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第130話

「時間だ」



 深夜0時00分――"黄領(きりょう)"の門前の茂みでグリムは作戦開始の合図を告げた。

 後ろに控えていたジャニアリー、エイプリル、マーチが頷くと、グリムは【自己加速】を発動。

 剣を抜き、門番との距離を一気に詰め、斬り掛かった。



「ぐわっ」


「なんだ!?」



 不意をついた一撃は成功――残りの門番は2人。グリムは風の魔力を剣先に宿し確実に2人目の急所を斬り裂く。



「この野郎っ!」



 ようやく状況整理が出来た3人目が腰にかかった剣を抜きグリムに対して振りかぶった。



「「フレイムアロー」」


「なっ――」



 物陰に身を潜め、詠唱していたエイプリルとジャニアリーが2級火属性魔法を発動させて牽制。その隙をグリムはしっかりと活用し、3人目の男を斬り捨てた。



「どうした!? 変な音が聞こえたぞ!」



 すると閉ざされていた門が開き始める。0時00分は門番の交代の時間――それを踏まえての作戦なのである。



「突撃っ!」



 開戦の掛け声と共に、グリムは藍色の魔力弾を打ち上げる。

 それを合図に待機していた王国の衛兵と"蒼領(そうりょう)"の不老者達の計3千人の群勢が蛮声(ばんせい)を上げて進行を開始した。王国の衛兵はリンシアの護衛として派遣されて兵士である。


 交代の門番達を即座に片付けたグリムが先陣切って中へ入ると廃村のような古い建物が長んでいた。

 そして中央にはレニの報告通り真っ直ぐと城への道が続いており、あの場所に捕えられているのだろうと瞬時に判断を促した。




「シリュウ君、リル君、くれぐれも無理しないように。出来るだけ戦闘は避けるんだよ」



 グリムが何もない場所に向けて呟くと、気配を消して潜んでいたシリュウとリルが姿を見せる。



「……承知」


「わかりました」



 2人は頷き城の方へ走り去っていくと、後ろ姿は朧のように薄くなり、やがて姿は消えていった。


 今回、レニが企てた作戦は大胆ではあるが実行するに値するものであった。しかしまだまだ未熟な点もあり、不測の事態への対処が足りないとグリムは判断した。

 その対応をシリュウとリルの隠密組に任せることにしたのだ。



「さて、久しぶりに暴れますか」



 すると門が破壊されたことによる爆発音が背後から鳴り響いた。


 ――これで一気に攻め入る人数が増えるのだから、侵略範囲を広げたい。

 そう考えたグリムは奥へ進もうと足を踏み出す。


 しかし"黄領"の者達は最初こそ何が起きたのかわからずに戸惑いを見せていたが、敵襲ということに気づき、すでに武器を握りしめている。



「はぁっ――」



 グリムは切り込み隊長としての責務を全うすべく正面から切り崩しに掛かった。

 基本的に温厚派のグリムは出来れば無駄な殺生をしたくないと思っていたが、王族が捕らわれているのなら話は別であり、それがリンシアなら尚のことである。

 主にクレイのためではあるのだが。


 開幕から30分――"黄領"の群勢は数を増ふやしていくが、グリム達はしっかりと陣形を固めているため崩されることは無かった。さらには"黄領"の者達は自分勝手に行動するものが多く連携が取れていないというのもあるだろう。


