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第127話

さくさく進めるか、もう少ししっかりと話しを書き込むか。

迷いに迷ってゲシュタルト崩壊しました(´;ω;`)

とりあえずクレイ視点です。

 それは失っていた大切な2年だった。

 パズルのように記憶のピースが一つ一つハマっていく。

 蘇ったのはあの日の悔しさ――悲しみ。そして大切な友に託された約束だった。


 これまでに感じたことのない力の片鱗が身体中を満たしていくような感覚。

 暗闇から1点の光が差し込め、俺の全てを包み込んだような気がした――



――。



 目を開けると真っ白な景色が映りこむ。

 目覚めの悪い朝のような気分を味わいながら起き上がり、周囲を見渡した。

 ただどこまでも白い世界が続いていて、地平の先などない場所。


 ――この空間見覚えがある。

 そこは信徒の儀によって【神の加護】を授かったゼウスのいた場所に似ていた。


 俺は視線を下げる。すると白髪の少女が目を閉ざし、倒れているのを発見した。


 ――ハクだ。

 息があることを確認した俺はとりあえず安堵し、辺りを再び見渡しながら記憶の整理をした。


 確か"黄領(きりょう)"に向かっている最中だったはずだ。"黄領"に住まう不老者達と遭遇――それからいきなり降ってきたハクと交戦となり――。



「リンシア――」



 俺は即座にリンシアの付けているネックレスの魔力を探った。しかし魔力を一切感知出来ず、込められた【転移】の魔法も発動しない。

 若干の焦りが思考を歪める。リンシアに何かあったらと思うと気が気でないのだ。



「――なんだ?」



 すると正面の何も無かった白い空間から光の粒子が集まり出しているのが目に入る。

 その粒子はやがて人型へと姿を変え、全身を聖なる光の鎧で固めた赤髪の美青年が現れた。



「やぁやぁ、よく来たね」



 そして美青年は気さくな笑顔で挨拶を交わしてきた。



「神――か?」



 俺は『この覚えのある空間』と『青年の纏う神聖なオーラ』に当たりを付け、この青年が何者であるかの予想を口にした。



「おぉー、正解だ。流石ゼウスの使徒だね。私の名前はアレス――君の予想した通り12神だ」



 感心するように首を縦に振りながら自己紹介を済ませる。

 アレス――それはヴァンに使徒の力を授けた神の名前であった。



「お前がここに呼んだのか?」



 俺は状況が状況だけに、アレスを睨みつける。



「そう殺気立てないでくれ。それにここへ勝手に来たのは君達だよ。しかしこの展開を私自身が望んでいたのも事実なんだけど」


「今すぐ元の場所に戻せ」


「それは出来かねるねぇ。実を言うと私は本物のアレスじゃないんだ。本物のアレスが残した記憶の結晶のようなものだ」


「記憶の結晶?」


「あー、そうだな……君の元いた世界の物で例えるなら、アレスの記憶を宿したAIのような感じかな?」



 簡素な説明に思わず納得してしまう。AIなんて言葉を何年ぶりに聞いただろうか。そして同時にこのアレスの記憶は俺が転生者だという事実を知っていることにもなる。



「君の懸念しているのは姫君の安否だろ? 大丈夫だよ。今のところは生きているし怪我もしていないから」



 『今のところは』という言葉に若干の違和感を覚えつつ、とりあえずは無事という事実に安堵した。

 神が言うのだからそうなのだろうと。

 だからこそ再びこの状況の整理を始めることに集中した。



「ここは信徒の儀のときの空間と同じ場所なのか?」


「似てはいるけど同じではないよ。ここは"神界(かみかい)"――本来君達の世界の者が来ることが出来ない場所さ」



 アレスは眉を片方上げ、訝しげに呟いた。

 神の世界で神界か。

 そしてこいつはアレスの記憶を宿したAIということらしい。



「めんどくさいから私がアレスでいいよ」



 苦笑しながら口元を緩めるアレス。ゼウスの時もそうだったが、例の如く心が読まれているらしい。



「それで呼ばれたわけではない俺達が何故ここにいるんだ? 本来は来れないはずの場所なんだろ」



 呼んだ訳では無いと言っていたが、『招かれざる客』というわけでもないらしい。

 すると疑問が2つほど浮上する。

 何故俺たちがここへ来れたのか。そしてこの結果を望んだアレスの思惑は何かである。

 だからまずは1つ目の疑問をぶつけてみることにした。



「その答えは簡単さ」



 アレスは無邪気に笑いながら、横に倒れている少女の元へ視線を送った。



「――ハクが?」


「そうだよ。初めてのことだから確証はないけど、ここへ来れたのは間違いなく彼女の力――スキルのおかげだね」



 遠巻きにハクを見据えながら呟くアレス。

 確証はないってそれでも神かよとツッコミを入れたくはなったが敢えて抑えることにする。こいつは仕事が出来ないタイプだなきっと。



「聞こえていることを知りつつ堂々と考えるんだね。神はあらゆるものを創造出来ても、全知全能ではないんだよ。だから12神に別れてそれぞれが役割を持ち世界を管理しているんだ」



