第27話
夕暮れ時、俺は手紙に書いてあった住所に向かって走っていた。
あれからリルには事情を説明して、住所の読み方を教わった。
リルは驚いてかなり動揺していたが、どうにか落ち着かせることが出来た。
別れ際に「リンシア様とお姉ちゃんをお願いします」と言いながら深々と頭を下げていた。
その態度がリルっぽくなくて調子が出なかったが、「あぁ」と一言。
「確かこの辺だが」
そこは廃れた建物がいくつもある小規模な集落のような場所だった。
王都にもこういう場所があるんだな。
少し進んでいくと、大きめの建物から声が聞こえた。
俺はその声に耳を傾けた。
「ん~~……んっ!!」
その声に集中すると会話の内容まで聞こえるようになった。きっと【神の五感】の効果だろう。
便利すぎだろこの加護。
恐らく声の主はメルだろう。俺は勢いよく扉を蹴り飛ばした。
建物の中は広い倉庫のような作りになっていた。薄暗くて少し埃っぽい。
真ん中にはメルが椅子に縛られていた。
「ん~!!んんん!」
口を縛られているようで何を喋っているかわからない。
メルの元まで行き、口を解放してあげると叫び出す。
「クレイ、後ろだ!」
「後ろが疎かですよぉ」
後から声がした。
咄嗟に横に向かって飛ぶ。
斬撃が背中を掠めた。
「ほぉこれを躱しますかぁ」
「ご丁寧に声が聞こえたものでな」
俺は口を綻ばせながら言った。
これまで気配に気づかなかった経験などほとんどない。
こいつにはそれほどの技術があるのか。
俺は男に目を凝らす。
――――――――
《サナス・グローズ》
Sスキル
【超隠密】
Aスキル
【極剣技】
加護
【信徒の加護】
――――――――
【超隠密】~能力スキルSランク~
・気配を遮断する。
【極剣技】~能力スキルAランク~
・剣術を扱うと能力を発揮しやすくなる。剣術の上達速度が上がる。
――――――――
Sランクスキルというのはここまで高性能な能力なのか。
俺が気配を感じられないとはな。
「こいつは王国騎士団所属のサナス。汚職疑惑でリンシア様が目をつけていた男で、こいつに襲われた!」
メルが俺に情報を与えるために叫ぶ。
今回の誘拐事件の実行犯ということか。
「良いスキルを持っているようだが、もう通用すると思うなよ」
俺は口を綻ばせ、サナスを挑発する。
スキル【完全再現】によって一度経験したことを昇華した。
これでこいつの気配を見逃すことはもうない。
「本当に威勢のいいガキですねぇ、本物の強者と出会ったことがないんでしょうねぇ」
「お前が強者みたいな言い方はやめろ。小物に見えるぞ?」
「あっははぁ、面白いガキですねぇ。この期に及んで挑発ですかぁ。相手の強さを見極められないなんて本当に残念ですよぉ」
「選ばせてやる。大人しく投降するか、死ぬか、どっちがいい?」
「さっきから調子に乗ってますねぇ、クソガキがぁ」
するとサナスは間合いも詰めずに剣を振った。その斬撃は形になって俺の元へ飛んでくる。
見えているので軽々と躱したが、そこで異変に気づいた。魔力が練れないのだ。
躱した斬撃は風の刃として壁を抉った。
明らかにあの斬撃は魔力を纏っている。
「あぁ言い忘れてましたけど、この倉庫では『アンチストーン』が散りばめられているので魔法は使えませんよぉ」
サナスは笑顔でそう言いながら、ポケットから石を出し見せつけてくる。
「そしてこれは持っていれば『アンチストーン』の範囲内でも魔法が使える『ファンストーン』、凄く希少なんですよぉ?」
そう言ってサナスは斬撃を飛ばしてくる。
「わざわざ説明とは大物ぶっているようだが、やっていることは小物と同じだぞ」
俺は躱しながら呆れた表情でサナスを見る。
「まーだわかってないんですねぇ、小物はお前なんだよクソガキ!」
態度を変えてきたサナスが俺との間を一瞬で詰める。そして連続で斬りかかって来る。
「蒼斬乱舞ぅぅぅ!!」
サナスの魔力が纏った剣を一撃でも当たれば切断させられるだろう。
俺はそれを笑顔で全て躱していく。
【蒼斬乱舞】が終わるとサナスは俺との間合いを取った。
「一体何をしたクソガキ!魔法も発動せずに蒼斬乱舞を躱しきっただと?」
「ブチギレて剣を振りまくるとかますます小物だな」
サナスの問には答えず、さらに挑発をした。
「小物はてめぇだよ!」
そう言ってサナスはメルに向かって斬撃を飛ばし始めた。
俺はメルの盾になり斬撃を受けた。
「ほぉ、気力の使い方は上手いようだなぁ」
【気功鎧】、気力を身体全体に張り巡らせてダメージを緩和する。
だが魔力と違いそこまで目に見えて防御出来る訳では無いので斬撃による傷から血が流れ出ている。
「優しさは人を弱くすると言いますが、そのとおりだ」
「試してみるか?」
俺はそう言って唇を緩ませる。
そして1歩ずつゆっくりと前に進む。
「何を試すんだぁ?」
サナスは斬撃を放ち続け、俺はそれを受け続ける。
幾多もの斬撃が肉を切り裂いていくが、構わず前に進む。
次第に距離は10メートルほどになる。
「我慢強い性格のようですがぁ……これで終わりだよクソガキィィ!」
サナスが構えると、剣に魔力が集まり光り出す。
「【極・舜突連絶】」
先程の斬撃よりも早い高速の突きが繰り出される。
しかも1撃ではない、5撃。
魔法によってか、その5撃の突きは1つとなり同時に俺を襲う――
――次の瞬間、俺は剣を真っ二つに折り、サナスの正面に立っていた。
サナスは目を見開き、驚愕な表情を浮かべている。
サナスが持つ【ファンストーン】とやらの有効範囲を【蒼斬乱舞】のときに見極めていたのだ。
そして、その間合いに入った瞬間に魔法を発動させた。
火、風、土の5級合成魔法と剛拳の合わせ技【業火雷迅拳】。
雷速の鋭い拳を打ち付けるこの技を剣の中心に打ち込んだのだ。
「剣と同じくプライドも折ってやるよ」
サナスの胸目掛けて【柔拳】を放つ。
こいつにはこれで充分だ。
「ぐっ……」
サナスは血を吹き出し、その場にドシンと倒れる。
「すごい……」
戦いを見ていたメルはポツリと呟いた。目を見開いて感服しているようだった。
「エグゼクティブヒール」
6級魔法である【エグゼクティブヒール】を唱えて傷を癒す。
そして縛られているメルの所へ向かい、手足の縄を解いてやる。
「クレイ殿、リンシア様が!」
「リンシアの痕跡は辿れる。俺はそっちに向かうから、メルはこの男を縛り上げといてくれないか?」
俺はこの倉庫からリンシアの痕跡を見つけていた、それは匂いである。リンシアがいつも飲んでいる紅茶の香りが鼻についた。
恐らくはこの倉庫に1度2人を運んで、リンシアだけ別の場所に移動させたのだろう。
普通では嗅ぎ分けることなんて出来るわけがないのだが、【神の五感】により嗅覚が発達しているおかげだ。
「わかった、この男生きてるのか?」
「一応な」
「リンシア様を頼む」
「あぁ」
俺はメルに返事をして痕跡を追って走り出した。
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