第58話
第二章ラストです。
リンシアの執務室。近況報告をするという名目でリンシアから呼び出しがかかったのだ。
実際のところは王国に提出した報告書の件だろう。
色々あった試験が無事に終わり、サタンの件に間近で関わった俺達は王国へ報告書を提出することとなった。グリムに関しては目撃者としてわざわざ別室で報告をしていた。
もちろん内容はグリムと話していたものがそのまま報告される形となったのだが。
今回の件は箝口令を敷かれなかったため、噂はたちまち王国内に広がっていった。そして王族や貴族内では《ラグナ》という人物を特定しようとする者も現れたぐらいだ。
「報告を聞いたのですが、色々と聞きたいことがあります」
リンシアは執務作業をやめて疑い混じりに俺を見つめる。
今は二人きりの状態である。いつの間にかリンシアの部屋までなら顔パスで通してくれるようなっていて、ここまでも案内を通さずに一人でやってきた。
だがいくら顔パスだからといっても、なるべく他の王族や貴族、特にルシフェルの派閥の者には会わないように心掛けてはいる。
「どうした改まって」
「この《ラグナ》って人物はクレイですよね?」
「まぁな」
いきなり確信に迫ってきたリンシアに向けて俺は普段と同じような返事をした。
リンシア、メル、リルあたりには気づかれて当然だと思っていたし、今後のために隠す必要も無いと判断している。
「やっぱりですか。なんとなく理由は察しますが、クレイは悪魔まで倒しちゃうんですね」
「なかなか強い奴だった」
「クレイが本当に人間なのか疑わしくなってきました」
口元を綻ばせながら話す俺に対して呆れながら冗談交じりに呟くリンシア。
俺は人間だし、なんならお前の兄貴なんだがな。
「わかっていると思うが、メルやリルには――」
「伝えてあります。こんな事実は極秘中の極秘に決まってますから。今や王国内だけでなく、他国までラグナの正体を突き止めようとしているものがいるぐらいですし」
どうやら心配する必要もないみたいだな。
それにしてもまだあれから1ヶ月もたっていないのに他国にまで噂が広がっているのか。
「それでなんでサタンと対峙することになったんですか。前に聞いてきたサタンの加護と何か関係が?」
「話せば長くなる。グリムが関係していてな」
「そういえばグリムについても聞いてましたね。どう関係しているんです?」
俺はリンシアにサタンと戦うことになった経緯を話していった。神の使徒に関しては話せないので、グリムを通して力を欲するサタンに偶然目をつけられたことにした。
そして《ハデス》の事や【サタンの加護】を授かったことは現状、伏せておくことにした。
「悪魔にも目をつけられますか……」
話せば話すほどリンシアの表情は呆れていき、次第には頭を抱えてしまった。
「どうやら俺はモテモテらしいな」
「そうですね……でも無差別過ぎます」
リンシアは何故か頬を少し膨らませて沿っぽを向いてしまう。この瞬間話が逸れたことがわかった。
「俺も困っているんだ」
「まぁ女性じゃないだけいいですが……」
リンシアは小声でボソボソと呟いた。そして俺の方を向き、話を変える。
「そういえば、今度王族交流会で隣の皇国から第3皇女様が王国へ来るんです」
「王族交流会?」
「年に一回、王国、皇国共に王族を自国に招き入れ歓迎しする会が開かれます。友好関係を築くという名目ですが、情報収集や探り合いがメインとお聞きしました。王国からは第1王子のミロード兄様が皇国へ行きます」
「なるほど、俺になんか関係があるのか?」
「王国にとっては大切な行事です。問題などが起こっては王国と皇国の仲が悪くなり最悪戦争にもなってしまうので慎重なんです。そしてクレイが1番を問題起こしそうだから伝えたんです!」
リンシアは声を大にして言い放つ。
何かしでかしそうというところに関してはなんの疑いもない目をしている。
「俺だって目立ちたいわけではない。今回のサタンの件もあるし、交流会の間は目立たず静かに生活するよ」
「お願いしますよ?」
「それよりも、何故第3皇女なんだ? こちらからは第1王子が行くわけだから向こうもそれなりの地位を持つ王族を寄越すだろ」
「その皇女様が優秀だからです。詳しくは知りませんが、皇国に対してかなりの功績を残したとかで。それに《ストラテジー》を作ったのもその皇女様です」
「ほう」
それは俄然興味のある話である。ああいうクリエイター心を持っている、いわゆる天才と呼ばれている者とは色々話してみたいのだ。それに優秀ということは神の使徒の可能性もある。警戒は必要だが、好奇心の方が勝る。
俺が意味深げに考えていると、リンシアがジト目でこちらを覗いてくる。
「どうした」
「あんまり皇女様とは関わらないでくださいね」
「どうしてだ?」
「……」
