第61話
不気味な雰囲気の漂う階段を下りようとしたとき、あることを思い出した。
「念の為に使っておくか」
俺はアイテムボックスからあるアイテムを取り出す。
「もっといいデザインなかったのかよ……」
そのアイテムとは仮面である。
グリムが「《ラグナ》として動く時はこの仮面を付けるように」と笑顔を向けながら渡してきた物だ。仮面は物理や魔法耐性が高い希少な素材で作られているらしく、付けたら外すことの出来ないという呪いも掛かっている。
もちろん呪いは光属性の魔法で外すことが可能なので、激しい戦闘をしても外れない仮面という認識だ。
「ふむ」
仮面を装着すると、顔に密着するようにフィットした。顔のサイズに大きさが変わる仕組みらしい。
どうやら声も変わるらしく、自分とは思えない禍々しい声が耳に入る。
ダンジョンは天使や使徒などが関わっている。つまりは悪魔とも密接な関係があるということだ。
そんな場所で人の気配がするのだから、恐らくその関係者が奥にいるのだろう。
なるべく身バレは避けたい。
さらに【極・気配遮断】を発動。階段を音を立てず、ゆっくりと下りていく。
降りるにつれて、大気に散らばる魔力の量が濃くなっていくのがわかる。
この下にはなにがあるのだろうか。
しばらく降りていくと、広い鍾乳洞のようなフロアに到達した。
薄暗いが、青色の光に満ちているので視界は開けている。そして真ん中には5メートルほどの祭壇のようなものがあった。
「――」
俺は思わず身を隠した。中央の祭壇の前に2人の人影が見えからだ。何やら2人は会話をしていた。
「やはり手遅れだったようね」
「何者かが動いているようですね」
1人は黒い髪の少女。貴族なのか煌びやかなドレスのような豪華な戦闘服を纏っていた。
もう1人は薄い桃色の髪の女性。修道服を身に纏っていて、おっとりとした雰囲気を感じる。
2人とも独特の雰囲気を感じるが、誰もが振り向くような綺麗な顔立ちをしていた。
俺は【神の五感】を発動させようとしたが、思いとどまる。発動した直後に気づかれると直感が告げていたからだ。
発動しているものとは違い、魔法や加護を使うと痕跡が一瞬残る。彼女達は神の使徒の関係者であることは間違いないし、魔力に関しても一流だろう。発動すれば恐らく気づかれる。
「もしかしたら他も手遅れかもしれないですわ」
「わかりませんが、まだ未発見のダンジョンなら大丈夫かもですよ? 」
黒髪の少女の言葉に、桃色の髪の女性は答える。
一体何が手遅れなのだろうか。それにこの祭壇は何なのだろう。
「やることが多すぎます……私、疲れましたわ」
「あなたでも弱音を吐くことがあるんですね」
項垂れる少女、それに微笑む女性。2人は姉妹ということはないだろうが、お互いを理解している雰囲気を感じた。
それにあの桃色の髪の女性の雰囲気はどこかで感じたことのあるような気がする。
『クレイよ、妾じゃ聞こえるかの』
脳内にいきなりアリエルの声が響いた。【メッセージ】である。アリエルは次元属性魔法が使えるので何かあった際に連絡するように言っていたのだ。
だけど今はタイミングが悪い。
「あら?」
「誰かいますね」
次元属性魔法の痕跡によって2人が俺の存在に気づいたようだ。
俺は頭に3つの選択肢を思い描いた。1つ、先制攻撃を仕掛けてみる。2つ、大人しく出ていき、話しをしてみる。3つ、何事も無かったかのように【転移】で逃げる。
情報がない状態で1は論外だろう……2か3だな。情報を聞き出したいが向こうが何者なのかわからない。3で逃げるのもありだろうが……。
「【反次元魔法】」
俺が思考を巡らせていると、黒髪の少女が魔法を発動させる。辺り一面に何やら不穏な気配を感じるようになった。その魔法を瞬時に分析。効果は次元魔法の阻害である。
【転移】などの移動魔法で逃がさないようにするつもりなのだろう。
いくらなんでも先読みしすぎだ。それにこんな魔法見たことも聞いたこともない。
「誰でしょうか? 出てきてくださいな」
少女は優しい口ぶりだが、表情は笑っていないように感じる。そして殺気も放っているようだ。
「【氷結停止】」
こちらの反応を伺わずに少女は再び魔法を発動させた。俺は咄嗟にその場から離れる。その瞬間、俺のいた場所一体が凍った。
その場にいたら氷漬けだっただろう。
「【煉獄の闇炎】」
俺は空中でサタンが使った火属性魔法を発動させて氷を溶かし着地する。
