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第43話

「皆さん入学おめでとう、この王立学園アルカディアの生徒になれたことを誇りに思ってほしい。この学園は――」



 学園の施設である大講堂、そこで響き渡る学園長の声。今は入学式の真っ只中であった。それぞれの学科事に生徒達が整列していて、周りには講師達がいる。中には耳や尻尾の生やした獣人達もチラホラといた。


 それにしても学園長の話というのはいつの時代も長い。

 周りには微動だにせず、しっかりと聞いているものもいるが、大半の生徒は真面目に聞いていない。



「あいつはどうだろうか」



 俺は絶対真面目に聞いていないであろうヴァンの姿を探した。

 すると学園長の話に腕を組み、頷いているヴァンを発見した。まじめに話しを聞いている姿に衝撃を受けたが、すぐにホッとする。

 ヴァンは目をつぶり、うたた寝をしていることがわかったからだ。

 だが背筋をピンと伸ばしていて、傍から見れば学園長の話しにタイミングよくしっかりと頷いているように見える。

 逆に凄いテクニックである。



「続きまして、新入生代表、聖騎士科首席、マルクス・フェン・カンニバル」



 式は進み、新入生代表の挨拶が始まる。

 呼ばれたマルクスは当然とでも言いたげで、自慢げな表情を見せながら演壇に上がり演説を始めた。

 先程の学園長の話と違い、真剣に聞き入る生徒の数が増えている。それだけ首席というのは周りから憧れられているものなのだろう。


 マルクスは演説を終え一礼。すると拍手が巻き起こった。

 大したやつである。


 それから閉式の一言があり、入学式は無事終了した。

 これから昼食休憩、そのあと各教室でオリエンテーションがある。



「そういえば食堂があんだっけ」



 昼食に関しては各自で取るのだが、この学園には食堂が用意されている。主に平民の為のものではあるが、貴族達も使っているらしい。

 生徒たちが捌けてきたので俺は食堂へ向かおうと大講堂から出る。すると声が聞こえた。



「お前みたいな平民がなぜSクラスなんだ。不正でも使ったんだろう?」


「そうだ、俺の方が騎士科のSクラスに相応しい」



 声の方に耳を傾けると、なにやら揉めているようだった。

 裏手の方に進むと1人の女生徒が3人の男子生徒に絡まれていた。

 男子生徒達は見るからに貴族という感じで偉そうにしている。女の子の方はよく見るとリオンだった。



「実力っすよ」


「平民の実力なんてたかがしれてんだよ。教養も環境も金のある貴族の方が上なんだ」


「そんなことないっす、努力したっす」



 リオンは男の言葉に眉をひそめ必死に訴えかけている。

 その言葉を聞いて男達が笑い出す。



「ハハハ、努力だって? 平民がどんなに努力しても無駄なんだよ」


「試験官に色目でも使ったんだろう、ふしだらなやつだ」


「使ってないっすよ」


「嘘をつくなよ、なんなら俺たちが使ってやろうか?」


「やめるっす」



 男子生徒達はニヤケながら、リオンの肩を無理やり掴んだ。



「やりすぎだ」



 これ以上は手が出始めると思ったので、俺は止めに入ることにした。



「ん? お前誰だよ」


「クレイだ」


「家名は?」


「ない」


「俺は男爵家の長男だぞ?」


「そうか」


「なめてんのか」


「汚そうなんで、出来れば遠慮したい」


「調子に乗るなよ!」



 男爵家の長男と名乗った生徒は怒鳴り声をあげて殴りかかってくる。

 止まって見えるに等しい拳を、俺は目をつぶり躱し、足をひっかける。



「あひっ」



 自称男爵家長男は盛大に転んだ。



「何もないところで転ぶなよ。鍛錬が足りないんじゃないのか?」


「よくもやったな!おい!」



 残りの2人が掛け声と共に魔法を詠唱し始める。詠唱中であれば魔法の解析は簡単に出来る。発動させようとしている魔法は火属性1級魔法だった。

 学園を焦がす気かよ。



「訓練場以外での攻撃性がある魔法の使用は禁止だろ?」


「なっ――」



 俺は男達の目の前へ移動し、詠唱中であった魔法の発動を自らの魔力を流して阻害し、打ち消した。



「詠唱は時間の無駄だから1級魔法ぐらい無詠唱で発動させろよ」



 そう言って光属性1級魔法である【閃光(フラッシュ)】を使った。一瞬光るだけの魔法である。



「「あひっ」」



 光に驚いた2人の男子生徒は驚き尻餅を付いた。

 すると転んでいた自称男爵家長男が起き上がる。

 そして尻餅をついていた2人も起き上がり、自称男爵家長男の後に控える。



「おい、調子に乗ってると本気だすぞ?」


「だせよ」



 軽めの殺気を放つと、男子生徒達はガタガタと震えだした。



「どうした? 本気とやらを見せてくれよ」



 俺は腕を組み口元を綻ばせながら、一歩、また一歩とゆっくり進んでいく。



「パ、パパに言いつけてやるからな!」



 自称男爵家長男はそう言い残して、全力疾走で逃げていった。他の2人もその後を追う。

 生徒達が立ち去ったあと、しばらく静まり返った。



「あ、ありがとうっす」



 リオンは複雑な表情を見せながら感謝を述べた。

 俺はそれを無視して立ち去ろうとする。



「なんで無視するっすか!?」


「悪い、聞こえてたけどあえてな」


「あえて無視はやめて欲しいっす!」


「それで、何の用だ?」


「用とかじゃないっすよ!? 助けられたからお礼を言ってるんす」



 声を裏返しながら主張するリオンの表情は、先ほどよりも柔らかい。



「助けた覚えはないぞ」


「……クレイ君って優しいんすね」



 リオンは下を俯きながら呟いた。一瞬悲しげな表情を見せた気がしたが、すぐに戻っていた。



「騎士科Sクラスなんだな」


「そうっす、努力したっす」



 例え騎士科だったとしてもSクラスということは評価されているということ。

 出会った時にも思ったが、リオンは体の重心の動かし方が上手い。日々鍛錬しているということだ。

 今思えば俺が出る幕なかったんじゃないかな。



「クレイ君って家名ないんすか?」


「なんだ急に」


「聖騎士科は貴族家しか通えないっすから」



 聖騎士科は基本貴族家しか受けれない。例外は国王による推薦である。

 推薦を貰えた理由をどう誤魔化そうかと考えた。



「俺は小さな村の出身でな、実力がそこそこ認められたから王族にスカウトされたんだ」


「クレイ君の実力なら納得っす! それにしても国王様の不治の病が治ってよかったっすよ」


「どうしてそう思うんだ?」



 リオンは周りを確認する。



「第二王子様だったら平民は絶対に推薦しないっす。だからクレイ君にも出会えなかったってことっすね」



 そして小声で呟いた。



「俺と出会わなくてもお前の学園生活は何も変わらんだろう」


「そんなことないっす、私の運命は既に変わってるっすよ」



 リオンはその場でくるっと回って笑顔を見せる。



「意味がわからん。そろそろオリエンテーションが始まる。教室へ行け」


「はいっす、また会いましょうっす」



 リオンは笑顔で手を振って去っていく。

 昼食を食いそこねた俺はアイテムボックスから自作煎餅を取り出し、ボリボリと食べるのであった。

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