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第145話

 ユーシスの鋭い視線が刺さる。

 まるで値踏みをするように、切れ長の眼を上下させているエルフを、俺も【神の五感】で拝見することにした。



――――――――

《ユーシス・エルサ・ザータス》


Sスキル

【超・風魔法】


Aスキル

【極・魔力制御】【視力】【魅惑】


Bスキル

【上・魔力量】【上・隠密】【計眼】


Cスキル

【老化耐性】【風魔法耐性】【器用】【嗅覚】


加護

【信徒の加護】

【ヘファイストスの加護(神命(しんめい)息吹(いぶき))】

――――――――

【ヘファイストスの加護(神命(しんめい)息吹(いぶき))】

・無機物の本来の力を解放する。

――――――――



 やはり12神の使徒だったようだ。

 俺に加護を与えたゼウスが、「種族間の均衡を保つために神の加護を与えている」と言っていたのを思い出す。

 それはどの種族にも使徒がいるという可能性にほかならない。


 そして神界でのアレスの助言は、神に裏切り者がいる、ということだった。

 俺が見定めなければならないのは、このエルフがどちらの側に付いているかということ。

 それ次第ではエルフ全体を敵に回してしまう、なんてこともありえるのだ。


 睨み合いは数秒――眉をひそめたユーシスが先に口を開いた。



「なるほど、只者ではないのは確かだな」


「クレイは強いぞ。たぶんオレよりもな」


「……っ!? ククル殿よりもか? 冗談だろう」


「あっはは! たぶん、な。実力の底が見えないのは確かだよ」



 高らかに笑いながら告げるククルから、目を逸らしたユーシスはゆっくりと足を進めて俺の正面に立つ。

 180センチはある身長から見下ろすように俺を見据えると、口角が広げて手を差し伸べてくる。



「私はユーシス・エルサ・ザータス。我がエルフ族の街、レリーフの(さと)(おさ)を務めている。同じ宿命を背負う者同士、仲良くやろう」



 エルフの領土には街はひとつしかないと聞いている。だからレリーフの郷というのがエルフの国のことを指しているのだろう。


 それよりもこのエルフが郷の長――つまり国王と同じ地位だということ、そして想像よりも好意的な対応をされたことに戸惑いを覚える。

 地位が明らかに上の者から名乗られたので、俺も軽い紹介をすることにした。



「俺はクレイだ。バロック王国の学生――」



 言い終える前に突然の悪寒――。

 脊髄(せきずい)反射が俺の右腕を自動的に振り上げると、そこへ何かが衝撃を与えた。


 その正体はユーシスの脚だった。

 無気配、無構えの状態から繰り出された音速を超える蹴り。

 その威力の全てを俺の右腕が受け止めていた。


 容赦のない冷たい視線を向け放ち、ユーシスは呟いた。



「これを防ぐか……」


「……どういうつもりだ?」



 俺も軽く殺気を解放し、長身のエルフを睨みつける。


 0の状態から、モーション無しで放たれる超速の攻撃。それは刀でいうところの【居合抜き】と同じで、極みに立つ者の技だった。

 このエルフは神の使徒いぜんに、自らを鍛え、磨き、ある種の達人の域に身を置いているということになる。

 敵だとしたら厄介極まりない。


 右腕から離れた足を地面に戻したユーシスは、すぐさま次のモーションへ。

 それはまたも、予想外の動きであった。



「申し訳ない、クレイ殿。試すような真似をしてしまった」



 ユーシスは頭を軽く下げ、謝罪を述べたのだ。

 今しがた放っていた冷たい空気が嘘のように消えている。

 一瞬、呆気に取られつつ、目の前で頭を下げているユーシスを庇うように言葉を選んだ。



「気にしないでくれ。それよりも長が他の民の前で頭を下げるのも、どうかと思うぞ」


「そこに意味があるというもの。クレイ殿は使徒、つまりは私たちと同じ立場であるべきだ」


「なるほど」



 頭を上げたユーシスは口元を綻ばせている。

 使徒は特別であり、優遇されるべきだと言っているのだろう。

 考えてみれば神の使徒に選ばれているものたちはそれなりの地位に付いている。

 ククルは帝国最強騎士、ヴァンは公爵家、ティアラは皇女で、目前のエルフは長なのだ。

 俺だけが何の身分もないことになるということになる。強いていえばリンシアのヒモだろうか……。


 どちらにせよ謝罪とは別に、俺の立場が特別だと周りに伝えるために頭を下げたのだ。ククルの知人ということもあり、そういった行動ひとつひとつが裏切り者の使徒である可能性を下げていく。



