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第50話

 《サガルティス高原》へ向かう途中の山道。小隊1から順に、列を作り並んで歩いていた。

 200名の生徒に対して教員は10名と大規模で、臨時の講師もいるぐらいだ。基本は前後、そして真ん中に教員が配置されている。



「クレイ君は何故家名を名乗らないんだい?」



 俺がリオンと会話をしていると、小隊メンバーの1人が声をかけてきた。

 確か聖騎士科Bクラスの男で名前はマッシュ、少し小太りでキノコヘアーが特徴的だ。




「ん? あぁ平民だからだよ」


「えぇ!? 平民ー!?」


「あぁ」



 目を見開くマッシュは驚愕な表情をしている。

 こいつも貴族がどうとか言うつもりなのだろうか。



「ってことは、国王様に認められたってことだよね! Sクラスだし、クレイ君って凄いんだー!」



 マッシュは尊敬の眼差しで俺の手を掴む。

 こいつはヴァンとは違う意味で貴族っぽくないな。



「僕さぁ、本当は騎士科でよかったんだけど、家がうるさくて……聖騎士科にはなんとか合格できたんだけどギリギリBクラス。領地を離れたから友達もいないし……いつも学園辞めたいなって思ってるんだよね」



 マッシュはその後、俯きながらいきなり身の上話を始めた。

 どうした急に。



「僕、なんて呼ばれてるか知ってる? 毒キノコだってよ。しかもこないだ、君は重いのにクラスでは浮いてるね。って言われたんだ」



 なかなかセンスのあるブラックジョークじゃないか。こいつは俺を笑わそうとしているのか?


 思わず笑いそうにはなったが、真剣に話しているっぽいので真顔で聞き入ることにした。



「酷いよね?」



 えっ、この話の着地地点はどこだ。



「そうだな」


「それに比べてクレイ君は国王様に認められて、Sクラスにいるぐらいだから強いんだろうね。貴族の僕に対しても全く動じないし」



 動じないのは主義なのだが、そういうことにしておく。

 俺はマッシュが言いたかったことを深く考えて答えを出した。



「強くなればいいだけだ」


「僕なんて強くなれないよ。勉強はどうにか頑張ってるけど、実技はてんでダメなんだ」


「1日どれくらい訓練しているんだ?」


「訓練は諦めてるよ。やっても無駄だってわかったからね」



 なるほど、なんとなく言いたいことがわかってきたぞ。

 俺の言葉を待たずにマッシュは続けた。



「ああいうのは才能がある人がやるから意味があるんだ、才能がない僕なんて――」


戯け者(たわけもの)。折れるのが早すぎだ」



 俺はマッシュの言葉を遮り、ついでにチョップもかましとく。



「いたっ」


「行動は力だ。行動しようと思える人間は多い。だが実際に行動できるのは1割にも満たない。お前が強くなりたいというのであれば、まずは剣を持て、そして毎日振るえ。例え遠回りでも進んでいればいずれ山頂にたどり着く」



