第100話
遅れてすみません……。
12月は忙しく少し遅れ気味になりますが、空いた時間でしっかりと書いていきますのでよろしくお願いします。
翌朝、俺はレニの自宅(小屋)に足を踏み入れていた。
あの対談後、ククルは闇ギルドのメンバーを捕まえるために研究施設へ向かった。
俺は念押しに「本当に大丈夫か?」と伺ったが、「借りはなるべく作りたくないんでな」と笑いながら断られてしまった。
それからククルは無事に研究施設を抑えることに成功したのだが、闇ギルドメンバーはボロスも含め、全員殺されていたらしい。
口封じのために皇族の誰かがやったのではないかと考えたが、あのボロスに勝てる者がこの帝国でククル以外にいるのだろうかという疑問が残る。
ククルもそれについて疑問に思ったらしく、皇族達の動きを把握しつつこの件については詳しく調べるとのことだった。
「えぇ、帝国を出るんですか!?」
そんな事を考えつつ帝国から離れる旨をレニに告げると、素っ頓狂な声を上げながら目を見開いた。
「出るというか、しばらくは来ないだろうな」
帝国を出る――といっても王国にはちょいちょい帰っていたのでこの言い方が正しいだろう。
「どこにいくんですか?」
「言っていなかったが、実は――俺は王国の学生なんだ」
「王国の学生!?」
「そうだ。まぁ冒険者であるのも事実だがな――」
飛び跳ねるように驚くレニに向けて補足として説明を入れる。
元々は冒険者ということで紹介を済ませていたが、レニにはしっかりと正体を明かすのが筋だろうと思ったのだ。
「そしてレニ、お前には知らせておきたいことがある」
何故筋だと思ったのか――それは昨夜までにわかった姉の事を伝えることにしたからである。伝えないという選択肢もあったが、弟であるレニは聞く権利があるし、またガムシャラにダンジョンに潜られても困る。こちらが勝手に事情を調べたわけなので、少しでも対等な立場で話しを進めるために正体を明かしたのだ。まぁ隠す必要もないと思ったのが大部分ではあるのだが。
「なんでしょうか」
レニは俺の態度を察してか、真剣な面持ちで前かがみに伺ってくる。
「お前の姉――ユリアのことなんだが」
「姉さんですか!? 何かわかったんですか!?」
姉の名前を聞いたレニは、声を荒げながらそのままテーブルに手を付き身体を前に出した。
「そうだ、実は――」
俺はそんなレニへ昨日までにわかった事実を伝えていった。
闇ギルドであったこと、ドリームポーションの研究に参加させられていたこと、実行犯にさせられ、国を出たこと、それが全て弟の為にやったのではないかということ。
そして情報元は"龍虎"であるククルだということを。
「……姉さん」
話しを聞き終えたレニは俯きながら小声で呟いた。色々な気持ちが葛藤しているようにも見える。
俺はそんなレニに向けて敢えて声を掛けない。だから自力でなんらかの答えにたどり着くまで待つことにした。
「マックさんは――」
「もうクレイでいい」
「クレイさんは、どうしてここまでのことを調べてくれたんですか?」
しばらく考えてからの第一声の質問。
俺の説明に対して微塵も疑っていない様子に、レニからの信頼を感じた。
「俺は俺の目的のために、帝国の内情を調べるために動いた。だが、まぁ――弟子であるお前の気持ちを汲み取って深く追求したというのも事実ではあったが」
「――ありがとうございます」
そう言ったレニの目は少し憂いを帯びていた。そしてそのまま瞳を閉じる。
しばらくしてから何かを決意するようにして目を開いた。
「クレイさん、僕も王国へ連れて行ってください」
「……理由を聞こう」
「話を聞いていて、クレイさんはもしかしたら自分の師であるゲインを追っているのでないかと思ったからです」
言わずとも的を射ているレニの見解に、俺は少なからず驚いた。
