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第24話

 ダンジョンに行ってから2週間が経過した。

 国王の容態は魔力のおかげか安定していて、油断さえしなければ完治できる可能性がかなり増えていた。


 俺は朝、起きてから自室で待機している。

 今日は教会へ行くことになっていたからだ。


 ダンジョンから帰ったあと、リンシアに信徒(しんと)の儀について確認した。

 王都では月に1回、各教会で信徒(しんと)の儀を行うそうだ。

 そして儀式を受けていないことにかなり驚かれた。それほどこの世界では常識になっていて、受けていることが当たり前だったらしい。



<コンコン>



 俺がソファーで寛いでいると、部屋の扉からノックの音がした。

 気配からリルだということがわかる。



<ガチャ>



 入室の許可を出そうと思ったら先に扉が開く。

 ノックの意味あんのかよ。



「おはようございます捨て犬。おやっ、ノックした意味あんのかって顔してますね」


「朝から散々な呼び方だな。それに人の心を読むな()メイド」


「これは失礼しました。リンシア様がお呼びです――ちゃんと用意した服に着替えているようですね」



 リルは悪びれた様子もなく謝罪をしたあと、俺の全身を眺めて言う。

 信徒(しんと)の儀は白をモチーフにした服を着て参加する必要があるらしく、リンシアが用意してくれた衣装を俺は着ていた。

 そこまで豪華な装飾がない騎士をイメージしたセットアップである。



「これじゃないとダメなんだろ?」


「はい。この世で1番クレイ様に似合わない色の服ですね」



 リルは顔をニヤニヤさせて皮肉を挟む。

 今日も絶好調だな。



「確かにそうかもな、俺は暗めの色の方が好きだ。それに白を見ると染めたくなる」



 俺はわざと皮肉を受け入れ、唇を緩ませながらリルを見た。



「確かに私のような純白な心と身体を染めたくなる気持ちはわかります」


「お前の話じゃねーよ。それにどこが純白なんだよ腹黒メイド」


「純白ですよ。味見してみますか?」



 リルはそう言ってニヤケながらスカートを両手で掴み上げ、太ももを露見してくる。



「俺はお子様には興味ねーよ」



 心底残念そうに、わざわざ貧相な胸に視線を当てて言った。

 誘惑するなら女らしさをアピールしろよ。 



「クレイ様はわかっていませんね。私ぐらいの方がお手頃で人気なんですよ」



 リルは相変わらずニヤケている。

 こちらをかなりからかっている様子だ。



「貰い先がいないんだろ……可哀想なメイドだ」


「なっ……こう見えても私はかなりモテますよ」



 図星なのか、挑発に乗ってきた。



「はいはい、具体例のない言い分は虚偽(きょぎ)とみなしまーす」



 俺は適当に受け流した。

 こいつの恋愛事情は別に気にならない。



「この前街へ行ったら手紙を貰いました」


「証拠がないものについても虚偽(きょぎ)とみなしまーす」



 手紙って中学生かよ。あぁ、こいつまだ12歳か。

 むしろ12歳に手紙を出した奴がどんなやつなのか気になるぞ。



「ぐぅ……近所ではリルちゃんは可愛くてモテモテだねって噂されてました」



 どんな近所だよ。しかもそんな噂されてて嬉しいか?



