第42話
翌日の昼下がり、俺は赤のダンジョンにいた。天使のアリエルに会うためである。
このダンジョンへはマテリアルドラゴンと戦って以来、足を踏み入れていない。
12神の使徒という言葉は元々アリエルから聞いたものだ。疑問を解消するた信徒の儀を受けたあと、会いに行こうとは思っていた。だが、神であるゼウスがいろいろ説明してくれたおかげで問題は解消されてしまい、会いに来る理由がなくなってしまっていた。
貰った加護のこともあり、会いに行こうとはしていたものの、タイミングが遅くなってしまった。
決して、忘れていたわけではない。
だからサタンのことを調べようとしたときに天使と悪魔繋がりで思い出したわけではない、決して。
そんなことを考えながら広間についた。
周りを確認してから次元属性7級魔法【転移】を発動させた。
「成功したようだな」
目の前には見覚えのある高原が広がっていた。
実は今まで【転移】を極力使っていなかった。理由は時間に余裕があったからという気まぐれと、徒歩なら何か面白い事が起きるかもという期待からである。
今回は転移石を購入する資金がまだなかったため使うことにした。
もちろんダンジョンに来るまでも歩いてきた、面白いものは何もなかったけど。
高原を見渡し、ここで死闘を繰り広げたマテリアルドラゴンを思い返して口元を緩める。
あれは楽しい戦いだった。
しばらく思い出にふけったあと、アリエルを呼ぶことにした。
「アリエル、いるか?」
俺がそう言った直後、光の球が出現し、人型に変化していく。アリエルである。
相変わらず人間離れした美しさを持っているな。
「お主、妾になにか言わねばならぬことがあろう?」
アリエルは出てくるなり眉をひそめ、不機嫌そうに言った。
どうやら怒っているらしい。
「サタンについて聞きたいんだが」
「それは聞きたいことであろう! 言うべきことがあるはずなのじゃ」
「クッキー食うか?」
俺は宥めようと自作のクッキーをアイテムボックスから取り出す。
「食べるのじゃ、って違う!」
「悪かった、信徒の儀を受けたあと色々忙しかったんだ」
アリエルはきっと再開の約束にと加護を授けたのだろう。
それがわかっていたので俺は素直に謝ることにした。
「寂しかったであろう」
俺の言葉を聞いて一瞬アリエルは悲しい表情を見せて言ったが、すぐ元の表情に戻る。
「それで、お主は12神の使徒であったのか?」
「あぁ、俺はゼウスの使徒だ」
「ゼウスの使徒か、やはり先に唾をつけておいて正解なのじゃ」
アリエルは笑顔で言った。さっきのことはもう大丈夫そうだ。
「先程サタンという名前を耳にしたが、サタンに遭遇でもしたのか?」
「そういう訳では無いんだが、サタンの加護をもっているやつがいてな……サタンとはなんだ? 悪魔ということはわかるが」
「そういうことであったか、それを説明するにはまず12神の使徒の役割から話さなくてはな」
「ゼウスから聞いた話だと、世界のバランスを保つための存在。12神がそれぞれ選んだ者に使徒としての力を与えたんだろ?」
「うむ、使徒は強い。その使徒をどうしても許せん奴がいたんだろう。そんな使徒に勝つための人々の憎悪が作り出したものが悪魔じゃ」
「憎悪の化身というわけか」
「憎悪が強いほど強力な悪魔が誕生する。そして魂を喰らい成長するのじゃ。それに対抗するために妾達天使が生み出されたのじゃ」
なるほど、悪魔を倒すための天使という解釈でいいのだろう。
それにしても次から次へと問題が起きる世界ではあるんだな。
「悪魔は全て敵と認識していいのか?」
「一概に敵と決めつける訳ではないが、バランスを崩すことに変わりはない」
「ではサタンは?」
「あやつは力を誇示する悪魔……4大悪魔の一角で、人の憎悪に付け入るのが得意なやつでのぉ」
話聞く限り敵じゃん。
「悪魔が人間に加護を与える理由は?」
「天使と違って悪魔の加護を得るには対価を支払わなければならない」
「その対価とは?」
「魂だったり、血だったり、悪魔の気分によって求められるものが違うのじゃ。しかし対価の分だけその加護も強くなる」
悪魔は対価のために加護を与える。
ということはあの教員も何かを対価にしたということになり、教員には何か目的のために加護を得たことになる。
目的はなんなのだろうか。
「悪魔に出会う方法は?」
「存在しているものに関しては根城にいる。もしくは偶然会えたりするのじゃ」
「根城ってこういうダンジョンのことか?」
「根城はそれぞれ自分の選んだ場所になる。妾の場合はこのダンジョンが根城になるが……今日からは違うのじゃ」
「引っ越すのか?」
「うむ、クレイの元に行くのじゃ」
万遍の笑みで衝撃の事実を告げられる。
「ん?! どうしてそうなった?」
「12神の使徒の側にいるのが妾達天使の基本じゃ。たまに例外もいるが」
「まてまて、話が急すぎるだろう。それにここにいてもいいわけだろ?」
「妾はクレイと一緒にいたい。一目惚れじゃ。会えないあいだ積もりに積もった気持ちが破裂しそうになったであろう」
アリエルは頬を少し膨らまして拗ねるように言った。
ストレートに言いたいことを言ってくるタイプは別に嫌いじゃない。
むしろ好感が持てる。
「その羽はなんとかなるのか?」
「もちろん消せるに決まっておろう」
するとふっと羽が消え去った。
「……俺の仕事を手伝うならいいぞ」
色々考えた結果、今いる家に1人ぐらい増えても問題ない。それに人手が足りないのは事実なので手伝ってくれるならむしろ来て欲しいくらいである。
「任せてよい、妾はこう見えて器用なのじゃ」
内容も聞いていないのにアリエルはドヤ顔を向けて言った。
天使ということだし、イメージ的にも有能そうだから大丈夫だろう。
「なら、もうここで話す意味もない。行くぞ」
「待つのじゃ、まだやることはある」
「やることとは?」
俺がそう言うと、アリエルは手を合わせ始めた。すると光が待機に満ちて、地面から岩の祠が出現した。
そして祠の真ん中には弓が置かれている。
「これは?」
「神弓ヘラ、神器の1つじゃ」
「ほう、これが神器か。これは貰っていいのか?」
「うむ、神の使徒によるダンジョン攻略の証じゃ」
俺は祠の中に置かれた弓を掴む。
「ただの豪華な弓に感じるんだが、もっと魔力が漲ったりとかないのか?」
「お主はゼウスの使徒、神弓ヘラはヘラの使徒の武器だから、使えないのじゃ」
「先に言えよ、まぁ弓とか貰っても使い道なかったからいいけど」
俺は神弓ヘラをアイテムボックスに投げ入れる。少し期待していた分のフラストレーションをぶつけている。
「ほら、さっさと戻るぞ」
「うむ」
「お前家事とか出来るのか?――」
その後は他愛もない会話をしながら、ダンジョンを後にした。
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