「どうだ? クレイは強いだろ」


「えぇ、【無天脚(むてんきゃく)】を防がれるとは思わなかった」



 歩み寄ってきたククルの問いかけへ、感心したようにユーシスが答えた。



「己もさらに鍛錬しろということだ」


「違いない」



 ユーシスの口元が緩む。整った顔立ちと相まって好青年のような印象を受けた。



「それで、ユーシス。今回は折り入って頼みがあるのだが……(さと)に入ることは可能か?」



 ユーシスの視線が、俺の背後に隠れているエミルに移った。

 複雑な表情でククルに問い返す。



「……全員ということですよね?」


「あぁ」


「……本来は人間や――ハーフエルフは郷に入れないことになっている。が、今回はククル殿の顔に免じて特別に許可を出しましょう」


「助かるよ、ユーシス」



 ユーシスは振り向き、背後に控えるエルフの部隊に命令を下した。



「アーテム、怪我をした者たちを回収し、撤退しろ」


「はっ!」



 大剣を持ったエルフの指揮官は頭を下げて、早々に立ち去っていく。



「では我々も行こうか。クレイ殿、くれぐれもそのハーフエルフから離れぬように」



 含みある言葉の意味を悟りつつ、確認のために聞き返す。



「危険なのか?」


「ハーフエルフは差別されている。憎悪の対象だ。それはどの国でも一緒」


「少なくとも、俺の周りにそんな奴はいないがな。エミルは働き者だし、いい子だぞ」



 裾をつまみながら背中に隠れるエミルの頭を撫でながら俺は呟く。



「……そうか」



 短く返答するユーシスはすぐさま歩みを進めた。それにククルも続く。

 俺は後ろからひょこっと顔を出した不安そうな顔を見やる。



「俺から離れないようにな」


「うん……」


「あまり考えすぎるなよ。エミルは俺達の大切な――」



 続く言葉を告げようとした直後、何かが違うような気がして言いよどむ。

 同時にティアラやリンシア、ハクやクロ、アリエルの顔が浮かんだ。

 仲間という関係で括るのは違うような……。 


 ――そうだ、俺達は家族だ。

 その言葉が妙にしっくり自分の中にハマるような気がした。



「――家族だ」


「うん!」



 今度こそ笑顔で答えるエミルと一緒に、ククル達の後を追った。


 エルフの領土は森林で構成されており、右も左も似たような木が生い茂っている。

 さらには魔力の粒子が常にとびかっていて、まるで森全体が生きていて、まどわしているような錯覚にさえおちいる。

 探索系の魔法をあつかえなければすぐに迷子になるだろう。


 進んでいくこと約1時間。

 前を歩く長身のエルフの足が急に止まった。



「ここだ」



 とはいえ目の前は先程まで歩いてきた森と同じような木々が広がっていた。

 横を歩くエミルも首を傾げている。

 しかし、僅かに揺れる空間に、何かしらの隠蔽魔法が掛けられているということを悟った。



「……なるほど」



 ユーシスは何も言わず、手のひらを前に差し魔力を流した。

 すると高さ3メートル、横幅2メートルほどのドーム状の穴が広がって行く。



「ようこそ。我がレリーフの郷へ」



 再び前進するユーシスの後を追うと、50メートルはある太くて巨大な大樹を中心とした街並みが眼界に入ってくる。

 周りに生えた低木や大木の上にログハウスが並んでいて、根を張るように絡み合った立派な枝は道となっている。


 例えるならツリーハウスと城下町。大樹の葉の隙間からさす陽の光が神秘的な雰囲気を演出していた。

 この街には領土の森と同じく魔力が散漫している。

 それは大樹から溢れ出てきているものが木々を伝って広がっているのだということがわかった。



「相変わらず綺麗な街だ――ん?」



 そんな情景を懐かしむような感想を囁くククルだが、訝しく首を傾げた。



「……前に来た時よりも弱ってないか?」


「弱っている?」


「あぁ、己は初めて来たからわからないだろうが……オレが以前来たときよりも《大樹アガスト・レリーフ》を包む魔力が弱まってるんだ。もっとこう、活き活きしていた気がするんだが」



 俺の問いかけに答えるククルに、ユーシスは深刻な面持ちで告げた。



「やはり、気づきますか」


「この街――いや、領地全体はあの大樹の魔力があってこそ成り立ってる。それが衰退してるとなると……かなりの問題じゃないのか?」


「ククル殿のおっしゃる通り。実は今、我が郷は問題に直面している」


「……問題とは?」


「ここ数年でアガスト・レリーフの魔力が少しずつ暴走しているんです」



 ここに来て初めてククルの表情が曇っていく。

 思い当たる節があるみたいだ。



「嫌な予感がするな……まさかダンジョンが原因なのか?」


「えぇ、ダンジョンが原因です」



 ダンジョンと聞いて、俺の中でもひとつの懸念が舞い降りる。



「……悪いことをしたな」


「ククル殿のせいではない。あの男を信用してしまった私の責任だ」



 過ぎった疑惑。俺は2人の会話に割って入った。



「あの男というのはまさか――」


「そうだ。我が弟子にして己の師、ゲインだ」



 またしても出たその名前に、自然と拳をぎゅっと握りこんだ。

ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

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