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第63話

 ガロウの案内のもと、俺は演習場へ到着する。

 演習場はドーム上になっていて、王城や学園の訓練場と同じ大きさのようだ。


 この場にいるのは俺を含めたガロウとセナの3人。《グリフォン》の件を報告した2人の女の子とは演習場に来る前にわかれたのだ。

 あまり試合を見られたくないという意思を込めた俺の視線を察したガロウが、帰るように2人に告げてくれた。冒険者は自分の手の内を明かしたくない者も多いらしく、それもあって直ぐに察してくれたらしい。



「武器は好きなものを使うといい」



 ガロウは武器庫へ指をさしながら言った。

 装備を何もつけていない俺に対ししての配慮だろう。



「武器は――これだ」



 俺は拳を握りガロウに向けた。


「武闘家なのか。アルカディアでは冒険科なのか?」


「いや、騎士科だ」



 あえて騎士科と答えた。聖騎士科と言うと説明がめんどくさいからである。

 俺の言葉にガロウは口元を緩めた。



「騎士なのに剣を使わないのか、本当に面白い少年がギルドに加入してくれたようだ」



 そう言ってガロウは四本の鉤爪がついたクローをアイテムバックバックから取り出した。

 どうやらクローがガロウの武器らしい。



「立会人は私が務めます」



 セナが間に入り手を上げる。俺とガロウは一定距離を開けたのち、お互い睨み合う。



「胸を借りるつもりで本気でかかってこい」


「その言葉に甘えよう」



 相手の実力というのは対峙しただけで何となくわかる。ガロウはギルドマスターなだけあって修羅場をかなり潜ってきたような感覚を肌で感じる。元々冒険者とかだったのだろうか。

 しかし本気を出す必要はないと感じていた。もちろん【神の五感】も使わない。



「魔法の使用はありですが、死に至らしめるような強力なものは禁止です。それでは行きます。始めっ!」



 セナの合図と同時にガロウは距離を詰め、クローで切り裂いてきた。

 俺はそれを躱し、ガロウを目で追ったが、追撃は飛んでこない。



「流石にこれは避けるか」


「そんな見え見えな攻撃で何を言っている」


「ハハハっ、では次だ。【自己加速】」



 ガロウは先程よりも早いスピードで連続攻撃を放った。

 俺はそれを危なげなく躱していくが、ガロウの動きは単調のように見えてこちらが避ける方向を意識して攻撃を放っている。それに剣とは違いクローの動きは順応性が高く読みにくい。

 つまり躱すのがめんどくさい。俺はガロウの攻撃に合わせて軽い【剛拳】を放つ。ガロウはそれを躱し、距離をとった。



「まさか全部躱され、カウンターを放ってくるとはな……反射神経が尋常じゃないな」


「反射神経は昔からいいんだ」


「ならこれはどうだ?」



 ガロウはなにやら魔法を発動させたようだった。

 その直後、無数の気配が多様な方向から感じるようになる。気配の数は8つ。視界に映るガロウは1人。 闇属性の中の幻想魔法だろう。


 視界に見えるガロウがクローで切り裂こうとすると、同時に7つの気配も攻撃を放ってくる。

 俺は視界に見えるガロウと6つの気配の攻撃を躱し、あえて1つだけ受けてみる。



「なるほど」



 所詮は気配だけだったようで、攻撃をくらわなかった。

 この技は多数の気配により俺に無用な反射をさせることが狙いのようだ。



「反射は脳で考えているわけではない。君は無用な気配に反射してしまうだろうな」



 そう言ったガロウは再び連続攻撃を放ってくる。

 クローでの攻撃は目に見えるのだが、タイミングをずらして他の気配が攻撃を放ってくる。俺の身体はその気配により無用な躱す動作を入れてしまう。



「厄介だな」



 本来であれば「反射→躱す」だけの動作なのだが今は「反射→身体を動かそうとする→脳で考える→動かそうとした身体を止める→視界に映る攻撃だけ躱す」というような工程を踏んでいる。



「それでも躱しきっているのは凄い。Cランクにしておくのが勿体無いぐらいだ」


「ならもう合格ってことでいいんじゃないか?」


「それでもいいが、君は余裕があるように見える。本気を見たくなったよ」



 口元をニヤケさせながらガロウは後退した。

 恐らくだがこいつは戦闘狂だな。俺と同じ匂いがする。



「次は気配すら危ういぞ」



 そう言った直後、後ろから攻撃される気配を感じた。脊髄反射で躱そうとした身体を止めようとしたが――俺はその攻撃躱す選択をした。



「今のは本物の攻撃だった……つまりお前は幻か」



 俺は視界に映るガロウに【ファイアボール】を放った。【ファイアボール】はガロウの身体をすり抜ける。おそらく幻を見せつつ、姿を消しているのだろう。8つの気配の中に本物が1つだけ。