それによって俺は少女達に姿を見せる形となった。
「あなたは何者かしら?」
「今のを躱せるのはなかなかですよ。注意してくださいね~」
桃色の髪の女性は少女に対して注意を促すだけで動こうとしない。あくまで観戦ということなのだろう。
俺はというと、別に戦うつもりはない。手を挙げて何もしないとアピールをした。
「降参? 先程の魔法は悪魔のものですわよね。騙されませんよ」
少女は口元を綻ばせた。
どうやら悪魔の関係者だと思われているらしい。
「【氷岩棘】」
少女は流れるように魔法を唱えるのだが、その魔力制御は洗礼されていた。
地面と壁から氷の柱が生えてきて、俺を襲う。
それを悠々と躱し、俺は魔法を発動させた。
「【煉獄炎大蛇】」
「【光の絶氷】」
空間を光が包み【煉獄炎大蛇】の魔法陣が発動前の状態で凍っていた。
発動前に凍らせるとか反則すぎるだろ。
「あなたの魔法、洗礼されていて強力ね。それにその特徴的な仮面……もしかして噂の《ラグナ》さんかしら?」
「情報通りならサタンを倒したはずなんですが……悪魔の加護持ちなのですかね」
《ラグナ》のことまで知っているとなると、かなりの情報収集力である。《ラグナ》の風貌や身につけている仮面の特徴は王国の王族と1部の貴族にしか知らされていないのだ。
この仮面の特徴を元にグリムが報告したからである。
これは情報開示をなるべく避けて、退却した方が良さそうだ。何やら誤解もされているようだし。
「悪魔の加護持ちならここで死んでもらいますわ【千本雪華】」
少女が新たな魔法をと唱えた途端、大量の氷の剣が空間から出現し始めた。
次元と水属性の合成魔法だろう。鮮やかで綺麗な氷の剣だが、これをまともに受けたらやばいやつである。
「【エクスプロージョン】」
俺が唱えたのは土・火属性合成8級魔法【エクスプロージョン】。炎弾を隕石のように降らせる魔法である。
「――――――――――――!」
お互いの魔法がぶつかりあう。まるで生き物のように動く氷の剣を炎弾で的確に受けていく。
そしてその温度差によって水蒸気が起こり、爆発に近い風が発生。お互いの視界を奪っていく。
これは好機である。その直後、俺は【自己加速】で身体強化をし、階段をかけ上がった。
そして高原へたどり着くと――
「逃がしませんわよ」
黒髪の少女が目の前に現れる。【転移】だ。
そして次なる魔法を唱えようとしている。
「【反次元魔法】」
俺はそれよりも早く魔法を発動させていた。先ほどこの少女が発動させた魔法。
一定エリアでの次元魔法の阻害。
「えっ?」
少女は驚き、目を見開いた。もちろん魔法は未発動。
俺はその隙に【転移】を発動させた。この少女が発動させた【反次元魔法】の範囲は既に抜けていたからだ。
視界が一瞬でダンジョンの外に切り替わった。間一髪である。
「なかなか面白い体験だった」
天使や悪魔以外であのレベルの魔法を使える人間を初めて見た。
「世の中は広い」
口元を綻ばせながら俺は仮面を外し、アイテムボックスへ収納した。
―――――――――
《ティアラ・フリシット・クリステレス》
Sスキル
【超・次元魔法】【超・成長】【超・魅了】【再現】【魔法改変】
Aスキル
【極・魔力制御】【極・反射】
Bスキル
【魅惑】【義眼】【上・魔力量】【上・命中】
Cスキル
【老化耐性】
加護
【ヘラの加護(神の反発)】
【ミカエルの加護(聖女の愛)】
【信徒の加護】
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【ヘラの加護(神の反発)】
・あらゆるものを反発させることが出来る。
【ミカエルの加護(聖女の愛)】
・認めた者に対して身体能力、魔力、気力、精神力が上がる。
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瞬時に視た少女の情報を思い出す。
ヘラの使徒。名前からして貴族か王族だろう。
そして隣にいた女性がおそらくアリエルと同じ天使のミカエルだろう。
誤解されているっぽいが、使徒なら恐らくまた会う機会もある。
その時のために色々用意しておかないとな。
俺はとりあえず依頼報告を済ませるために王都へ足を進めた。
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