リンシアは黙り込んで、何故か頬を赤らめて目をそらす。
「どうして関わってはダメなんだ?」
「皇女様は噂では誰もが魅了されるほどの絶世の美少女らしいです」
「それが関係あるのか?」
リンシアが何を言いたいのかがなんとなくわかったのだが、俺はあえてはぐらかす。
「クレイが惚れちゃうかもしれないじゃないですか」
リンシアは掠れるほどの小声でごにょごにょと呟いている。もちろん聞こえているが。
「もう一度言ってくれ、聞こえなかった」
「うぅ……なんでもないです。 くれぐれも気をつけてくださいね!」
とぼける俺にリンシアはご立腹しているようだ。そして首を横に振り「もう知らないです」という感じである。
「美女ならアリエルで耐性がある。それに俺は外見だけでは判断しない」
「……わかってます」
こんなやり取りを自然にしてはいるが、「何このカップルみたいな会話」と自分にツッコミたくなってしまった。
だがこれが面白いと感じてしまうぐらい俺はリンシアの事を溺愛しているらしいな。
「知られたくない情報も多い。特に他国にはな。平民の俺は会う機会がないと思うが王族のリンシアは違う。くれぐれも気をつけてくれ」
「そうですね。わかりました」
俺の言葉にリンシアは気を引き締めたようにしっかりと返事をした。リンシアは真面目でしっかりしてはいるが、時々抜けているところがあるから心配ではある。そこはもう俺の手が届かない範囲なのでどうしようもない。
リンシアとの近況報告を済ませた俺は執務室を後にした。
◇
「まさかハデスが生きていたとは」
クレイを見ていたゼウスは独り言を呟いた。かつて12神を消滅させようとした元神。大戦でゼウスが消滅させた神でもある。
「なんとかせねばならぬ……次にクレイが会いに来た時に忠告してやらなければな」
今まで見落としていたとはいえ、神は世界に直接干渉することが出来ない。ハデスがもし世界に干渉するなら今回みたいに悪魔などのコマを使うだろう。
「どうしたのゼウス、そんなに渋い顔して」
ゼウスが考えていると、後ろから聴き慣れた声が聞こえた。
「ヘラか。我々神同士は緊急時のときにしか会わん誓いじゃろ。ハデスの暴走を忘れたか」
12神の一格であるヘラ。ゼウスを慕う女神である。
「いいえ、緊急時よ。実はハデスの件で来たの」
「何があったのじゃ」
「あなたが消滅させたはずのハデスは、力の一部を世界を構成する際に封印していたのよ。それによって生きながらえることが出来たの」
「なに?」
ゼウスとハデスの戦いは世界を作る前に行われた。この世界は12神によって作られたもの。時系列的に力の一部を封印することは出来ないはずである。
「ワシに気付かれずに秘密裏になにかをやっていたということか……それだと12神の中にもハデスのような邪神がいるということになるが」
「そうなのよ。だからそれを見つけるために貴方の元に来たの」
ヘラはそう言ってゼウスの元へ寄り――
「なっ……」
そして凄まじい光がゼウスの視界を奪った。
気づくとクリスタルの中にゼウスは閉じ込められていた。
「どういうつもりじゃ」
神を封印する技は何人かの神々の力を集めてやっと出来るもの。つまり予想通り12神の中にハデスに加担する神がいることになる。
「ヘラ……お主がワシをたばかるとはのう……」
ゼウスは封印の力により意識が朦朧としてくる。
「残念ながら私はヘラじゃないわ」
ヘラの笑顔は崩れていき、別の女神へと変わっていく。それを見たゼウスは何かを悟った。
「……《ペルセポネ》……そういうことか……しかしワシらは世界に直接干渉することは出来ん……無駄な足掻きじゃ」
「そうね。私たちはもう何もできない。だけどあなただけが使える世界に干渉出来る唯一の魔法、【森羅万象】さえ封じることが出来ればそれでいいのよ。それに、使徒への助言も出来なくなるでしょ?」
「なるほど、そのためにワシが使徒を指名するのを待っていたというわけか……」
神の使徒に力を授けること。そもそもそれは世界に干渉してはいけないという原則を大きく破るものである。そのためこのルールは神々の同意によって成り立ったのだが、代償として神自体の力を大きく消費することとなるのだ。
「そう……もう限界でしょ? そろそろ眠ってくれないかしら」
意識が朦朧とする中、ゼウスはクレイのことを考えた。すると自然と笑みがこみ上げてくる。
「フォッホッホ。お主らの思い通りにはならんよ。ワシの使徒は強い――」
そしてゼウスの意識が完全になくなった。
「自分が選んだ使徒が強いのは当然でしょ? これから起こる成り行きを私たちと大人しく見守りましょ」
ペルセポネはそんなゼウスを笑顔で見つめるのだった。
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