第137話
終戦後。
レニから概ね話を伺った俺は、散り散りになった仲間達を探すことにした。
メル・リル・シリュウ・ガレンは城内にいたようですぐに合流。
ガレン以外は各々傷を負っていたので治療を施した。
どうやらメルは脚をやっていたらしく、リルにお姫様抱っこされている姿が新鮮だった。
また、特殊なメイド服を着ていて恥ずかしそうな表情を浮かべていたので、俺は【アイテムボックス】から羽織れる黒のガウンを取り出して手渡してやった。
ちなみにリンシアに至っても同じような衣装だったので、王族のイメージにピッタリな金の刺繍が入った白のガウンを肩に掛けてある。
掛ける際、気まずそうに目を逸らし「見ないでください」と言われてしまい、多少なりともショックな気分を味わったのは否めない。
それから森で倒れていたグリムを発見する。
全身が焼けただれ、結構な重症だったが、回復魔法で一命を取り留めた。
グリムは「いやぁ、死ぬかと思った~」とヘラヘラと笑っていたが、あと半日も経っていたら本当に命が危うかったかもしれない。
争っていた浮浪者達は全体でないにしろ、敵同士和気あいあいとした雰囲気であった。
戦いの中で何か芽生えるものがあっただろう。
それからハクとも合流。
ランロットと顔を合わせた直後、お互い何か不満げな様子を感じたが、一旦場所を変えることにした。
そして今は"黄領"の半壊した城の中に戻ってきている。
入口から奥に当たる崩落の影響がなかった応接室で、ちょうどいい円卓の机を囲っていた。
メンバーはランロット、ガレン、ハクのジルムンク組にリンシアと俺を合わせた5人。それぞれが席に腰を落ち着けて、お互いの顔を合わせている。
ちなみに軽い自己紹介などは済ませており、ハクが少年期時代の友人であることは伝えている。
俺は面々を見つめ、開口一番に切り出した。
「俺達はここにいる第3王女のリンシアの庇護下でジルムンクを統治したいと考えている。意見がある奴はいるか?」
色々聞きたい事――特にランロットやハクには山ほど疑問を投げかけたいところだが、ハーデスや使徒の話はリンシアを含めた他の面々に聞かせるわけにもいかない。
だから本来の目的であったジルムンクの統治の話を振った。
すると隣の席に着いていたリンシアが青い瞳をこちらに向けて口を開いた。ドレスチェンジは済ませており、今は普段のようなドレスを着用している。
「その前に残りの勢力、"紅領"はどうするんですか?」
「それは――」
「はーい。私が"紅領"のリーダーだよ。クレイを探してジルムンクに戻ってきた時、サクッとね」
俺が言いかけると、ハクは右手を前に上げて軽い口調で答えた。
大方予想はしていたので驚きはない。
ガレンの「最近リーダーが変わって荒れている」という情報にランロットの態度、そしてあの強さを見て十中八九そうだろうと感じていた。
それにガレンもハクがリーダーだという事は知っていたらしい。
リンシアだけ「えっ?」と目を丸くしている。
俺はそんなリンシアに目で合図を送ると、慌てた様子で立ち上がった。
「……私はバロック王国第3王女、リンシア・スウェルドン・アイククールです。このジルムンク領土の譲渡を受け、領主になりました。私はこのジルムンクの民を救いたいと考えています」
形式ばった紹介を済ませる。
どんなやり方で統治するにしてもリンシアが領主なので本人が発言を伸ばさなければ意味が無い。
俺はあくまで補佐として、各勢力のリーダーに問いかける。
「お前達に問いたい。今後ジルムンクをどうしたい?」
「私はクレイがしたいようにすればいいかなって。"紅領"とかジルムンクとかそういうの興味ないし」
「俺は元々、クレイ達の考えに乗る気だったからなぁ。それにこんな可愛い姫さんが領主なら――お、俺は賛成だぜ」
小さな微笑みを造りながらハクが言うと、ガレンがそれに続く。
ちなみに最後の発言でガレンに軽い殺気を放っておいた。
「なんか私だけ除け者みたいじゃないのよん! ん~……私はね、"黄領"内の子達が幸せであればいいの。でもね、みんなそれぞれ事情を抱えてこのジルムンクに来ている――」
ランロットは1度言葉を止めた。ガレン、ハクと順々に視線を送り、意見の続きを口にする。
「それは"蒼領"だって"紅領"だって同じ。国というルールに不適合だから集まってきてるのよん。彼らを説得出来るだけの何かがあるのかしら?」
もっともな意見である。人種は様々だが総じて言えるのはこの環境が好きで居座るものが多い。
中には犯罪行為などを好んでここへ来る者だっているのだ。
「"紅領"と"蒼領"はともかくとして、お前のところは統率が取れていて、一種の国のような環境だったと聞いているが?」
