第52話
高原を南西に進んでいくと、魔物と交戦中の小隊とぶつかった。
小隊は《ゴブリン》と交戦していた。緑色の肌、小さい人型の魔物で討伐ランクはEである。
数は10と少ないが、奥の方から他の魔物も迫っているのがわかった。
「俺が迎撃する」
俺は剛拳でゴブリンをなぎ倒していく。数も少ないので、あっさりと処分し終わった。
「こちらは小隊26だ。助太刀感謝する」
小隊のリーダーっぽい男が声をかけてきた。
クラスでは見たことないやつなので、聖騎士科Aクラスのやつだろう。
「魔物がどんどん集まってくるっす。撤退しないとやばいっすよ」
「何? 数は?」
「100以上。どうやらお出ましだ」
男の質問に俺が答えた直後、林の間から数匹の《ゴブリン》と《ホブゴブリン》が現れた。
《ホブゴブリン》はE+ランクでゴブリンよりも大柄な体格、武器を持って攻撃してくる魔物である。
「異常事態というわけか」
「そうだ、魔物が大量発生している。1度撤退した方がいい」
俺の言葉にリーダーっぽい男が頷く。この場にいる魔物は6体、そして向かってきているのが5体いる。
ここをなんとかして、他の小隊と合流するには俺の小隊メンバーでは危険すぎるか。
「リオン、小隊26と一緒に撤退してくれ。俺はこのままもう1小隊の方へ向かう」
包囲はまだ完全ではないし、拠点の方は魔物も少ない。9人もいれば楽々突破できるだろう。
「わかったっす! こいつらどうするんすか?」
「【電光網】」
俺は地面に手を当て、風、地の合成3級魔法【電光網】を発動させる。
対象範囲へ電撃を走らせ、当たった者をしばらくの間麻痺させるという魔法である。
小隊26のメンバーは目を見開いていて「なんだあの魔法は」と呟いていた。
「今のうちに行け」
「わかったっす」
リオンの返事を聞き、俺は即座にもうひとつの小隊の方へ向かった。
【自己加速】を使い、小隊との距離を一気に縮める。先程は歩幅を合わせなければいけなかったが、今はその必要はない。
それにこっちの小隊は――
「やばそうだな」
【サーチ】で確認しているが、魔物がどんどん集まっていて今は5対20という状態になっていた。しかも、怪我をしたのか魔力が弱まっている者が1人いる。
距離が1キロほどしか離れていなかったのもあり、すぐに現場に到着した。
パッと目に入った光景は《オーク》と《ゴブリン》の群れに囲まれた小隊。
見知ったやつがいる小隊だった。
「【アイスジャベリン】」
【アイスジャベリン】を発動させたのはマルクス。勢いよく飛んでいったアイスジャベリンは《オーク》の胸へ突き刺さり、絶命させた。
魔法を使いながらも剣で打ち合い、器用に戦闘をこなしている。そして【サーチ】で確認した通りで1人怪我をしていた。怪我人を包囲する形で残りの4人が守っている陣形であった。
マルクスは首席なだけあり、まだ余裕は残されているが、他の3人は苦戦を強いられていて辛そうだ。
俺は木に上り無属性2級魔法【挑発】を使った。異様な気配を放ち一定範囲内の魔物を引き付ける効果がある。一流のタンク職なら誰でも使える魔法であるそれを最大効果で発揮させた。
マルクス達を睨んでいた魔物は一気に俺の方へ集まりだす。魔物の不審な動きに気づいたマルクスは、《オーク》達が向かう方向に目を向ける。
「貴様は!」
俺に気づいたマルクスが顔をしかめながら叫ぶ。
「マルクス、今のうちに撤退しろ」
「平民が僕に指図するな!」
「こんなときに何を言ってんだ。怪我人がいるんだろ」
マルクスは怪我をしているメンバーに目を向ける。悔しそうな表情になり、拳を握った。
「それに他の3人も限界だろう。人命のために撤退させた方がいい」
「くっ……貴様はどうするつもりだ」
「大丈夫だ」
「貴様のような平民を置いておいそれと逃げたら我が家の恥だ」
俺を心配しているのか?
