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第62話

 王都に戻ってきた俺は冒険者ギルドへまっすぐ進んでいる。

 そしてアリエルに対して再び【メッセージ】を繋げていた。



『いきなり切断されたからビックリしたであろう』


『悪い、緊急事態だった』


『なぬ、何があったのじゃ』


『それは後で話す。そのときにでいいが、ミカエルという天使について詳しく教えてくれ』


『ミカエル姉さまに会ったのか!?』



 天使は皆姉妹や兄弟だということは聞いていたのでお姉さまという言葉に驚くことはない。



『会ったというよりは、すれ違ったという方が正しいかもしれない』



 向こうにはこちらの正体を明かしていないのだから会ったとは言い難いしな。



『ふむ、他の姉妹のことなら妾に任せよ』



 アリエルは元気そうな声で自慢げに呟いた。

 サタンの一件を報告したとき、アリエルはハデスのことを知らなかったのだ。その際に「妾は役に立てない」と少し落ち込み気味だったところをなんとか宥めたのだが、元気を取り戻してくれたようで何よりだ。



『それでそっちの用事はなんだったんだ?』


『そうじゃ、預かった輝石が動き出したのじゃ』


『なに? 妖精が誕生するということか?』


『うむ、あと数日というところかの』



 あくまで預かっているだけなのだが、あの精霊が取りに来る前に誕生させてしまってもいいのだろうかと疑問に思うところではある。



『わかった、そろそろギルドに付いたから切るぞ』


『うむ、今日のご飯は前食べた肉ジャガという料理じゃ』



 肉ジャガか。エミルのやつも前世の料理に慣れてきているな。

 この世界では足りないものが多いため前世の料理を再現するのは一苦労ではある。

 だが懐かしい味を噛み締めたいという気持ちは少なからず俺にもあるのだ。



『わかった』



 短い返事をして、アリエルとの【メッセージ】を切る。

 俺は冒険者ギルドの扉を開けて中へ入った。


 ギルド内はいつも通り賑やかなのだが、若干慌ただしい雰囲気を感じる。

 俺はセナのところが空いていたので向かうと、こちらに気づいてくれたようで笑顔で迎えてくれた。



「クレイさんお疲れ様です。《ボア》の討伐ですよね」


「あぁ、20匹ほど討伐した。部位をここで提出すればいいのか?」


「いきなり20匹もですか!? あっすみません、軽いものはここで提出してくれて大丈夫です。大きなものは外の解体場で直接納品することが出来ます」



 セナは一瞬驚きの表情を見せるが、すぐに冷静になり説明を続ける。

 今回の以来は《ボア》のみではあるが、この際だから溜まりに溜まった他の魔物の部位も買い取ってもらおう。



「討伐部位なんだが、前から狩っていた魔物を全て引き取って欲しいんだ。数も多いので出来れば解体場まで案内してくれると助かる」


「わかりました。軽装ですが、討伐部位は外なんですか?」


「いや、この異空間アイテムバックに入れている」



 そう言って俺は懐から普通のバックをセナに見せた。

 この世界で【アイテムボックス】などの次元属性魔法を使えるものは少ない。だが記憶石によって【アイテムボックス】を記憶し、それを素材に使ったアイテムバックは販売されている。

 値段は軽く1000万を超えるのだが、俺は次元属性魔法を扱えないという事になっているのでこれでいい。



「異空間アイテムバックをお持ちでしたか」



 セナは目を大きく開き呟いた。俺のような平民学生がこんな高価なものを持っていればそりゃ驚くし疑問にも思うよな。



「伝があってな。それに借り物だ。それよりもギルド内が慌ただしかったのだが、何かあったのか?」



 借り物だということに納得して、俺の質問に答え始めた。



「そうなんですよ。東の森で討伐ランクBの《グリフォン》が現れたという報告があったんです。王都付近で討伐ランクの高い魔物は発生しないはずなんですが……それで大騒ぎになってしまって」



 《グリフォン》ってあの森で出てきたやつだよな。確かに王都からは2時間ぐらいの徒歩圏内であのレベルの魔物は見かけたことがない。



「クレイさんも確か東の平原に向かわれてましたね。大丈夫でしたか?」


「何も問題はなかった」


「いくら腕に自信があるからって《グリフォン》は別次元です。本当に気をつけてくださいね」



 どうやらセナは真剣に心配してくれているらしく、こちらに熱い視線を向けて訴えてきた。

 まさか倒したとまでは言えるはずもなく、無表情で答えを返す。

 だが《グリフォン》は討伐されているというのも事実なので、状況次第ではこの情報を伝えたほうがいい事もある。少し詳しく聞いてみることにしよう。



「それでグリフォンは――」


「あぁー!」



 「グリフォンは討伐されたのか?」と聞こうとしたのだが真横から飛んでくる声によって遮られた。

 振り向くと冒険者であろう女の子が2人いる。後には厳つい大きめのおっさんもいた。屈強な肉体ではあるが、おしゃれなヒゲを生やしたダンディーなオーラが出ているおっさんである。



