第33話
実技試験の会場は隣の訓練場で行う。
最終試験は剣術。
内容はランダムで決められた受験生同士が1vs1で戦うという内容だ。
魔力の使用は禁止で、純粋な剣術と気力のみで戦う。ただ勝てばいいというわけではなく、剣を扱う技能などが評価基準となるらしい。
訓練場には様々な形の模造刀が用意されていて、そこから自分で日頃使っているものに近いものを選ぶ事ができる。
魔力測定が終わったものから次々に始まっていて、既に何組かが同時に戦っていた。
「やめっ!――終わったら帰っていいぞ。次は――」
試験官の掛け声で戦っていた受験生たちがやめて帰っていく。もう大半は帰っているようだ。
ただ残っている生徒もいるようで、自分のライバルになり得る存在を観察するためだろう。
そして次々に受験生達が呼ばれていく。
「おっクレイじゃねぇか」
俺を見つけたヴァンが声をかけてきた。
「あぁ、試験は終わったのか?」
「いや、まだこれからだ。それと筆記試験どうだった? 俺は全然だぜぇ」
ヴァンはそう言って心底残念そうに項垂れた。本当に勉強が出来ないんだな。
「俺もだから安心しろ」
「あれっ、クレイって頭いいイメージだけどなぁ……。それよりもやっと得意分野だぜ」
「そうだな」
笑顔全開のヴァンが眩しいよ。いきいきしているな。
「クレイと戦いてぇなぁ」
「俺はそうでもない」
ヴァンは有名なのかいろんな受験生や試験管から目を付けられていてチラチラ見られている。
俺は極力目立ちたくないので、そのへんのモブキャラあたりと戦いたいと思っていた。
「なんでだよ! 負けるのが怖いのか?」
ニヤケ顔で珍しくヴァンが挑発してきた。
「ヴァンの鼻を折ってしまうのが申し訳なくてな」
挑発には挑発。これが俺の流儀だ。
「ははっ、そうでなくっちゃ面白くねーよな!」
「だがランダムなんだろ?」
そう、組み合わせはランダムだ。俺とヴァンが当たることはそうそうないだろう。
「そうだけどよぉ、クレイぐらいじゃないと相手にならねーし……あとマルクスぐらいか? マルクスはもう試験終わって帰っちまったしなぁ」
「次は899番と820番こちらへ」
「おっ俺の番だぜぇ!」
試験管の声が聞こえた。
ヴァンはようやく呼ばれたのが嬉しかったのか、いきいきとした笑顔だ。
あれっ899番って俺だよな?
「あれ"剣帝"だよな?」
「すげぇー俺初めて見たよ」
他の受験生が話している声が聞こえた。
"剣帝"って呼ばれてんのかこいつ。
試験官の元へ向かっていくヴァンの後を俺もついていく。
「俺の対戦相手は誰だぁ? えぇ!? クレイなのか!?」
ヴァンは俺を見るなり驚く。
だがすぐに笑顔になる。
周りからは「あいつ負けたよ」、「せっかくの試験なのに可哀想に」などの声が聞こえてくる。
「君が899番だね、申し訳ない。だけど試験は勝ち負けではないから、自分の力を出し切れば問題ないからね」
試験官にまで同情されてしまった。
俺とヴァンは適度に距離を取る。
ヴァンの右手には片手剣よりは大きく、大剣よりは小さい剣が握られていた。
対して俺は刀を選んでいた。鞘はないがこの世界に刀があることに驚いたよ。
「クレイ、本気で来てくれよ」
そう言ったヴァンの身体からは闘技にも似た気力が溢れてきているのがわかる。
それを感じた俺は口を綻ばせた。
最初こそ手を抜くか迷ったが、ヴァンの闘技を見たらやる気になったのだ。
――――――
《ヴァン・アウストラ・クロード》
Sスキル
【超剣技】
Aスキル
【極剣技】
Bスキル
【上反射】【上成長】【計眼】
Cスキル
【命中】【蹴技】【運動神経】
加護
【アレスの加護(剣神への階段)】
【信徒の加護】
―――――――
【アレスの加護(剣神への階段)】
・剣術に関する熟練度が上がる。
・剣を持っている時は限界以上の力が出せるようになる。
【計眼】~Bランク成長スキル~
・相手の強さがわかりやすくなる
―――――――
集中した瞬間に【神の五感】が発動してしまったらしい。解除しようとするか、気になる点があった。
アレスの加護?
