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第198話

本当にすみません……

誤字多すぎですよね……

誤字報告してくれた方、本当にありがとうございます。

 荒れ狂う魔力の暴風の中、俺は跳躍した慣性を受け流すために体を一回転させた。

 腕に収まったマリアが落まいと必死に首元へ手を回して縋り付く。そんな彼女を軸にして回ることで遠心力の負担を最小限に抑えた。


 何事もなく地上に両足を付けて、確認を取ってからマリアをゆっくりと下ろした。



「大丈夫か?」


「はい、平気です」



 無理しているのではなく、本当に平気そうに応えるマリア。三半規管は強いらしい。



「私よりも、ダグラスはどうなりましたか?」



 自分よりも他の者。慈愛に半分呆れながら俺は視線を真下へと落とす。


 足元にはそのダグラスが横たわり気を失っていたが、身体がピクリと動いた。



「ぐっ……んん……」



 そして目を覚ます。

 俺との戦闘でのダメージか、お腹を擦っている。


 マリアはその場に膝をつけて屈み、見えない目でダグラスの様子を覗う。



「目覚めたのですね。ダグラス」


「マリア……様」


「今更、敬称は不要ですよ」



 薄ら笑いを浮かべてマリアが呟くと、ダグラスは何かに耐えかねて、まぶたを深く落とした。しばらくして眼を見開き、



「……すまなかったね」



 と短く言葉を紡いだ。

 どうしてだか、その一言には色々な感情と意味が込められている気がした。



「もういいのです。それに、あなたも被害者なのですよ」


「それとこれとは話が別だよ……自我がなかったとはいえ、私はマリアに手をかけようとした。いや、それだけではないね……。この法国の民にすらも害をなそうとしたんだ」


「……でも、未遂に終わっています」


「そこの青年のおかげでね。未遂だろうと実行したのは事実なんだ。私はそれ相応の罰を……いや、命をもって償いを裁てるべきかもしれない」



 フレンスもそのようなことを言っていたのを思い出す。なぜ法国はすぐに命で償おうとするのだろうか。それほどまでに本気で事実を受け止めているということなのだろうが腑に落ちない。

 そんなことよりも、今は最優先にやらなければならない事がある。



「感傷に浸っているところ悪いが、その話は後にしてくれ。今はあれを片付けるのが先だ」



 俺はそう言って上空に視線を向ける。その先にあるのは未だにバチバチと激しい音を立てている神器であった。

 杖を彩る12色の玉がランダムに点灯を繰り返し、ダグラスの魔力供給を絶って尚、魔力のドームを3層形成している。


 さらには、先程までは確認出来なかった触手のようにうねり出すものまであった。まるで、何かを探るような動きである。



「あれはなんでしょう。命ある生き物のようです」



 異様な光景を察知したのか、マリアが臆しながら呟いた。ダグラスも驚愕に身を見開く。



「私の元を離れても魔力を放出しているのか……? そんなの、ありえない」


「やはり、あれはありえないことなのだな」



 アテナの使徒であるククルに、ヘファイストス使徒であるユーシス。それにアレスの使徒であるヴァン。そのいずれもが神器を所持していた。神器はあくまで道具であり意思があるわけではない。


 あの神器だけが特別かとも思ったが、そういうわけではないようだ。


 ではなぜ動いているのか。



「神器はダンジョンで見つけたんだな?」


「そうだ」


「そのダンジョンに歪な魔力を放つ魔石がなかったか?」


「君の言う魔石には覚えがある。隠し通路を辿っていった場所。奉納されるように厳重な魔法で縛られていたものだ。神器、【魔杖(まじょう)ヘルメス】の試し打ちとして調査魔法を試みたが、使った直後、神器へと吸収されるように吸い込まれていったんだよ」


