第40話
誤字報告ありがとうございます。
ものすごく助かりました。
(トップページに報告が来ることに気づいたのが最近で、何十件も溜まっておりました)
「これでええか?」
朝早くに俺はラバース商会へ足を運んでいた。
もちろんトランプこと《紙札》の試作品を見るためである。
セリナが机に置いたのはラバース商会のロゴが入った上質な紙で作られたオシャレなカードの束と普通の紙で作られたカードの束である。
商品を貴族用と一般用に分けたのだ。
「ばっちりだ」
「これに見本を【複写】すればええんよね?」
「そうだ」
俺は54枚のカードに【転写】の魔法をかけた。
ダイヤやスペードのマークは使わず、火、水、土、風の4種類のマークに1から13までの数字、ジョーカー2枚の構成である。この世界に馴染みのあるロゴを使うことにしたのだ。
「貴族用は2万B、一般用は1000Bで販売する。手始めに一般用を3000セット、貴族用を100セット用意したいな」
「わかったで」
「それと……エミル」
「はい、ご主人様」
俺の影に隠れてたエミルがひょこっと顔を出す。
「めっちゃ気になってたんよぉ、その可愛い子は?」
「こいつはエミル、俺の秘書だ。この商会を大きくするための大事な役割を果たすことになるので、覚えといてくれ」
「私はエミル。よろしく……お願いします」
「よろしくなエミルちゃん! すんごい可愛ええなぁ! 抱っこしたい」
セリナはペコっと頭を下げたエミルに対して目を輝かせ、猛烈に食いついてくる。
「お前そういうキャラだったのかよ」
「誰でもめんこいもんには弱いやろ? はぁぁぁぁ」
「ご主人様、この人は敵?」
「一応味方だ」
「つれない態度も可愛ええなぁ、あれっ、この子エルフよな? エルフの子供って……」
「エミルは訳ありでな、俺が面倒見ることになっていて、この件はもう解決している」
原則としてエルフの子供は里に預ける。
だけど里を抜け出したエルフ同士の子供や親族の許可を得ていたりすることがあるので例外は存在する。
そういう意味で解決していると伝えた。
ハーフエルフということは極力漏らさないようにはしたい。
「そうなんやね、それにしても可愛ええなぁ」
「一応言っておくがエミルは15歳でもうすぐ成人する。あと今後、用がある時はこいつに言ってくれれば俺にも伝わる」
「15歳なんか! エルフは長寿やからなぁ。了解やで」
「あと緊急の時以外は俺の家にはこないでほしい」
「それはなんでなん?」
「ちょっと訳ありでな」
この世界に転生しているのが俺だけとは限らない。おそらくこの《紙札》により、感ずくやつも現れるだろう。そうなった場合に向こう側に出来るだけ情報を与えないための策である。
まぁ知られたとこでどうともないが。
「ワケありなんやねぇ、わかったでぇ!」
「明日の合格発表後にまた来る」
俺はエミルと共に商会を後にしてリンシア達が待つ王城へ向かった。
◇
「というわけで、特訓を始める」
例の人気のない第4訓練場にて、俺、リンシア、メルが揃っていた。
リンシアはいつものドレスではなく戦闘用の服に衣装チェンジしている。メルはいつものメイド服である。
エミルはリルに任せて王城での仕事を手伝っている。
「頑張ります」
「今日は何をするんだ?」
リンシアは張り切っているようで両手で可愛らしいガッツポーズ。メルは腰に手を置き、いつもどおりのように落ち着いていた。
「何をやろうか」
「考えてないのか!?」
「冗談だ、とりあえず2人の長所を伸ばそう」
――――――――――
《リンシア・スウェルドン・アイクール》
Sスキル
【超・魔力量】【超・光魔法】
Bスキル
【上・水魔法】【上・魔力制御】
Cスキル
【魅了】【老化耐性】
Dスキル
【精霊魔導力】【魅惑】
加護
【信徒の加護】
――――――――――
【精霊魔法力】~成長スキルDランク~
・精霊から力を借りやすくなる
・精霊から好かれやすくなる
・精霊魔法の連動力が上がる
【魅惑】~成長スキルDランク~
・相手の好意を自分に向けやすくなる
――――――――――
《メル》
Aスキル
【極・命中】
Bスキル
【上・視力】
Cスキル
【風魔法】【隠密】
Dスキル
【低・苦痛耐性】
加護
