第30話
ある国の城内、暗がりの部屋の中で1人の少女が『ストラテジー』を打っていた。
コン、コン、コン……。黙々と盤面が動いていく。
「はぁ……」
少女はため息を付いた。
今後どう王国を取り込むべきかを考えていたのだ。
だがため息の理由はそれだけではない。
「こんなゲーム作るんじゃなかった」
少女は手を止め、打つのをやめた。
『ストラテジー』はこの少女が作ったものであった。手っ取り早く資金を増やすために大手商会と手を組み普及させたのだ。
「悩み事ですか?」
1人しかいないはずの部屋から声が聞こえる。
そして暗闇から人影が現れた。
「ミカエル、いきなり現れるのはやめてもらえる? それに羽はしまって貰えるかしら」
少女はその人影の名前を呼び、淡々と注意する。
ミカエルと呼ばれた女性は透き通るようなピンク色の軽くパーマのかかった長い髪に、女として理想的で抜群なプロポーション。そしてその背中には左右3枚ずつ、計6枚の天使のような白い羽が生えている。
「すみません~、ため息が聞こえたので心配になって」
ミカエルはフワフワしたお姉さんのような口調で笑顔を向ける。
羽は次第に透明になっていき、見えなくなっていった。
「……退屈なんです」
しばらくの間考えてから、少女は言った。
視線はあさっての方向を向いている。
「あなたは聡明で賢く、強いですからね。それに容姿も天使顔負けに綺麗ですし……この世界では退屈でしょう」
「私が私でいる限りどこの世界でも退屈よ。それにあの人がいない世界ではどれも同じく感じるわ」
少女は虚ろな目で窓の外を見て言った。
月明かりに照らされた少女の黒髪は煌びやかで光って見える。そしてその行動を一つとっても美しく、世の男性が見たらたちまち魅了されてしまうほどの容姿を持っていた。
少女は外の景色ではなく、どこか遠くを眺めているように感じる。
「でもあなたのおかげでこの帝国は発展し、秩序が保たれているのも事実ですよ」
「それは契約したからよ。それにこの国の事は前座に過ぎません、これから範囲を広げていかないといけませんから」
少女は契約の内容を思い出す。
それが今の生きる目標であった。
「そうですね、そのためにはまずは隣国である王国でしょうね」
ミカエルはそう言って机に置いてある『ストラテジー』の駒を1つ動かした。
「国王の病は治ったらしいわ。それになにやら優秀な駒を手に入れたみたいよ」
少女もまたそう言いながら駒を動かす。
それを見てミカエルは考える素振りを見せた。
「優秀な駒ですかぁ。ん~……どんな方なんですか?」
またも駒を動かしながらミカエルは言った。
少女はミカエルが打った直後に駒を動かした。
「あまり情報はないけど、第3王女を襲ったオークジェネラルの軍団を短期討伐。そして国王の病気を治すことにかなり貢献したらしいわ。それも私と然程変わらない年齢で」
「"剣帝"じゃなくてですか?」
「えぇ、"剣帝"ではなくてよ」
"剣帝"も確かに強いが、病に詳しいほど頭は良くないと少女は認識している。
「使徒でしょうかねぇ?」
「おそらくそうね、そうだったら厄介だわ」
少女は盤面を睨んでいるミカエルに向けて言葉をかける。
「ん~……チェックメイトですか。やはりあなたには勝てないですね」
ミカエルは盤面をしばらく見て考えたが、残念そうな表情を少女に向ける。
「お世辞はいいわよ。それよりも王国を手に入れる作を考えます」
「あなたなら大丈夫です。あまり考え込みすぎないでくださいね」
少女は立ち上がり、自分の寝室へ向かった。
ミカエルはそれを見送り、姿を消した
(こんな簡単な『ストラテジー』ではなく本物の『チェス』がやりたいわ)
寝室に入った少女はそう思いながら、契約を全うするまでどれくらいかかるだろうと考える。
それを考えるだけで憂鬱になった。
「早くまた、あの日のようにチェスを打ちたいわ……お兄様」
少女は呟き、ベッドに倒れこんだ。
第一章終わりました!
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