騎士団だろう。装備がしっかりしている。

 だけど皇女は一向に顔を出さない。



「そりゃあ、無闇に顔を出したら危ないだろ」



 ごもっともな意見である。



「ん……?」


「どうしたんだ?」


「いやなんでもない」



 一瞬窓越しに視線を感じたような気がしたのだが、気のせいだろうか。


 しばらくの間、馬車はゆっくりと進んでいく。そしてそのまま王城の門が開き、入っていった。

 遠目でルシフェルやリンシアを含めた王族達が並んでいるのが見える。



「ふぅ、仕事は終わりだ」



 王城の門が閉まり、ヴァンが一息ついた。



「そうだな」



 何の変哲もない入場であったが、一瞬感じた視線が気になる。

 おそらくは皇女が乗っている馬車ではあるが。



「飯でも食いに行こーぜ」



 俺が色々と思考を巡らせていると、ヴァンの能天気な発言が飛んでくる。



「お前報告書とか出さないのかよ」


「そんなもんは後でも大丈夫だ! 今は腹が減った!」



 しょうがないなと思いつつも、自分も空腹感を感じていたので、ヴァンと食事に向かうことにした。


 たった一月にも満たないが、ここからは長い長い王族交流会の始まりである。

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