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第44話

「そこの貴様」



 俺は教室手前の廊下で声をかけられた。

 声の主は侯爵家の子息で主席合格したマルクスとその取り巻き2人であった。



「なんだ?」


「どっかで見た顔だね……確か入学試験のときヴァン殿と話してた平民か」



 マルクスは俺の顔を見るなり少し考えてから思い出す。



「クレイだ」


「先程ドゴール家の者が僕の元に来たんだが、どうやら貴様に言いがかりを付けられたと言うではないか。どういう了見で平民の貴様が貴族に言いがかりを付けたんだ」



 マルクスは俺の名前はスルーして要件を伝えてきた。



「ドゴール家? いいかがり? なんのことだ」


「彼のことだよ」



 そう言うと取り巻きの1人が前に出る。

 よく見るとリオンに言いがかりをつけていた男爵家の長男が取り巻きの1人であった。

 パパに言いつけてやると言語していたのはどうなったのやら。



「さっきのことか? 知り合いに言いがかりを付けていたんでな、止めに入っただけだ。それに俺から手は出してない」



 そう言いながらドゴール家の長男を睨むとマルクスの影に隠れるように視線を逸らす。

 マルクスは意外にも、無言でドゴール家の長男に目を向ける。

 問答無用で否定してくると思ったんだが。



「は、はい、いえ、俺たちはただ貴族に対しての礼儀を平民に教えてただけです」


「礼儀ねぇ」



 俺は口元を緩めながら、挑発した。



「何がおかしいんだよ!」


「お前はやりすぎていた、それに男3人がかりで女1人を襲おうとしていたじゃないか。学園で一体何をするつもりだったのやら」



 やれやれというジェスチャーを加えて、俺は呆れたように言った。



「それは本当か?」



 マルクスは男爵家の長男を睨む。



「う……はい」


「……そうか、彼にも非があったことはわかった。貴族として、後で彼には注意しておこう」


「わかってくれたならどいてくれないか? オリエンテーションが始まる」


「だが、貴様の態度は気に入らん。爵位を持っていないにせよ貴族家の子息に無作法じゃないか?」



 出たよ貴族の作法。

 王都に来てこれで何回目だよってほど聞いてきた言葉である。



「育ちが悪くてな」


「……まぁいい、今日は入学式、貴族として寛大な心で見ようじゃないか。それに仮にもこの学園に入学出来たんだ、平民なりに頑張ったんだろう。これからしっかり作法を学ぶんだな」



 少しの無言の後、マルクスは見下すように俺に告げる。そして、ドゴール家の長男にも視線を移した。



「わ、わかりました」



 ドゴール家の長男は納得のいかない様子であり俺を一瞬睨んだが、マルクスによって宥められ、その場を去っていった。



「どうした? 貴様も自分の教室に戻ってよいぞ」



 マルクスはまだ用があるのかと言いたげな表情で話す。



「教室はそこだ」



 俺はすぐ横にある聖騎士科Sクラスの教室を指差す。マルクスは教室に視線を向けてから俺の方を向いた。



「ここは聖騎士科、それにSクラスの教室だ。貴様のような平民が入れるところじゃない」


「本当だって」


「おっクレイにマルクスじゃねーか、早く入らないとオリエンテーション始まるぞ?」



 ちょうどそのとき教室からヴァンが出てきた。

 こいつはいつも狙っているんじゃないかと思うほど素晴らしいタイミングで声をかけてくるな。



「これはヴァン殿、この平民が教室を間違えてるようなので注意していたんだよ」


「殿は付けなくていいって! 何言ってんだマルクス、クレイは聖騎士科Sクラス。これから一緒に勉強する仲間であり、ライバルだぜ!」



 清々しい笑顔でヴァンが言うと、マルクスは目を見開く。



「なに……だけどこいつは平民で」


「国王の推薦を貰ったんだ。()()でな」



 俺は実力を強調して、挑発した。



「国王の推薦?」



 マルクスはいぶしげな表情を見せてヴァンに視線を送る。ヴァンはウンウンと頷いている。



「……そうか、どうやら本当のようだね。国王様がどうしてこんな奴を認めたのかわからないが、僕は貴様を認めていないからな。Sクラスから落ちぬよう平民らしくせいぜい頑張ってくれたまえ」



