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第189話

 宵闇に染まった深夜の通路にひとつの影があった。熟練した達人のような足さばきで、音も出さずに歩を進める。その足取りに迷いはない。目的地は決まっているからだ。


 やがて、たどり着いた絢爛な扉の前で足を止め、指輪の嵌まっている左手を、触れるように扉へ翳す。


 魔法により何重も掛かったロック。それが簡単に解除された。


 ゆっくりと扉を開いて静かに閉める。入口を覆うカーテンの隙間から室内を窺った。


 豪奢で大きな寝具にテーブルと椅子。それしかないシンプルな部屋。真夜中の屋外よりも月明かりがないぶん薄暗い。


 静謐(せいひつ)で神聖な空間。奥の青白い光を放つ部屋から聴こえる仄かな水音も、その演出を強めていた。


 視線がベッドへと流れる。シーツの起伏を確認して、部屋主が寝ていることを認識した。

 食事に入れた眠り薬のおかげで目を覚ますことはないはずだが、用心して忍び足で一歩踏み入れる。


 慣れた手つきで懐から短剣を取り出し、くるくると回して構えた。(つば)の中央には堂々と王国の紋章が彫られている。


 その者がここへ来た目的はただひとつ。この部屋の主である――聖女を殺すことだ。


 暗殺と言い換えた方がいいだろう。しかしながら、まだ人を殺めたことのない未熟な暗殺者である。


 心音の高鳴りが覚悟の妨害をしてくるが、目を閉じて、鼓動を押し殺す。

 呼吸を落ち着けると、一つ結びの髪が微かに揺れた。


 一歩、また一歩とベッドの側まで足を進める。初めて拝見する聖女の寝顔はとても美しかった。まだ淡い15の少女。女神のような麗しい寝姿には自国の王女を連想させる何かを感じた。



