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第109話

 思い出される幼少期の記憶。

 砂煙から現れた女性――ハクはその幼少期を共に過ごした仲間の1人であった。



「久しぶり――クレイ」



 色濃い登場とは反対に、ハクは落ち着いた様子で唇を綻ばせた。先程まで放っていた圧巻の魔力も一切感じず、昔の友人に挨拶する様な――平然とした態度であった。



「……久しぶりだな」



 だからこそ俺も落ち着いた態度でそれに応じる。



「お知り合い……ですか?」



 背後から心配そうな声色でリンシアが問いかけてきた。どうやら衝撃によるダメージは無かったようだ。



「このジルムンクで一緒に育った……仲間だ」



 俺はハクから目線を逸らすことなく応える。

 仲間だった――という言い方が正しいのかもしれない。

 案の定、俺の言葉に反応したハクは綻ばせた唇をそのままに歩みを進めた。



「仲間……嬉しいなぁ。クレイが生きててくれて、嬉しいなぁ……」


「どういう意味だ?」



 嬉しいはずがない。俺はハクから大切なものを奪ったのだから――。

 次第にハクは手を伸ばせば届く距離にまで近づて、俺の顔を見上げた。



「ちゃんと覚えてるよね?」


「……覚えている」


「よかった」



 ハクの表情は無邪気な笑顔に変わり、1歩踏み出す――。



「ぐっ……」



 そして<グシャリ>とノーモーションで俺の腹部の奥深くへと拳を突き刺したのだ。

 拳を貫通させた腹部からは大量の血潮が流れ出す。


 魔力、気力の類は一切感じない。そこには殺気すらも存在しない無機質な攻撃。

 それは攻撃とも呼べない。まるで呼吸をするかのような当たり前の中に含まれた動作の1つだった。



「「えっ……」」


「師匠!?」



 リンシア、メル、レニの驚嘆な声が聞こえた。

 ハクはそのまま俺の耳元へ顔を近づける。



「私の痛みを思い知れよ」



 怒りの感情を含ませた静かな主張。

 その直後――燃え上がるような熱いハクの魔力が体内を巡っていった。



「俺は……争う気はないんだがな」



 そう言って拳を引き抜くように後ろに下がった。

 そして魔法を発動させようと魔力を練り上げる。



「光魔法なんて使わないでよ」



 だが――発動しない。何かの魔法によるものなのか、それとも俺の体内を巡るハクの魔力のせいなのか。



「次元魔法なんて使わせないよ」



 言葉通り、次元属性魔法も発動しない。俺の次なる一手も封じられる。

 そのままハクは魔力を右腕に練り始めた。濃密な気力と魔力が螺旋状に渦巻いて強度を高め合っている。それは俺の得意とする魔力の練り方だった。



「後ろにいるのはクレイの仲間?」


「離れろっ!」



 ニヤッっと口元を緩ませるハク。俺は咄嗟に叫んだ。これはリンシア達に対する警告。

 レニもそれはわかっていたようで、リンシアとメルを連れてこの場から離れようと身を動かしていた。



「私から全てを奪っておいて、自分は友情ごっこなの?」



 そう言いながらハクは殺気を放つと、リンシア達が動けなくなっていた。レニも含めて強大な殺気に充てられ、体が竦んでいるのだ。

 すると横から拳に魔力を滾らせながら、ガレンがハクとの距離を詰めていくのが見えた。



「てめぇ、さっきからゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ――あがふっ」



 だがハクはそれに合わせて軽々カウンターで返し、ガレンを蹴り上げた。


 ――よくやった。

 この行動によって出来た隙を逃さず、俺は一瞬で拳に魔力を練り上げた。

 属性系統の魔法以外は使えるようだ。



「これは復讐だよ――私も大切なものを奪ってやるっ!」



 ハクは貯められた濃密な魔力を開放した。そして強烈な拳を繰り出す。




「奪わせるつもりもない」



 俺はその一撃に向けてありったけの魔力を纏った拳を跳ね返すようにぶつけた。


 破壊的な魔力同士のぶつかり合い。やがてハクと俺の間に螺旋状の臨界点が現れた。

 その臨界点を中心として空間に亀裂が入り始める。衝撃が地面を揺らすが、一瞬だけ広がった波動のような衝撃波も霧散。やがて螺旋状の臨界点は周りの物質を吸い込み始めた。


 ハクが放ったのは強大な次元属性、闇属性、光属性を混ぜたトリプル制御の魔法。そこに俺の無属性の魔法が混ざったことにより暴走が起きたのだろう。それは1種のブラックホールのようなもので、辺りの景色を飲み込もうとしている。


