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第124話

 リンシア達が案内された先は女性用の衣装室であった。そしてすぐさま寸法を計測され、リンシア達を残して部屋を出て行く。

 待たされること30分。先程寸法を図ってくれた若い女性が畳まれた衣装を持って入ってきた。そしてそれをテーブルの上に置きながら無愛想に告げる。



「これに着替えてください」



 その言葉にリンシアはテーブルに置かれた衣装を手に掴みんで広げた。

 それは可愛らしいメイド服だった。全身にフリルが多用されていて豪奢なドレスのようなデザインである。



「こ、これをですか?」



 しかしリンシアは口篭るように狼狽える。何故ならば露出度が明らかにおかしい体さからだ。胸元から肩まで開けていて、長めのスカートは縦に切れていて、太ももが見えるようにデザインされている。

 王族はあまり人前で肌を晒すことがないため、リンシアにとって着るには、難易度が高く感じる衣装であった。



「そうです」



 若い女性は冷たくあしらうように告げる。よく見たらその女性も同じようなメイド服を纏っていた。細かなデザインこそ違えど、作った者が同じような印象を受ける。



「あなたの服も同じ人が作ったの?」


「そうですよ。ランロット様が全てデザインしてます。1人1人似ているようで個性を活かしたデザインに仕上がっているんです」



 先程目にした人物からは想像もできないデザイン力に目を丸くする。

 同意を求めるようにリンシアはふと、メルの方を振り向いた。

 しかしメルは既に着替えを済ませていて、鏡を見ながら、色々なポーズを取っていた。



「リ、リンシア様、これはそういうことではないんです」



 鏡越しに目が合ったメルはすぐさま顔を赤くした。

 衣装の方はメルの赤い髪とマッチするような黒をモチーフにしていて、大人な印象を植え付ける。しかしフリルを使うところにはしっかり使っていて可愛らしいギャップも感じるようになっていた。