 俺の言葉を聞いたマッシュは自身の腰に掛けている剣を見る。



「効率を求めたくば周りを頼れ、学園の教員はその為にいるのだぞ。悩むのは頂きを目指した者の特権だ。お前が悩むのはまだ早い、何もせずに悩むなら身体を動かせ」


「……僕でも強くなれるかな?」


「強くなれるかどうかは行動してからじゃないとわからん。まずはスタート地点に立ってみろ」


「そっか……なんかそう言われるとやる気が出てきた! 少しだけ頑張ってみるよ」



 そう言ってマッシュは闘士を燃やし始めたのか、やる気に満ちた顔をしていた。

 行動したあとに待ち受けている壁は継続である。それはまたそのときに悩んでいたら(かつ)を入れてやろうとは思えた。

 俺が言うのもなんだけどな。


 だけど毎日の訓練は欠かさずやっていて、魔法改良の実験も欠かさずしてる。自分がやろうと決めたことだけは1日のうちに必ずやるようにはしている。



「先程のクレイ君の話、感動しました」


「うんうん、感動したでごわす」



 俺とマッシュの会話に、残りの小隊メンバーが加わってくる。

 両方騎士科のAクラスで、女の方がミール、男の方がカーモって名前だったな。



「クレイ君ってただのめんどくさがり屋じゃなかったんすね」



 ついでにリオンも入ってくる。めんどくさがりやは悪口だろう。

 あってるけど。



「俺のことはクレイと呼び捨ていいぞ――」



 ――すると林の向こうから<ガサガサ>と物音が聞こえてきた。

 振り向くと猪型の魔物が現れる。確かこいつは《ボア》Fランクぐらいの魔物だったはず。



「きゃー」



 どこかの小隊の女生徒が叫び声をあげた。



「みんな、落ち着くんだ!」



 動揺している生徒達をなだめているのは隣の小隊の聖騎士科Sクラスの生徒。

 Sクラスだけあって、これぐらいなら動じないか。


 《ボア》は驚いたのか、こちらに向かって突進してくる。主に俺の小隊へ。

 それに気づいてリオンが武器を構えようとしている。そして隣にいたカーモがミールを庇うように前に出た。



「そそそ、そうはさせるか」



 余裕で見ていた俺だが、マッシュが《ボア》の前に武器も抜かずに飛び出していった。

 何故かどっしり構えて、受け止めるつもりでいる。



「まったく……」



 マッシュの首根っこを掴んでやろうと思ったが、やめた。どうやら俺の出番はないらしい。


 <ズシャン>という音とともに《ボア》が吹き飛び絶命する。《ボア》の死骸には30センチほどの氷柱が刺さっていた。水属性3級魔法【アイシクルピアス】俺は打った本人に視線を向ける。マルクスである。