 これはまずい――俺とハクだけではなく、ここら一帯を飲み込んでしまうほどの威力。




「【斬魔封殺(ざんまふうさつ)の極】」



 俺は咄嗟に手刀を繰り出した。これは魔法を斬る剣技。それにより1番馴染みある闇属性魔法を斬り捨て、封殺する。

 バランスを崩した魔力暴走は次第に引力を収めていく。



「やっぱり一筋縄じゃいかないね」



 ハクはそう言いながら放つ魔力を上げていく。



「やめろっ、このままじゃお前まで」


「うるさいっ!」



 螺旋状の臨界点は後付けされた魔力と交わり爆発。



「クレイっ!」



 リンシアの叫び声が聴こえた。

 それを最後に俺は、その臨界点へと飲み込まれていった。







 ――何が起きたのだろうか。

 さっきまで自分の師であるクレイと、白髪の女性がいた場所へ目を向けながらレニは思った。

 その場には先程まで凄まじい魔力のぶつかり合いにより次元の裂け目が生まれた。そして跡形もなく、クレイはその女性と共に飲み込まれていってしまった。そこには一切の痕跡などなく、ただ静かに風が流れるだけ。



「や、奴らを殺せっ!」



 "黄領(きりょう)"の浮浪者の声が響いた。

 動揺しているところを見るに白髪の女性は仲間ではないことが判断出来る。だが、状況は悪化している。

 蹴り飛ばされたガレンは気を失っていて戦力外。リンシアに至っては目を見開いてショックを受けているように口を抑えている。



「待ってください、僕達は交渉に来ました!」



 レニは咄嗟に命乞いにも似た言葉を必死に叫んでいた。

 他の浮浪者ならまだなんとかなる。だけど中心にいるあの仕立ての良い服を着用しているまとめ役の男にはどうあがいても勝てそうにない。

 ガレンが戦力外な今、戦力は前衛のレニ、メル――後衛のリンシアで3人。さすがに3対8ではどうにもならない戦力差なのだ。



「交渉? ふふっ問答無用だ」


「私はバロック王国第3王女であるリンシア・スウェルドン・アイクールです! 交渉の価値はあるかと思いますよ」



 リンシアがすかさず、王族の証であるメダルを見せながら名乗りを上げる。

 ここで王族の名前を出すという事で交渉に対しての信憑性を付け足せる。だがそれはあくまで相手に交渉するつもりがあることが前提であり、名乗ることにより状況は悪化する場合もある。つまりこれは1種の賭けなのだ。



「ほぉ……王族か……」



 男は腕を組みながら考える素振りを見せる。

 そしてすぐさまニヤリと笑いながら――。



「その者達を捕らえろ。牢獄に入れろ」



 周りに命令を下した。どうやら賭けには勝ったようだ。しかもリンシアのみではなく、レニやメルまで生け捕りにしてくれるというボーナス付きだ。



「こいつはどうしやす?」



 浮浪者の1人が延びているガレンを指差し伺う。



「ついでだ、捕らえとけ。生け捕りの方が功績は大きい」


「りょうかいっ」



 そう言って男はガレンを縄で縛り上げた。

 レニ、メル、リンシアも次第に縛られていく。

 この縄は《アンチストーン》で出来ている。魔力の類が一切練れなかった。



「連れていけ。王族に"蒼領(そうりょう)"のトップ――これで俺も四天王のトップになれる」



 男は笑いながら歩き去っていく。



「速くあるくでやんすっ」



 浮浪者の1人がそう言いながらレニを蹴り出す。

 ――どうにか生き長らえることに成功した。

 どんな屈辱を受けても生きてさえいればまたチャンスはやってくる。そしてクレイならば必ずまた戻ってくることを信じて、レニは立ち込める感情を無にするために歯を食いしばった。


 視界に入ったリンシアの表情からも同じような感情が読み取れた。

 リンシアやメルはレニと違って女の子――これからもっと屈辱的な事が待ち受けているかもしれない。


 ――彼女は師匠の大切な人だ。命に変えても守り通さねばならない。

 レニは考えた。ここへは何人で来ただろうかと。そして気づいた――ガレンも含めて4人しか捕まっていないことに。

 "蒼領"の拠点の方に視線を向け、気配を完全に消した少女に期待を込めるのだった。

第四章終わりで、次からの第五章も頑張ります!


ご愛読、ブックマーク等ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] あえて食らったのなら、くだらない危うく仲間が殺されかけた
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