「(これで私もお役御免っすね)」



 自身にすら聞き取れない、か細い声が自然と盛れる。

 暗殺に手を染めた者に未来はない。優秀な者は違うのかもしれないがここは違う。証拠を隠滅するために殺されるのが常だ。そう教わってきた。


 使い捨ての駒。無価値の人間に与えられた一寸の価値。それが密偵――【(とら)】に与えられた使命である。


 両手で短剣を握り、眠れる少女の真上に構えた。魔法も気力も使用しない。そのせいか柄を握る力も強くなっていく。


 後は振り下ろすだけ。

 意志を固めて、胸中で数字を数える。


 3……2……1……。



「(さよならっす)」



 美しい少女の寝顔に。そして、これからの自分に――。


 閃光にも似た鋭く刃が振り下ろされる。

 鋭利な剣先が少女の胸元に――。


 届かなかった。


 というよりも、まるで鋼鉄の何かに衝突したような衝撃が返ってきた。

 短剣が微塵も動かない。


 それもそのはず、透明で壁のようなものが、聖女の身体を取り巻くように保護しているからだ。それは無属性魔法【防護(プロテクション)】。


 それだけではない。よく見れば、剣身を何者かに握られていたのだ。

 暗殺者は取り乱して、腕の伸びる先へと振り向いた。



「誰っすか!」



 短剣を捨てる勢いで、そのまま肘を振りつける。

 剣身を掴んでいた何者かが、それを悠々と避けながら短剣を回収した。

 やがて、夜闇に慣れた目がその姿を捉える。

 暗殺者は瞠目して、動揺の言葉を口に出した。



「どうしているんすか……団長」


「俺も聞きたいことがあってな。リオン」







「お前さんは、飛行魔法も使えるんだな」



 俺の背後から早足で追いついてきたフレンスが興味深げに問いかけてきた。


 俺のいる場所は塔内の通路。ひたすらに長い螺旋階段を【フライ】で一気に昇って来たところである。

 その際に、フレンスも効果範囲内に入れてあげたのだ。



「練習すれば誰でも使える。複合魔法が使えればな」


「複合って難易度たけーな、おい。法国じゃグレンシャルとダグラスさんぐらいしかできないぜ」



 複合魔法もそんなに難易度が高いものではないはずだ。リンシアやハクだって自然と使えている。



「まあいいや。それで、歩きながらでいい、お前さんの目的を聞かせてくれよ」


「ここへ来た時点で大体想像はついているんだろ」



 俺が指摘すると、フレンスはしばし黙考した。

 俺たちがいる階層は45層。この階層にいる人物は1人しかいない。

 結論にたどり着いたのか、フレンスは少し言いにくそうに口を開いた。



「……知ってたのか?」


「そういうことになるな」



 何が? とは問わない。



「どこで情報が…………。確認するがお前さんは本当に【虎】じゃねーんだよな?」



 フレンスからすれば、聖女暗殺の情報を知っている時点で疑うには十分な理由なのだろう。



「そうだと言っている。俺がその暗殺者なら、お前と今話していない」


「じゃあなんでわざわざ戦ったんだよ」


「お前を試すため、と言っておく」



 塔の入口でフレンスの姿を目撃したとき、俺は無視をしようとした。それはフレンスがダグラス側の人間だと思っていたためだ。


 しかし、そうはしなかった。

 もしもフレンスがダグラス側の人間ではないなら、という仮説を立てた時に納得する点があったからである。


 その場に留まり、迷いを帯びた立ち姿を晒していたこともそうだが、法国を訪れた初日のマルクスとの模擬戦。圧倒的な力を見せつけるために本気を出せばいい場で、マルクス――というよりも王国側の顔を立てるようにわざわざ手を抜いた点が不可解であった。


 結果的にフレンスの戸惑った姿勢や文言から、聖女であるマリアの死を望んでいないということがわかったのである。

 まあ、向こう側の人間だったとしても関係なく伸していたと思うが。



「なるほどな。それでどうだったんだ」


「さぁな。真意はわからんが、お前からはマリアを救いたい意志が感じ取れたよ」


「……」



 フレンスはバツの悪い表情で沈黙した。

 それはダグラスへの裏切り行為だと捉えたからだろう。



「あと、馬鹿なのもな」


「ば、てめえ、馬鹿って言ったな!? 馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞ!」



 そういうところを言っているんだが。



「馬鹿だが、命令に盲目に従うだけのダグラスの犬ではないってことだ」


「ダグラスさんは何もない俺を拾ってくれたんだ。ダグラスさんのおかげで今の俺がある」



 そう言うが、フレンスは複雑な表情をしている。何か事情があるのだろうか。



「そうは見えないぞ」


「本当にダグラスさんを慕っている。もしもダグラスさんが死ねと命じれば、それに答える覚悟だってできているんだ。でも――」



 フレンスは一呼吸おく。俺は黙って続きを待った。



「最近のダグラスさんの政権は、なんていうか……間違えているような気がしてよ」


「ほう」


「俺が馬鹿なだけかもしれないが……ダグラスさんは過激に物事を運ぶような人じゃないんだ。もっと慎重派というかな……」



 言いたいことがまとまっていないのか、フレンスの説明が意味不明であった。



「今みたいなことはなかったと?」


「いや、もちろんあったよ。以前に帝国と揉めたときも武力行使を選択したし、不遇司祭への暗殺だって何度も行使してきた」



 今までがなかったならまだしも、あったのかよ。

 よくわからないけど、最近は間違ってる気がすると言われても困る。



「じゃあ、王国との交流会に関係があるのか?」


「あー、そうかもしれない。確かに王国、というよりもあの王子と接点を持ってから過激に動くようになったような」


「なんだその曖昧な表情は」


「わかんねーんだよ。きっかけといえば、あとは、ステラ様が亡くなったときぐらいか」


「ステラ?」


「今の聖女様の母君だよ。ダグラスさんも慕ってた女性だ。亡くなった当初は心を痛めていたしな」


「……なるほど」



 マリアの話では、ステラの死は司祭たちが企てたものだという見解だった。

 それが故意ではなく過失だっとするなら、ダグラスはステラの死を経て、自分の中での考えを改めた可能性がある。それを王国第二王子のルシフェルと関わることがきっかけで、開花させ、この現状をひきおこしているとも言えるのだ。