 マルクスはさも当たり前のような顔をしていて、周りからは「流石マルクス様!」と持て栄されていた。


 そしてマッシュはというとそのままのポーズで固まっている。周りからは「なにあれー」「ださいよな」などの声が飛び交っていた。

 俺はゆっくりとマッシュの方へ歩いていき、肩に手を置いた。



「あそこでよく動いたな。行動だけでなく勇気も持ち合わせているようだぞ」


「ありがとう、クレイ君。僕、これから本気で訓練するよ」



 マッシュは決意を固め、悔し涙を流すのだった。







 日が沈みしばらくして野営をする事になった。それぞれの小隊事にテントを作り、夜を明かす。一日中歩いていたせいか、大体の人は即寝である。

 いつもと違う環境のせいで、目を何度も覚ましている者も多いはず。


 俺はぶっちゃけどこでも寝れる。なんなら立ちながらでも寝れる。スラム街ではいかに短い時間で回復出来るかどうかが生き残る鍵でもあったからだ。

 前世では経験することのなかった感覚ではあるな。



「この辺でいいか」



 そんな俺は野営地を抜け出し、人知れず森の奥にいた。距離にすると本日歩いてきた距離の2倍、自己加速を使って野営地から斜めに逸れた場所である。

 なぜこんなところに来たかというと新たな魔法を試すためである。



「まずは手始めに――」


『聞こえるか?』



 返事がない。俺は魔法を改良して何回か繰り返していく。

 すると――



『聞こえるか?』


『さっきから聞こえておるわ』



 頭の中にアリエルの声が聞こえてくる。どうやら成功のようだ。



『こちらも聞こえた。そっちの様子はどうだ? オーバー』


『様子は変わらんの。それとオーバーとはなんじゃ?』



 気分的に言いたくなっただけなので特に意味は無い。



『これがあれば緊急時でも連絡が取れる』


『お主には驚かされてばかりじゃ、まさかこんな魔法を作るとはの』



 今回開発した魔法は【メッセージ】である。

 前から考察はしていたが、洞窟で36時間連絡無しで心配させてしまったことをきっかけに本格的に作ろうと思って少し前から改良してアリエルと実験をしていたのだ。


 主に次元属性の魔法を使っているのだが、自分の思考、つまり電気信号を見知った人に飛ばすところから考えた。

 だがそれだとただの一方通行になる。

 受信もしなくてはいけないので、相手の脳波を読み取りこちらに送信するという手間を加えた。


 それでも時差が生まれる。メールのやり取りと同じであった。俺がイメージするものは電話でのやりとり。

 ならいっそ送信した時にそのまま次元を繋げたままにすればいいのではないかと思ったのだ。


 それをすることにより【メッセージ】の発動中はいつでも送受信可能になった。ただ常に次元魔法を発動させている状態になるので魔力はゴリゴリと削られていく。



『エミル、聞こえるか?』


『ご主人様の声が!? 私ついにおかしくなっちゃったんだわ……』


『お前は正常だ。新しい魔法で今エミルに直接声を送っている』


『凄いわ、流石ご主人様、大好きだわ』



 何やらいつもよりも言葉が多いのは、それを思考という概念だけでキャッチしているからだろう。

 普段はそういうことは言わないはずだ。


 あとは応用すれば――



『これでアリエルも聞こえるようになったと思うが、エミルなんか喋ってくれ』


『ご主人様としたいわ』


『エミルの声も聞こえるようになったのじゃ』



 実験は成功だな。

 エミルがなんか言っているが、それはあえてスルーしよう。



『とりあえず今回の実験はこれで終わりにする。あと2日ぐらいで帰るから屋敷と商会は任せたぞ』


『わかったのじゃ』


『寂しいけど頑張るわ』



 2人の言葉を最後に俺は通信を切った。

 この【メッセージ】のデメリットとしては次元属性が使える者にしか発動できないという点だ。

 つまり発動タイミングは全てこちらからになるので、向こうが緊急時のときに俺が知る術がない。

 その辺も今後考えないとな。


 俺はふと静かな夜の空を見た。

 そして考えが浮かぶ。

 あの魔族のベーグルが使ってた【グラビティ】を応用して飛べないだろうか。


 俺は闇属性魔法の改良を始めた。何度か繰り返し重力を軽くしていくと俺の身体は宙へ浮いた。



「おお!」



 これに風魔法を発動させる。

 他属性魔法の同時発動にはデュアル制御が必要になるのだが、俺は小さい頃にそれを完全マスターしている。


 風魔法により俺の身体は空へ打ち上げられる。

 だが身体はグルグル回るしコントロールが難しい。



「これでどうだ?」



 頭、足、手、中心に対して、適当な重さを残し重心を安定させた。

 そして風魔法でさらに上昇。



「なかなか気持ちいいじゃないか」



 俺は滑空しながら呟く。この魔法を【フライ】と名付けておくか。


 雲まで到達した俺は、再び魔法を発動させる。

 これは面白半分の実験である。


《マテリアルドラゴン》のブレス。あれを極限まで魔力を集めて見たくなったのだ。


 俺の手を合わせると光りを放ち出し、魔力が球状に回りだす。

 大気が揺れるほどの魔力は空間すらも歪ませていく。

 1分ほど貯めると強大な魔力が手に集まる。



「あれっ、これまずくね?」



 これ以上貯めると俺の魔力制御の範囲を超えるのだ。

 そしたら魔力暴走が起きて大惨事になる。主に俺の身体が。


 だからといって無闇に発射しても大惨事になりかねない魔力量だ。ここは人知れず空に解き放とう。


 俺はさらに上昇し、大気圏に突入した。

 そして渾身の力を込めて【マテリアルブレス】を発射させた。



<―――――――――――――――――!!!>



 凄まじい高音とともに魔力は宇宙へ解き放たれる。改良によって音を抑えるようにしていても高音が鳴り響く。


 そして遠くの衛星っぽいものに当たって爆発した。目に見えて凄まじい爆発で跡形もなくなく。

 なんか小さい衛星破壊しちゃったかもしれない。


 その瞬間、俺の身体は力なく落下していった。限界まで魔力を使ったからだろう。



「この世界も丸いのか」



 大気圏から見た世界が少し丸みを帯びている。実に綺麗な景色だった。

 俺は腰にかかっているB魔力ポーションを飲み干し、再び【フライ】を発動させて着地した。


 空を見上げ、先ほどの痕跡が一切見えないことを確認してから【転移】を発動させる。

 そして何事もなく野営地に戻ったのだった。


ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

更新の励みとなっております。

必ず完結させるので応援よろしくお願いします!


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