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第183話

日常パート長いですよね。

ここからはさくさくいきたいです(願望)

 出発の日は雲ひとつない晴天で迎えた。

 昇る朝日が眩しく、実に外出日よりだ。

 俺が王城へ向かうと既に何台もの馬車が並べられていて、騎士や衛兵たちがあっちこっちに動き回っていた。


 他の騎士団が先導して準備を行っているため、やることがない。

 何をしようかと考えていると、俺に気づいたリオンが1つ結びの髪を揺らしながら近ずいてくる。



「おはようっす。団長」


「おう。団長呼びはやめい」


「ここはお城なんすから、そんなわけにもいかないっすよ」


「不敬罪のことか? 俺が咎めなければなんの問題もないだろ」


「そうじゃなくて、クレイ君が団長じゃないと、周りの圧力に負けちゃうんすよ」


「どういうことだ?」



 などと話していると、ふたりの男が走って来るのが見えた。

 見覚えがのある容姿。やがて男たちは俺の元へとたどり着く。



「遅いですよ。団長~」



 最初に声を掛けてきたのはキノコヘアーが特徴的な男。名前はマッシュ。学園時代での最初の遠征で同じチームとして行動してからの付き合いである。


 男爵家の次男で商会を手がけている家系のため、商業関係で話すことが多かった。

 爵位が継承されない次男のため、騎士と商売、どちらの道を進むかで悩んでいたのだが、俺が騎士団を設立するとのことで騎士の経験を積むことにしたのだ。



「クレイ殿がいないと、我々は居心地が悪いでごわす」



 そしてもうひとりの、髪型が角刈りの男はカーモ。こいつも遠征からの付き合いだ。

 3度の飯よりもトレーニングが好きらしく、筋肉隆々。恰幅のいい身体がその証明でもある。

 平民出身のため卒業後は王都の衛兵を志願していたのだが、面談の日に大遅刻をして落ちてしまった。次の応募をしようとしていたところに俺の騎士団設立の話を聞いて志願してきたという流れだ。



「堂々としてればいいだろ」


「それはクレイ殿にしか出来ない芸当でごわす。初出征に加えて、今回はあのエウレカ騎士団と合同任務なのですぞ!?」


「それがなんだというんだ」


「総勢3万人を超える規模に団長は絶大な貢献を残してきた騎士家系、カンニバル家の直系子息でごわす。それに引き替え、我々はたったの5人! 気楽にしてろという方が無理でごわすよ!」



 素知らぬ態度の俺に対して、カーモが唾を飛ばす勢いでまくしたててくる。それにリオンも続いた。



「そうっすよ。『団長』がいないと私たちは、か弱いうさぎちゃんなんすよ」



 なるほど、とリオンの主張の意味を悟る。


 今回、交流会の護衛の任に就くのは俺たちラグナレス騎士団の他にエウレカ騎士団がいる。

 これまで収めた功績は王国第3位の騎士団であり、公爵や侯爵などの上流貴族の護衛を任せられることが多い実力有り、名誉ありの有名な騎士団だ。


 それに引き替え、こちら側は功績なし。設立したてほやほや騎士団で団員もこの場にいる俺、リオン、マッシュ、カーモに加え、同じく遠征からの付き合いのミールという女騎士の5人のみ。


