第37話
エミル視点の過去3000字以上書いたのですが、長すぎだと思ってかなりまとめました。
すみません…。
エミルはハーフエルフだ。
娼婦であった人間の母とエルフの父との間に生まれた。
エミルはハーフエルフだという理由でエルフからも受け入れてもらえず、母親と暮らしていた。
だけどエミルは母親からいつも虐待を受けていた。
エミルは「ごめんなさい……ごめんなさい」と謝ることしかできない。
冷たい母の言葉がエミルの心を抉る。
そんなエミルが好きだったのは本を読むことだった。
本はたくさんの知識をエミルに与える。
エミルは自分の才能を理解していた。
覚えたことを忘れない。
そのことを母親に打ち明けた次の日、エミルは奴隷として売られたのだ。
―――
――
―
エミルが目覚めた時、鉄格子の天井が目に入り、地面はガタガタと揺れていた。
周りを見渡すと檻の中で馬車で移動しているのがわかった。
「っ……!」
エミルは喋ろうとしたが、声出せない。
そして頭もボーッとしているようで、目のピントも合わないようだ。
前を向くと馬車を操る二人組の男達が何やら会話をしていた。
「それにしても酷い母親だよなぁ、お金のために子供を売っちまうんだからよ」
「ちげーねぇ、おかげで大儲け出来たよ」
エミルは状況がわからずパニックになる。
母親?売る?
「おっと目が覚めたようだぜ」
「こ……」
エミルはしゃべろうとするがやはり、声が出せなかった。
「状況がわからないって目してやがるぜ、それにしゃべろうとしても無駄だ」
「あの方の【隷属の呪い】は効き目が強いからなぁ」
男達は笑いながらこちらを向き談笑している。
どういうことだろうか。
「教えてやるよ、お前はあの娼婦に奴隷として売られたんだよ。これからは奴隷として生きていくんだ」
エミルは否定しようとして頭の中で色々考えたが、納得してしまう。
それは今までの虐待から容易に想像できる。「ついに私は捨てられたんだと」。
エミルは目から涙を流すが声はでない。
「泣いてやがるぜこいつ」
エミルにとって馬車での移動時間は長く辛いものだった。
どれくらい泣いただろうか。
声も出せずに涙だけが流れている。
――どれくらいたっただろう。
牢屋のような場所に入れられて、1日1回、最低限のパンと水を出される生活。
もう必要ないんだ。生きている価値なんてないんだ。
そう思ったエミルだが、自害する勇気もない。
エミルはまた涙を流す。
――どれくらいたっただろう。
パンを食べながらエミルは思い出す。
父親から追い出され、母親にも捨てられた自分のことを。
鮮明に思い出していく。
自分が生きていた意味を探していくが、見つからない。
エミルはまた涙を流す。
――どれくらいたっただろう。
50回以上食べたパンを今日も食べる。
次第に涙を流さなくなった。麻痺した訳では無い。
エミルは奴隷でもいいから自分を必要としてくれる人がいればいいとさえ思っていた。
だけどエミルは囚われたままだった。
何故だろう。
苦しい……苦しいわ……。
――どれくらいたっただろう。
いつものパンは出てこない。
だけど今日は兵士が牢屋を開けて保護してくれた。
やっと自分を必要としてくれる人が現れたのかと思った。
でも違った。
エミルは開放されたのだ。
これからどうなるんだろう。
長い牢屋生活のせいなのか、エミルの目の前が真っ暗になった。
そしてエミルは意識を手放した。
――目を覚ますとそこは教会だった。
シスターは優しく接してくれるが答えられない。
みんなはエミルをエルフだと思っているらしい。
ハーフエルフだということがバレていないことに安堵する。
だけどエミルをエルフの里に返そうとする。
なんで……なんで……。ここでも邪魔者なんだ。
何のために生きているんだろう。
――そして目の前に現れた銀髪の彼、クレイが現れた。
クレイという名前には聞き覚えがある。
確かあの牢獄から助けてくれた人の名前だった。
この人が誰かに必要とされて売られるはずの自分をこんなところに連れてきたんだ。
でもクレイは何かに気づいたようで、シスターと何か話している。
そしてハーフエルフと言おうしたのがわかり、エミルは全力でクレイに訴える。
言わないで。
クレイは察してくれたのか、シスターを外に出す。
そしてエミルに声をかける。
だけど返事ができない。
クレイは魔法を連続でかけ始めた。
何をしているの?
自分の中でカチャーンという音が聞こえる。
「あ……あの」
声が出た事にエミルは歓喜した。
喋れる!喋れる!
「俺はクレイ」
クレイはそんなエミルを見て名乗った。
反射的にエミルも答えた。
「私は……エミル」
◇
自己紹介を済ませた俺はいきなり本題を切り出していた。
「そうかエミル、お前はエルフの里とやらに帰りたくないらしいがどうしてだ?」
「わ、私はその……ハーフエルフだから」
そう言ったエミルの喋り方はどこかぎこちない。
それに口数も少ないタイプらしいな。
「ハーフエルフだと帰れないのか?」
「追い出されたの……」
エミルの答えは予想通りである。エルフは純血を重んじるとどこかの書籍で読んだことがあるからだ。
「親は?」
もう片方のという意味でエミルに問う。
「捨てられたの……」
質問の答えで状況を察していく。
恐らく他種族同士の子供は差別を受けていて、それで辛い過去を歩んできたのだと。
それにエミルは何か絶望しているようにも感じる。
「状況はわかったが、普通の人にはエルフと思われているようだが?」
「人間にはあんまり、気づかれたことない……わ」
俺がエルフと面識があまりないせいでもないらしい。
普通にみれば目の前にいる子供はエルフだ。
ハーフといっても目ためじゃわからないんだな。
「そうか。お前はどうしたい?」
「わからない……わ。でも……死にたい」
「……なぜだ?」
死にたいと言った少女に対してわざと間を置き、無表情で理由を問いた。
「私は、誰からも必要とされないから……」
「なら好都合だ。提案があるんだが、俺に雇われないか?」
「えっ?」
いきなりの提案にエミルは目を見開く。
俺はエミルのスキル、そして容姿を見た直後に閃いたことがある。
優秀な秘書になれると。
自分が持っているからこそわかる【完全記憶】の凄さは計り知れない。
「無理にとは言わない。だけどエミル、お前の力が必要だ」
「クレイには私が必要なの?」
必要という言葉をあえて強調して言った。
改めて聞き直すエミルの目には不安が感じ取れる。
ここが分岐点になるだろうと直感でわかった。
「あぁ、必要だ」
「わかった、私をクレイの物にして欲しい」
おおっと、なんか色々語弊のある言い方だ。
だけど優秀な人材を確保出来て満足である。
「シスターには俺から伝える」
その後シスターに伝えて俺はエミルを連れて屋敷に向かった。
隷属の呪いや奴隷になった経緯などは気になるが、まずは仕事をやらせて信頼を築いてからだ。
リンシアになんて説明しようかな。
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