表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/209

第120話

誤字の指摘ありがとうございます!

また文法が間違っていた場合もどんどん指摘してくださいm(_ _)m

 2年ぶりに訪れた教会のような建造物は、以前見た時よりも夜闇の雰囲気と相まって不気味なほどの静寂が広がっていた。

 建物の中には気配が2つ。そのうち1つはよく知る少女のものだったので、先程まで鬼気迫る表情を見せていたクロも安心したように胸を撫で下ろし嘆息を付いた。



「よかった……」


「相手も隠れる気がないらしいな」



 以前来訪した際に、気配を消失させる魔道具が四方に設置されているのを確認した。だけど家主のモルガナは、察知する必要のないぐらいに気配を漏らしていて、それは建物の外にまで漂ってきていた。



「僕達を舐めているってことか?」


「それもあるが、罠の可能性もある」



 モルガナと対峙したときの事を思い出しながら俺は告げる。

 あの傲慢な振る舞いから、小細工をするような性格に見えなかったが、目的の重要度によっては何をしてきてもおかしくないと思ったのだ。



「どっちにしても、正面突破なんだろ?」


「そうなるな。あの書き方からしてモルガナは聖卿国、もしくは魔豪国の関係者ってことになるが、目的はやはりクロを殺すことなのか?」


「あんな奴は見たことない。だけど関係者で、尚且つ魔豪国の奴なら僕を殺す事に拘るはずだ」



 過去話を聞いた際に魔豪国の連中はクロの血筋に拘っていて、何か特別なものがあるように感じた。

 だけどその答えを本人であるクロですらわからないという。



「俺が先に行こう」



 どちらにしても、狙われている者を先に行かせるわけにはいくまい。



「おい、あいつの狙いは僕なんだぞ! って話を聞けよ!」



 クロの主張を聞き流しつつ、俺は教会の扉をこじ開けようとする。すると扉は自ら滑るように開いた。



「どうやら向こうもお待ちかねみたいだな」



 そう言いつつ中に入ると左右に長椅子が設置されていて真ん中には巨像の瓦礫。

 その瓦礫には以前と変わらずの姿で膝を立てながら座っている赤毛の男――モルガナが俺達を見るなり口元を緩ませ傲慢な笑みで出迎えた。



「ようやく来たようだな」


「待たせてしまったようで悪かったな」



 モルガナの隣に設置されている鉄格子の折の中で気を失ったハクに視線を向ける。どうやら見た目は無傷のようでただ折に閉じ込められているだけといった感じだ。

 すると隣にいたクロから今までに見たことのないような濃度の濃い殺気が放たれたのがわかった。



「僕に用があるんだろ? ならもうハクは必要無いはずだ。解放しろ!」


「ふっ……確かにこの小娘はもう必要ない」



 そんな殺気に構うことなくモルガナは小馬鹿にするような失笑。そのまま持っていた剣の先をハクに向けた。



「やめろっ!」



 【自己加速】でクロが瞬時に間合いを詰め、気力を纏った拳を放つ。

 モルガナはそれを軽く剣で受け止め、金属音が教会に鳴り響く。



「そう焦るな王族よ。今日は祝杯の日だぞ? マーテルの血が俺のものになるのだからな」


「――生憎こいつにはクロって名前があるんでね」



 それを隙と判断した俺はクロの後に続き、上から追撃するように拳を振るった。

 拳が当たる直前、モルガナは瞬時に視界から消える。



「血気盛んな奴らだ」



 声は後から聞こえた。初めて会った時と同じ魔法だろう。



「その小娘には価値がない。俺が求めているのは貴様のような濃厚な血筋のみだ」


「さっきから何を言っているのかわからないな」


「何も知らない愚かな王に説明は不要だ。貴様を殺し、その力を我がものとしよう――【ディメンション・フィールド】」