 確かにその通りではある。神が全知全能であるなら1神で十分なのだから。



「でも、どんなに頑張っても必ず予想外が起こるものなのさ。それが彼女の血縁であるマーテルの一族やハーデスの事――とかね」


「マーテルの一族?」


「君達の世界ではそう呼ばれているよ。マーテルの一族は我々神を欺くスキルを持つ、自然に生まれてしまった予想外――つまりエラーなんだ」



 俺はアレスの言うスキルという言葉が気になり【神の五感】でハクを観察した。



――――――――

《ハク・エイドス》

Sスキル

【超・闇魔法】


Aスキル

【極・成長】【極・魔力量】【極・視力】


Bスキル

【上・反射】【上・体技】【上・蹴技】


Cスキル

【気力量】【反射】


Dスキル

【低・神経伝達】


加護

【アスモデウスの加護(同化)】

【反・?徒の儀】


――――――――

【アスモデウスの加護(同化)】

・加護主と同化することが出来る。

【反・?徒の儀】

・??????

――――――――



 【アスモデウスの加護】など色々気になる点は多いが――。



「そんなスキルは存在しないが? それに読みとれないステータスもある」


「まだ命名され、定義されていないからさ。おそらくその子のスキルは本来来ることが適わない神界への時空移動――【虚空の彼方(ヴォイド)】ってところかな?」



 アレスがそう言った直後――。


――――――――

《ハク・エイドス》

Xスキル

虚空の彼方(ヴォイド)


Sスキル

【超・闇魔法】


Aスキル

【極・成長】【極・魔力量】【極・視力】


Bスキル

【上・反射】【上・体技】【上・蹴技】


Cスキル

【気力量】【反射】


Dスキル

【低・神経伝達】


加護

【アスモデウスの加護(同化)】

【反・?徒の儀】


――――――――

【アスモデウスの加護(同化)】

・加護主と同化することが出来る。

【反・?徒の儀】

・??????

――――――――


 スキルの欄が一つ増えたのだった。



「Xスキル……」



 俺の呟きにアレスは目を細めて口を開いた。



「そう。Xスキルこそが神を欺ける力だ」



 神を欺けるスキルを持つ者――そして目の前に現れたアレス。

 話の雲行きが怪しくなってきたのを感じた俺はハクの前へ壁になるように立ちはだかった。

 そしてXスキルは俺が持っているスキルでもあったので尚更警戒心を強める。



「あぁ、大丈夫だよ。その子にも君にも何かするつもりもない。というかしたくても出来ないから」


「神のルールというやつか?」



 警戒心を解くことなく問いかける。

 神は現世の事象に直接関わることは出来ないとゼウスは言っていたが。



「そのルールはこの神界では適用外なんだよね。そうじゃなくて、私は君達の味方だ。それに記憶の存在だから私に戦闘能力は存在しないよ」



 確かに視界に映るアレスからは魔力や気力――それどころか気配すら感じない。恐らく戦闘能力を持たないというのは本当だろう。

 そう判断した俺は安堵からかため息混じりの嘆息を漏らし、構えを解いた。



「その子のことを大切に想ってるんだね」


「お前には関係のない話だ」


「友との約束かい?」



 アレスの言葉に俺は眉を寄せる。

 すると一応という意味合いを込めてアレスは理由の説明を始めた。



「君が先程見ていた記憶の夢は見させてもらったよ」


「覗き見とはなかなかいい趣味をしている」



 神だから知っていて当然かと納得しつつも、嫌味混じりの仕返しを吐き捨てた。

 全く神というやつは暇な奴が多いらしい。ストーカー以外することがないのだろうか。



「聞こえてるよー。一応僕は神なんだからね?」


「それで、次にハーデスについて聞きたいんだが」



 どっかで聞いたようなやり取りを無視して俺は話を進めることにした。

 アレスは頭をガクッと下げながら質問の答えを口にする。



「無視かい! まぁいいけどさ。君も色々知っているようだけど今頭で考えた通り、ハーデスは我々12神がこの世界を作る前に葬った破壊神だ。でも神の中に裏切り者がいてね……そのせいでハーデスの力を封印する形で世界を創造してしまったんだ」