「あなた、私たちを助けてくれた人よね?」



 その女の子2人はよく見ると先程グリフォンと対峙していたところで遭遇した冒険者だった。剣士の女の子と、魔道士の女の子だ。



「……ヒトチガイデスヨ」



 剣士女の子の質問に対して周りの視線が集まったので、俺は無表情かつ棒読みで答える。



「何誤魔化してんのよ、さっきのさっきで間違えるはずないじゃない」


「この少年が《グリフォン》を?」



 後ろに控えていたおしゃれヒゲのおっさんが伺ってくる。



「はい、そうなんです。彼が私たちを助けてくれました」



 女の子の対応からおっさんと知り合いであり、さらには目上の存在だということがわかった。受付嬢であるセナもわざわざお辞儀をして挨拶をしている。



「少し奥で話しをしよう。セナも一緒に付いてきてくれ」



 おっさんの言葉にセナは「かしこまりました」と返事をした。

 このおっさんは冒険者ギルドの従業員、それも上司にあたる存在らしい。


 俺は「強制かよ」と思いつつも、この場でいろいろ騒がれるよりかはマシなのでおっさんのあとについて行くことにした。その後ろを冒険者の女の子2人とセナが追う。



「掛けてくれたまえ」



 応接室のような場所に入り、ソファーに座るよう促された。俺は指示通りに座ると、少し間を開けて女の子たちも隣に腰掛けた。

 セナはお茶を汲んでいる様子だった。



「それで君が《グリフォン》を討伐したというのは本当かい?」


「その前に聞きたい、あんたは誰だ?」



 おっさんは俺の質問に呆気に取られた表情を向けるが、次第に口元を緩め、友好的な笑顔に変わっていった。



「ハハ、ごもっともだな。私は王都の冒険者ギルドのギルドマスターを勤めているガロウだ」



 俺はポーカーフェイスではあったが内心驚いていた。

 部長レベルかと思ったら社長のお出ましか。



「俺はクレイだ。一応アルカディアの生徒でもある」


「クレイか覚えておこう。君は学生だっだったのか。それで《グリフォン》を討伐したというのは?」


「本当だ。俺がやった」


「そうか……報告は間違いないようだね」



 ギルドマスターのガロウは俺の隣に座る女の子達に目線を向ける。

 女の子達はそれに頷いた。



「あまり見ない顔だけど、ランクはいくつだい?」


「クレイさんは今日冒険者ギルドに登録したばかりのFランクです」



 その質問にはテーブルにお茶を配っていたセナが答えた。

 それを聞いたガロウは驚いていた。女の子2人も目を見開いてこちらを見てめていた。



「ハハハハハ! 今日登録したばかりだったか。良い人材を発見したものだ」



 ガロウはいきなり愉快に笑いだす。

 正直早く帰りたい空気になってきた。



「クレイ、君のランクを3ランクアップのCランクにしようと思っている。もちろん試験は受けてもらうが」



 ガロウの言葉に一同が驚いた。



「ス、3ランクアップなんて前代未聞ですよ? しかも登録した初日でなんて」



 セナは信じられないという顔をしながらガロウに問いかける。隣に座る女の子達も頷いているようだった。



「《グリフォン》を単騎討伐、それに一撃で葬るなんて聞いたことがない。それが本当であるならBランクでもいいぐらいだ」


「確かにそうですが」


「だが経験も少ないうちに高ランクにさせるわけにはいかない。まずはCランクで経験を積んで順当にランクを上げて欲しいと思っている」



 なにやら俺の返答を待たずして勝手に話が進んでいるようなので口を挟ませて貰うことにした。



「まて、俺はFランクのままでいいぞ」


「何を言っているんだ、ギルドは実力あるものを低ランクで遊ばせるわけにはいかない。その者にあった実力の依頼を受けてもらいたい」



 確かにガロウの言い分はわかる。

 正しい評価の元、依頼を受けるべきなのだ。低ランクには低ランクの依頼があり、高ランクにしか出来ない依頼も存在する。つまりは人材不足と言いたいのだ。

 だが何か他の意図も感じるような気がする。



「それにランクアップ試験は私が直々にテストする。見定めに問題はあるまい」


「ギルドマスターが直々にですか!?」



 セナが驚くということは普段の試験は違う内容で行っているということがわかる。

 これは断る訳にはいかない雰囲気だ。ギルドマスター直々に動いているということから、断れば今後の冒険者ギルドの利用に差し支える可能性がある。



「わかった。その代わりだが、俺は目立つのをあまり好まない」


「……なるほど、君は面白いな。わかった、Cランクに上がったとしてもこのことはあまり広まらないようには配慮しよう。それでいいね?」



 ガロウは隣に座る女の子達に向けて呟いた。

 俺の言葉で色々なことを察してくれたらしい。流石は社長というわけか。



「大丈夫です」


「えっと、私もあまり噂を広めるのとか好きじゃないので」



 2人の返答を聞き、ガロウは再び俺を見る。

 心なしか口元を緩ませていた。



「では早速ギルドの演習場に向かおう」



俺たちはギルドの演習場へ向かった。

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