【信徒の加護】
――――――――――
俺は【神の五感】でリンシアとメルを見た。
リンシアは魔法に特化した才能を持っている。それに【精霊魔導力】が気になる。精霊にはまだ会ったことがないが書籍にはいろいろな逸話が残っていて人では扱えない魔法も使えるらしい。その架橋となりそうなスキルを、成長スキルとして持っているのは凄いことだ。伸ばしていきたいところではあるが、精霊がいないんじゃしょうがない。
そしてメルに関しては命中、視力、隠密とかなり暗殺向きのスキルに感じる。
「リンシアは魔法、主に光属性。メルは1対1で対人の訓練にしよう」
そう伝えて、俺は2人の長所を伸ばす訓練内容を考えた。
リンシアは光属性魔法をひたすら制御させる事。
メルは気力を使った1対1の模擬戦を繰り返す事。
「リンシアは光属性と水属性に関して何級まで使える?」
「えっと、光が4級、水が3級です」
「なら光属性魔法の幅を広げるための制御から始めよう。とりあえずこれを発動出来るか?」
そう言って1級光属性魔法【発光】を発動させる。
「出来ますよ」
リンシアも同じ魔法を発動する。
「俺の魔法との違いがわかるか?」
「違いですか?」
そう言って二つの【発光】を交互に見る。
「クレイの方が無駄なく綺麗な魔力で発動されているような……」
「そうだ。最低限無駄のない【発光】、これを出す練習をして欲しい」
「どうすればいいんですか?」
魔法を発動させる際、10必要なところを10の魔力で使う。これが非常に難しい。
それをしっかりとしたイメージを持って発動させる。
この無駄のない制御とイメージこそ5級、6級への魔法を発動させるために非常に大切な要素である。
より上級になっていくほど、ぴったりの魔力を放出しないと発動しないからだ。
俺はそれをリンシアに丁寧に説明し、お手本を見せる。
「これができるようになったら2級、3級と上げていく。まずは基礎である1級の【発光】からだな」
「わかりました」
「あっ、そういえば――」
リンシアにそう伝えたあと、俺は【アリエルの加護(愛の返報)】を思い出した。自分に好意を持っている者の気力、魔力、成長速度を上げるという効果があるらしい。
俺は意識して【愛の返報】を発動させた。
「始める前に確認したいんだが、今魔力を練ってくれ。いつもと変わったことはないか?」
「わかった」
「はい」
リンシアとメルは二つ返事で魔力を練り始める。
「いつもよりも魔力が増えているような……力が内側からみなぎってくる感じがするぞ」
「私もです」
「具体的にどれくらいだ?」
「どれくらいと言われても……いつもの1.2倍ぐらいだと思う」
「私は1.2倍、よりはちょっと多いぐらいだと思います」
「そうか」
どうやら【愛の返報】が発動しているらしい。効果の具合は親密度や時間に関係するのだろうか?
それにしても効果が発動しているということは少なからず俺に好意を抱いているということなので、少し照れくさい気もする。
好意というのが友情なのか愛情なのかもまだ曖昧ではあるが。
「どうして増えているんだ、何かの魔法か?」
「うーん」
俺はどう言うべきか迷ったが包み隠さず言うことにした。
「実はある加護を授かってな。【愛の返報】というものなのだが、周りの自分に好意を持っている者の気力、魔力、成長速度が上がるらしい」
「そんな加護聞いたことないぞ?」
「アリエルって天使に貰ったんだ」
「アリエルって確か童話などに出てくる6大天使の名前ですよ……?」
アリエルってそんな伝説級のやつだったのか。頭の中でドヤ顔をしたアリエルの姿が浮かんだのですぐに消し去った。
そして信じられないという表情で目を見開く2人。
だがハッっとなにかに気づいたような表情に変わった。
「まて、周りに好意を抱いている人はパワーアップするということなのか?」
「そういうことになるな」
「わわわ、私がクレイにこここ好意を抱いているから、魔力が上がったということなのか?」
「そうだな、好意といっても友情や愛情、色々種類があるからわからんが」
「そそそそうか」
身体を左右に揺すり、もじもじしながら聞いてくるメルに対し、リンシアは顔を赤らめうつむいている。