 他にも色々な仮説を立てられるが。



「まあなんにせよ、聞いてみないとわからんだろ。この件を証拠に問い詰める予定ではあったからな」


「……そうか」



 この件が公になればダグラスの立場も危うい。フレンスはそれを危惧しているようだった。もしかしたらフレンスも牙を向いてくる可能性だって考えられなくもないが、今はなんの問題でもないと判断した。



「とりあえず着いたぞ。先回りできたようだ」



 通路を歩いた先の広いスペース。そこには豪奢に飾られた扉があった。これが聖女の間――マリアの部屋である。



「どうすんだ?」


「中に入って待つ、【虎】とやらを」


「まてまて。聖女の間は清廉の儀を受けた生娘しか入れないんだぞ。入れる者は……聖女と子を成す御仁だけだ」



 ティアラもそんなことを言っていたが、そんな決まりがあったようだ。俺はもう一度ならず、三度もここに足を踏み入れてしまっている……。

 しかしながら、マリア自身がそれに触れてこないということは、その法に対して異議を持っているのだろう。なんにせよ、問題はないはずだ。



「じゃあ待ってろ」


「お前さんは入るのか?」


「言ってなかったが、俺は生娘なんだよ」


「嘘つけよ。俺も行く」


「……好きにしろ」



 これでフレンスも共犯だ。



「だがよ、ここにはダグラスさんの魔法で鍵が掛かってて、解錠するためには特別な指輪が――」


「ごちゃごちゃ言ってないで早く入れ。あと、どんな事があってもここに来たその暗殺者に手を出すなよ」



 解錠された扉を見てフレンスは目を見開いている。



「お、おう」



 俺たちは【超・気配遮断】を発動させて、室内へと入った。





 リオンは法国領土西部の海沿いの街、クラウディアで生まれ育った。軍に所属するおおらかな父と、足が不自由でも前向きに生きる母、そして、品もなく高圧敵ではあるが、たまに優しさを見せる姉の四人家族。


 決して裕福ではない家庭であったため、父親が持ち帰ってくるギリギリの銀貨で平和に暮らしていた。


 ところがある日――父親は訓練中の事故で他界してしまったのだ。不慮の事故。新兵であった父親の不注意により起こったもの。よって、金銭的な補助を受けることができない残酷な出来事でもあった。


 法国には御布施(おふせ)という形で献上しなくてはならない税金が存在する。それを支払わなければ、街の外――街を二分するように隔たれた柵、敗者の境界とも呼ばれていたその向こう側に追いやられる、法国での暗黙の了解の法でもあるのだ。