 厄介なことこの上ない。



「どんどん行くぞ」



 8つの気配が再び攻撃を放とうとする。目の前の幻が本物なのか、今はわからない状態だ。


 ――そんな中、俺は目をつぶった。

 そして身体を横に逸らし、カウンターの【剛拳】を放つ。

 何もない空間から<ガンッ>という鈍い音が響いた。



「驚いた、見えている……わけではなさそうだな」



 目を開くと、ガロウは正面に現れた。【剛拳】はガードしていたらしい。



「本物だけ気配が微妙に違った。俺はそれを追っただけだ」



 人が五感で得る情報の割合は視覚が87%、嗅覚が2%、触覚が3%、聴覚が7%、味覚が1%という風に偏ってしまう。それは今まで視覚で情報を得てきたのだから当たり前なのだ。

 だが俺はその視覚を封じることで他の感覚を研ぎ澄ませた。結果、本物だけが放つ独特な気配を見極めることが出来たのだ。これはスラム街で目覚めた時、最初に教わった技である。



「そんなことまで出来るとはな、それに今の拳、意識を刈り取るには十分な威力だった」


「気のせいだろう」


「君ならこれを使っても良さそうだ」



 ガロウは両手を挙げ詠唱を始めた。短い詠唱だが、これまで無詠唱だっただけに違和感を感じる。同時にガロウの両手の中心に火属性の魔力が目に見えて集まっていくのがわかる。魔力はやがて球体になり渦を巻きだした。



「【魔装(まそう)】」



 詠唱が終わり、その球体を自身に放つ。

 否、放つというよりは吸収に近い。濃厚な魔力がガロウを包む。


 そして現れたガロウは全身を高温で赤く染めていた。

 恐らく触れれば大火傷になるだろう。



「うちのギルドには回復魔法のプロフェッショナルもいる。安心してくれ」


「魔法にそんな概念があったとはな。面白い」



 俺は初めてみる魔法に心踊る。魔力を体内で練るのではなく、外へ放出し、それを再び体内に取り込む。

 本来外に出た魔力は自分に取り込むことは出来ないはずだ。それを可能にしているカラクリがあり、俺は視て理解したのだ。



「しっかりと躱してくれよ――」



 その言葉の直後、ガロウの姿は突然消える。同時に炎を纏うクローが目の前に出現した。

 そして高温のせいか空間が曲がり、あたりは蒸発に近い煙が立っていた。



「【アクアジェット】」



 水属性3級魔法【アクアジェット】。水をジェット噴射させる魔法であるそれを、ガロウへ向け発射。

 【アクアジェット】はガロウの体へ触れた直後、勢いよく蒸発していく。だがその威力によって、そこから距離を取ることが出来た。



「気力の遮断だろ?」


「正解だ」



 ガロウが纏っているのは炎だけではない。気力を遮断する魔法を纏っている。

 つまり気力で放つ【剛拳】はただのパンチになる。気づかずに反撃をしていたら大火傷していただろう。


 ガロウは笑顔になり、次の攻撃を放ってくる。

 俺はその攻撃よりも早く、魔力を練っていた足でそのままガロウを蹴り上げる。



「【雷車輪(らいしゃりん)(かがみ)】」


「甘いな」


 ガロウは攻撃を辞め、蹴りをガードした。俺の足はガロウに触れたことによって火傷したようだ。

 だが、ガロウの身体は一瞬、宙を舞う。



「その隙は見逃さねーよ。【柔爽氷掌じゅうそうひょうしょう】」



 水属性の魔力を纏った掌底をガロウに叩き込む。どちらかというと吹き飛ばすために放った技ではあるが、【柔拳】の要領で内側へのダメージも与えている。


 温度差によって爆発が起き、ガロウの身体は吹き飛ばされる。

 そして演習場の壁に激突した。


 高温の煙が立ち込めるなか、ガロウが立ち上がりこちらへ向かってくる。だが【魔装】は解除されているようだ。



「ハハハ、参った参った、俺の負けだ」



 ガロウは愉快そうに降参を宣言した。



「勝者、クレイ!」



 それを聞いたセナが試験の終了を告げたのだった。

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