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第179話

遅れてすみませんm(_ _)m


とりあえず前半パートが終わった……はずです

 不本意な形で海信都市クラウディアを出た俺は、マリアとハクを連れて次元属性魔法を発動させた。

 目的地は法国の首都、イーリスの塔にあるマリアの部屋だ。


 これ以上の厄介事に巻き込まれないために早めに戻るという選択をとったのである。



「なにここ、めっちゃ暗いじゃん」



 着いて早々、きょろきょろと周囲を見渡しながらハクが呟いた。

 俺は付けたままであった仮面を外し、【アイテムボックス】へと放り込みながらそれに答える。



「マリアの部屋だ」


「へえ、何もないね」



 俺が抱いたのと同じ感想がハクの口からほろりとこぼれる。誰が見てもそう感じるだろう。



「まあ、使いやすそうではあるよね」



 そして俺と同じフォローをして、そのまま、隣の部屋の浴室の方へと歩いていった。

 泉をモチーフにした広い大浴場に驚くことだろう。


 とりあえず、ハクには言いたいこともあったが、それを後回しにして、俺はマリアの様子を窺うことにした。

 最高司祭との会話も聞かれているので、聞きたいこともあるはずだ。



「クレイ様が、あのラグナなのですか?」


「まあ、そういうことになるな」



 その問いかけには予め用意していた答えを口にする。

 ここで誤魔化すことはしない。これ以上聞かせられない情報も多かったためだ。



「噂はかねがね聞いています。悪魔を滅ぼせるほどの力を有しているのでしょう。司祭たちも必死に探しているようです」


「そうらしいな。まあ、あの司祭たちの味方になるつもりはないが」



 俺の言葉にマリアはほっと胸をなでおろす。

 それから一呼吸おいて、再び質問を口にした。



「では、単刀直入に聞きます。あなたは神の使徒様でしょうか?」


「そうだ。法国の最高司祭の一角と同じ、12神から加護を受けた使徒にあたる」


「……っ!」



 これに対しても予想通りの問いかけであった。

 俺があっさり認めると、マリアの顔に緊張が走る。


 ラグナならまだしも使徒に関して隠す必要は本来ない。

 知名度もないため、普通なら騒ぎにもならないからだ。

 自ら明かすことが出来ないというだけの話なのだ。


 しかし、これによりマリアの心境が変化することの方が問題である。



「……では、その神の使徒様が何故私の元に?もしかして私を――」


「残念ながら、俺がここへ飛ばされたのは本当に偶然だ。さっきのことがなければ正体を隠すつもりでもいたしな。マリアを救いに来たわけではない」



 だからこそ、期待を持たせてしまう前に、俺はばっさりと切り捨てた。

 その希望はマリアの毒になると判断したからだ。今のマリアに必要なのは希望や救いではなく、おのれ自身で立ち上がる意思である――と、俺は考えていた。



「そう……ですよね」


「俺には俺の目的があり、そのために動く。至極当たり前のことだ」



 あからさまに落ち込むように顔を俯けるマリア。

 これは俺の態度にではなく、先程の都市での出来事が響いているせいだろう。


 だがこれは良い兆しに思えた。

 それは気落ちする理由がここを出る前と違う理由であったためだ。


 本来はここまでしてやる義理など俺にはない。ここからは単なるお節介になる。

 しかし、リンシアやティアラ、ハクなどを含め、俺の周りの者たちならどうするかを考えると、きっと放っておかないだろう。


 だからこそ、俺はマリアに問いかけるという選択をした。



「マリア、お前はどうしたい」


「どうしたい……ですか?」


「ああ。聖女とか、先代からの使命とか、そういうのを抜きにして、お前自身がどうしたいかだ。何が欲しいかだ」


「……」



 マリアは黙考してやや俯く。眉根を寄せて考えている様子だ。



「言っていいのでしょうか」


「別におちょくるつもりもない。素直な気持ちを言えばいい」


「私は――もう一度、リンシア様やティアラ様とみんなでまたお話がしたい……です」



 マリアの口から願望が、ゆっくりとこぼれ落ちる。

 そのまま、内に秘めていた気持ちが言葉となって溢れ出していく。



「今日、口にした飲み物をまた飲んでみたいです。またあの海に赴いて、風をあびたいです」


「それだけか?」


「……あの貧しい信者たちを救ってあげたい。法国を王国のような豊かな国にしたい……です」



 あの都市が特別だっただけで、王国領土全てが豊かな場所とは言いきれないが……今、それを告げる必要はない。



「国を豊かにする。どこかの国の王族もそんな願望を口にしていたぞ」


「私は何も知りませんでした。愚かですよね。司祭たちの報告を信じて疑っていなかった。信頼していないと言っておきながら、耳通りのいいものだけは信じてるなんて……」



 マリアの拳に力が入る。

 悔しさと惨めさ、半分半分といったところだろう。



「聖女を無下に扱えど、上に立つものとしての力、国を導くための力は疑っていなかったんです」


「まあ、それなりには頭のいいやつらだからな」



 俺はフォローを入れて、続けて言葉を選ぶ。



「今日の茶会はまた開けばいい。今日飲んだものもまた口に出来るし、海の風にも当たれるだろう。だが、国の問題は簡単にはいかないだろうな。そのためにどうすべきかマリアは考えたのか?」


「……私にはその力がないのです。聖女といっても形だけ。発言権なんて……」



 自分には何もないと考えがちな典型的な例である。どんなに無価値なスキルでも、意外と世の中から必要とされるものだ。



「力というのはなにも、自分だけの枠で考えるものではない」


「……どういうことでしょう」


「私たちがいるってことだよー」



 浴室から戻ってきたハクが会話に入ってくる。

 何故か髪の毛が濡れている。おそらく一風呂浴びたのだろう。羨ましい。



「私たち友達じゃん? クレイはその友達もマリアの力なんだって言いたいんだよ」


「そうなのですか?」



 ハクに代弁されるとむず痒い。こういう雰囲気はどうも苦手だ。



「……そうだな。それに力は今だけに限らない。これから付けていくことも、増やしていくことも可能だ。王国との交流会だって控えているのだろう?」


「……」


「探そうと思えば、力なんてものは沢山あるんだ。見向きもせず無価値と決めつけたら、本当の無力になるぞ」


「……」


「マリア、お前はどうしたい。そのためにどうすればいいのか、考えてみろ」


「……」



 少々まくし立てすぎてしまっただろうか。

 そんな危惧とは裏腹に、マリアは俺とハクへ、顔を交互に向けた。

 閉ざされた瞳から秘めたる眼光のような力強さが伝わってくる。



「私なんかがいいのでしょうか」


「いいと思うよ。乗りかかった泥舟じゃん」



 それは沈むぞ。と心中で指摘しておく。



「クレイ様、ハク様。どうか私にあなたたちの力を……知恵をお貸しください」


「いいよー!」


「まあ、条件次第だな」


「でたー、クレイの悪い癖。ここジルムンクじゃないんだよ?」


「私自身ではだめでしょうか?」


「それはいいや。全く興味ないから。自分をもっと大切にしろ」


「ダメだよマリア、クレイは私との子供を作るんだから」


「そんな約束はしてねーよ」


「仲がいいのですね」


「幼なじみだからねー!」



 くすくすと笑うマリア。

 昨夜までは死にたいと告げていた少女の表情は年相応の子供っぽい笑顔になっていた。



「それはそうとマリア、最後に確かめたいことがある」


「なんでしょうか」


「お前の力――Xスキルについてだ」

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