第48話
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ベーグルを倒したあと、俺は周りを見渡す。
部下の2人、リオン、この場にいる誰もが唖然としていた。瀕死状態の精霊さえも目を見開いている様子だった。
「ベベベ、ベーグル様!」
「おっと、これは返してもらうぞ」
ベーグルの元へ向かおうとする部下達。俺は瞬時に目の前へ移動し輝石を奪う。
ついでにチョップをお見舞いして吹き飛ばした。
「あぎゃっ」
「ほげぇっ」
そして懐から出すふりをしてアイテムボックスから縄を出し、ベーグルを含めた3人を縛り上げた。
「これでよし、リオン精霊の様子は?」
「なんとか息はあるっすけど、危ないかもしれないっす」
それを聞き、即座に精霊の元に向かった。精霊は顔色が悪く、苦しんでいる様子で呼吸も荒い。外傷もかなり酷いが、何よりも生命力や魔力が枯渇しているのが危なく感じる。
生命力に関しての回復魔法は覚えていない。【ヒール】でも生命力は微量に回復するのだが――
「【エグゼクティブヒール】」
俺は回復魔法を発動させ、外傷を完治させてから精霊の手を握った。そして俺自身の生命力と魔力を分け与えていく。魔法を改良してもいいが、それでは間に合わないと判断した。
「あっ……うっ……」
精霊の顔色はみるみる元通りになっていく。その変わり俺の魔力はゴリゴリと減っていく。
顔色が元通りになったので、俺は手を離した。
しばらくして精霊は起き上がり、深々と頭を下げてきた。
「救って頂き、本当にありがとうございます」
「礼はいい、成り行きだ」
俺はそう言って輝石を精霊に渡した。
「クレイくん、エグゼクティブヒールって……」
リオンは驚きを通り越して呆れ顔で俺を見ているが、スルーして精霊に事情を聞くことにした。
「精霊ということでいいんだよな。何があったんだ?」
「はい、私は精霊です。名はまだありません。この土地の泉を守護しています」
俺は精霊の言葉に耳を傾け、腕を組み頷いた。
「精霊たちの住処には誰からも見えないように結界を張っているのですが、あの3方の魔族がいきなり泉に侵入してきました。そして数十いた精霊達を皆殺しにし、大切な輝石を奪っていったのです」
精霊達を皆殺しか。精霊は大気から魔力を生成して魔法を放つ。そして本来の力は他種族と魔力を合わせることにより解放されると本に書いてあった。だが本来の力を発揮できていないとはいえ、精霊の力は強い。個々では叶わなくとも、精霊の軍勢からしたら皆殺しまではいかないのではないだろうか。
「勝てなかったのか?」
「はい。何かの魔法とともに泉は崩壊していきました。そして気づいたら私以外全滅です」
精霊は苦虫を噛み潰したような表情を作り、拳を握る。
魔法の正体はわからんが、対精霊ようの魔法か何かなのだろうか。
「なるほど、それでその輝石はなんなんだ?」
「輝石からは新たな精霊が誕生します」
「精霊が?」
「はい、ですがこれは特別なもので、新たな精霊の女王候補が誕生する輝石なのです」
抱き抱えた輝石を見つめて精霊は言った。
「その輝石があいつらに狙われる理由はなんだ?」
「精霊は他者と力を合わせることで強くなります。それが強力な精霊だと尚更です。なので昔から精霊は兵器として利用されることも少なくありませんでした。そんな精霊たちはそれぞれ隔離した空間を作り、そこで密かに暮らすことにしたんです」
精霊はそう言って悲しげな表情を見せた。人よりも遥かに長生きな精霊は、きっといろんな苦悩を背負ってきたのだろう。
「つまり、あの魔族どもはその輝石から誕生する精霊を利用しようとしてたわけか」
「おそらくそうです」
輝石を奪おうとした理由はわかった。
気になることはベーグルが呟いていた、王国や帝国の争い、そして法国のことや、サタンのことである。俺は尋問するために縛り付けた3人の元へ向かい、蹴りつけて目を覚まさせる。
「ぐふっ」
「おい、色々吐いてもらうぞ」
殺気を解放して俺はベーグルを睨みつける。
「ふはは……そうか、私は負けたのか」
ベーグルは独り言を呟き俺を見上げた。
「お前がどんなに強かろうが、あの方々には絶対に勝てないだろう」
「そういうのいいから。まずは悪魔のことについて話してもらおうか」
「ふははははは、今に見てろ、我々魔族がこの世界の政権を取り戻す日が必ずやってくる」
「おい話を聞――」
「それまでせいぜい足掻け、少年よ」
そう言ってベーグルの身体が光り出す。
これは――
「リオン、精霊を連れて奥へ――」
その瞬間ベーグルを中心に凄まじい爆発が巻き起こる。俺はリオン達を庇うように魔法障壁を瞬時に発動させた。
「あの野郎……」
煙が立ち込めるなか、跡形もなくなった爆発の痕跡だけが残った。自害したのだ。
「た、助かったっす」
俺は周りを見渡す。どうやら洞窟が崩れる心配はなさそうだった。洞窟が広くて助かった、もし狭かったら崩壊して大惨事になっていただろう。
