第51話
翌日の朝、目的地である《サガルティス高原》の拠点にたどり着いた。
拠点は砦のようになっていて、いくつか古い建物が並んでいる。おそらく昔戦争で使ったのだろう。
生徒達はそれぞれ教員に指示された建物を根城にして荷物を置いていく。日の出前に出発したので生徒たちは皆眠そうであった。
この砦を拠点にこれから小隊メンバー事で試験を行っていくのだ。
試験内容はいくつかあって各々の小隊に振り分けられる。
伝達は手紙で行われるそうで、建物を指示されるときに俺たち小隊13もそれを受け取っていた。
「なになに、この拠点より東南エリアで7種類以上の魔物討伐部位を集めるべし。ただしDランク以上の部位を1つ以上、Eランクを2つ以上集めなければならない。だってよ」
手紙を持っていたマッシュが小隊メンバーに向かって読み上げる。
「なるほど、Dランク以上が1つとは厄介でごわす」
「確かに、出来るでしょうか……」
カーモとミール、そしてマッシュが何やら不安そうな表情をする。
リオンは鼻歌を歌いながら自分の武器を磨いていた。武器は例の素材から作ったものだろう、見ただけで業物だとわかる出来栄えだった。
「お前ら魔物を狩ったことないのか?」
「「「ない(です)(ごわす)よ」」」
即答で声を揃える3人。俺は眉をひそめた。
狩った事ないのかよ。
「クレイ君とリオンさんはあるんでごわすか?」
「もちろんっす」
「まぁ」
カーモの質問に俺とリオンが同時に返事をした。
魔物はこちらで目覚めてすぐに対峙したからな。あれは4歳だったか。
「じゃあ、クレイ君が隊長ってことでいいよね? 聖騎士科Sクラスだし」
「「「賛成(でごわす)」」」
当然のように言い放ったマッシュに対して、3人が同時に頷く。
俺はそんな4人に意義を唱えることにした。
「俺は隊長って柄じゃないだろ」
どちらかというとボスって感じがいい。命令してるだけだからな。
「クレイさんは私たち平民の希望の星です!」
ミールは両手でガッツポーズをして言った。
それを聞いてカーモとリオンがウンウンと頷いた。
「私は元からファンっすけどね! 入学試験のときなんて――」
「言い分はわかった、引き受けよう。それよりマッシュ、他に情報はないのか? 手紙は何枚かに分かれていたように見えたのだが」
俺は入学試験のときのことを話そうとしていたリオンの言葉を了承の言葉で遮った。
持て栄やされるのはあまり好きではないし目立ちたくもないからだ。
「東南方面にいる魔物のリストが一応入ってるよ」
マッシュがそう言って残りの手紙を俺に渡す。
俺はそれを受け取り目を通していく。どうやら手紙には20種類ほどの魔物の名前とそれぞれの討伐部位が書かれている。これを取ってこいということだろう。
魔物辞典は暇な時に軽く目を通したことがあったので、ここに書かれている魔物は全て知っていた。
それに俺自身幼少期に対峙したことある魔物ばかりである。
「魔物と退治したことがないなら対処を知識として教える。まずは《ボア》だが――」
俺は書かれている魔物の特徴、倒し方などを軽く説明していった。
マッシュ、カーモ、ミールの3人は真剣に説明を聞いていて、リオンは相変わらず武器を磨いている。対処法はわかっているだろうし、しっかりと聞き耳を立てているのがわかったのでよしとした。
「うんうん、事前に情報を整理して対処法を教えておく。この小隊は優秀だね」
俺が説明を終えると、後から声がした。振り向くとグリムが鉄柵の窓から顔を覗かせていた。俺は気配でわかってはいたが。小隊メンバーは声に驚き、グリムだとわかった直後にしっかりと挨拶をしている。
「なんか用か?」
「いやいや、採点をしてるんだよ。僕達こうやって徘徊して色んな生徒達を見て行くのが仕事だからね」
そういえば王都を出た時から試験は始まってると言っていたな。
隙あれば生徒達を観察して採点してるわけか。
「僕はそろそろ他を見に行くから、君たちも頑張ってね。くれぐれも無理しないように」
そう言ってグリムはいつもの笑顔を見せて立ち去っていく。
その後、グリムは向かいの建物の窓から顔をのぞかせ、紙にメモを取っていっていた。
評価基準はわからないが、小隊にしたということはおそらくチームワークや連携といったものを見ていることはわかる。俺やリオンが倒して「はい終わり」ではない。
一応学園の騎士科、つまり騎士に必要な資質を試されているということか。
「まぁ説明は以上だが、実践しないとわからんだろう。まずはFランクの魔物で練習だな」
俺の言葉にみんなが一斉に返事をする。そして拠点を離れ、東南に向かった。
マッシュ、カーモ、ミールの武器は片手剣である。騎士志望なのだから当たり前か。
リオンの武器が短刀2本というのが特殊なのだ。
「そういえばクレイ君、昨日の流れ星見たっすか?」
「流れ星?」
「そうっす、私が眠れなくて外へ出た時、遠くで光がピューン!って飛んでったっす!」
リオンは自分の顎に手を添えていぶしげな顔をしながら説明した。
俺はそれを聞き、心の中でギクリとした。昨日の俺の実験のことだろう。野営地からはかなり離れた場所ではあったが、やはり見えていたのか。
「ほう。俺は見てないな、それがどうしたんだ?」
「そのあとちょっと強い光を放ってたんすよ。爆発みたいな。なんかの悪い予兆なんすかね……?」
「……それはないだろ」
俺はそんなリオンに素知らぬ顔で答える。
すまん、予兆とか全く関係ないんだ。
