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第28話

 ――時は少し(さかのぼ)



 クレイが教会へ信徒の儀を受けに行ったあと、教会から少し離れたベンチにメルと座っていた。


 何故かふとした時にクレイの事を考えてしまう。

 多分それは騎士になって欲しいという気持ちから出たものだと思うが、クレイが歩いていると目で追ってしまう自分もいる。



(お父様や兄弟達にはない安心感があるんですよね――)




「それにしても信徒の儀を受けずにあの強さですか。ますます騎士として欲しいですよね、リンシア様」



 メルは考え込んでいたリンシアを見て話題を振ってくれる。

 先日メルはクレイと手合わせしたと言っていた。結果はクレイの圧勝と聞いていたけど、メルはちっとも悔しそうではなかったのだ。

 どんな試合だったのか見てみたかった。



「そうね……でもクレイは騎士になるつもりはないって言ってたわね」



 浮かない顔をしていたかもしれない。

 メルはそんなリンシアを見て慌ててフォローを入れてくれる。



「すみませんリンシア様。ですがクレイも徐々に王都での生活を居心地良く感じていると思いますよ」


「そうかしら」



 クレイが王城に来た次の日にハッキリと「騎士になるつもりは無い」と言われたことを思い出す。

 それ以降騎士の話はしていない。

 「騎士になりたいと思わせるように頑張る」と豪語したものの進展なし。自分を情けなく思ってしまう。



「そうですよ!温泉は毎日欠かさず入ってますし、訓練場での訓練も毎日欠かさずやっております」


「あんなに強いのに、毎日訓練をやっているの?」


「私も感心しました。毎日欠かさずやっております。内容は基礎鍛錬に限りますが」



 メルが手を組み、頷きながらそう言うと徐々に顔を少し赤らめ始めた。

 何かを思い出したようだ。



「どうしたの?顔が少し赤いようだけど」


「いえ、なんでもありませんよリンシア様」



 慌てて否定するが、何かを隠しているようだった。



「メル、隠し事はなしよ。言いなさい」


「えっと、クレイは訓練が終わると…………上着を脱ぐんです」


「えっ」


「ですから、その……上着を――」


「聞こえてるわ」



 顔が赤くなっていないか不安になりながらメルの言葉を遮る。



「それを思い出して顔を赤くしているの?」


「いえ、いや……はい……。その、幼少期から鍛えているようで程よく筋肉質なところがギャップといいますか」



(ず、ずるい!じゃなかった。なんて破廉恥なんですか!)