 部屋全体が魔力と光が包み、突然視界が切り替わる。

 映し出された風景はマグマの滾る火山の火口――身体にじわじわと感じる温度からそれが本物だということがわかる。



「わぁっ、なんでこんなところにいるんだ!?」


「あの装置か」



 視界が切り替わる前に、教会の四隅から魔力の流れを感知した。四方に設置された装置は気配を消すための用途だけではなく、何かしらの魔法を発動させるものだったらしい。

 次元属性ということはわかるが、どんな魔法なのか現状解析は困難だった。



「やはり貴様は鋭いな。下位の浮浪者達よりかは有能なようだ」


「お前のようなプライドが高い奴がこんな小細工をするとはな」


「ふっ――安い挑発だ。安心しろ、貴様達がこの空間からは出ることは無い」



 俺は【アイテムボックス】から剣を取り出して構えた。

 クロは剣術が苦手なため、本気の共闘の際は俺が剣を担当しているのだ。



「ほぅ」



 その様子を感心するように目を細めるモルガナ。顎を突き出しあからさまに見下している。

 なので俺は間髪入れずに斬撃を風属性魔法で飛ばす【スラッシュ】を発動させた。



「小賢しい」



 【スラッシュ】を持っている剣で弾くモルガナ。

 それに合わせて既にクロは間合いを詰めていた。



「――【柔拳】」


「ふっ」



 口元を軽く緩ませながらクロの拳を悠々と躱す。その動きを予想していた俺は追撃するように魔法を発動させていた。



「【ロック・ブレイク】」


「【魔法障壁・地】」



 地面から出現した1メートルほどの鋭利に尖った岩はモルガナの身体に刺さることなく壊れていく。



「貴様は厄介だ」



 突然モルガナは視界から消える――そう思った直後、後ろから聞こえるはずのない声と気配を感じた。

 俺は瞬時に【魔法障壁】を展開するも、間に合わずモルガナの剣が背中に突き刺さる。



「この野郎!」



 戻ってきたクロがモルガナに向けて蹴りを入れるも、躱されて間合いを取られてしまう。

 モルガナは軽く剣を振り捨てながら笑みを作りこちらに向ける。



「お前も十分厄介な魔法を使うな」



 俺もそんなモルガナを挑発するように口元を緩める。

 しかし、じわじわと身体に広がる痛みを感じた。



「【キュア】」



 すぐに【キュア】を発動させ、重ねがけで【ヒール】をかけた。じわじわと広がるような痛みの進行が収まる。



「面白い。判断力、魔法のバリエーション、忍耐力、その歳にしてはなかなかだ。ここで殺すのは勿体無いぐらいだ。どうだ、俺と共に来るか? この世界の全てが見れるぞ」


「生憎と、俺も暇じゃないんだ。それに随分と便利な剣を持っているんだな」



 モルガナの持っている剣は自らが魔力を帯びているのが刺されたときにわかった。

 毒のようにじわじわと広がる痛みもおそらくはあの剣の効果だろう。



「これは神器に匹敵するほどの最上の魔剣。振るわれた事に感謝するといい」


「それを土産に新しい物資が調達出来そうだ」


「戯れ言だ。使った技すらろくにわからない貴様が、俺を殺そうとしているのか?」


「【転移】だろ?」



 次元属性の上位魔法である【転移】。そしてどういう訳か、俺にはまだ使えない魔法だった。



「……なるほど、魔術の知識もあるようだな。そのとおりだ。俺が使ったのは貴様達凡人では到達出来ない高みの――7級に準ずる魔法だ」



 魔法には等級があり、難易度や効果によってそれが定まる。等級が高い魔法は使えるものが少ないせいか本などにもあまり載っていない。



「人は儀によって5級を超える魔法が使えるようになる。しかし、殆どの人間はその領域にたどり着く前に寿命を迎え、死していく。だがな――俺は人の身でそれを自力で超え、前人未到、8級の領域までたどり着くことが出来た」