 立場的に弱いがゆえ、せめてもの『団長』という肩書きを確立させたいのだろう。

 学生上がりとはいえ、騎士爵を得ている者はそう多くないからだ。



「お前らの気が楽になるのなら好きなように呼んでくれ」


「さすが団長っす。頼りにしてるっすよ」



 リオンの言葉にマッシュとカーモが同時に頷く。団員たちの結束も硬いようで何よりだ。



 その後、人手が必要とのことでマッシュとカーモ、そしてリオンの団員たちは手伝いをしにいく。

 団長の俺はリンシアの搭乗を見守るという使命があるので、王城の入口付近へ向かった。


 すると、明らかに怪しい動きをしている男が目に付く。

 体をそわそわと揺らしていて落ち着きがない。さらには「すー、はー」と深く呼吸をしている様子。

 俺は背後からそっと近寄っていった。



「お前、何してんだ」


「うわぁっ……なんだ貴様か。ここで何をしている平民……いや、今は騎士爵か。平民上がりの騎士爵がここで何をしている」


「いや、俺は正式な任務でここにいるからな? お前こそ何してんだよ」



 言い直す意味あったのかよ、と指摘したくなる返答をしてきたのは《マクルス・フェン・カンニバル》という男だった。


 真ん中分けした濃い紫色の髪を肩まで伸ばし、誰が見ても美青年という印象を抱かせるイケメンな容姿をしている。

 しかし、切れ長すぎる目が鋭く、近寄り難いという評判だった。


 聖騎士科Sクラスの同僚でもあり、No.2の成績を収めて卒業している。

 卒業後はヴァンと同じくアルフレッド騎士団に入団していたはずだが、何故このような場所にいるのだろうか。



「言われてみれば、そんなのことを聞いたような……。今回は我々アルフレッド騎士団も少数ながら同行することが決まったのだ」


「なるほど。それはまた、急な変更だな。俺の耳には入ってなかったよ」



 そういった変更は普通、団長に報告がいくものだ。

 だが、俺は報告を受けていない。向こうからしたら、俺たちの騎士団などいないものとして扱われているのかもしれない。



「僕の場合は、その……家から直接言われてな。兄に同行するようにと」



 俺の言葉を別の意味に捉えたのか、マルクスは言い訳を始めた。

 エウレカ騎士団の団長はマルクスと同じカンニバル家の者だ。



「お前も大変だな」


「平民上がりにはわからないだろう」


「まあ、貴族の建前は性に合わないな」


「貴様のそういうところが嫌いだ。僕には劣るが、アルカディアの聖騎士科を10位以内に卒業しているのだぞ。名誉ある学園だ、まぐれということはないだろう。だからこそ、作法を身につけるべきだろう」


「お前は気を張りすぎなんだよ。もっと気楽に構えた方がいいとは思うけどな。そんなんじゃ女も寄り付かないぞ?」


「婚約の件は関係ないだろ!」


「婚約の件ってなんだよ」


「しまった……なんでもない。忘れてくれ」


「お、おう」



 やばい、という様子でマルクスはそっぽを向く。貴族は早めに婚約すると聞くが、何かあったのだろうか。

 学園時代、マルクスはいかにも貴族という姿勢で突っかかってくることが多かったが、このように抜けている部分もあるため、俺としては面白いやつだと認識している。



「んで、お前はここで何してたんだ。それに深呼吸もして……緊張することなんてないだろ」


「馬鹿者。騎士はいつなんどきでも臨戦態勢をとっているものだ。僕ほどの騎士ともなれば、常に敵の予測は怠らない」



 その主張には一理あるが、先ほどのマルクスの様子はそういった類のものでもない気がする。

 そんな事を話していると、王城の扉が開かれていく。



「ようやくか。お姫様の入場だ」


「なに!?」



 するとマルクスは慌てた様子で再び深呼吸を始めた。今の今まで腕を組んで悠々としていた者とは思えない変化であった。



「どうした? さっきまでと、なんか違うぞ」


「うるさい、集中しているんだ! 貴様は黙っていろ」



 もの凄い剣幕で言われてしまう。いったい何に集中しているのだろうか。


 そんな疑問を払拭させる暇もなく、リンシアが銀の髪を(なび)かせながら城内から顔を出す。

 外行き用のドレスは煌びやかで、いつにも増して(うら)らかであった。メイド兼護衛のメルも後に続く。


 向かう先は王族専用の馬車。

 その馬車の前に仕立てのいい騎士服を纏った男性が背筋を張って立っていた。胸元にはキラキラと輝く勲章がいくつも飾られていて、そいつが搭乗のエスコトートをする段取りになっている。