「そ、そう」



 しばらくの沈黙。何故か気まずい状況になっている。



「ち、ちなみに鍛錬はいつやっているの?」


「鍛錬の時間ですか?大体朝にやっていることが多いですが、何故そんなことを?」


「なんとなくです」


「もしかしてリンシア様も……

 ……筋肉好きなんですか?」


「えっ、特別筋肉が好きというわけでは……」



 メルは筋肉が好きなのか少し興奮気味だ。



「――何奴(なにやつ)!」



 メルは会話を遮り叫び出す。

 すると影からナイフのようなものが飛んでくる。

 当たる寸前でメルはそのナイフを弾くことに成功した。



「……ぐっ……」



 だがその直後、後ろから何者かがメルの首もとを手刀で殴り気絶させた。



「だれか!助け――」



 助けを呼ぼうとしたが背後から何か薬のようなものを口元に当てられた。

 そのまま意識を失った。




―――

――




 目を覚ますと、見覚えのない薄闇が広がる石の天井が目に入った。

 ボーッとする意識の中で手足を動かそうとするが動かない。



「おやっ、起きたようだね。お姫様」



 見知らぬ男の声が耳に入り、完全に目が覚めた。

 辺りを見渡すと手足が縛られた状態で牢屋のような場所にいた。

 声をかけてきた男は動きやすそうな軽装で、いかにも盗賊という格好をしていた。

 きっと牢屋の見張りだろう。

 リンシアは魔法を発動しようと試みたが発動しない。



「魔法を発動しようとしても無駄無駄、ここは『アンチストーン』が使われている牢屋だからね」



 魔力を無効にする魔石『アンチストーン』。

 そこにあるだけで範囲内の魔法発動を無効化する石で、希少価値が高く王城や牢屋などに使われている。



「ここはどこですか?」


「言うわけねーだろ」


「目的はなんですか?」


「そんなこと俺が知るかよ、ここを見張るのが俺の任務。まぁお姫様の末路はこれから奴隷として売られることだけどな」



 男はニヤニヤしながらこちらを舐め回すように見ている。

 その視線のせいか、リンシアは動揺してしまった。



「いいねぇ、もっと怯えさせてやろうか?」



 見張りの男はリンシアがおびえている姿を見てさらにニヤけだす。



「おいおい、しっかり見張りはやってるだろうな」



 するとバンダナを巻いた目付きが鋭い男がやってきて、話に割って入ってきた。



「大丈夫ですよザックの兄貴、逃げる気持ちすら無くすために少々脅してただけです」


「脅しもほどほどにしろよ?」


「メルはどこですか!無事なんですか?!」



 リンシアはバンダナの男はザックという名前で見張りの男の上司に当たると判断した。

 この男なら情報を引き出せるかも知れない。まずはメルが無事なのかを確かめるために必死で叫んだ。



「あの護衛メイドならまだ大丈夫だせ、まだな。だがそろそろパーティーが始まるんじゃねーか?」


「そ、そんな……」



 それを聞いたリンシアは青ざめた。

 ザックは笑いながらリンシアを見下ろす。



「クレイがなんとかしてくれます」



 リンシアはザックを睨んだ。

 どうしてクレイの名前が出てきたのかわからない。

 自分ではどうしようもない状況で、何故かクレイの事が頭に浮かんだ。

 クレイならなんとかしてくれると。



「絵本の世界に憧れすぎだよぉ白馬の騎士を信じてるタチか? ははっ、あの銀髪のガキはこれから殺すんだよ」


「クレイ……銀髪……?」



 ザックが言い終えると、見張りの男の顔が突然青ざめ始めた。



「おい、どうした?」



 ザックは見張りの男の様子に気づき声をかける。



「銀髪のクレイって、ジルムンクのクレイか……?」



 見張りの男はザックの言葉を無視して、リンシアの方を向いて慌てた様子で質問をする。

 これは好機かもしれない。



「ええ……ジルムンクのクレイよ」


「俺は降りるぜ」



 答えを聞いた直後、見張り男はさらに顔を青ざめさせて言った。

 まるでこの世の終わりみたいな表情だ。



「はぁ?いきなりどうした」


「お、俺はジルムンク出身だったんだ……だからわかる、あいつは触れちゃいけない。関わっちゃいけないやつなんだ」


「意味がわかんねーよ」


「クレイはとにかく強いんだ! 俺はこの目で見たんだ、あいつに関わると殺される」


「はっ」



 ザックは尋常じゃなく震え出す見張りの男を呆れた顔で見下す。



「銀髪のガキは報告では確かにそこそこやるらしいが、俺の敵じゃねーよ。それにこっちにはあいつも付いているんだ、万が一なんかねーよ」


「でもあいつは強いんだ!ザックの兄貴でも勝ち目は――」



 ‹ズシャッ›という音と共に、見張りの男が倒れた。

 ザックは剣を抜き斬りつけたのだ。

 見張りの男からは大量の血が流れている。あれはもう助からない。



「うるせーんだよグチグチ。言われたことができねーやつはいらねーよ」



 ザックが剣を鞘に戻し、血まみれの見張りの男を睨む。



「そろそろ終わる頃か。あちらは盛り上がったんだろうな」



 顔をニヤケさせたザックはこちらを舐めるように見る。

 その視線の不快さにリンシアは思わず身震いをする。



「大事な商品だが、俺はお前のことを前から手に入れたいと思ってたんだよ」



 そう言って牢屋の鍵を開けた。

 どこからともなく出したナイフを回しながら近寄ってくる。



「傷ものになったら価値が下がるんだがなぁ、今回の依頼で報酬はかなり入るんだ。お姫様を買っても余る程の額がな」



 リンシアの顎を引きながらザックは言った。

 欲望に塗れたその表情は1番嫌いな表情だった。

 この男はこれから手を出そうとしているのだとリンシアは悟る。



「怯えた顔も可愛いねぇ、ますます興奮してくるじゃん」



 ザックはナイフを舐めてニヤケ始める。

 この状況を心底楽しんでいるみたいだ。



「いや……やめてください」



 リンシアの目からは涙が流れ出す。

 ザックのことが怖いだけじゃない。

 こんなに無力な自分が許せなかったからだ。

 どうしてこんなにも無力なのだろうと。



「こんなお姫様を自分の玩具に出来るなら死んでも悔いはねぇよ」


「じゃあ悔いて死ね」



 聞き覚えのある声と共に、

 <ゴオォォン>と凄まじい音が鳴り響く。

 ザックはその場から吹き飛び、壁を突き破って外に放り出されていった。



「クレイ!!」



 リンシアは声の正体の名前を叫んだ。



「あぁー……無事みたいだな」



 クレイはそう言って手足を縛っているロープを解いてくれる。

 その瞬間リンシアはクレイを抱きしめた。

 こぼれる涙を我慢せず、力の限り抱きしめる。


 しばらくするとクレイは無言でリンシアの頭を撫でたのだった。

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