第101話
前回の話でレニのスキルを書くのを忘れていたので貼りました。
すみませんm(_ _)m
帝国での用件を済ませてから数ヶ月。王都に戻ってからは特に変わりない日々を過ごしていた。
王族や貴族達に関してはミロードの死去による忙しさが落ち着きつつある。
学園はというと俺は学年が1つ上がり先輩となった。下の学年に第4王子が入学して来たことにより一悶着あったが、今は問題なく学園生活も送っている。
そして現在、日がすっかり登りきった正午。
俺は屋敷でアリエルと《紙札》をやっていると、棚に置かれたままそれが視界に入ったので思い出すように呟いた。
「アリエル。すっかり忘れていたが、それはいつ誕生を迎えるんだ?」
それとは精霊族から預かった輝石の事である。
輝石は「あと数日というところかの」というアリエルの言葉から半年以上そのままの状態であった。
「もういつ誕生しても良いはずなのだが、原因はわからんの」
そう言いながらニヤニヤと口元を緩ませるアリエルの手元にはカードが2枚。
ちなみにゲーム内容は前世ではオーソドックスだったババ抜きをやっている。そして俺の手元は後1枚しかない。つまり最後の戦い――俺はアリエルの手元からカードを1枚引きながら会話を続けた。
「それって俺達の管理方法が間違ってるってことか? ――これであがりな」
「その可能性は否めんの――あぁ! なんでわかったのじゃぁぁ」
「というわけで今日の大福は俺が貰うぞ」
「妾の大福ぅぅぅぅ」
目の前に置かれた大福を奪うと、若干涙目になりながら項垂れるアリエル。最初の頃に会ったあの殺気と威厳は見る影もない。
「俺の魔力を大量に流したら生まれないか?」
「考え方が脳筋なのじゃ。まぁ可能性としてはあるが、純粋で清らかな心を持つ者の魔力じゃないとダメなのじゃ」
「確かに俺は純粋じゃないな」
「クレイは純粋からは程遠い、悪の権化の様な性格であろう」
腕を組み、頷きながらアリエルは言い切った。
いい人間だとも思ってないが、悪の権化って思われてんのかよ……。
「う、嘘じゃよ。クレイは妾好みの悪い人じゃ」
「それフォローになってないから」
「まぁなんにせよ、試してみる価値はある」
俺の言葉はスルーして、アリエルは棚に置かれた輝石をテーブルの上に置いた。
「俺がやって悪影響が出たりしないか?」
「それは大丈夫なのじゃ。輝石は自身に合った魔力以外は全て弾く――はずじゃ」
そういうものなのか。
語尾のせいで若干不安になりつつも、俺は輝石に手を添える。
「少しずつゆっくりの」
アリエルに言われた通り少しずつ輝石に魔力を注いでいく。
すると輝石は光を帯び始め、同時に魔力を吸われる感覚があった。
「どうやら大丈夫みたいだの。クレイは清らかなのじゃ」
清らかとはいったい何なのだろうか。
吸われ続ける事1~2分――輝石は途端に魔力を吸収しなくなった。
「魔力を吸わなくなったぞ」
「限界ということになるだが、それでも変化がないのはおかしいのじゃ」
輝石はそれ以降光を発さない。
何となくの感覚だが、限界には達していない様な気がする。
「お客様です。ご主人様」
するとエミルがひょこっと顔を出し、来客を告げた。
ここに訪ねてくる者なんてリンシアかラバール商会の子供達ぐらいだが、後者の場合はエミルが対処するのでこういう言い方はしない。となると――。
「リンシアか?」
「仰るとおりです」
やはり予想通り。だけどリンシアからここに来るのも珍しい。
「すぐ行く」
「もう来ております」
「え?」
エミルはそう言って扉を全開にすると、リンシアとメルの姿が見えた。お忍びモードの服装であり、いつものドレス姿では無い。
「いきなり押しかけてごめんなさい」
そう言いながら愛想笑いをするリンシア。心做しか顔色が暗い。
「もういるなら入ってくれて構わないぞ。座ってくれ」
俺は空いているソファーへ手招きすると、リンシアはソファーに座り、メルはその後に待機する形になった。
「どうしたんだ? 表情が暗いぞ」
第1王子であるミロードの事があってから落ち込み気味だったリンシアだが、最近は笑顔を見せるようになっていた。
だけどまたあの日のような表情をしている。
「なんでもないです。えっとですね――クレイにはジルムンクの情報を教えて頂けないかと思って訪ねてきました」
ジルムンク――俺が育ったスラム街であり元王都。
今更そんな場所の情報が知りたいというのはどういうことなのだろうか。
「情報が欲しいというなら俺は構わないが、理由を知りたい」
「ジルムンクへ視察に行く予定がありまして――」
「やめておけ」
間髪入れずに反対した俺は鋭い目付きになっていただろう。
だけどジルムンクは気軽においそれと立ち寄っていい場所ではない。一般人なら即座に身ぐるみを剥がされ、最悪命もないぐらいには危険な場所だ。
