第54話
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相手の余分な魔力を乱し破裂を誘発させる事のできる掌底【剛魔乱掌】。魔力量が多い相手ほど絶大なダメージを与える事が出来る。
俺がグリムの突きに対してカウンターで放った技である。どんなに速くても見えてさえいれば反射神経でどうとでもなるのだ。
「1度死んだものは蘇りはしない」
意識のないグリムに対して言葉を紡いだ。
グリムはしばらく宙を舞い、勢いよく地面へ落ちる。殺すつもりはなかったのでまだ息はある。
転生という概念があり、神が俺の魂をこちらの世界に持ってきたという事実から推測すると、肉体から離れた魂はもう元の身体に戻りはしないということだ。つまり死から抗うことなど出来ない。
それが出来るのなら、転生など存在しないからな。
俺は【サーチ】を発動させ、魔物たちの動向を探った。大量発生していた魔物が減りつつあり、新しい魔物も出てくる気配がない。
恐らくグリムが何らかの仕掛けをしていたのだろう。
後始末をどうするか考えながら俺はグリムの方へ歩みを進める。
するとグリムの体内から黒い球体がゆっくりと出てきた。
「なんだこれは」
禍々しい魔力が凝縮された球体。意識のないグリムの上で浮かんでいる。
――途端、グリムが元の姿に戻った。
そしてこの現場に近寄ってくる見知った5人の気配。
「おい貴様、何があった」
姿を現したのはマルクスと教員、そして学園の生徒3名で構成された小隊だった。
生徒の方は見覚えがあり、聖騎士科Sクラスの者だ。
「これは……どういうことですか! グリム先生!?」
教員は辺りを見渡し驚いている。
なんて説明しよう。
――ドックン。
自分の鼓動が大きく聞こえるような感覚。
嫌な予感がした。
「おい、ここから離れるぞ!」
俺が5人に向かって叫んだ。
その瞬間、背中に激痛が走る――俺の体は勢いよく吹き飛ばされた。
「くっ……」
その勢いは留まることがなく、木を何本もなぎ倒し、ようやく静止した。
土煙が上がるなか、俺は真っ直ぐに吹き飛ばされた原因を睨む。そこにあったのは白い腕。
歪んだ空間から白い腕だけが出ていて、宙に浮いていた。
「な、なんだあれは!」
マルクスが驚くように腕を見て叫んだ。
その腕はグリムの上に浮いている黒い球体を握り、自分へ吸収する。
そして空間の裂けめが大きくなり、そこから腕以外の部分も姿を現した。
禍々しい魔力、とてつもなく鋭い殺気。
人型であるが人間ではない。先ほどのグリムと同じような白い肌。そして背中には悪魔のような羽が2枚生えており、体中に黒い線のような模様がいくつも入っていた。
「な……あ……」
教員とマルクスがその殺気に充てられ震え上がる。
Sクラスの連中はマルクス以外、口から泡を吹いて倒れていった。
「貴様は……なんだ?」
マルクスは震えつつも勇敢に声を振り絞る。
そいつは口元を緩ませ、虫を見るような目でマルクス達を見下した。
「我が名はサタン」
「サタンだと……!?」
「で、でで、伝説の悪魔?!」
マルクスが驚き、教員が叫ぶ。
「空想上の生き物だろう」
「マルクスくん、クレイくんと逃げなさい。この事実をみんなに知らせるんだ」
「ぼ、僕もたたか――」
「君はここで死んではいい人間ではないよ」
教員はマルクスの言葉を遮り逃がすように仕向ける。
そして剣を握った。
サタンはそれを見て笑みを浮かべ――
消えた。
だが俺の目には追えていた。膨大な魔力を纏った手刀。
おそらくマルクスと教員を殺すつもりなのだろう。
俺は瞬時に動き、マルクス達との間に入ることに成功した。
そして【剛魔乱掌】を放った……が――
躱された。
「「ぐはっ……」」
その直後マルクスと教員の声が響いた。
サタンの腕は俺の腹を突き刺し貫通。棒立ちだったマルクスに突き刺さっている。さらにもう片方の腕で教員の腹を突き刺していた。
俺とマルクス、そして教師は勢いよく出血している。
「次元魔法にこんな使い方があったとはな」
俺は口から血を流しながらも唇を綻ばせ、サタンの腕を掴んだ。
そして魔力と気力を練り上げた【柔拳】を放つ――だが不発に終わった。