「……なるほど」



 神器に吸収された魔石はおそらく【ハーデスの力の欠片】。


 もしかしたら、その力の欠片には意思があるのかもしれない。


 以前、エルフの郷のダンジョンで戦った《ディザスター・バイデント》はその力の欠片から産まれた魔物である。


 力の欠片にはひとつひとつに意思があり、何かを贄とすることで現界させているのかもしれない。


 媒体が道具に対して有効であるかは不明。ただあの神器は魔力を欲して動いているようだ。



「この範囲で魔力を使えば吸い取られる。魔力を使わずに圏外まで離れるぞ」



 触手を形取る魔力が微かに肥大していくのを感じて俺は指示を出した。

 ダグラスはゆっくりと起きやがり、マリアと共に移動する。


 魔力を補充してあの化け物級(ディザスター)が出てきたら面倒くさい。それに被害も尋常じゃないほど出るだろう。



「マリア」


「わかっています」



 俺が呼びかけるとマリアはすぐさま返事をした。どうやらこの状況を打破する最適解をわかっていたようだ。



「即答か」


「私で力になれるのであれば」


「いい顔するようになったな」


「本当ですか?」


「ああ」



 そう言うと、マリアは少し照れながらほのかに頬を朱色に染めて口元を綻ばせた。



「危険だ。魔力を吸収するドーム……それに私の魔力供給がないとはいえ、神器は神器。いくら対抗があるとはいえ、そんなところにむす……マリアを連れていくなど――」


「私が行きたいのですよ。ダグラス」



 ダグラスの決死な主張をマリアが遮る。真撃の眼差し。瞳を閉ざして尚、瞳孔に光を宿したような覚悟が感じ取れた。



「私が、行きたいのです」



 もう一度同じ言葉を紡ぐ。力強く、一切の反論を許さない主張。説得を諦めたダグラスは俺へと目線を向けた。

 何が言いたいのかは、なんとなくわかっている。



「安心しろ。怪我はさせない」


「任せたよ。クレイ・インペラトル」


「名前、知ってたのか」


「記憶はあってね。私はこれでも最高司祭統括。入国する者、全員の名前と詳細は把握していたよ」


「仕事熱心なことだな」



 俺はマリアへと向き直る。両手で力こぶを作って自らを鼓舞していた。



「俺がマリアを連れて神器の元まで跳ぶ。あとはわかるな?」


「私が触れればいいのですね」


「そうだ。あともうひとつ。お前のXスキルはおそらく接触型ではなく放出型だ」


「……どういうことでしょう」


「触れたものだけではなく、無効化できる範囲を操作できるということだ。そうだな…… 【神殺の聖域(サンクチュアリ)】とでも名付けようか」


「【神殺の聖域(サンクチュアリ)】……」



 それを聞いて、マリアは嬉しそうに復唱した。どうやら気に入ったらしい。

 神をも打ち消す清廉な領域。ティアラにネーミングセンスの指摘をすることはあったが、俺も大概のようだ。



「範囲操作の鍵となるのはおそらく感情だ」


「感情……?」



 それが俺の結論だった。

 リンシアに12神の使徒であることを暴露した夜、俺の【神の五感】が無効になる条件を色々と試したのだ。


 触れたときは必ず無効になる。

 それ以外は無効になるときとならないときがあった。


 思えば海信都市クラウディアで最高司祭たちの前で《ラグナ》として姿を見せたときも【神の五感】 は使えなかった。


 それはマリアが都市での暴挙を聞いて、憤りや悲しみといった感情を高ぶらせる要素があったせいである。

 細かい条件は不明だが、喜怒哀楽の動きで範囲の大小を決まっているようだ。



「感情が高まったり荒ぶったりするとその範囲は広くなる。マリア、喜怒哀楽どれでもいい。何か感情を抱くんだ」


「突然言われても……」



 マリアは少し困惑の表情を浮かべる。確かに主張が抽象的すぎたようだ。


 俺がこの使い方を提案したのも、保険をかけるためであった。

 跳躍すれば行動は制限される。魔力を使うこともできない。もしかしたら神器が抵抗したり予想外な動きをしたときに、接触不可避にならないともいえないからだ。



「自分の中で1番感情が変化したことを思い出してくれ」


「感情が変化したこと…………わかりました」


「ものわかりがいいな。本当に大丈夫か?」


「大丈夫ですよ」



 何故か俺の視線を正面から外してマリアが告げる。試しに【神の五感】を発動させてダグラスを見るが情報は表示されない。確かに大丈夫なようだ。



「乗ってくれ」


「……先程とは違うのですね」



 おぶろうと背中を向けて屈むと、マリアは少し不服そうに表情を曲げる。



「こっちの方がいいと思ったが……まぁいいか」



 俺は先程と同じようにマリアを膝からすくい上げて、お姫様だっこをする。

 出るところは出ているのにかなり軽い。箱入りだったらしいが、もっと食べた方がいい――。


 そんなくだらないことを片隅で考えながら、足の裏に気力を貯めた。


 さっきよりも触手は多い。近寄れば魔力を求めて捕まえようとするだろう。

 3層の魔力ドームは壁のように固くはないが、多少の抵抗はあるはず。


 ドームの内側を蹴って1層ずつ進路を変えて進もう。



「行くぞ」


「はい!」



