第31話
王立学園アルカディア。バロック王国に暮らす民で14歳から16歳までの2年間通える学びの場だ。
この学園は聖騎士科、騎士科、魔法科、普通科、冒険科の5種類の学科があり、その科目に特化した教師が授業をしてくれる。
そして数々の有名な騎士や魔術師、冒険者が排出されているので、各領から通うために王都にわざわざ出てくるぐらいだ。
俺はそんな学園の聖騎士科に入学するための試験を今日受けに行くことになっている。
「クレイ、似合ってますよ」
リンシアは嬉しそうに、にこやかな笑顔を見せてくる。
俺が今着ているのは学園の制服であり、新調のために着ていた。
まだ合格していないのに、「クレイなら合格します」とリンシアが押し切って先に用意することになったのだ。
「まぁモデルがいいからな」
俺は鏡に向かってキメ顔をしてみる。キマってるな。
するとリンシアの後ろで控えているリルと目が合ってしまった。
リルは呆れた表情をしながら何か言いたげに鏡越しに俺を見ている。
「なんか言いたげだな、駄メイド」
「いえ、この制服が眩しすぎて顔面が見えません」
「どういうことだよ」
「衣装に着られている? むしろその衣装が本体でクレイ様は飾りですね」
「本体ってなんだよ本体って」
いつもどおり毒舌を吐くリルを軽く受け流す。
するとリルは小悪魔的な笑顔を向けて俺に笑いかける。
「相変わらず仲がいいですね」
リンシアは呆れながら言うが、その後少し羨ましそうな表情をしていた。
「こいつが突っかかってくるんだ……仕事しろ駄メイド」
「いえ、クレイ様が突っかかって欲しそうな目で見ていたので」
リルはそう言ってすまし顔をする。
どんな目だよ。
「あっ紅茶を用意してきますね」
空になったティーカップを見てリルが紅茶を用意しに離れる。
必然的にリンシアと俺が二人きりになった。
「あぁー、着替えるわ」
「え、えぇわかりました」
お互い気まずい雰囲気が漂っている。リンシアはきっとこないだ俺に抱きつき涙を流したことだろう。
そして俺が気まずい理由はこないだの国王の話を聞いたことにある。
あの日以来どう接するべきか迷っている。
国王の治療の最終日、俺とリンシアの母親が同じという事実を聞かされた――
―――
――
―
「お主の母の名前はミリア・スウェルドン・アイクール。そしてリンシアの母親でもある」
「はっ?」
「つまりリンシアはクレイ、お主の妹だ」
俺は目を見開く。きっと素っ頓狂な表情をしていただろう。
「どういうことなのか説明してくれないか?」
俺の言葉に国王が順を追って説明してくれた。
ゲインは第二王妃である俺の母、ミリアの聖騎士をしていたらしい。そして2人はある任務の中深く愛しあってしまったという。
国王はその事実を知ったが、ゲインを認めたのだ。それから2人は秘密裏に愛し合っていた。
そして第一子である俺が生まれた。ゲインの子供ではあったため王位は継げないが、国王の子供として育てられることとなる。
その事実を知るものは国王とゲイン、そしてミリアの3人だけだった。
この秘密の関係は順調に進んでいった。
だが事件が起きた。
ゲインが第一王妃を殺したのだ。
ゲインは王族殺しとして処刑されることとなる。
だがゲインは王国で1番強い騎士でもあり、見張りが目を離したすきに逃げてしまった。その際に1歳になる俺を連れ出して。
国王を含めた全国民がゲインを非難し、恨んだ。
だけど第一王妃が実は裏で国を乗っ取ろうと画策している事実を知ることとなる。
王族暗殺計画を目論み、国王、そしてミリアを含む他の王妃やその子供を暗殺しようとしていたのだ。
この事実を知っているのは国王だけ。
その事実を知った頃にはもう遅かった。ゲインは去ったあとで、本人が罪を認めたということなのだから。
取り残されたミリアは悲しんだがお腹にはリンシアを身ごもっていた。
結果的にゲインに助けられた国王はせめてもの償いでリンシアを自分の子として育てることにした。