 マルクスは俺を睨みながら吐き捨てるように言って教室に入っていく。



「マルクスのやつ、どうして怒ってんだ? 便秘とかか?」



 ヴァンが見当違いのことを言い出したので、俺は呆れながら教室へ入ることにした。


 教室は広々としていて、講堂のような作りになっている。自由席なので俺は後ろの空いている席に腰掛けた。

 マルクスは前の方に席を陣取っていて、ヴァンは既に確保している中央あたりに腰掛けた。


 しばらくすると扉が開き、青年が1人入ってきた。ミディアムぐらいの長さの髪に程よいくせっ毛、常に笑顔の青年、昨日俺に殺気を放ったグリムである。



「皆さん、入学おめでとう。聖騎士科1年Sクラスを担当することになった、グリム・ウォン・ズルセンです。よろしくね。まずは自己紹介をしようか、じゃあ君から――」



 グリムはにこやかな笑顔で自己紹介をすると、近くの生徒に指示を出した。

 どうやらこいつがSクラスの担任講師らしい。


 生徒達は順々に自己紹介を述べていった。主に名前と一言。

 俺は後ろの席なので、最後の方だった。 



「クレイだ、よろしく」



 俺の番になったので、短く済ませて早々に座る。それを普通に聞いてグリムは笑顔で次の生徒を見ていく。何かアクションがあるかと思ったが何も無かった。昨日のことは思いすごしなのだろうか。


 自己紹介が終わり、グリムは講義の受け方や、学園の仕組みについて説明をした。

 講義は剣術、武術、魔法、歴史、作法、演算、法律の7種類に分かれている。1種につき20の講義があり、受けたい講義を取っていくスタイルだ。単位制になっていて、半期に渡る1つの講義を受けきることで1単位。2年の終わりまでに必要単位を取っていれば卒業出来る。

 優先的に取らないといけない必須単位というものがあり、1年生である俺たちは必須単位だらけであった。



「――ということだよ、質問はあるかい?」



 グリムがそう言うと、何人かの生徒と質疑応答が始まる。

 大方の質問には答え終わり、誰も手が上がらないこと確認してから、オリエンテーションが終わった。

 俺は入口から出ていくグリムを追いかけて、声をかけた。



「なぁ」


「君は確か、クレイ君だね。どうしたんだい?」



 振り向いたグリムは首を傾げる。それを見た俺は直球に聞くことにした。



「昨日俺に殺気を向けなかったか?」


「向けたよ」



 グリムはあっさり認める。その返答に俺は眉をひそめた。



「なぜだ?」


「とくに理由はないよ。優秀な生徒にはテストしているんだ」


「テスト?」


「そう、優秀そうな生徒にはテストをしているんだ。これくらいの殺気を見破れないと聖騎士にはなれないからね」



 それは本心なのだろうか。グリムの表情からは読み取れなかった。



「なぜ俺を?」


「入学試験での君の姿を見たよ」



 おそらくヴァンとの実技試験のことを指しているのだろう。

 あれはやりすぎてしまったようだ。


 その説明に俺は納得した。



「そうか、悪かった」


「大丈夫だよ、僕の方こそ説明なしにごめんね」



 そう言ったグリムだが、悪びれてはいなかった。



「【サタンの加護】」



 だが俺は不意を突いて確信にせまった。

 その言葉を聞いた直後、グリムから笑顔が消える。



「どうして君がそれを?」


「そういう才能があってな、なんの目的でその加護を貰ったんだ」


「君も何かの加護を持っているということかな。うーん……わかった、ここだとあれだから、場所を変えようか」



 そう言ってグリムに案内され空いている教室に入った。

 窓際まで歩いたグリムは振り返り、考える素振りを見せてから話し始めた。



「僕は元騎士団でね、でもある任務で仲間を死なせてしまったんだ。後悔した。僕に力があればと……」



 淡々と話すグリムの表情は暗い。

 俺はそれを見ながら、話の続きを待った。



「そしたらサタンの方から声をかけてきたんだよ。僕は驚いたがチャンスだと思った。だから大切な人を守るために対価を差し出し加護を得たんだよ」



 グリムはざっくりとまとめた話しを俺に聞かせた。

 リンシアの話と照らし合わせても辻褄の合う説明である。



「そうだったのか……気の毒にな」



 一応同情をしておくことにする。



「でもそのときのことがトラウマで前線復帰は難しかったんだ。だから僕は教える側になろうと思ったんだよ。僕のような失敗を起こさせないためにね」



 グリムは悲しげな表情で淡々と述べていった。

 俺はこれ以上何かを言うべきではないだろう。



「そうか、色々聞いて悪かったな」


「いや、いいんだよ、聞いてくれて少し楽になったし」



 グリムの表情は再び笑顔になる。何か意図があると思っていたが、勘違いだったようだな。

 だけど警戒だけはしておくか。


 俺は背を向け歩き出すと、「作法の授業は取るんだよー」と後から声がしたので適当に手を振って立ち去った。

ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

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