 俺は整理しやすいようにハーデスに関して知っている情報をまとめて思考していた。

 アレスはそれをしっかりと読み取ってくれたようだ。



「ハーデスの目的はお察しの通り、世界を創造し直すこと。そして神々――ゼウスへの復讐だね。それを実行するために悪魔を始めとした様々な種族を利用している」


「封印された状態でもハーデスには意思があるのか?」


「確証はないけど、あるんだろうね。じゃなきゃ憎悪によって生まれた悪魔がハーデスのために動くわけがないから」


「なるほど」



 確か生物の憎悪から生まれたのが悪魔、それに対抗するべく生み出されたのが天使だとアリエルは言っていたな。

 つまり【アスモデウスの加護】――悪魔の加護を持つハクはハーデスに利用されているということなのだろうか。


 しかし過去にサタンを倒した時のことが頭を過ぎる。

 サタンは滅びる前に『憎っくきハーデスに復讐を』と言っていた。

 それは悪魔が皆ハーデスのために動いているとは限らないということになるのだ。



「その意見に関しては一理あるかもしれない。でもステータス欄の読めなかった箇所はハーデスの力が及んでいるという証拠なんだ」


「なに?」



 俺が懸念していたことが的中してしまう。

 何故かハーデスの力を集めているゲイン――そんなゲインに俺はハクを守るように頼んでしまったのだ。

 必然的にハクが利用されるのも当然のことなのである。



「でもまだそうと決まったわけじゃないんだから――その殺気を抑えてもらえるかい?」



 いつの間にか殺気を放っていた俺をアレスは和やかな笑顔で宥めた。

 しかし自分を責めずにはいられなかった。



「話を戻すけど――ハーデスは神々の中でも最強の神なんだ。そんなのが現世で復活しちゃったら世界を滅ぼすなんて簡単なんだよ。だから復活を阻止して欲しい」


「それについてはもう動いている」



 今のところはゲインに先を越されて後手に回っているが。



「あとは裏切り者の神――その使徒には注意して欲しいんだ」


「注意か……使徒と言っても俺達と同じ土俵じゃないのか?」



 アレスの使徒であるヴァン。

 ヘラの使徒であるティアラ。

 アテナの使徒であるククル。

 ゼウスの使徒である俺。

 そして眠ったままであるがティアラの親友にしてヘスティアの使徒であるユーミル。

 少なくとも5人の使徒がこちら側に付いているのだ。

 いくら裏切り者だろうと同じ使徒同士なら互角であり、味方の使徒の人数が多い方に部があると言える。


 まさか――。



「他の使徒が全員敵ってわけじゃないから安心してよ。裏切り者は知っている限り1神だから」



 ――知っている限りか。

 俺は頭の片隅にその言葉を入れつつ話を進めた。



「じゃあ何を注意すると言うのだ?」


「君は信徒の儀以来ゼウスに会えたかい?」


「――会っていないな。というか会えなかった」



 ティアラの件以降、生じりを合わせるために神に会うため、教会へ赴いたがゼウスには会えなかったのだ。



「実は今、ゼウスを含むハーデスに仇なす神は私も含め、囚われられているんだよ。そして裏切り者の使徒は【神の加護】の力をフル活用出来る上に神から直接助言を貰えるんだ」


「――情報が筒抜けということか」


「まっ、そんな感じだね」



 そんな感じだね、じゃない。

 軽いノリで言っているが事態はかなり深刻である。

 俺たちの動きに合わせて向こう側も罠を張れるということなのだから。



「それをどうにか出来るかもしれないのが、マーテルの一族だよ。神を欺くことが出来るスキルさ」



 そこまで話を聞いて納得する。

 神も予期せぬ出来事で生まれてしまったマーテルの一族。神すらも欺くスキルを使って復活を阻止しろということらしい。



「なるほど……マーテルの一族は他にも居るわけだな。それで見分け方やスキルの種類はわかっているのか?」


「さぁ、それがわかってたらこんな状況になってないからね。ハハッ」


「キャラが崩壊しかけてんぞお前……」



 しかし神を欺くスキルなのだから、神が把握していたら意味が無いのも事実。



「というかもうそこにいるじゃないか。彼女を通して色々と探してみればいいじゃない?」


「【悪魔の加護】、それにハーデスの力が及んでいるかもしれないのだぞ」


「でも、なんとかするんだろ? 君なら」



 アレスの言いたいことはわかった。

 俺ならハクを救うためにこの状況をなんとかしようと動くだろうと。

 しかし――。



「生憎と俺はハクに恨まれているんだ」


「じゃあまずは仲直りしなよ。世界の危機なんだし。それに君は悪くないじゃないか」



 そういえばこの神は記憶を見ていたんだったな。

 出来ることなら俺もそうしたい気持ちはある。だがそう簡単に行くはずがないのだ。

 今のハクから復讐をとったら何も残らなくなってしまうのだから。



「人間は複雑だね」



 やれやれ、と手を上げながら首を横に振る。



「――まずはここから出たい。方法に心当たりはあるのか?」


「ハハッ、あるわけないだろ? 自分で考えたまえよ」



 アレスは笑いながら腕を組み、胸を張り上げ言い放つ。

 こいつをぶん殴りたいと思ったのは俺だけだろうか。



「まぁこっちに来た時と同じことをすればいいんじゃないかな。その子の力を借りてさ」



 それはハクとの状況に何かしらの落とし前を付けろと言っているのだ。

 俺はアレスの言葉を聞き終えて、目を閉じるハクを見据えた。



「ん……んっ」



 すると、あの日の記憶と重なるようなハクの上声が耳朶を揺らしたのだった。

ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

更新の励みとなっております。

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