 リオンの家に、3人分の御布施を支払える財力はない。すぐさま追い出されそうになったのだが、そこで救いの手が差し伸べられた。


 それはイーリス法国の最高司祭統括であるダグラス・ジ・ヴィンセントからの提案。内容は至極簡単なものであった。



『子のどちらかを密偵として捧げなさい。そうすれば金銭的な援助をしよう』



 それは家族との縁を切り、法国のために尽くせという内容である。


 リオンは迷わず、立候補しようとした。


 それは姉には才能があると感じていたためだ。

 何をやっても器用に熟す姉。できるまでに多大な時間を費やす妹。

 天秤にかけるまでもない。将来が有望であり、未来のある姉がこの家に残るべき。犠牲になるのは自分だとリオンは思った。


 しかし、リオンが立候補する前に、姉がリオンを指さして、「こいつが適任かと思われます」と告げたのだ。


 それからはあまり覚えていない。

 密偵としての訓練を積み、1年ばかりで王国に派遣された。


 でもリオンは前向きに生きることにした。

 家族が幸せに生きていけるならいいと。その家族にはもちろん姉も入っている。



「明日はもっといい日になる……明日はもっといい日になるっっっす!」



 元気で笑顔が似合う母のような女性。それがリオンの付けた王国での仮面であった。


――


 闇に慣れた眼は、目前の青年――クレイの鋭利な眼光をはっきりと映し出していた。

 手に持ったリオンから奪った短剣をくるりと回し、懐へとしまった。



「やはり、法国側だったんだな」



 呆れたような、残念なような、そんな感情の込められた言葉に、リオンはたじろいでしまう。

 全て見透かされている。そう悟ってしまうほどには、リオンはクレイのことを高く評価はしていたからだ。



「そうっすよ。私は法国の密偵こと、リオンちゃんっす」


「開き直ったようだな」


「言い訳する必要ないっす。団長――クレイ君はいつから気づいてたんすか?」



 いつものように明るく振る舞い、リオンは探るための言葉をかけた。



「最初から……というわけではない。だが、違和感は感じてたな」


「違和感?」


「やたらとお前は王国の内情に詳しかったからな。アルカディアに入学した日のこと覚えてるか?」



 入学した日。それは何処ぞの男爵子息に「お前はズルを使った!」と絡まれて、クレイに助けてもらった日のことだ。



「貴族の子供しか入れない聖騎士科。俺は王族にスカウトされたと伝えたんだが、お前は『国王の不治の病が治ってよかった』と言ったんだ」


「それがなんだというんす」


「病ならともかく、『不治の病』は箝口令が敷かれている情報だ。ある程度の貴族ならともかくお前のような一般民が知っているのはおかしい」


「あー、なるほどっす。でもある程度の貴族と知り合いだったなら、知れる情報っすよね」


「そもそも、お前がある程度の貴族と知り合いであることが違和感の対象ではあるんだがな。あとは『第2王子様だったら平民は絶対に推薦しない』とも言い切ったな。ルシフェルはあれでも王位継承第1位であり、外面がいい上に隙を見せない。それにリンシア誘拐の容疑者を捉えた英雄として称えられていた時期でもあった。お前は何故、ルシフェルの内情を知っていたのだ? それも、ある程度の貴族にすらわからない本性の部分を」


「……」



 第2王子ルシフェル。それはリオンが王国の潜入に際して情報を集めるために1番時間を費やした王族でもあった。明らかになったのは裏での悪行の数々。掘れば掘るだけ、ルシフェルに繋がる。まさに悪の親玉。