そしてこのペンダントは母であるミリアがゲインに渡した大切なペンダントだったらしい。
「――ということだ」
国王が語り終えると俺は静か目をつぶった。
この話を聞いて1番驚いたのはリンシアが妹だったということだ。
実はそれ以外の話しは正直どうでもいいとすら思っている。
様々な感情が俺の中を巡る。
「今はルシフェルの派閥が勢力をあげていて、リンシアも生きづらい思いをしている。だから兄として守ってくれないか?」
「……」
しばらく考えたが答えがでなかった。
「これからどうするかはわからないだが――とりあえず学園に通わせてくれ」
どうなるにせよ、学園に通っておいたほうがいいと判断した。
辞めることは出来ても、後で通い直すことは出来ないからだ。
とりあえず通ってどうするか決めよう。
「よかろう。私はお主に救われた身だ。だがこの事実はくれぐれもリンシアには秘密にしてくれんか」
「わかっている」
国王と秘密を共有することとなったのだった。
―
――
―――
――俺はそんなことを思い出しながら、鏡越しにリンシアの顔を見る。
透き通るような銀髪にまん丸の目、小動物のような可愛らしい仕草。妹と知ったからか守ってあげたいと感じる何かがある……ような気がする。
「いきなり学園に通ってもいいと、言ってきたときは驚きましたよ」
「知識が欲しいからな。聖騎士になるかは別だが、通っておいて損は無いだろう。辞めれることはいつでも出来るし」
「それでも……嬉しいですよ」
突き放すような態度にも関わらず、リンシアは頬を少しだけ赤らめる。
俺も少し動揺しているようだ。
「リンシアに聞きたいことがあるんだが……最終的にお前は何を望む?」
「望んでいることですか?」
「そうだ」
聖騎士に俺を任命したいだの、国民を助けたいだの、そういうのを全てを抜きにして何を望むのかを聞いた。
「私は、家族みんなで幸せに過ごしたいです」
リンシアも俺の意図を読み取り答え始めた。
「抽象的すぎるな、具体的にはどうしたいんだ?」
「夢物語ですが、争いのない平和な世界で大好きな家族と幸せに過ごしたいです。そのためにもまずは王都を変えていかなくてはなりませんね」
本当に夢物語だな。そしてまだ抽象的すぎる。
平和のためには争いが必要だし、仮に平和な世界が訪れてもまた争いは起こる。
でもなんとなくだが、リンシアの夢物語を叶えることが、俺の目的に繋がるような気がした。
神であるゼウスのじじいには秩序とかバランスとか色々言われているし、それが契約を叶えることとなる。そして妹の側にいるのも悪くは無い。
実は一石三鳥だったりするのか?
「そうか、だが争いは必ず起こる。これは絶対だ」
だからこそ俺は現実を言い放つ。それを受け入れた上でなくてはその目標は叶わない。
「そうですね……」
リンシアは悲しい表情を見せシュンっとしている。
なぜかその表情にやぎもぎする。
俺ってツンツンしすぎなのか?ツンデレは7:3がいいんだっけ。
アリエルの話を思い出しつつ話題を変えることにした。
「そろそろ試験に向かおう。それと後で頼みたい事がある」
「珍しいですね。頼みたい事とは何ですか?」
リンシアは目を丸くしている。
そんなに俺が何か頼むのが珍しいだろうか。
「リンシアの知り合いにどこの手の者も掛かってない商会はないか?そこそこ大きい方がいい」
「ん~……あることにはありますが、商売でも始めるんですか?」
「まぁな」
「クレイが商売をするイメージが湧かないですよ?」
リンシアは眉を寄せキョトンとした表情をする
失礼なやつだな。お金を稼ぐことに俺の右に出るものなどいないわ。
「戻ったら紹介してくれ」
「わかりました、クレイが戻ったら私のお願いも聞いてくださいね」
「あぁ」
「そろそろお時間です」
リルがちょうど良く会話の間に入る。
タイミングを図ってたらしい。出来るメイドだな。
俺達は話を切り上げて、学園に向かうのだった。
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