好意があることがバレたということが恥ずかしいということなのだろう。
言動や立ち振る舞いは大人びているように見えて歳は14やそこら、恥ずかしがるのも当然か。
ここは年上としてフォローを入れてやろう。
「俺もリンシアやメルは好きだぞ」
俺がそう言うと、さらに顔を赤くする2人。
「私は、クレイのことはその……どちらかというと好きですよ……」
「わわ私もクレイ殿のことはよく思っている……」
なんかマジマジと言われると照れるんだけど。
「まぁ友達として、家族? みたいな感覚だけどな」
俺はウンウンと頷きながら二人に伝えた。
「ももももももちろん友としてそう思っているんだ」
「わ、私もどちらかというとそういう気持ちですよ?」
さっきよりも顔を赤くした2人。やばいこのままじゃ収拾がつかなくなる気がする。
ここはひと思いに話をぶった切って、訓練を始めよう。
「とりあえずリンシアは訓練を始めてくれ」
「わ、わかりました」
リンシアは慌てて少し離れたところへ移動し、魔法を使い始めた。
「そしてメルは、気力を使って俺と戦ってもらう」
「気力か……」
先ほどまでの雰囲気を一気に切り、真剣な眼差しで気力で全身を覆う。
それによりメルも真剣な表情に変わる。心なしかメルの全身から気力が溢れてくるのがわかった。
「気力の制御ができるまで魔力の使用は禁止だ。さっそく始めるぞ」
「えっ――」
そう言った直後、俺はメルの腕を掴み重心を崩す。それに回転を加えて上に放り投げた。
「わっ!」
「気力を全身に巡らせバランスを取れ。そして足のみに集中させ、着地し、俺に攻撃を仕掛けてこい」
「そんないきなり――」
この世界の住人は魔力があるせいで気力の使い方が疎かになっている。
気力を使いこなせてこそ、近接戦での魔力が映えるのだ。
メルはバランスを取り戻しどうにか着地に成功するが、直後バランスを崩す。
その瞬間、俺はメルの前へ移動して腕をつかみ、再び宙へ放り投げる。
「スパルタすぎだー!」
そう言ったメルであったが、2回目でなんなく成功。そして俺に反撃をしてくる。
「やれば出来るじゃないか」
「自分でもびっくりだ」
【愛の返報】の効果だろうか。
「じゃあ次は――」
それからしばらく俺はメルに気力の使い方を一通り実戦形式で教えて言った。
そしてまだぎこちない形ではあるが気力と魔力を合わせて使うところまで出来るようになった。
「はぁ……はぁ……これは難しいな」
「気力に関しても、魔力に関しても、これから毎日訓練して伸ばせ」
「わかった」
後はリンシアだが――
「クレイ見てください!」
リンシアが笑顔で俺の方へ寄ってくる。
周りに鮮明で綺麗な魔力で構成された【発光】が2つ浮いている。
「デュアル制御も出来るようになったか」
俺はリンシアの才能に驚いた。
【愛の返報】の効果もあるだろうが【上・魔力制御】恐るべし。
「リンシア、これから5級魔法を使う。これをイメージして発動させるんだ」
そう言って5級光属性魔法【反射光盾】を発動させる。
目の前に反射機能がある3メートル四方の盾を出現させる魔法である。
「あの、詠唱を……」
「詠唱か」
そういえば詠唱って概念が必要なんだっけ。俺は頭に浮かんだ詠唱をリンシアに教える。
そしてリンシアは一発で【反射光盾】を発動することに成功した。
「基本無詠唱で発動させることを心がけてくれ。短縮詠唱でもいい。あとはリンシアは光属性魔法についての魔法の種類をたくさん調べることだ。レパートリー増やすためにな」
「わかりました」
「とりあえず今日はここまでにしよう、あまりやりすぎても疲労が溜まりすぎて効率が悪くなる。毎日の鍛錬を怠るなよ。また時間があったら見に来てやるから」
そう言って俺達は訓練場を後にした。
備えあれば憂いなし。
俺の中でいつの間にか、リンシアを含めた周りの仲間たちを守ってやりたいという気持ちが芽生え強くなり始めていた。
そして俺も万能ではない。だから最低限自分のことが守れるように強化することに決めたのだ。
なぜだろう、こういう気持ちは前世で沙奈にしか芽生えたことはない。
俺がいくら考えても答えはでなかった。
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