「どうしたんだ?とっとと始めようぜ」
ポーカーフェイスで表情を変えないようにしていたが俺は驚いていた。
そして頭の中でヴァンの情報を整理していく。
選ばれたものにしか使えない神器をも持っている。
神器は世界に12本しかない。
使徒も12人。
なるほど、こいつは12神の使徒だったらしい。
こんなに近くにいたとはな。しかもSランクにもAランクにも剣技があるとはな。
「あぁ始めようか」
12神の使徒だとわかって俄然やる気が出た。俺も気力を身体から放出し、ヴァンに答える。
剣術は使えないわけではない。
お互い笑顔でにらみ合う。
「それでは始めっ――」
試験官が合図を言った直後、ヴァンは刹那の速さで俺の目の前に斬りかかってくる。
最小限の動きと力、口だけではないようだな。
見えていた俺はそれを受け止めた。凄まじい風が後ろへ抜けていく。
俺が【完全再現】でイメージしているのは誘拐事件の時に戦った騎士サナスの剣術だ。
刀ではないが十分参考になる剣術ではあった。
受け止めた直後に次の一撃を真逆に方向から放ってくる。
それを受け止めるとまた次の一撃。
受け止められることを前提に、そして受け止められたときにどこに打つパターンを決めているようだ。
<カンッ><カンッ><カカンッ>と音が飛んでいく。
「やるなぁ!やっぱりクレイ強いなぁ」
「お前の剣もなかなかだぞ」
ヴァンは笑いながらもこちらに攻撃を仕掛けてくる。
だがここからは俺も反撃。
――ヴァンの攻撃と同時にカウンターで斬りかかった
「おっ?」
その攻撃を剣で受け止めたヴァンは距離を取った。
「さっきまでと動きが変わったな、むしろ俺の動きに近かったような」
「成長期なんでな」
俺は【完全再現】で今のヴァンの動きを再現していた。
「そう…か? まぁいいや、ならこれならどうだ――」
――常人の目では追うことの出来ない速度で俺へ切り掛くる。
それも一撃ではない。
<―――――――――――――――――!!>
凄まじい速さの剣撃が俺を襲う。
メルの【乱舞】など可愛く見えるレベルだ。
俺はそれをサナスの技であった【蒼斬乱舞(魔力なし)】で捌いていく。
魔力を伴っていないにも関わらず、斬撃のぶつかり合いにより凄まじい風が会場を舞う。
「ちっ――」
俺もヴァンも防御と攻撃を同時にこなしている。
お互い紙一重で受けて、その隙に攻撃に転じるのだが、
ヴァンの攻撃が4回に対して、俺は1回しか攻撃に転じれない。
さすが剣の才能があるということか。サナスなんかよりも強いらしい。
だけど――
「なっ!」
<―――――――――――――――――――――!!!!>
ヴァンは目を見開く。
俺はヴァンの動きを【完全再現】したのだ。
これで互角、お互いの打ち合いの威力が増し、訓練場に凄まじい砂埃が舞っている。
――打ち合いがブレイクして、お互い距離を取る。
「おいおい、今途中から俺の【桜花乱舞】にたってなかったか? 成長期にもほどがあるだろうよ」
「そうか? お前も大概だぞ?」
先程俺はヴァンの【桜花乱舞】を完全再現した。だが打ち合っている最中にヴァンの【桜花乱舞】は進化したのだ。
加護に剣術に対しての熟練度が上がるとあったが、戦っている最中に成長するとは、予想以上の早さだ。
「だけどなんか……楽しいぜ! こんなのはじめてだ! ずっと戦ってたい。クレイと戦ってると自分が成長出来る気がするんだ」
気がしてるではなく、実際成長しているんだけどな。
「俺も楽しいぞ。剣術も悪くないな。だが――」
「そろそろ決着つけようぜ」
「勝つのは――」
「「俺だ(けど)がな」」
俺はヴァンとの距離を一瞬で詰めた。
足元に気力を溜めての移動。
ヴァンも同じことをしていたようでお互いの刃と刃が交えてすれ違う。
俺はヴァンが立っていた位置に、
ヴァンは俺が立っていた位置に移動する。
そしてまた、お互いがお互いを目指す。
<―――――――――――――――――――――!!!!>
凄まじい剣のぶつかり合いが響き渡る。
お互いの【桜花乱舞】が炸裂した。
刃を交えるほどヴァンが成長し続ける。
そして俺がそれを【完全再現】し続ける。
<―――――――――――――――――――――!!!!>
刃のぶつかり合いは次第に音速を超え、凄まじい衝撃波となる。
「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」
――直後ブレイクして、お互いが仰け反った。
その瞬間俺は先に斬り掛かる。反射速度の違いだろう。
「ぐっ――」
ヴァンはそれを剣で受ける――
その直後、俺は神速の一撃で真逆の方向からヴァンに斬りかかった。
高速の一撃と神速の一撃を同時に放つ技。【燕返し】である。
前世で見たことある有名なこの技を、ここで再現したのだ。
神速の一撃はヴァンの横腹へ向いう。
そしてヴァンの横腹を――
すり抜けた。
「はっ?」
よく見ると最後に剣がぶつかりあったときにお互いの模造刀が折れていたのだ。
お互いの模造刀の刃は空中で回っていた。
――そして地面に落ちた。
会場内がいつの間にか静まり返っている。
俺たちの戦いを見入っていたのだろう。
「やめっ!引き分け!」
しばらくの沈黙のあと、正気に戻った教員が声を上げた。
「「「「うおおおおおおおおおお!!!!」」」」
その瞬間歓声が響き渡る。
そんな歓声のなかヴァンは俺に握手を求めてきた。
「今回は負けたぜ。死ぬほど悔しい。だけど今度は負けないぜ」
潔く負けを認めるヴァン。
【燕返し】の神速の一撃。試験官には見えてなかったようだがヴァンには見えていたようだ。
「ヴァンも素晴らしい剣技だった。俺が出会った中で1番強い剣術使いだ。たぶん」
「たぶんは余計だよ!」
俺はそう言ってヴァンの腕を握る。
すると頭に響く何かがあった。
神のお告げとでも表現出来そうな感覚。
これは――
「おい、クレイお前……」
ヴァンも同じものを感じたらしい。
「使徒だったのか?」
「あぁ、お前もな」
使徒同士は触れると相手が使徒とわかるのだ。
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