「まだ何も言っていないわ。でも、凄くに合っているわよ」


「ごほん……。普段の服装とは違った衣装につい感化されてしまい……」


「気にしないでもいいのよ。今度そういった衣装もプライベート用に用意しましょう」


「本当ですか!?」


「えぇ」


「――あの、早く着替えてもらえますか?」



 若い女性は少々呆れ気味に目を細めている。

 綺麗な見た目ではあるが、よく見ると同年代ぐらいで可愛らしい顔立ち。2つに結ばれ藍色の髪が少女っぽさを際立ててる。



「あなたは何歳なの?」


「無駄話はやめてください。答える意味がありません」



 冷たい言いように若干のショックを受けながらも、言われた通りにリンシアは着替えを済ませていく。



「こ、これは……」



 着替え終わったリンシアを見たメルが目を輝かせながら感嘆の声を漏らした。



「あんまり、見ないで」



 そんなリンシアは恥ずかしそうにモジモジしながら俯いた。衣装は体のラインにぴったりで、縦に割れたスカートが綺麗で華奢な太ももをより魅力的に表現している。

 このような服を着たことないリンシアにとっては恥ずかしいこと極まりない。



「妖精が現れたのかと思いました」


「からかわないでよ」


「からかっていませんよ。クレイが見たら同じ感想を漏らすと思います」



 クレイ――唐突に出てきた名前にさらに赤面した。

 恥ずかしすぎてこんな姿は見せたくない。しかしそれとは真逆にクレイはなんと言ってくれるだろうかという期待も込み上げてくる。

 過激ではあるが、この衣装の魅力についてはリンシアも認めているほどなのであった。



「あの、これから業務の説明をしますが、いいですか?」



 またも呆れ顔で若い女性は告げる。



「業務?」


「はい、貴方達はこれからこの城の従業員として働きます」


「どういうことだ?」



 その言葉にメルが首を傾げた。



「言葉通りです。働かざる者食うべからず。この"黄領(きりょう)"では女が働きます。それが当たり前なのです」



 さも当然のように語る。



「では男は何をするんだ?」


「自由ですよ。ランロット様に選ばれた男性は付き人になりますが」



 どうやらそれは"黄領"での決まりごとようなものなのだろう。



「リンシア様は王族なんだぞ?」


「――ここでは関係ありません」



 メルの言葉に一瞬眉を寄せたが、すぐに澄ました顔で投げ返した。 



「私は大丈夫よ。説明をしてくれるかしら」



 現状では納得するしかない。

 ムッとした表情のメルをリンシアは宥めながら説明を促した。



「業務の説明を行います。まずは――」



 若い女性はリンシア達に淡々と業務の説明をしていく。

 内容については主に清掃や料理、洗濯といったメイドや侍女が普段やるような仕事だった。

 それに加えてこの城には訓練場のような様々な施設があり、その管理も交代制でやっているらしい。


 本業でもあるメルはすぐさま要領を理解したが、経験した事のないリンシアにとっては不安が過る。



「大丈夫です。私が付いています」



 そんなリンシアの様子を察してか、メルは元気づけるように言った。



「――では付いてきてください。これから大広間に向かいます」


「わかったわ。でも最後に、あなたの名前を教えて」


「無駄話は――」


「無駄なんかじゃないわ。だってこれから一緒に働く仲間なんでしょ?」



 若い女性はリンシアの真っ直ぐではっきりした言いように、目を逸らした。



「……アリス……私の名前はアリスです」


「アリスね。私はリンシア。宜しくね」


「私はメルです」



 アリスと名乗った女性は複雑そうな表情をしながら何も言わずに前を向き、すぐさま案内を再開した。

 不思議とそんな態度に不快な感情は一切抱くことがなかった。







「どどどど、どうなるんでしょうか!?」



 執務室のような部屋に案内されたレニは慌てながらガレンに尋ねた。ランロットにされたウインクによって、貞操観念の危機感を覚えたのだ。



「俺に聞くなよ。ただ――」


「ただ?」


「ランロットは無類の男好きだ。気に入った男は自分の配下に加えて好きかってやってる。らしいぜ」


「ひょええええええ」



 親指を立てながらからかう様に笑うガレンの回答は予想通りで、レニは干からびたミイラのような面貌(めんぼう)で叫び散らした。

 好き勝手という部分に関して、経験がないレニでも理解出来たのだ。



「まぁ、俺はそんなことが起きる前にあの野郎をぶち殺してやるだけだけどな」



 余裕そうに言い放つガレンの言葉を聞いて、果たしてそんなことが出来るだろうかとレニは思った。


 魔力こそ発していなかったが、あれは遥か高みにいる実力者であり、その距離すらわからない。

 師であるクレイと同じく、自分は実力を推し量る段階にすら立てていない。

 かく言うところ、差がありすぎてわからないという結論なのだ。

 そして同じく自分よりは強い事は確かなガレンではあるがその実力差はしっかりと見えている。つまりランロットはガレンよりも格上だということなのだ。



「勝てないと思うんですが……」


「おいおい、俺を舐めんなよ。そもそも――」


「あらぁ。私もその話、混ぜてくれるかしらん?」



 突然現れた気配にレニの心臓がゾクッと揺れた。しかも1つではなく4つもだ。

 声のした方へ急いで振り向くと、さっきまで誰も座っていなかった奥の椅子にランロットが座っていた。 後ろには騎士の格好をした容姿の整った男が2人、少々色っぽい服で着飾ったキツい目線の女性が1人控えている。

 いずれも全員レニよりも実力が上である。



「てめぇ、いつから居やがったんだ」


「これに気づけないなんてまだまだねぇん」



 ガレンの態度に、むっとした表情を見せる3人を静止させながらランロットは笑みを浮かべる。



「あの、僕達はどうなるんですか?」


「どうもならないわよん。男は基本的に自由にしてればいいわん」


「それって、ここから出ても――」


「それはダメよん。あなた達はこの"黄領"の住民として生きていくの。いっ・しょう・ね」



 語尾にハートマークでも付きそうな勢いでウインクをしながら告げた。

 自由に動いていい。でも逃げ出すことは出来ない。それは好都合なのではないだろうか。

 レニは首輪に触れながら今自分に何が出来るのかを考えた。



「ちなみに悪いことはしたら、キッツーいお仕置きが待ってるからね」



 ランロットの目は笑っていない。深淵の秘めたその瞳から微量に漏れる魔力にレニは身震いをする。

 その内容を知っているのか、後ろに控えていた3人も身震いをしていた。



「あなた、お名前を教えてくれるかしら?」



 ランロットはレニに向けて指差した。



「レニ、です」


「そう、レニくん。じゃあこれから楽しい場所に行きましょうか」



 ――楽しい……場所?