「早くリンシアの元へ案内しろ」



 俺はため息混じりでそう言って、リルの主張を無視してとっとと部屋を出る。

 リルが「今度証明してみせます」と言って悔しそうな顔をしていたのが滑稽であった。


 応接室に行くと、リンシアと護衛メイドのメルが紅茶を飲みながら『ストラテジー』をやっていた。

 こんなチェスもどきのどこが面白いんだかわからん。今度本物のチェスのルールをこいつらに教えてみようかな。



「おはようクレイ、似合ってますよ」



 リンシアがコマを動かしながら俺を見て笑顔を向けてくる。

 メルは俺に一瞬視線を向けてからすぐに盤面を見やる。あの手合わせ以来なんか避けられている。



「俺は暗めの方が好きだがな」


「心が黒いので(ボソッ)」



 俺の言葉に後からリルがチャチャをいれる。



「早く仕事に戻れ嘘つきメイド」


「モテモテメイドは仕事に戻ります」



 リルはそう言って退出した。



「妹と仲がいいのだな」



 メルは俺とリルのやり取りを聞いていたのか、こちらをチラ見した。



「あれが仲良く見えたら病気だぞ」


「クレイ殿は妹のような子がタイプなのか?」



 あぁ手合わせの時に立てたフラグは気のせいではなかったやつだ。

 どう答えるべきだろうか。



「俺はどちらかと言うと、清楚で教養がある方がタイプだな」



 正直に言うことにした。

 俺はそう言いながら何故か視線をリンシアに向けてしまった。そしてリンシアと目が合う。



「清楚で教養がある……」



 俺の言葉をメルは繰り返す。

 そして視線に気づいたのか、慌ててメルは否定した。



「リ、リンシア様は一国の王女だぞ不届き者!!」



 何故かリンシアは顔を赤らめて下を向くが、おそらくわざとだろう。

 場をかき乱すような反応をしないでくれ、誤解が生まれる。



「王女様には興味ない。それに俺はどうせなら黒髪がいいな」



 髪色にこだわりはなかったが、前世での紗奈のことを思い浮かべ俺は考える素振りを見せて頷きながら言った。

 あれこそ俺の理想、完璧な女性だ。



「「ガーン……」」



 2人は声を揃えてショックを受けている。

 メルは本当にショックを受けているように感じた。

 そしてリンシア、何故お前まで便乗するんだ、王女なんだからしっかりしろ。



「というか、お前たちにはもう決まった相手がいるんじゃないのか?」



 この世界では女性の婚姻は早めに結ばれるらしい。

 15歳で成人としてみなされるので当たり前ではあるが。



「リンシア様には婚約者がいますが私は……」



 落ち込むメルを見て、ますます地雷を踏んでしまったと感じた。

 一応フォローを入れておくか。



「メルは美人で顔も整っている。そして意思も強い。だから焦らなくてもいい人は見つかるから安心しろ」



 なるべく真剣な顔でメルをフォローする。



「そ、そうか。私は美人か、ありがとう――」



 メルは照れながら顔を赤らめた。

 フォローは成功したが、何故か新しいフラグを立てたような気がした。

 


「リンシアは流石王女様って感じだ。婚約者ってどんなやつなんだ?」



 強引に話題を変えて、リンシアに質問した。



「私にふりますか」



 リンシアは浮かない表情をしていた。



「話したくないならいいが」


「話したくない訳では無いです。ただ評判はあまり良い家柄ではないんです」



 その浮かない表情から察した。おそらく派閥の件で利用されているのだろう。



「あー、あの第2王子絡みか」


「はい、ルシフェルお兄様の抱えている貴族の中で、最近勢力を増しているケイン・ミミク・カミナシ侯爵の子息なんですよ」



 政略結婚的なやつだな。地位あるものは自由がない。

 俺は地位に縛られない自由な生き方がしたいな。



「嫌な息子なのか?」


「1度お会いしたことがあるのですが、私の身体を舐めるように見回したあの表情が頭から離れません」



 リンシアは当時の状況を思い出したのか身震いをしながら言った。

 トラウマになるぐらいの経験だということをなんとなく察した。



「それに、父親であるケイン侯爵は裏で色々汚職をしている節があります。勢力を増している貴族なので私の力では表立って追求することが出来ないんです」



 悲しそうにリンシアが言った。

 きっと自分の非力さを恥じているのだろう。

 なんとなくその姿が可哀想だと思ってしまったが、俺が口出しする事ではない。

 そして気まずい雰囲気になってしまった。



「あぁ~、そろそろいい時間だし教会に向かおうぜ」



 無理やり話題を変えて、俺たちは信徒の儀が行われる教会へ向かった。

面白い、続きが見たいと思った方はブックマークよろしくお願いします!

必ず完結させるので応援よろしくお願いします!

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