 マリアの明るい返事を聞いて、俺は跳躍をした。




 真っ直ぐと神器の元へと進む。

 正面から吹き付ける鋭い風を気力で受け流して抵抗をなくす。



「まずは1層」



 やがて1層目の魔力ドームへとぶつかった。

 多少どころか、かなりの反発がきたが、中へと入ることに成功する。


 黄土色の濃厚で圧縮された魔力。元素である火、水、風、地が絵の具のように入り交じっていた。

 直後、触手が素早い動きで伸びてくる。



「やはりきたようだな」



 俺は体を右向きに回転させて、ドームの内側を蹴った。軌道をずらして2層目に向かう。少し遠回りだが、触手の隙間を縫っているので仕方ないこと。

 幸か不幸か、触手の戻りはだいぶ遅い。そのまま2層目のドームへと突撃する。



「2層目、いくぞ」



 すどーん、と抜けるような音がなる。

 2層目は1層目よりも魔力が濃厚であった。



「いや、これは……」



 多すぎる酸素は毒であるように、濃い魔力もまた体に害を成す。


 俺は大丈夫だが、魔力に充てられ慣れてない者なら、たちまち意識を失ってしまうほどの濃度だ。


 まずい、と思うよりも先に俺は魔力を放出してマリアごと球体に形成させる。

 大気の魔力を緩和させて薄めた魔力を内側に流しているのだ。



「マリア、意識はあるな?」


「一瞬、苦しかったですが、もう大丈夫です」



 間に合ったようだ。


 しかし、俺が魔力を使ったことで、ドーム内の大気が魔力をぐんぐんと吸い取っていく。


 必要としている魔力がどれくらいなのかわからないが、早めに無効化したほうがいいだろう。

 俺は再びドームを蹴りあげてそのまま3層へと向かった。



「――ん?」



 そこで違和感に気づく。思いのほか自分に残っている魔力が少ないのだ。


 このドームによっての影響ではない。もっと前から――そう、先ほど目を覚ましたときからである。



「3層だ。いよいよだぞ」



 そんなことを今考えても仕方がない。魔力はまだ十分に残っている。


 俺の報告に、ぐっ、とマリアは握る力を強めて応えた。

 視界が暗い。それは前が見えないほど黒く染まった濃厚な魔力であった。


 魔力を補充したからか、新たな触手が形成され、目前の距離で襲いかかってくる。

 俺はそれを体を捻ることで躱し、4度目の跳躍をしようとした。


 が――。


 ガシャーンと金物が割れたような音が響き、空間が弾けた。

 それに伴い形成されていたドームが崩壊して、視界が一気に開ける。


 同時に、神器から放たれる魔力も一切感じなくなった。


 4回目の跳躍など必要ない。どうやら【神殺の聖域(サンクチュアリ)】の範囲内に入ったようであった。



「成功だぞ。マリア」


「はい!!」





 俺たちは【フライ】で緩やかに地上へと着地をした。

 そっとマリアを下ろすと、ダグラスが小走りで駆け寄ってくる。



「マリア、よくやったね」


「私は聖女としての使命を果たせたでしょうか? 」


「ああ、十分に。聖女として先代にも劣らない姿だったよ」


「……それが1番の褒め言葉です」



 マリアは花が咲いたようににっこりと笑う。聖女として法国のために動けたことがマリアにとってなによりも嬉しかったのだろう。

 死にたいと呟いていた面影はどこにもない。俺も思わず口元を緩める。



「あの魔力ドームの中で意識を保てるなんてね。それに私と互角以上に戦った力量。君は本当に一介の騎士なのかい?」


「一介の騎士だよ。王国のな」



 ダグラスの問いかけを適当に流しながら、俺は続けて問いかけた。



「なあ、魔法の効果時間はどれぐらいなんだ?」


「【古の(エンシェント)鎮魂歌(レクイエム)】は自身が最も幸せだった時の夢を見せ続ける魔法だ。自らの意思で決別するしか目覚める手段はない」


「……そうか」



 ダグラスの言葉に俺は頷く。

 最も幸せだった夢を見せ続ける魔法。俺はそんな夢を見ていただろうか。



「なんにせよ、まだやることはあるな。眠った街の奴らを起こすって仕事だ」


「それって……」


「【神殺の聖域(サンクチュアリ)】があれば大丈夫だろう」


「うぅ……頑張ります」



 ダグラスたちの処罰に交流会の終着点。これからの評議など、街の人たちが目覚めてもやらなければならないことはまだある。

 それを伝えたら心が折れそうなので、後で伝えることにしよう。



「ん? これは……」



 すると、俺の元に魔力の糸が繋がっていくのを感じた。

 それは俺が連絡用に使う【メッセージ】。相手はハク。

 しかし、普段より乱雑な魔力制御であった。ハクらしくない。



『ハク、どうした?』


『クレイ……ごめんなさい……』


『なにかあったのか?』



 今にも泣きそうな、苦渋をなめるような絞り出された声色であった。

 もやっとした嫌な予感が過る。

 ただ、その予感は次の一言で顕となる。



『ティアラを……守れなかった』

ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

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