レニの話によるところ、"黄領"の城内に関しては奪うというジルムンク特有の行為はなく、働くことで忠義を示し、暮らしという対価を得ていたと聞いた。
癖のある浮浪者達をそういう形で束ねているという事は、ランロットはただ強いというだけの暴君ではなく、人の上に立つカリスマ性を兼ね備えているということ。
3勢力の内、1番ジルムンク統治の理想系に近い。
「それは私の、魅力があっての事よん。美しすぎる女は時に戦争の火種にすらなるの」
俺の問いかけに対し、ランロットは自分の身体を抱きしめるようにしてクネクネと動き出す。
「年増ばばぁが何いってんだか……」
そんなランロットにボソッとハクが呟いた。
先程の発言といい見ないうちに中々勇ましく育っている印象。
俺も口が悪いので、何も言えないが。
「はぁ!? 考えなしの暴力女はこれだから……。もっと女を磨きなさいよ! 何よそのボサボサな髪っ」
「うるさいなぁ。そういう世界とは無縁だったんだからしょうがないでしょ」
「はぁ~あ、言い訳がましい。あんた可愛い顔してんのに、それにかまけて『女』をサボってるだけじゃない。王女ちゃんを見習いなさいよん」
「あぁ、はいはい」
ハクは腕を組み、ランロットの言葉を適当に相槌を打つ。
心なしかチラッとリンシアを覗き見た気がする。
「落ち着いて、そろそろ話を戻そうか」
俺は関係ない方向へ向かった話題を元に戻す。
いがみ合っていて仲が悪いようにも感じたが、これだけ軽口を叩き合えるのだからそれなりにはお互いのことを理解しているということだろう。
ランロットは生物的には男になる。しかしそんなランロットをしっかり女として扱っているところにもそれは感じた。
静かになったことを確認し、再びリンシアへ顔を向ける。
「私が"黄領"で働いて感じたのは、どこまで行っても分かり合えないことはない――ジルムンクにいる人達にも意思がある限り、分かり合える可能性があるということです。だから皆さんには職務を与えようと考えています」
「ふん……なるほどねん。その場合の内容は?」
首を傾げているガレンとは違い、ランロットはわかっているように質問を投げかける。
「このジルムンクの復興作業です。最初の資金は王国ラバール商会から出します」
「ラバール商会……そういうことねん」
ランロットは納得するように頷いた。
ラバール商会の名前を知っているだけでなく、その規模や影響力をわかっているのだろう。
流れとしては、小さい範囲から普通の人が住めるような環境を作っていく。
そこから徐々に範囲を広げていき、生産業を増やして商品を作る。
そして生産したものを商品として他領や他国に流通させればいい。
知名度、運搬、宣伝。商いに必要なルートは全てラバール商会には揃っているのだから。
商売をする事に関して失敗するわけが無い。
おそらくランロットもそこまでの流れを理解したのだろう。
「具体的な事は後でいいとして、私達の領土以外の者達はどうするのん?」
「それに関してはリンシアとハク、そして2人にも抑止力になって貰う」
これは先程ランロットが言った「美女は戦争の火種すらなる」を逆に応用するものである。
リンシアの、まだ成長途中ではあるが同性をも虜にできる可愛らしい容姿。
そこに【魅惑】のスキルを持ち合わせていて同時に【魅了】のスキルも成長している。
そして裏表のない真っ直ぐな性格。
「美しい女性」というのはそれだけで民の心を掴み、意欲を掻き立てさせることが出来るのだ。
これはティアラが実際に皇国で実践しているものでもある。
しかし、全員が全員そう考えるわけでは無い。
そんな正しい姿勢に敵意を持ったり反抗する者も出てくる。
それをハクやガレン、ランロットである物理的な強者が抑制すればいい。
そしてそれでも駄目な場合は、俺が直接――。
「そういうこと……」
静かにランロットが口を紡ぐ。
やはりルールを作り、労働という面でまとめあげていただけあって呑み込みも早い。
逆にガレンは終始、首を傾げている様子。
「つまり俺は、武力行使すればいいってことか?」
「言い方が悪いが、そうなる可能性もまたあるということだ」
「流れは大体わかったわん。じゃあ具体的にどうするかの話を教えてくれるかしら?」
「はい、まずは――」
リンシアは内容について説明を始めた。
ここから6時間の話し合いの末、各々納得した形でジルムンク統治の会議は幕を閉じた。
あと2話で第五章が終わります。
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