それでいて付いていきたいという結論が出たということは、姉を探し出したいと思っていることに他ならない。
「姉を探し出したいと?」
「はい、姉が何を考えてあの男について行ったのかを知りたいんです。見つけて話したい。出来ればまた家族として過ごしたい」
確かに国を出るという選択を取ったレニの姉がどうしてゲインと共に消えたのかは不明である。
国を出れるならなんでもよかったのか、もしくはゲインの目的に何かあるのか。
「貴族としてもう戻れなくなる可能性もあるぞ?」
「もうほとんど名ばかりの貴族ですから未練はないです」
そう言ってボロボロの内装を見渡すように視線を動かすレニ。
確かにこの家に住んでいる時点で貴族に拘っているとは思わない。
「バルセロ家として名乗れなくてもいいのか?」
「例え家名がなくても、姉さんと姉弟である絆は消えません」
決意に満ちた表情を向けながらレニは真っ直ぐと告げた。
――家名が無くても絆は消えない……か。
その言葉にリンシアやティアラの姿が頭に浮かんだ。確かに家名など、兄妹を想う気持ちの前では本当に些細なものだ。
「わかった、付いてこい。その代わり条件はあるぞ」
「やったー! って条件とはなんでしょうか?」
「お前には冒険者登録をしてもらい、訓練と依頼以外の時間は俺が協力している商会で働いてもらう。3食宿付きだ」
「そんな贅沢いいんですか!?」
「あぁ、その代わり手を抜くなよ」
「実を言うと王国に付いた後はノープランだったので、嬉しいです! 本気でやります! そんな良い待遇ということは大きな商会なんですか?」
「ラバール商会というところだ」
「あれっ、ラバールって確か《紙札》を作ったところですよね?」
「知っているのか」
「はい、今や帝国の商業地域では有名な商会です。ここ1年で急成長を遂げた王国の商会と。それに紙札は帝国でも流行ってますよ。勝負事で賭博をする方も多いぐらいです」
「なるほど」
これは王国でカジノを開いたことは正解だったようにも思える。
この世界の者でも賭博にのめり込むという証明だからだ。
「そんな大きな商会とコネクションがあるなんてクレイは凄いですね」
「世辞はいい、そうと決まれば王国へ行くぞ」
俺はそう言い、レニを連れて中央都市の門を1度出ることにした。
門から出ることによって、レニ・バルセロという人間がこの国を出たという証明になるからだ。
そっちの方が後々面倒なことにならない。
「俺の肩に触れろ」
「は、はい。何をするんですか?」
「飛ぶぞ」
「え、えぇ!?」
俺は驚くレニを余所にすかさず【転移】を発動させる。
「ん?」
目の前の景色が馴染みある王国の景色に変わっていく。屋敷の自室に飛んだのだ。
だが【転移】で飛んでいる最中、殺気を感じたような気がしたのだが気のせいだろうか――。
「おかえりなさい、ご主人様――お客様でしょうか」
俺の気配を察してか、エミルがすぐに扉の外から声を掛けてきた。
――まぁ気にすることもないか。
俺は特には気にせず、レニをエミルに紹介した。
そしてまずは新たな身分証を作るために冒険者ギルドに向かったのだった。
――――――――
《レニ・ジ・バルセロ》
Aスキル
【極・成長】
Bスキル
【計算】
Cスキル
【無属魔法】【反射】
加護
【ウリエルの加護(愛の度量)】
――――――――
【ウリエルの加護(愛の度量)】
・想いの度合いに応じて成長速度が上がる。
【無属魔法】
・属性のない魔法の習得速度・練度が上がり、消費魔力が下がる。
――――――――
◇
時は少し遡る。
深夜、もうすぐ日も登りそうな時刻に帝国の中央都市に残った最後の研究施設でカルロと出っ歯男が話しをしていた。
「どうするでやんす! リーダーは優勝出来なかったし、残りの施設も全滅してるでやんすよ」
「ガハハッ。落ち着け、リーダーがもうすぐ来るぜ。というかあいつどうしたんだ?」