「リンシア殿下、ご機嫌うるわしゅう。こたびは我がエウレカ騎士団が殿下の護衛に付けることを光栄に思います」



 男性は見た目通り丁寧な挨拶を交わしながらこうべを垂れる。リンシアも笑顔でそれに応えた。



「ありがとうございます、カンニバル卿。交流会の期間に限られますが、よろしく頼みましたよ」


「光栄の極みでございます。どうぞお乗りください」



 そう言って、男性は手を差し伸べた。リンシアは眉根を下げて少しだけ立ち止まるが、手を取り馬車へと乗り込む。

 メルもそれに続くが、男性は見向きもしなかった。メイドだから当たり前なのだが、男性はメルに対してだけ嫌悪を示すような、見下した目線を向けていた。



「私は殿下の前の馬車に搭乗していますゆえ、何かありましたらすぐに団員にお申し付けください」


「助かります。カンニバル卿」


「では、短い間ではありますが、よろしくお願い致します。あと10分ほどで王国を発ちますのでしばしお待ちください」



 そう言いながら扉を閉める男性。

 その一連の流れを見て俺は端的な感想を述べる。



「なんかあいつお前に似てるよな。気取ったところとか」


「馬鹿者! 僕と兄上ではうんでいの差だ。僕など足元にも及ばない」



 リンシア搭乗の際にエスコートしていた男性は、護衛の任に就くエウレカ騎士団の団長エルド・フェン・カンニバルだ。

 王国から伯爵の地位を授かるカンニバル家の長男であり、マルクスの兄でもある。

 気取った態度に鋭い目付き、濃い紫の髪は未来のマルクスを見ているようなぐらいに似ていた。



「まあ、お前の方が人間的には面白いけどな」


「貴様に言われても嬉しくない」


「それで、なんで緊張してたんだよ」


「緊張などしていない!」



 突っぱねるような口調。そんなマルクスへからかうように俺は告げる。



「もしかして、お前リンシアに惚れてんの?」


「ばばびべばば、ばかもの! そ、そんなわけないだろう!」


「えぇ……図星だったのかよ」



 冗談のつもりだったが、あながち間違っていない反応であった。



「違うと言っているだろう! いや、リンシア様が美しくないとか、問題があるとか言っているのではないのだ。逆に、あの煌びやかな容姿に優しさ溢れる慎ましい性格は王女として――いや、女性としての鏡であり、世の令嬢たちは見習うべきだと常々思っている。僕のような者が近寄ることすらおこがましい」


「めちゃくちゃ褒めてんじゃん。惚れてるなら素直に認めろよ」


「だから違う! 僕なんかが手の届く存在ではないのだ。これでも身分は弁えている」


「届く存在だったとしても、お前にはやらんがな」



 妹を想う兄心で俺は告げた。



「元々貴様のものでもないだろう! 口を慎め!」


「はいはい」


「君たち、何を騒いでいるのだ」



 すると、剣幕が入り交じった声で急に呼ばれる。

 搭乗の際に付き添っていた男性――エルドであった。



「あ、兄上。申し訳ありません」


「よく見れば、マルクスか。王族の前で何を騒いでいるんだ恥知らずが。ここは見せ小屋ではないのだぞ? 場をわきまえろ」



 即座に頭を下げたマルクスにエルドは鋭い眼光で怒声を浴びせた。兄弟仲はいいとはいえないようだ。

 やがてエルドは眼光を俺へと向ける。



「君は……あぁ、付き添いの騎士団の者か。確か名前は……」


「クレイ・インペラトルだ。あんたのことは知ってる。よろしくな」


「なるほど。聞いたとおりの男のようだ。平民揃いの冒険者組合ではさぞ持て囃されたのだろう。しかしここは実力が備わった騎士たちの集う場だ。礼儀には気をつけたまえ」


「そうだな。あんたの継承にも響かないぐらいには大人しくしてるよ」



 継承前の貴族子息という含みを皮肉として混ぜる。

 もちろんエルドはその意味に気づいている様子だった。



「……今後は我々エウレカ騎士団が先行する。くれぐれも実力のない平民は邪魔をしないように心がけたまえ」



 それだけ言い残して立ち去っていくエルド。

 マルクスが怒鳴る勢いで言葉を投げ入れてくる。



「あいつ、最初のお前よりも凄いな」


「兄上の実力は僕よりも上だ。カンニバル家の傑作と父上も自慢するほどにな」


「そういう意味で言ってねーよ」



 『態度が』という意味で告げたつもりが、『実力が』と捉えたのだろう。

 こういう真面目なところが面白いのだ。



「それよりも貴様、兄上になんて口の利き方を!」


「継承前なんだから、俺らとそう変わらないだろ」


「そうだが、カンニバル家当主代理なのだからそれなりの敬意をだな」


「はいはい。とりあえず俺たちもいこうぜ。腹減ったし」



 マルクスの説教を聞き流し、俺たちは別々の馬車へと向かったのだった。

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