 そう認識していたせいで、一般人との認識の不一致があることに気づかなかったのだ。

 そんな低次元のミスをしてしまうのは、やはり自分には才能がないのだと改めてリオンは思った。

 クレイは続けて、口を開く。



「あとは、そうだな。この前、イシュタルトに行ったんだよ」



 海港都市イシュタルト。王国で唯一の海沿いの街。



「……そういうことっすか」



 リオンは悟った。クレイは確信を持って告げていると。


 以前、クレイを武器の素材集めに同行させる条件として、『新鮮な魚料理をご馳走する』と説明していた。『海沿いの街で生まれ育った』と付け加えて。

 おそらくクレイは、イシュタルトでリオンの住んでいた痕跡がないことに気づいたのだろう。


 当時は深く関わる予定もなかったし、まさかここまで調べられるとも思っていなかった。


 この条件を提示するよりも先に洞窟に赴き、クレイの実力の片鱗に触れていたなら、そんな判断はしなかっただろう。



「そうだな。俺に魚料理をご馳走するつもりはなかったことが残念だよ」


「そんなことないっすよ。機会があったら、ちゃんと……ご馳走する予定だったっす」


「クラウディアでか?」


「……」



 もはや何も言い返せない。そこまで調べられていたのかと感嘆すら湧き上がるぐらいに、リオンは驚きに満ちていた。



「私のこと嘲笑ってたんすか」


「そんなことはない」


「つまり、証拠を掴むために泳がせてたってことっすかね?」


「それもあるだろうな。だが、そうだな……俺はお前を信じてみたかった気持ちもあったんだよ」


「……」



 その言葉にリオンは本気で瞠目した。

 根拠の無いものは信じるに値しない、気持ちで判断するのは二流のする愚かな行為だと、リオンは教えられたのだ。


 これでもリオンはクレイの実力を認めている。だからこそ、そんな愚かな行為を実行したクレイが許せなかった。ただ同時に、リオンの中で暖かな何かが芽生えてしまう。



「団長に相談はなしか?」



 厳しくも優しい口調。それは希望を抱かせてくれるような、思わず救いを求めたくなるような実力者の言葉である。


 揺らぎそうになる。だが、リオンは感情を押さえ込み、ただ、淡白な事実をなげかけた。



「私は王国に潜入するために育てられた存在。ダグラス様のために動くのが私の役目っす」


「そうか」


「まさか、期待してるんすか? くだらないっすね。王国も、友情ごっこも、私抜きでやってくれっす」



 感情を殺して模造を語る。

 そうしなければ……法国のために動かなければ……家族が救えないからだ。



「なら、どうしてお前はそんなにも辛そうなんだ」


「っ……」



 やはりリオンは密偵には向いていなかった。

 胸にしまい込んだ感情が、表情に出てしまっている。

 リオンの表情は歪み、そのふたつの瞳から雫が一滴流れ出した。



「もう、終わりっす」



 これ以上話していたら、色々話してしまいそうになる。頼りたくなってしまう。それではダメなのだ。


 だから、リオンは袖口から予備の短剣を出した。


 正体のバレた密偵に明日はない。速やかに自害することは名誉に繋がることだとリオンは教えられていたからだ。そうすれば家族への援助金を止めないとも。


 自分の胸元に剣先を突き立てる。


 コンマ数秒の動作であった。

 心の準備もカウントダウンも必要ない。聖女を殺すときよりも、スムーズに身体が動いていた。


 が――。



「させるわけないだろ」



 先程と同じ感触がそんなリオンの行動を阻害した。短剣は硬い何かに跳ね返されて、手元を離れていく。



「反則っすよ。クレイ君……」



 リオンの刃を止めたのは、いつの間にか掛けられていた【防護(プロテクション)】である。あの一瞬で、クレイは魔法を発動していたのだ。それも【アンチストーン】に囲まれたこの部屋で。


 ゆっくりと落ちた短剣を拾いあげ、クレイは口を開いた。



「アイン・フォン・サンタナ」


「っ!?」



 リオンは吃驚し、目が大きく見開いた。

 どうしてクレイから母親の名前が出るのかと。



「実はカルロ――まあ、野暮用があってクラウディアにも行ったんだ。そこで、旦那を事故で亡くして子供を国に取られた足の不自由な婦人がいてな。彼女はどうも、働けない自分に悔いているようだったんだ。自分のせいで娘が犠牲になってしまったと」



 クレイは間違いなくリオンの母親のことを言っていた。

 それも、自分を悔いているとも。リオンが口を開こうとするも、その前にクレイが続きを語りだす。



「偶然にも俺はその娘と知り合いだったわけよ。だから婦人に交渉したわけ。今のあんたでも雇用できる場がある。そこで働く代わりに娘に会わせてやると」


「……えっ」


「俺に約束を破らせるなよ」


「クレイ君……」



 クレイの断片的で短い言葉には色んな意味を含んでいた。

 高揚する感情がリオンの中から溢れてくる。先程とは別の理由で頬を涙が伝っていった。



「ぐれいぐん、なんで言ってくれながったっだんずがぁあぁあ」



 漏れ出た感情を吐き出すようにリオンは泣き愚者った。

 もはや一松の不安さえない。何故ならあのクレイが裏取りをしたのだから。



「お前の故郷は王国になるっぽいぞ」



 加えてクレイはそう告げた。

 しばしの間、聖女の間にはリオンの泣き声が響いたのだった。

ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

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