――とは言ったものの理由を追求する前に反対してしまったので、深堀りをすることにした。
「いや、悪い。どうして視察に?」
「ミロード兄様が管理していたジルムンク領土を引き継いで、私が管理することになったんです」
リンシアは俺の強ばった表情に臆することなく説明をした。
なるほど、ルシフェル辺りの指示だろう。
「ならミロードと同じように、距離を取っていればいい」
「ルシフェル兄様はその結果を望んでいないようです」
次期国王としての圧力か。ミロードに出来なかったジルムンクの統治を押し付けるということは、本格的にリンシアを潰しに来ているということだ。恐らくはラバール商会の急成長によりリンシアが邪魔になったのだろう。
俺が考える素振りを見せると、リンシアがそのまま説明を続けた。
「それに――私も出来れば統治したいと思っています」
先程までの表情とは変わり、綺麗な青色の瞳が真剣に何かを訴えかけているように感じた。
リンシアはきっとミロードの意思を受け継ぎたいと思っているのだ。それにこれは、逆に考えれば好機とも取れるのだ。ジルムンクは王国の汚点。それを統治することが出来れば貴族達からの支持も上がるだろう。
だけど――。
「リンシアの意志はわかった。だがジルムンクはそんなに甘いところじゃない。リンシアが今想像している何十倍もの苦痛や苦難を抱える人がいて、争いのある場所だ。弱いものは虐げられ、奪われる世界。護衛がいても即壊滅させられるだろう」
「それでも考え抜いて、やり遂げなくてはなりません。スラム街のような場所を無くして、少しでも多くの人が笑顔になれるように」
なるほど、それ以外にも理由はあったか。
ジルムンクにいる者も国民として考えているのだな。
「ならどうするつもりなんだ?」
「わかりません。だからこれから考えるんです」
「なら、視察には俺も行こう」
「えっ?」
俺の言葉に素っ頓狂な表情をするリンシア。
そんなリンシアに何故か笑いがこみ上げてくる。
「ふっ……リンシア、困ったら俺を頼れと言っただろう」
「だから情報を聞きに来たんです」
「そうじゃない、あの夜の事を忘れたか?」
「あっ、あのよ、夜?」
次は恥ずかしそうに顔を赤くするリンシア。俺の発言により、後ろで控えているメルも何故か顔を赤くしている。
誤解に感じる言い方をしてしまったようだ。
「守ると、伝えたはずだがな」
「それは、嬉しく思ってましたけど」
リンシアの気持ちはわからないでもない。「頼ってね」と言われると逆に頼りにくくなる。
それに俺からしたら妹のためになるが、リンシアからしたら他人なので尚更だろう。
だからこそ俺が気づいてあげればいい――そして対処すればいい。今回は報告に来てくれたという事だけでも良かった。
「とりあえず決定だ。日取りが決まり次第報告を頼むぞ。用意するものや兵の規模は俺が指示する」
「わ、わかりました」
呆気にとられるように返事をしたリンシアの表情は先程よりも柔らかいものになっていた。若干眉が困っているのは、申し訳ないという気持ちも混ざっての事だろう。
「俺もやり残したことがあってな、行きたいんだジルムンクへ」
だからこそ気晴らし程度ではあるが理由を添える。こうすることで少しは申し訳ない気持ちもなくなるだろうと。
「ありがとうございます」
俺の意図を読み取ってくれたのか、リンシアは太陽のような万遍の笑顔を向ける。若干頬を透明な雫が伝ったような気もした。
「それよりクレイは何をしていたんですか?」
一通り話が終わると、テーブルに置かれた輝石を見つめながらリンシアは首をかしげて話題を変える。
「あぁ、輝石に変化がないから、魔力を流していたんだ」
輝石のことはリンシアにも軽く説明はしてあった。学園の同級生であるリオンと洞窟へ行ったことを伝えた時は少し動揺していたようにも感じたが。
「魔力ですか」
そう言いながらリンシアは輝石に触れた――途端に輝石がうっすらと光始めた。
「あれっ、魔力が……」
「リンシア様、手をお離し下さい!」
その様子にメルがすかさず警告を促し、リンシアはそれに従い手を離した。
だけど輝石の光は強くなり始め、まん丸の輝石が人型へ形を変えていく。
「おぉ~」
その様子にアリエルが感嘆にも似た声を上げる。次第に光は止み、3歳児ほどの少女が現れた。
少女は薄い綺麗なブロンドの髪色で、修道服のような物を纏っていて、身体を丸くして眠っている様子だった。
「精霊さん?」
リンシアがポツリと呟いた。
その声に反応したのか、少女は目を覚ます。
「んっ……んん……」
大きな目をパチクリとさせながら周りを見渡す少女。そして俺の元で視線を止める。
「パパだぁ!」
そう言いながら少女は俺の胸元へ飛びついてきた。
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