第35話
俺はリンシアが購入してくれた屋敷の前にいた。
王城から徒歩で15分ほど歩き、貴族街を抜けた先に1000坪ほどの土地がある。そこに横長の50×20メートルほど洋館が建っていた。
「思ったよりも大きくていいじゃないか……ボロくなければな」
貴族街から抜けてすぐなだけあって思ったよりも大きな建物で感心した。
ただ30メートル以上続く庭には草がボーボーに生えており、建物自体も汚れていて幽霊屋敷のような雰囲気が漂っている。
前世にあったら近所の子供たちが肝試しに来るぐらいには古い。
「事故物件じゃないだろうな」
俺は呆れながら庭を歩きだす。門から飛び出るぐらいの草を押しのけながら入口の扉に到着した。
鍵を開けて入ろうとしたが、扉に触れた直後<バタンッ>と倒れた。
「……鍵の意味!」
壊れた扉にツッコミを済ませ、中に入る。
中は薄暗く、窓から差し込む太陽の光が所々を照らしていた。
【神の五感】を発動させる。暗視効果があるからだ。
「前に住んでたやつは貴族だったのか?」
扉から入ると階段ホールがあり、左右にキッチン、ダイニング、応接室、そして洋室。
2階に上がると洋室を何部屋か発見した。そして狭いが浴場もある。
素晴らしい。屋敷の作りもいいじゃないか。
それにしても広すぎる。
この家はきっと事故物件か何かで、安く手に入ったんだろう。
リンシアのやつは買う前に確認したのか? 家はちゃんと確認しないとダメだぞ。
などと無意味な将来の心配をしながら、これからどうするべきか考えた。
「まずこのボロボロ具合をなんとかしないとなぁ……そうだっ」
生活魔法を改良して使えそうな魔法を作ろう。
今回は身体の汚れを綺麗にする生活魔法である【クリーン】を改良することにした。
「【クリーン】、改変、改変、改変、【クリーン】、改変、【クリーン】――」
俺は何度も【クリーン】の中身を改良して発動させていく。
ついでに修繕効果も付けたい。
「【エリアクリーンリカバリー】」
すると自分で設定した範囲内が綺麗になっていく。綺麗になるどころか壊れた箇所も修繕されている。
「【ウインドトルネード】」
一通り全体を綺麗にした後に別の魔法を唱える。屋敷内のボロボロで不要な家具が風の竜巻によって集められる。そして【アイテムボックス】に収納していく。
「これぐらいか」
全部屋やり終えた俺は階段ホールから見渡す。ピカピカな状態になっていた。
ベッドなどの最低限の家具は残してある。
「あとは庭だな」
俺はボーボーに生えた草の地面を、地属性魔法である【グランドバニッシュ】でかき混ぜた。
草は地面に消えていく。柔らかくなった土を【グランドプレス】で固めた。
「うん、庭も綺麗になった」
まだ土って感じだけど、今度芝生でも植えよう。
草がなくなったことによって中心には道ができており、俺はそこから屋敷全体を見る。
「なかなかいいじゃないか」
ピカピカな屋敷を見て、改造する箇所を頭で考える。
まずは浴場を広く作り直そう。そして塀を立てて露天風呂だな。
それから秘密の地下室作ろう、意味は特にないけど。あとは――
考えながら魔法を発動させていく。主に魔法で余計な壁を破壊して、上手い具合に修繕。
露天風呂の形は地属性魔法で穴を掘り、四角く固めて形を作る。
「材料がないな」
待てよ。水魔法や火魔法などもそうだが魔法は無から有を生み出すことができる。
ということは材料となる鉄や木材なども作れるのではないだろうか。
俺は魔法を発動させていく。木材も鉄も全ては元素であるいろんな物質が集まったものだ。
その元素を生み出せるなら、その割合を変えれば違う物質へと変わっていく。
木材は酸素と炭素、水素、そしてマグネシウム――
記憶にある材料や作り方を頭で想像して、属性魔法の合成で作っていく。
「出来ちゃったよ」
俺の目の前には木材、金属、様々な鉱石、そしてついでにコンクリートなどもあった。
生成にはかなりの魔力を使うので一度に生成できる量は限られている。コンクリートなどの複雑な物質なら尚更だ。
俺は木材や鉱石を先ほど四角く固めた穴にはめ込んで組み立てていく。
そして周りの塀を立てて行く。和風をイメージしている。
「――今日のところはこの辺にしておくか」
作業すること二時間、露天風呂付きの広い浴場が完成した。
王城の浴場とは違い、温泉旅館をイメージしている。
脱衣所は木材で出来た床、鉱石で出来た浴場の綺麗な石畳。浴槽は中と外の二つあり、中は木材、外は岩を加工して作っている。露天風呂は屋根付きで周りは塀で囲まれている。
俺の温泉へのこだわりがかなり出てしまったようだな。
湯を出す仕組みについては考えはあるが、魔石が必要なので後回しにする。
他にもついでに地下に繋がる階段などを設置してコンクリートで出来た小さな地下室も作った。
時間があるときに改良して広く使いやすくしよう。用途は後で考えよう。
俺は外側から再び洋館全体を見渡す。露天風呂の塀は外観を損ねないよう洋館に合わせて装飾している。そしてふと思った。
「これ1人で住むには広すぎじゃね?」
普通は使用人とか雇って管理するレベルの洋館である。ここに1人とかリンシアは何を考えているんだ。
「まぁいいか、とりあえず次の用事を済ませよう」
俺は綺麗になって改良した屋敷を後に、孤児院へ向かった。
頭の中で屋敷の更なる改造を考えながら。
ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。
更新の励みとなっております。
必ず完結させるので応援よろしくお願いします!