 モルガナは言い終えると何やら詠唱のようなものを唱えだした。

 それによる影響か、空間全体の魔力が目に見えて集まりだし、モルガナのドス黒い魔力と混ざり始める。



「見せてやろう。これが前人未到の8級魔法――【巨岩落下(メテオ・ストライク)】」



 魔力が天空へと昇るのがわかった。大気が揺れるような音が上空から聞こえてくる。



「あんなのありかよ……」



 空を見上げたクロが唖然とかすれ声で呟いた。

 視界を埋め尽くすような巨大な隕石がこちらを目掛けて飛んでくるのが見えたのだ。

 10メートルはありそうな巨大な隕石はその大きさ故にゆっくりとこちらへ迫ってきている。



「お前達はここで死ぬ。この空間から逃げることは出来ない」



 空間のような亀裂に姿を隠しながらモルガナは告げる。

 隕石の衝突まで1分もない。避けたとしても余波でやられるぐらいの威力である。



「クロ、あれをやるぞ」


「あれってあの岩にも通用するのか?」


「おそらくな」



 俺はありったけの魔力、そして気力全てを完璧な対比で練り上げた。

 クロも同じように全力で練り上げて笑いながら口を開く。



「思い出すな、初めてこれを使った時を」


「まぁな、あの時の様な失敗はするなよ」


「誰に言ってんだ、僕は兄貴だぞ」


「弟よりも弱い、な」



 クロの言葉に笑顔を浮かべつつ、地面を力一杯蹴り上げて落下する隕石へまっすぐと飛び上がる。

 それに合わせてクロも飛び俺達は呼吸を合わせて拳を構えた。



「はぁぁぁぁぁぁぁ!」


「今だ!」


「「【絶拳】」」







 今までに体験したことの無い反動がクロの拳を伝い、体全体を揺らす。

 対象の内側に宿る魔力が大きいほど破壊力を生む【絶拳】はクロの【柔拳】を元に、対大型の魔物戦用にクレイが編み出した技だった。


 恐らくクレイは隕石自体に流動している大量の魔力を感知したのだろう。だからこの技が通用すると考え、選択したのだ。

 その結果――。


 隕石には無数の亀裂が入り、やがてバラバラに分解されていった。

 魔力が宿った無数の岩片が雨のように撒き散らされる。


 反動に耐えきれずクロは地面へ吹き飛ばされたものの、どうにか着地することが出来た。しかし魔力を使い切った時に出る脱力感が体全体を侵食し始めていた。



「やれば出来るじゃないか」



 クロの隣から嘆息と声が聞こえた。一緒に吹き飛ばされたクレイも着地に成功したようだ。



「僕のお陰だけどね」



 いつものようにおちゃらけた返事をするも、あまり余裕が無い。



「そうだ――な……」



 突如空間が歪がんだ――そう思った時には既に遅かった。その空間から出てきた光を帯びた剣がクレイの心臓を突き刺していたからだ。



「まさかあれを破壊するとはな」


「クレイっ!」



 突然の出来事に恐慌の声が響いた。

 やがて歪んだ空間の亀裂が広がりモルガナが現れる。



「おま……えも、なかなかやる……ようだな」



 口元から多量の血を流しながらもクレイは笑みを浮かべる。



「【マテリアル・ドレイン】を受けてもまだ生きるか。認めてやろう。お前は正真正銘の化け物だ。だが――」



 クレイに刺さった剣が強く光る。



「やめろおおおぉぉ!」



 剣先が魔力の誘発により爆発。身体に大穴が開いたクレイが、ゆっくりと倒れていく。



「俺に会うのが早すぎたようだな。ここで殺せたことを嬉しく思うぞ」


「貴様ぁぁぁぁああああ!」



 その瞬間頭に湧き上がる怒りがクロを支配する。目の前にいる男を殺そうと、クロは身体に残る僅かな魔力を拳に纏った。



「まだそんな力が残っていたか――【マテリアル・ドレイン】」



 振るわれるクロの拳をモルガナは躱した。



「ぐっ……」



 そしてクレイと同じように心臓へ剣が突き刺さる。



「くくく、これで俺は前人未到のさらにその先――神の領域にたどり着くことが出来るのだ。使徒を、天使をようやく超えることが出来る」



 薄れゆく意識の中、モルガナの声が聞こえたのだった。

ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

更新の励みとなっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=242295207&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