 一方で"蒼領"の者達はしっかりとした連携が取れていて、彼等を仕切っているガレンへの忠誠心の賜物だ。



「んっ?」



 すると突然の熱風――熱いまでは行かずも、空気の温度の上昇を肌で感じたグリムは瞬時に前へ飛んだ。

 それは正解であった。グリムの後ろを炎を纏った槍先が通り抜ける。



「危ないね。そんなもの振り回しちゃ――」



 そこに居たのは仕立ての良い服を着た槍使いの男だった。槍先には炎を纏わせていて、火属性魔力を流し込んでいる。

 しかし、それだけではない。



「久しいな――グリム」


「ドレイク先輩……」



 吃驚(きっきょう)したグリムは目を見開きながら呟く。

 その男は王都学園の頃の先輩であり、ある日を境に行方を眩ませた男でもあった。



「まだ先輩をつけてくれるなんて嬉しいねぇ」



 小馬鹿にするような笑みを浮かべながら舌で自らの上唇を舐める。


 ドレイク・シュナイ――グリムの1つ上の代で卒業した騎士科の生徒であり、残念ながら騎士に任命されることはなかった男だ。

 訓練に明け暮れていたグリムとは訓練場で顔を合わせることがあり、会話も何度かしたことがある。


 そして――。



「ルインを先立たせておいて、おめおめと生き残った野郎が何故こんなところにいるんだ?」



 グリムの最愛の恋人であったルインの恋敵でもあった。同じ訓練場に居たのだから必然的に惹かれていくのも自然の道理だろう。

 しかしドレイクは卒業後に想いを告げ、断られたのだ。その後しつこく付きまとっていてたのだが、ルインの騎士団への入団を機に姿を見なくなった。



「先輩には関係の無いことですよ。それよりもこんなところで何をしているのでしょう。状況的には"黄領"に加勢しているように見えますが」



 挑発にも似たドレイクの言葉を流し、グリムはドレイクを見据えて質問した。



「見たまんまだよ。私は"黄領"の四天王なのだから」



 ドレイクについては冒険者になったという噂を耳にしていた。まさか"黄領"の、それもリーダーを支える側近に収まっていたとは思わない。



「そう――ですか。でしたら先輩、あなたを倒さなければいけないのですが」


「余裕な顔をしてられるのも今のうちだぞ? 私はあの時とは違う。四天王となり力を手に入れたのだ」


「力――その身に纏った禍々しい魔力のことでしょうか?」



 グリムの目にはドレイクの周りを紛うことなき漆黒の魔力が螺旋状に飛び交っているように見えている。



「おおっと、バレてしまったか。まだ手に入れたばかりで制御が難しくてね」



 その漆黒の魔力には覚えがあった。というよりはグリム自信が経験したことがある。



「悪魔に身を売りましたか。先輩」



 ふっ、と苦笑するようにドレイクは口元を緩めた。



「それは違う。認められて力を得たのだ」


「――同じことですよ」


「気に食わないな。私の魔力を見て絶望に顔を歪めないのか」



 ドレイクは纏う魔力の量を大きくしていった。


 ――もう力に飲まれているじゃないか

 悪魔の力は絶大で、人格が壊れていく事をグリムは知っている。

 どんな理由が有るにせよ、悪魔に利用されている顔見知りを無駄に殺生したくはない。しかし手加減できる程の相手ではないのだ。

 むしろドレイクの方に部があるといえる。



「やられるのは先輩です。昔のように返り討ちにしてあげますよ」



 さらにはこんなドレイクを放置すれば絶大な被害が出るのは目に見えている。一時撤退することも許されない。



「口の減らない奴――」



 ドレイクはそれを言い終える前に姿を消していた。

 放つ魔力の軌道から直線的に進んでいるものだと判断したグリムは正面に剣を構えてガードする。



「――だ!」



 キーン、という金属音――ガードには成功。

 しかし視界に映りこんだドレイクはそのまま槍先を振るい連続で斬撃を繰り出し始めた。


<――――――――――――>


 槍と剣の攻防に鋭い金属音が鳴り響く。


 ドレイクはスピードタイプであり、ギリギリ目で終えるかどうかの速度であった。だけど魔力を制御出来ていないおかげで軌道が予測しやすいのである。それに速さ故かパワーもなく、去なすことなく受け止めきれる事も大きい。