サタンはその直後【転移】で姿を消し、再び元の位置に戻ったのだ。
「やはりゼウスの使徒は面白い、あの場面で急所を避けるか」
こちらを見下し笑うサタン。
俺は自分も含めた3人に【エグゼクティブ・エリアヒール】をかけた。
マルクスも教員も意識はないが息はある。どうやら間に合ったようだ。
「俺からしたらお前の方が面白い」
サタンの笑みに対して俺も笑い、挑発した。
先程サタンは次元魔法で空間を歪めて【剛魔乱掌】を躱したのだ。
だから俺は即座に自らの急所を避けるように動き、さらにマルクスと教員の位置もずらしたのだ。
もしずらしていなかったら即死で間に合わなかっただろう。
「フハハハハ、我に挑発か」
愉快に笑い出すサタンを無視し、俺は質問をすることにした。
「なぁ、蘇生は可能だと思うか?」
「ん?……蘇生などというものは夢物語にすぎないことがわからんか?」
「……やはりか」
そう言って俺はグリムを見る。
それにつられてサタンもグリムに目を向けた。
「あぁ、この人間のことか」
そしてグリムを物を見るような目で蔑む。
「肉体から離れた魂を戻すことなど神ですら出来んよ。こいつは神の使徒を見つけるためのコマに過ぎない」
「グリムを騙していたと?」
「グリムとはこの人間の名か。騙してはいない、契約を果たせば愛する者に会わせることを約束した。人間は愛のためならなんでも犠牲に出来るのだろう?」
サタンは手のひらに黒い魔力を貯めていく。闇属性2級魔法【ダークボール】闇属性を代表する初級者向けの魔法ではあるが、サタンのものは桁外れの魔力球だった。
「こうすれば、会えるだろ、俺の体内でだがな」
そう言ってグリムに【ダークボール】を放った。
俺は即座に移動し、グリムの服を掴み躱させる。
そして元の場所へ移動し、マルクス達の元へ横たわらせた。
「なるほど、今回のゼウスの使徒は速いのか」
サタンは引っかかる言い方をした。
「まるでゼウスの使徒と戦ったことのあるように聞こえたが」
「まるでも何も、戦ったことがある。神の使徒の魂は我々悪魔の力を大幅に上げてくれるからな。おかげでこの力だ」
サタンの魔力が大幅に溢れ出す。パッと感じただけでもアリエルの5倍はある。
しかもサタンの言い方では前のゼウスの使徒と対峙し、魂を取り込んだということになる。
「そうか」
実はサタンに対して多少怒っていた。グリムも盲目になっていた部分はあり、騙される方も悪いとも思う。だが愛する者への気持ちを利用したサタンに怒りを覚えるのは、俺も前世で沙奈を想っていた気持ちがあったからだろう。今はそれだけではないが――
俺も愛する者のためなら世界を滅ぼしてもいいとさえ思うのだから。
「……そろそろ飽きた、終わらせよう。我の力となることを感謝しろ。今回のゼウスの使徒の魂はさぞ美味かろう」
「安心しろ、すぐ終わらせてやる」
―――――――
《サタン》
加護
【???の加護(???)】
・???
―――――――
【神の五感】を発動させた。
悪魔にスキルという概念がないのだろうか。だけど加護は持てるらしい。
肝心な部分にモヤがかかっていて見えない状態であった。
「何を見ている、ゼウスの使徒」
「悪魔でも加護を受けられるんだな」
俺の言葉を聞いたサタンは表情を崩し、真顔になる。
「【アシッド・レイン】」
そして魔法を唱え、黒い雨が降り始めた。見た目は黒い水滴だが何かに触れると霧散して消えていく。
どうやらこの雨は魔力も霧散させているらしい。身体から少しずつ魔力が減っていくのがわかる。
「我はあいつの力は借りぬ」
「そうかい」
「せいぜい足掻いて我を楽しませろ」
サタンは宙へ浮き、俺に向けて手をかざす。
途端、身体にかなりの重さがのしかかる。
おそらく闇属性魔法の【グラビティバインド】だろう。
俺は【転移】を使い、サタンの前に移動――
そして気力のみの【剛拳】で腹を殴り飛ばす。
先程のお返しである。
サタンは勢いよく吹き飛んでいき、やがて静止する。
「今のは面白かったぞ」
笑み浮かべるサタン。
「開戦だな」
俺も自然と笑みがこぼれた。
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