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第46話

 月日が経つのは早いもので、学園入学から4ヶ月がたっていた。

 そして今、俺は王都から歩いて12時間ほどの森を探索している。



「クレイくーん、たぶんこっちっす」



 この森に俺を誘った張本人、リオンの声が響き渡る。



「たぶんってなんだよ」



 その声を聞き、俺は苛立ちを交えながら呟いた。



「この辺にある洞窟道の奥に《グレイブス・ワイバーン》がいるんすよ」



 そんな俺の苛立ちを完全スルーして、能天気に説明をするリオン。



「ったく……そいつの素材があればいいんだよな?」


「そうっす」



 俺はため息混じりで、リオンと2人でこの森を探索することになったきっかけを思い出す。



―――

――



 放課後。俺は授業が終わった直後、即座に席を立ち教室を出ていく。

 用事があろうとなかろうと、学園に長居するメリットがないと感じていたからだ。


 最初こそ教師であるグリムを監視していたのだが怪しい点がなく、むしろかなり優良な教師であった。

 俺は早々に監視を辞めて、直帰するスタイルへと変わっていった。


 教室では《紙札(かみふだ)》をやる生徒達もチラホラと増えてきて、思った通りの普及率を見込めている。

 ちなみに俺の成績はというと、良くもなければ悪くもないという平均を保っていた。



「クレイ君、待つっす」



 門の前を過ぎようとすると、聞き覚えのある声に引き止められる。

 この独特な喋り方はリオンだな。



「なんだ」


「クレイ君はこの後、お暇っすか?」


「暇そうに見えるのか?」


「見えるっす!」



 リオンは即答し、満遍の笑みで俺を暇人認定した。

 最近は商会関係のことも落ち着いてきたので今はやることが無いといえばないのだが、即答かよ。



「来週テストがあるじゃないっすか」


「そうだな」



 来週末はテストがある。テスト内容は実技と筆記。

 実技については模擬遠征で遠出するらしく、3日がかりで行うテストである。

 めんどくさいことこの上ない。



「騎士科は聖騎士科と合同テストなんすよ!」



 そんなことも言っていたな。



「だから試験のために準備をしたいんすけど……一緒に行きませんか?」


「準備ぐらい1人でやれ」


「実はっすね、私の剣がこないだの授業で折れちゃったんすよ」



 何も聞いていないのにリオンは淡々と身の上話しを始めた。



「それでその剣を直すのにある素材が必要で、一緒に取りに行って欲しいんす」


「その素材とやらは王都に売ってないのか?」


「レアリティーが高くて売ってないんす。それに素材を落とす魔物はBランクなんで強いんす。だから強いクレイ君に白羽の矢がたったってわけっす」



 迷惑すぎる話である。

 そもそもBランクの魔物は《アースドラゴン》ぐらいのレベルだろう。

 冒険者5人とかで行くレベルなのに俺に白羽の矢が立つ理由がわからん。



「他の剣買えよ」


「これじゃないとダメなんすよぉ、私の剣は特別製で、他の剣を使ってもしSクラスを維持出来なかったらと思うと……」



 リオンは大げさに項垂れる。



「冒険者に依頼しろ」


「そんなお金ないっす」


「ヴァンに頼め」


「家の用事があるって言ってたっす、ヴァン君凄くガッカリしてたっすよ」



 もう先に言ったのかよ。

 確かにあいつはこの手の話は喜びそうではあるな。



「それでヴァン君が、『クレイならBランクの魔物ぐらい瞬殺だからよ!』って」



 リオンはヴァンの声を真似て言う。

 あいつのせいで白羽の矢が立ったわけか、絶対許さん。



「お願いしますっす! ちょっと行って、ポポーンと倒すだけっす! お金以外の事で私に出来ることは何でもするっすよ!」


「なんでもって、お前に出来ることなんてたかが知れてるだろう」


「そんなことないっす! 私の初めてを捧げてもいいっすよ!」