 その言葉で不意に浮かんだ光景は絶望だった。せめて初めては女性がいいと。



「そんな顔しなくても大丈夫よん。私、こう見えても奥手なの。じっくり煮込んでから頂きます」



 レニはこの城――否、"黄領"からいち早く抜け出す方法を探さなければと本気で思った。



「ガレンちゃんは――とりあえず牢屋にぶち込んでおいて」


「はぁ? 自由じゃなかったのかよ」


「あんたは別よ。従順になるまでは大人しくしてなさい」



 文句を垂れつつも首輪のせいで逆らえないガレンは仕方なく連れていかれる。

 部屋にランロットとレニの二人だけが残った。



「じゃあそろそろ行きましょうか」



 付いてくるように催促され、この城についての説明を受けながらランロットの後を追わされた。


 説明と言ってもランロットの部屋へ許可なく立ち入ることは出来ないという単純なものだけであったが。

 やがて大きな扉の前に到着した。それはエントランスから繋がる凄まじい音が聴こえてきた扉であった。



「ここはね、毎日昼から深夜までずっとパーティーが開かれている楽園なのよん」


「毎日ですか?」


「そうよん」



 そう言ってランロットが扉を開いた。すると心臓を揺らすほどの音が脳内まで響き渡っていく。


 部屋は大広間のようになっていて500人が収容できるぐらい広々とした作り。証明は薄暗く、鏡張りの球体が様々な色の光を放ちながら回っていた。左右には大きなバーカウンターが左右に設置されていて、中心では音楽の曲調に乗っかって楽しそうに踊っている人達で溢れている。

 レニは案内されるがまま、周りに設置された休憩用のソファーに座らせられた。

 ランロットも隣に腰を下ろし足を組んだ。


「これで耳が慣れてきたかしらん?」



 耳に何やら魔力が流れてくる。すると途端に声が聴き取りやすくなった。

 どうやらこれは自己強化の魔法の類であり、レニでも簡単に使いこなせるものだった。



「あ、ありがとうございます」


「もう、可愛いわねん。食べちゃいたいけど、今夜は先客がいるから無理なのよん。ごめんね」



 ――た、助かった。

 レニは心の底から神に感謝を告げた。



「何か飲みたいものはあるかしらん」



 飲みたいもの――そういえばここへ来てから水分を一切とっていない事に気づく。



「じゃあ、果汁ジュースで」



 咄嗟(とっさ)に浮かんだ飲みたい飲料を告げると、ランロットはカウンターの方へ合図を送った。

 カウンターには女性が立っていて、ランロットの合図にすぐさま飲料を用意し始めた。


 ――店員の様なものだろうか。

 よく見るとそういった従業員があちこちに配置されていて、全員が女性――しかもレニにとっては刺激的で色っぽい衣装を(まと)っていた。



「こ、こちらになります」



 しばらくすると頼まれた飲料が届いた。飲み物は照明のに照らされて輝きを放っているように見える。


 ――というかこの声に聞き覚えがあるような……。



「ってリンシア様!?」



 飲み物を運んでくれたのは恥ずかしそうに顔を赤らめながら俯いているリンシアだった。衣装も周りの従業員達が纏っているものと同じで色っぽく、専用のドレス姿しか見たことないレニは目を見開いきながら恍惚(こうこつ)した。



「レニ、目を逸らしなさい」



 後ろにはメルもいた。メルも同じような衣装を纏っており、普段の凛々しさと相まって妖艶(ようえん)な印象。そんな姿にレニは思わず赤面して目を逸らす。



「は、はい」


「あらぁ、似合ってるじゃない。私の十分の一にも満たないレベルだけどね」



 ランロットはどこから出したのか、キセルに煙を蒸しながら言い捨てた。



「次の仕事があるから行くわ」



 そう言ってリンシアは目も合わさずに早々と去っていく。メルも頭を下げてからリンシアの後を追った。



「どういうことですか?」


「見たままの通りよ。働いているの」


「あの方は王族で――」


「そんな肩書きここでは何の役にも立たないわん。ここでは私以外の女が働き、男は自由に過ごす――それが当たり前な場所なの。ここは私が築き上げた夢の城なのよん」



 胸を張り上げて、誇らしげにランロットは言い放った。



「強いて言うなら、男は私の奉仕をすることがお仕事かしらん」



 途端に背筋が凍った。レニは口に含んでいた飲み物を吐き出しそうになりながら(こら)えた。



「だからレニちゃんも、これから私に沢山奉仕するのよん」



 ――姉さん。僕の初めてに危機が迫っています。どうか僕を救ってください。

 ハートが飛び出てきそうな投げキッスを浴びながら、神ではなくどこにいるかもわからない姉に祈るのだった。


 しばらくだった(のち)、ガシャーンというグラスが散らばった音が大広間内に響き渡った。

ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

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