第15話
俺たちは国王の部屋に入ると、国王はこちらに気づいて頭を向けた。どうやら目を覚ましていたらしい。
見た感じ顔色などは昨日と変わらないが、痙攣は少し収まっているような気もする。
それに魔力も少し高まっているような感じも伺えた。
「容態はどうだ?」
「不安は…なくなった」
国王は昨日と同じ様子で答えた。
不安がなくなったのは精神を安定させる【リラックス】のおかげだろう。
俺は昨日と同じ手順で検査を始めた。するとウイルスの死骸からは国王の魔力が若干残っているのがわかった。
前世では助からない凶犬病ではあったが、この世界では魔力があることによって、抵抗力も増えているのだろうか。
「どうですか?」
俺が真剣に考えていると、心配になったのか、リンシアが不安そうに伺ってきた。
「昨日よりも若干魔力が活性化している」
「活性化ですか…それはいいことなんですか?」
「魔力自体がウイルスに抵抗しようとしているということだな」
「良くなっていると?」
答えを聞いて、次第にリンシアの表情は晴れていった。
「昨日よりは助かる確率も増えたということだ。魔力暴走を起こす恐れはあるが、それを抑える術は持っている」
「よかった……」
安心した様子でリンシアは言った。
昨日よりも助かる確率が増えたこともあり、少し嬉しそうな雰囲気も読み取れた。
「まだ油断は出来ない。治療はしっかり続けないといけないがな」
「わかっています。お父様をお願いします」
リンシアは再び顔を引き締めて言った。
俺は検査を終わらせ、昨日と同じ魔法をかけていく。
さらに俺の魔力で国王の余分な魔力を大気に分散させていった。
「次は夜だな」
一通り分散させ、ポーションを飲ませた。
朝の治療はこれで終了。
俺達は国王の部屋を出ることにした。
国王の部屋を出てしばらくすると、正面から第二王子のルシフェルが歩いて来るのが見えた。
すれ違いざまリンシアは会釈をする。だがルシフェルは足を止め、俺に訪ねてきた。
「父上の容態はどうだ?」
国王の容態が気になるようすだった。父親だから心配という雰囲気を出している。
「昨日の今日だ。何も変わらないし、まだわからない」
俺はあえて魔力の活性化のことは話さないでおくことにした。
国王が亡くなる方がルシフェルにとって都合がいいとリンシアからも聞いていたからである。
それを聞いたルシフェルは「そうか」と一言残して去っていった。
「ありがとうございます」
ルシフェルが見えなくなったあと、リンシアは申し訳なさそうに感謝を述べた。
王族へ虚偽の報告をさせてしまったことへの罪悪感からだろう。
俺は王族に嘘をつくことに対して何も感じないのだが、ここは普通に答えることにした。
「あぁ」
「私はこれから少し仕事があります。クレイはどうしますか?」
「俺は……訓練場に行きたい」
予定があったわけではなかったが、訓練をしようと思い立った。
スラム街であるジルムンクにいた頃から訓練は毎日欠かさずやっている。
1ヶ月間の訓練場所は知っておきたい。
「訓練場――そうですか。クレイもしっかりと訓練しているんですね」
少し驚き、なぜか嬉しそうな表情を見せるリンシア。
「習慣なんだ。1日でもサボると変な気分になる」
別に大それたことをやる訳では無いが、体力量と魔力量だけは日々の鍛錬で増やしていかないといけないのだ。
「わかりました。リル、案内してあげて」
「かしこまりました」
リンシアの言葉にキビキビとリルは返事をした。
「訓練のあと、少し街に出るぞ」
そしてこれも今思い立ったことだ。王都に来てから街に出ていない。
一通り回りたいというのもあったし、ジルムンクでは見なかったアイテムや本などが見つかりそうだからだ。
「街にですか。何か用事があるんですか?」
俺が街に出ることを不思議に思ったのか、リンシアは問いかけてくる。
「特に目的はないが、王都に来るのは初めてだから観光だな」
「なるほど、こっちに来てからバタバタしていましたからね。案内は必要ですか?」
リンシアは納得したような表情を浮かべた。
「1人でいい」
「わかりました。夜の治療までには帰ってきてくださいね」
「わかってる」
俺は返事をしたあとリンシアと別れ、リルの案内で訓練場に向かうのだった。
◇
訓練場に着くと、リルは素直に施設についての説明をしてくれた。
「王族や聖騎士様のような実力のある者は第1訓練場。騎士団の方は第2、第3訓練場。その他の用途でここ、第4訓練場を使います。普段はあまり使われていませんが、学生や実力の低い者は特訓のために使っていますね」
訓練場は1000人ぐらい余裕で入れる規模の広さだった。学校の校庭を思い出す。
これで第4訓練場とは王城の施設はなかなか凄いものなんだな。
そして遠くには護衛メイドのメルが1人で訓練をしているのが見えた。
「この第4訓練場ならいつでも使っていいのか?」
「はい、クレイ様みたいな友達がいないボッチのためにある訓練場ですので」
素直に説明していると思ったらこれだよ。
「俺がボッチなことは否定しないが、あそこで訓練してるお前の姉もボッチということになるぞ?」
「お、お姉ちゃんには私がいます」
慌てながらも、少し恥ずかしそうにリルは言った。
リルもシスコンだったか……。
「とりあえず案内ご苦労。仕事に戻れシスコンメイド」
一応言い返しておくことにした。
「わかりましたボッチ犬様。私はリンシア様の元に戻りますね」
そう言い返したリルはさっさと行ってしまう。仕事が溜まっているのだろうか。
こういうやり取りも慣れてくるといいものである。
「さて、まずは走るかな」
俺は立ち去るリルの後ろ姿を笑顔で見送り、訓練場を見渡した。
するとメルがこちらに向かってくるのが見えた。
「クレイ殿も訓練か?態度に似合わず勤勉なところもあるんだな」
メルは笑顔で言った。訓練が好きなのだろう。
「習慣だ。体力量と魔力量は日々の鍛錬で伸びる」
「なるほど、意外に真面目で驚いたぞ」
「普通だろ。休憩か?」
「いや、クレイ殿とリルが見えたから来たんだ」
心配性の姉だなと思いながらも、メルを観察する。
訓練の時もメイド服を来ていることには驚いたが、緊急時はメイド服でいることが多いので理にはかなっていると納得した。
だが訓練場にメイド服はなんとも言えない奇妙な光景だった。
「そうか」
「クレイ殿、私と手合わせをしないか?」
俺がたんぱくに返すと、メルは唐突な提案をしてきた。
「なぜ?」
「実践を交えた方が上達する。それにクレイ殿の実力を体感したいんだ」
メルは凛とした態度で俺を見る。
実践の方が訓練になる。それにメルの技を1度見てみたいとは思った。
むろん見たことない技を自分で再現するためである。
メルの武器はクナイが2つ。つまり暗鬼術を使うということだ。
知識と技術が増えることは喜ばしいことなので、俺は前向きに答えることにした。
「わかった」
「準備運動は必要か?」
これの答えを聞いて、嬉しそうに問いかけてきた。
「いや、必要ない。本気でこい」
俺の答えにメルは唇をを緩ませた。
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