「はぁぁっ!」



 グリムは近距離技である【かまいたち】を発動させると、剣を纏う魔力が無数の刃に変化しドレイクを襲う。



「ふっ」



 ドレイクはそれを嘲笑しながら薙ぎ払い距離を取った。

 そして槍を突きながら魔力を滾らせる。



「【炎突(えんとつ)】」



 槍の形をした炎が直線的な起動で飛んでくる。

 纏う魔力からしてやばいと思ったグリムはそれを即座に回避した。

 背後から聞こえる爆裂音に振り向くと、石壁に激突した炎の槍は爆散していて石壁を木っ端微塵に吹き飛ばしていた。一撃でも受けたらただでは済まない。



「いやぁ、無詠唱でこれは反則級だね」



 流石に笑ってもいられなくなったグリムは飛ぶ斬撃――【風撃(ふうげき)】3連続で繰り出した。

 衝突した直後に爆散するのなら、先に起爆させてしまえばいいと。



「弱い魔力だ――【焔突(エントツ)】」



 先程よりも色濃く、速い炎槍が放たれた。

 グリムの出した【風撃】を貫通させ、打ち消す。

 そのまま止まることのない炎槍がグリムとの距離を最短で縮めてく。



「【ウィンド】」



 避けきれないと判断したグリムは1級風属性魔法を発動。風の力を借りてどうにか躱す。

 だが、躱しきることが出来ず、左肩を少しだけ掠ってしまった。



「ぐっ……」



 グリムの左肩を痛みが襲った。

 それはほんの少し掠っただけの痛みではなどではなく、深い切り傷を負わされた痛みに近かった。

 さらには炎槍が通ったにも関わらず、先程のような爆裂音がしないのだ。

 恐る恐る後ろを振り向くと、炎槍は壁を貫通――その穴はどこまでも続いていた。穴の周りからはじわじわと赤い熱が広がっていき、石壁を溶かし始めている。

 左肩を確認するも傷口からと赤く腫れあがり、火傷のような状態になっていた。



「よくやく余裕が消えたな。その顔をもっと見せてくれ。お前が絶望する顔がもう一度見たいのだ」



 光属性魔法をグリムは使えない。だから傷口にポーションをぶっかけて、やけどの進行を防ぐ。

 しかし、ふと呟いたドレイクの挑発に疑問が懐いた。

 


「もう一度?」



 ドレイクは目を大きく開き、唇を綻ばせた。 



「そうだぁ――瓦礫に埋もれたルインを助けるために必死に探し回っていたあの顔。そして見つけた時、手遅れだと悟ったお前の顔は……この世に生まれてきてよかったと初めて思った瞬間だったよ」



 ドクンと、グリムの心臓が跳ねた。

 目の前にいる男は何を言っているのだろうかと。



「どういう……ことでしょうか?」


「どうもこうも、見ていたと言っているのだ」


「あの場に……何故先輩が?」



 再びドクンと、グリムの心臓が跳ねた。

 多量の岩が落ちてくる絶望的な状況が思い出される。



「殺すため――あぁ違うな。お前の求めている答えはこうだ。あの落石の仕掛け人は私だよ、グリム」



 今が一番楽しいと言いたげに、綻ばせた唇を嫌味ったらしく動かし告げるドレイク。


 その言葉を聞き終えた途端、グリムは頭を真っ黒にした。

 そして憎悪に歪んだどうしようもない躍動が爆発的に感情を支配していく。



「何故だ――」



 喉奥から叫ぶような低い声を飛ばした。



「いい顔になったじゃないか」


「何故だぁぁぁぁぁ!」


「殺すためだよ。それ以外に理由があるか? だが、何故かお前は生き残った。勿論トドメを刺そうと思ったんだ。でもな――お前の絶望した顔が最高過ぎて。その状況化の中で生きることこそ真の絶望だと感じたんだ」



 ――もういい。

 笑いながら言い捨てるドレイクの説明をグリムは聞いていられなかった。

 ルインと過ごした思い出の日々がフラッシュバックしていく。そして瓦礫に埋もれ、目を閉じたルインを抱き抱えた状景へと収束していった。


 ――許さない。


「でも今日会ったお前はどうだ。キラキラした昔のお前に戻っているじゃないか。だから今度こそ殺してやるんだ。絶望と共にな」



 グリムはドレイクに対して渾身の殺気を放った。瞳からは透明な雫が溢れ出ていた。


 ――お前さえいなければ。


 もう一部の隙間ですら、同情する余地なんてなかった。心は黒い感情で埋め尽くされ、それに因んで制御出来なくなった魔力が体外へ放出されていく。


 ――ルインと一緒に居れたのに。


 グリムは魔力を一気に解き放った。

 そして自身が持てる最高速度――全力の【自己加速・風】を無理やり発動させ、ドレイクとの間合いを消し去った。



「【風塵裂破(ふうじんれっぱ)ぁぁぁぁぁ】!」



 ドレイクの顔面目掛けて圧縮した風の魔力を一気に爆発させる。

 斬撃の入り混じった衝撃波が辺り一面を覆っていった。

ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

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