カルロは端の方でブツブツと呟いている少女を見やりながら首を傾げた。
「なんか決勝トーナメントからおかしいんでやんすよ。人の名前かなんかをずっと連呼しているでやんす」
そう言いながら出っ歯の男も首を傾げる。
そんな2人の会話には目も向けず、少女はひたすらに独り言を呟いていた。
「くれ……い……くれい……くれいくれいクレイクレイクレイ――」
すると少女の中で、<カチンッ>と何かのピースがハマったような感覚が伝ってくる。
「生きてた――生きてた、生きてたんだ。生きてたんだクレイ」
少女は途端に研究施設に置かれた薬の入ったビンを懐に入れ始めた。
「ハク、なにやってるでやんすか! それはリーダーの許可が出るまで外に持ち出しちゃダメっすよ」
「うるさい」
ハクと呼ばれた少女はそう言って、自然な動作で出っ歯男を殴り、壁へ吹き飛ばした。
だが吹き飛んだのは出っ歯男の首だけ――胴体はその場にゆっくりと倒れ落ちる。
「てめぇ!」
するとカルロが有無を言わずハクに斬りかかった。
ハクは剣の側面に拳を当てて、斬撃を受け流がし――もう片方の拳でカルロの胸を貫いた。
「ぐふっ」
「邪魔だよ」
貫いた拳を引き抜くと、カルロは大量に血を流しながら白目を向いて倒れる。
「おいおい、これはなんの騒ぎだ」
そこでちょうどいいタイミングで闇ギルドの幹部にして帝国支部のリーダーであるボロスが現れた。
ボロスは状況を瞬時に把握したのか、眉にシワを寄せながら剣を抜いた。
「どういうつもりか知らないが、裏切り者には死んでもらう」
「邪魔するなら殺すよ」
ハクは静かに囁くと、身体へ魔力と気力が瞬時に圧縮される。
その刹那――ボロスはハクの姿を見失っていた。
「【絶拳】」
するとボロスの耳に声が聞こえた。
聞こえた矢先、既にハクの拳はボロスの腹を貫いていた。
それにより勢いよく吹き飛ばされるボロス――口からは物凄い量の吐血をしている。
「ぐっ」
吹き飛ばされながらも、ボロスは負けじと魔力を宿した剣を振り下ろした。
「無味無――」
「【爆掌】」
ボロスは剣を最後まで振り下ろすことはなかった。
ハクの掌底によってボロスは肉片へと変わり果て、砕け散っていった。
「邪魔するからだよ」
ハクはそう言ってボロスの亡骸からポーションの様なビンを取り出し、自分の懐に入れ、研修施設の外に出た。
既に朝日は登っていたようで日差しから目をかばうように手を挙げた。
すると大勢の衛兵がこの施設に向かってきている気配を感じる。
ハクは【超・気配遮断】で姿を消し、人通りのない路地を歩き始める。
――頭が朦朧とする。
大量の魔力を一気に使ったせいだろうか、頭がグラグラと揺れる。おそらくそれだけではない。先程から忘れていた事を思い出すかのように記憶が蘇っていくのだ。
「ぐ……う……」
――どれくらい休んだだろうか。
しばらく町外れの路地で休むんでいると頭の痛みが一気に引いていく。同時にすべてを思い出した。
「クレイ……どこだ」
ハクはそう言って跳躍し、建物の屋根から屋根へ飛び移っていく。
やがて時計塔のてっぺんまで物凄い跳躍で登っていった。
「【極・千里眼】」
そして遠くを見渡せる【千里眼】を発動。
すると都市の外壁を出た先の草むらに男が2人いるのを発見した。
1人は茶髪の男。もう1人は――クレイ。
「見つけた」
ハクは遠すぎて豆粒ほど小さく見えるクレイに向けて殺気を放った。
途端、クレイは茶髪の男と共に姿を消してしまう。
「逃げられた――まぁいいか」
ハクは笑いながら魔法で服に付いた血を洗浄していく。生きているのなら見つけようがあるとハクは思ったのだ。
「クレイ生きてたんだね。私強くなったよ――これでやっと復讐出来るよ」
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