それとも優等生としてのプライドか。
「俺には気配を消せる闇魔法がある。1人ならこの群れからでも逃げ出せる自信はあるから、お前達が安全圏に入ったら逃げるさ。それよりも怪我人を早く手当出来るところまで運んだ方がいい」
「マ、マルクス様、すみません……」
怪我をしている生徒は血を流しながらも申し訳なさそうにマルクスへ謝罪した。
「……これは僕からの命令だ。怪我人を運ぶまでの間の時間稼ぎを頼もう」
少し考えたマルクスは眉間にシワを寄せながら強めの口調で言い放つ。
自分が提案した事で納得させたいのだろう。
「あぁ、お前ならこんな群れどうってことなかったことぐらいわかってる」
「当然だ。それと――」
マルクスは何かを言いかける。
「――行くぞ」
だが押しとどまり、小隊メンバーに声をかけた。その後生徒達で怪我人を担ぎ、その場から撤退する。
プライドと人命で選択を迫ったのだろう。それに俺の指示に従うというところにも何か思うところがあったはずだ。
「さてと」
マルクス達が去った後、俺は木を殴り始めた《オーク》どもを見つめる。そろそろ【挑発】の効果も切れる頃だろう。
「パーティーの時間だ」
俺は口を綻ばせ、蹂躙が始まる。俺は手前の魔物から速やかに処理していった。
――3分ほどが経過し、その場に生きている魔物は一体もいなくなる。
この場に来たときに気づいたことではあるが、魔物達は1つの方向から出てきている。
きっとそこに元凶があるのだろう。
拠点に戻ろうとも考えたが、俺は元凶の方へ足を進め始める。
「クレイ君、なぜ君がここに?」
俺はいきなり聞こえた声に驚き振り向いた。
声の正体はグリムだった。いつもの笑顔ではなく戸惑ったような表情をしていた。
だが何やら違和感を感じる。
「オーク達を片付けてたんだが……どうやら向こうから魔物が湧いているらしくてな。これから元凶を調べに行くところだ」
「そうだったのか、僕もそれに気づいてそこに向かうところだったんだ。この騒ぎだし本来は生徒を一緒に行かせたくないだけど……」
グリムは渋った様子で考えて、いつもの笑顔に戻る。
「1人で戻るのは危険だからね。一緒に行こうか」
「……あぁそうだな。その前に聞きたいのだが――」
笑顔に戻った直後に違和感の正体に気づいた。
「なんだい?」
「その殺気はなんだ」
グリムは表情とは裏腹に、俺に向けて殺気を放っていた。
「えっ……あぁ……漏れちゃってたかぁ」
喜びを顕にし、グリムは歪んだ笑顔を俺に向け強い殺気を放ってくる。
「もちろん君を――殺すためだよ」
「先ほどお前が【サーチ】に引っかからなかったんだが、魔法か何か?」
「【極・気配遮断】だよ、初めて見たかな?」
確かに使われたのは初めてだ。
サナスの気配遮断なんかよりも極まっている。
「なぜ俺を?」
「君というよりも、ゼウスの使徒を殺すことが目的だね」
その瞬間グリムから黒いオーラのような魔力が溢れ出てくる。そして殺気も凄まじいものとなり突き刺さる。
ゼウスの使徒だという事実に気づいている? そもそも神の使徒以外、使徒が存在するという事実すら知らないはず。
「なぜそれを知っている」
「サタンだよ。それこそが契約だからね」
俺は確認のために【神の五感】を発動させる。まともに機能する。どうやら力は失っていないようだ。
そもそも――
『使徒だということは他の使徒以外に明かすことは出来ない』
とゼウスは言っていた。自ら明かしさえしなければ失わないらしい。いいことを知った。
「では使徒だとなぜわかった?」
「これさ」
そう言って懐から禍々しい宝石を出す。
「ゼウスの加護、ヘスティアの加護を持っているものはこれでわかるんだ」
そんな物が存在していたなんて驚きだ。どういう原理でわかるのだろうか。
「わざわざ色々答えてくれて助かる」
「これは僕のエゴさ。君はこれから死ぬんだ、なぜ死んだのかわかっていたほうがいいだろ?」
「なら最後の質問だ。なぜサタンと契約したんだ」
「君には関係のないことなんだが……大切な人を蘇らせるためだよ」
蘇らせるとはどういうことだろうか。そんなものが存在している世界であるなら、俺がここへ転生するという概念すら間違っていることになってしまう。
つまり、蘇らせるということは不可能なのである。
「復活など存在するわけがないだろう」
「君のような子供にはまだわからないだろうね」
グリムがほんの一瞬笑顔を崩したのがわかった。そして再び元の表情へ戻った。
「そろそろ死んでもらおうかな」
「やってみろ」
俺の言葉を嘲笑い、グリムは剣を構えた。
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