「そうっすかねぇ……ん~……」
リオンは深く考え込んでしまった。すると林の奥に魔物の気配を感じた。
「ちょうどいい魔物の気配がするぞ、昨日遭遇した《ボア》だ」
考えているリオンを無視し、魔物の接近を知らせる。すると草むらから《ボア》が一体飛び出してきた。
「俺がヘイトを集めてタンクをする。マッシュ、カーモ、ミールは迎撃体制に入ってくれ。リオン後ろでバックアップな」
「「「「了解(でごわす)」」」」
4人は俺の指令に速やかに移動する。
リオンがタンク役でもよかったが、隊長として一応手本を見せようと考えた。《ボア》ぐらいならリオンや俺でも一瞬で倒せるが、小隊メンバーに経験を積ませるための練習台になってもらう。それに評価のこともあるだろうしな。
俺は前に出て挑発すると、それによって《ボア》が突進をしてくる。
「俺が攻撃を受け止めたらマッシュが迎撃、そしてカーモが追撃だ」
俺は指示を出す。
そして突進してくる《ボア》をしっかり受け止め、迎撃しやすい位置へ弾いた。
マッシュがそれに向かって剣を振り《ボア》を切り裂く。
「グヒィ!」
《ボア》は悲痛な叫びと共に空中を舞う。急所にヒットしていないのでまだ生きている。そこへカーモが追撃を仕掛けた。斬風によって吹き飛ばされ、地面に落下した《ボア》は動かない。討伐成功である。
「なかなかいい動きじゃないか」
マッシュ、カーモに称賛の言葉を送ると、マッシュとカーモは照れたような表情をする。
「事前情報と、クレイ君の的確な指示のおかげだよ」
「そうでごわす。やはりクレイ君が隊長でよかったでごわす」
《ボア》1匹でこんなに持ち上げられても困るんだが。
そのあと《ボア》の討伐部位を入手し、メンバーに今回の改善点を説明。再び徘徊を始める。
それから《ボア》や《ウルフ》《クロウ》、Eランクの《ホーンラビット》《トレント》などの魔物と何度か戦闘を重ねて、気づけば討伐部位が6種類集まっていた。
「ここで休憩しよう」
大きめの木が見えたので俺は指示を出した。
小隊メンバーが和になるように腰掛けていった。
俺は座らず立ったまま腕を組み木に寄りかかる。
「クレイ君凄いよ、なんか自分が強くなったような気がする!」
マッシュ、カーモ、ミールの3人はEランクの魔物も余裕で狩れるようになっていた。Fランクなら数体いても危なげなく倒せるレベルである。
「お前らの元々のポテンシャルだろう。俺はただそれを活かせるように指示を出しているだけに過ぎない」
「それが凄いでごわす。隊長の資質もあるんでごわすな」
その言葉にミールが頷いている。
「いやー照れるっすねぇ」
「お前が何故照れるんだ」
「クレイ君を最初に発見したのは私っすから」
ドヤ顔をするリオン。
最初に発見したのが偉いという謎の心理か。
それからしばらく会話を挟み、休憩を終わらせるために俺は口を開く。
「ラストだな。これからDランクの魔物を狩りにいくぞ」
「もっと奥に進むんすね」
「あぁ」
俺の言葉に小隊メンバーは真剣な表情に切り替わる。
「安心しろよ、リオンは単騎でもDランクの魔物は倒せる。それに俺もな。だけど油断だけはするなよ」
「ありがとう、そう言われると少し緊張も解れたよ」
そう言いながらマッシュは肩の力を抜きだらんとさせる。
それは抜きである。
休憩を終え、奥に進んでいく一行。しばらく進んで行くと違和感を覚えた。評価の採点をしていた教員の気配を感じないのだ。俺たちの行動を遠目から逐一観察していたのだが、今はそれがない。
俺は【サーチ】を使い、周りを確認すし、顔をしかめた。魔物が群れをなしこちらに向かってきている。それだけではなく、囲むように包囲していく動きである。
それと同時に、他の小隊の反応が2つあり。魔物と戦闘をしている。何とかやれているようだが、奥の魔物と合流されたら危ない。そしておそらくそれに気づいていない。
魔力量からするとDランク。それ以上の魔物も奥で見える。俺はみんなを手で止め静止させ、口を開いた。
「魔物の群れが遠くにいる。数は100以上、引き返し、拠点に戻りたいが……」
「えぇ!? 魔物の群れ!? なんでわかるんだい?」
驚くマッシュ。その発言にカーモもミールも驚き、唾を飲んだ。
「【サーチ】を使ったからだ。だがここから西に2キロ先と南西に3キロ先、他の小隊が交戦してる」
「まだ間に合うんすよね? 助けに行くっす! 合流して一緒に逃げるっすよ!」
リオンの言葉にマッシュ、カーモ、ミールは頷く。
「まだ間に合う。だが危険だぞ?」
「こ、怖いけど、それを聞いたら見捨てられない」
「そうでごわす、このまま逃げ帰ったら後悔しそうでごわす」
ミールは震え声で言った。カーモもしっかり言っているようで声には恐怖が混ざっている。
「僕も、頑張りたい。こんな毒キノコに何が出来るかわからないけど、ここで頑張りたい」
俺は4人の言葉を聞いて口元を緩めた。
見ず知らずの者のために命をかける行為、昔の俺なら無駄だと思っていただろうな。
今はなんとなく、こいつらの気持ちが理解出来るような気がする。そして俺なら間に合うのだ。なら助けに行こうじゃないか。
「くれぐれも無理するなよ。俺の指示には従えよ」
「「「「了解 (っす)(ごわす)」」」」
決意と緊張感に満ちた返事が響き、俺たちは走り出した。
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