情報としては魔族が精霊を利用して何かを企んでいるということぐらいしか聞けなかった。
「まぁいい。リオン、素材を集めてとっとと帰るぞ」
「待ってください」
俺が頭を掻きながらリオンに声を掛けると、精霊が待ったをかけた。
「なんだ」
「お願いがあります。その輝石をしばらくの間あなたの手で守ってくれませんか?」
「どうしてだ」
「……こちらへ」
精霊は立ち上がり洞窟の奥へ歩いていく。俺とリオンはそれに従い後を追った。
しばらくして、また広間のようなところに出たと思ったら、精霊が何やら詠唱を始める。
詠唱が終わると、目に映る景色が突然変わった。
「ここは精霊の泉です」
秘境とされている泉がこんなところにあったのか。精霊の泉と言ったら綺麗な風景を思い浮かべるのだが、そこは濁った水と枯れきった大地、そしてチラホラと見える精霊達の亡骸。
「この泉での生き残りは私だけです。これより復興を行わないといけないのですが、その輝石を守る力は私にはないのです」
淡々と説明する精霊は傍にいた精霊の亡骸に弔うように祈りを捧げる。
亡骸は霧散し、その光は天へ登っていく。
「なぜ俺なんだ」
「理由はたくさんありますが、あなたはアリエル様の加護を授かっていますよね」
「……そうだが、なぜわかった」
「あなたが渡してくれた生命力と魔力の中に、アリエル様のものを感じましたよ。輝石は神聖な魔力で満たさないといけませんが、アリエル様の加護を受け継ぐ者の側であればその条件は満たされるでしょう」
この精霊はアリエルと面識があるらしい。普通は魔力を渡しても誰の物かはわかるわけがないからだ。
「理由はわかった。だが問題はこれを持ち帰ったせいで王国が狙われるんじゃないのか?」
正直王国はどうなってもいいと思っているが、リンシアの事が頭をよぎったのだ。そして連想されるようにほかの面々の事もよぎる。
俺も甘くなったものだな。
「持ち帰ったという事実は誰も知りません。突き止めることも不可能でしょう。なのでこの泉が狙われることには変わりはないですが、対策は考えています」
その言葉を聞き、俺は腕を組み考える素振りを見せると、精霊は頭を下げてきた。
「お願いします。少しの間でいいんです。せめてこの泉が復興するまでの間で」
「どれくらいかかるんだ?」
「そう長くはかからないと思いますが、復興したらあなたの元へ使いの精霊をよこします」
「クレイ君、精霊さん達を助けてあげましょうっす」
俺と精霊の会話にリオンが口を挟んだ。リオンはおそらく精霊たちに同情しているのだろう。
「私たち精霊は礼儀を弁えています。この借りはきっとあなたの役に立つと思いますよ」
精霊の言葉に俺は口元を緩めた。お願いする立場であるにも関わらず、しっかりと苦し紛れのメリットを提示して交渉に持ち込んでいるからだ。出来る精霊である。
「わかった、しばらくの間は預かろう」
色々疑念はあるが、俺は了承することにした。
関わりたくないという考えはあるが、魔族達の言葉が気になる。
この先王国も含めたいろんな国が関わってくる問題になるなら、いずれは巻き込まれることだろう。
「ありがとうございます」
精霊はそう言って深々と頭を下げるのだった。
それから俺とリオンは精霊の泉を抜けて本来の目的であった【グレイブス・ワイバーン】を探すことにした。
「ぎぇぇぇぇぇ!!」
目的の魔物はすぐに見つかり、リオンと共に戦う。
ものの1分で倒してしまったが。
「これで素材は揃ったか?」
一生懸命に死骸から素材を採取しているリオンに向けて声をかける。
「揃ったっす! クレイ君には感謝っす。本当にありがとうっす」
そう言って満面の笑顔を向けるリオン。
目的も達成したので帰るところなのだが、これからまた12時間ほど歩いて王都に戻るのは流石にめんどくさく感じた。
時間がかかりすぎると、あいつらも心配するだろうし。
「リオン、提案がある」
「なんすか?」
「これから見るものは他言無用でお願いしたいのだがいいか?」
「なんかよくわかんないっすけど、口は硬いっすよ!」
リオンは能天気に言い放つ。
「よし、手を掴め」
「えぇ、急にっすか!? こ、心の準備をしてもいいっすか」
照れているのか、ほんのり顔を赤らめ心の準備とやらを始める。手を服で拭いているだけだが。
「そういうのじゃない。それに一瞬で済む」
「一瞬!? クレイ君って思ったよりそ――」
「いいから早くしろ」
言葉を遮り、俺はリオンの手を掴む。そして魔法を発動させた。発動させるのは次元魔法である【転移】である。
視界が一瞬で切り替わり、王都の目の前に到着した。
「着いたぞ」
俺は振り向くと、リオンは驚愕な表情を見せていた。
「ここここれって【転移】っすか!? クレイ君次元魔法まで使えるんすか!?」
「あまり広めたくない。他言無用でな」
「わ、わかったっす……クレイ君は本当になんでもありなんすね……」
リオンは諦めたように項垂れたのだった。
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