「冗談でも男相手に言うことじゃないだろ、それにいらん」


「う……ごめんなさいっす……」



 リオンは反省しているのか、わかりやすく落ち込む。

 俺が悪いみたいな空気やめてくれ。



「……お前が持っている交渉カードで俺に提示できるものは何かないのか?」



 しょうがないので救いの手を差し伸べることにした。

 Bランクの魔物ぐらいなら確かにちょっと行って倒せそうだし。



「そうっすね……私が入学する前に住んでいた街が海沿いなんっすけど、そこの新鮮な魚料理とかどうっすか?」


「魚?」



 そういえばこの王都で、魚料理はあまり見かけない。というかほとんどが肉のみだ。あったとしても新鮮とは言い難い、腐っているレベルの焼き魚である。

 それは周りに海や湖がなく、魚が取れないからである。遠方の海で取れたとしても新鮮なまま王都へ運ぶのにはコストがかなりかかるからだ。



「ほうほう、魚料理だけじゃ弱すぎるが?」


「ふっふっふ、ただの魚料理じゃないっす。その海域を少し上流に上がると神秘の湖があるっす。そこで取れる魚は絶品っすよ」


「神秘の湖か、確か聖域に近い湖だったよな」



 俺は本で読んだことある知識を思い出す。女神が手を加えた湖と言われていて、汚れない綺麗な水だとか。



「そうっす、そこの魚は水面から離すと一時間で腐るっす。それが新鮮な状態で食べれるっす」



 それは確かに食ってみたいものだが――



「もう一声あるか?」



 まだ弱い。料理食べるだけなら自分でもなんとかできそうなレベルだからである。



「ん~……じゃあそこの領地を仕切っている商会長さんを紹介するっていうのはどうっすか? コネクションがあれば魚料理食べ放題になるかもっすよ」


「知り合いなのか?」


「そうっすね、家族みたいなもんす」



 悪くない条件である。

 信じていい情報かは不明だが、嘘は言っていなそうだな。


 料理が食べ放題になるかもしれないということはもちろんどうでもいい。

 商会のコネは今の俺にはかなりの強みになると思ったからだ。この王都でそのルートが使えるのはかなりの利益を生める予感しかしない。

 むしろコネの方を先に提示しろよ。



「まぁいいや、わかった。ちょっと行ってポポーンと倒せばいいんだろ?」


「ありがとうっす! クレイ君は優しいっす! 私の初めてもいるっすか?」


「ごめん、それは本当にいらない」


「ガーン」



――

―――



という流れでこの森に来たのだが――



「12時間とか聞いてねーよ」



 何がちょっと行ってポポーンだよ。

 明日から二日間学園が休みで助かった。



「あれっ言ってなかったっすか?」



 しれっとした顔でこちらに向けたリオン。

 女じゃなかったらぶん殴ってもいいレベルである。



「まぁいい。それにしてもこの辺は迷宮のような迷いやすい森だな、魔物は弱いが」



 来てしまったものはしょうがないと思い話題を変えることにした。

 ここまでの道中ゴブリンや《ウルフ》などの弱い魔物しか出てこなかった。

 本当に洞窟道でその《グレイブス・ワイバーン》とやらは出るのだろうか。



「道知らないと迷うっすね。この辺にある洞窟道の中の魔物はかなり強いっすよ」



 リオンは一度来たことがあるらしく、ここまでも先導してくれた。たまに間違えることはあったが。



「あったっす! この洞窟道の中に生息してるっす」



 リオンが指差す洞窟は10メートル程のでかい岩で出来た穴だった。

 奥からは不穏な気配の魔力が流れてくる。

 確かにこの森よりも格上な魔物が出現することはわかる。



「やっとか。仮眠は取らなくても大丈夫か?」


「大丈夫っす!」


「一応ここからは気を抜くなよ」


「わかってるっす! こう見えてもSクラスっすよ!」



リオンはそう言って先導を切り洞窟に入っていく。

俺はその言葉に呆れながら後を追うのだった。

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