第32話 終焉! 溟海の狂鮫!
「今回の仕事俺たち要らなかったんじゃないか?」
「急にどうしたんだお前」
ヘルザがナランディアを一撃で倒してから数十分後。
溟海の狂鮫に所属する下っ端共は、ナランディアが破れるや否や全員が降伏。
現在はリュウセイの部下達が持ってきたロープなどで拘束中だ。
そして同時期に四季を含めた怪我人は、キャンサーを中心に医療組によって応急手当てが行われていた。
その最中四季の四人は近場に集まって話をしていたのだが、突如ゾイが愚痴を言い始めた。
「だってよ〜あんだけ苦労した親玉をたったの一撃で倒したんだぜ。もうヘルザさん一人でよかったろ」
「それは流石に無茶と言うもんだよ〜いくら僕でもこんな大人数相手に出来ないよ〜」
「……ヘルザさん」
ニコニコ顔で手を振って、今回の大金星の男ヘルザが近づいてくる。
「それから君達は気が付かなかったろうけど、あの爺さん相当ダメージを受けてたよ〜じゃなかったら〜いくら僕でも一撃で倒せなかったよ〜? それに君たちだってよくやったじゃん〜ブラックは傷一つつけることなく被験者達を保護することが出来たし〜他の3人もそれぞれ敵の幹部を討ち取ったんだしさ〜」
「あぁ、そのことなんだが…確かに俺たちは倒したには倒したんだが、誰も捕まられてないぜ」
「え〜?それはどう言うことだい〜?」
「まず俺が戦ったイザキってオカマは、隙をついて何処かに逃げやがった。今部下が近くを探しているんだが、まぁここまで探していないなら完全に逃げられたな」
「俺が倒したターバンの男も、クッデが倒したハクセイって男も、瓦礫の山に埋もれちゃって安否不明。が、どちらも実力者な所から上手くやって逃げたと俺は考えてる」
「なるほどね〜当面はその逃亡した幹部三人の行方を探すのが主な仕事になりそうだね〜で〜クッデは何してるの〜」
「いやもううんそっとしといてください」
リュウセイやゾイに比べて重症ではないクッデは、手当を後回しの為か少し離れた所でポツンと座っていた。
そんな彼に気にかかるのは、クッデを後ろから抱きしめるニィアの姿だった。
ただただ無言でぎゅっと抱きしめていた。
と言うか周りから見たら、抱きしめるを通り越して締め付けている様に見える。
「なんかわからないけど、こっち来て座った瞬間に抱きついて来て、何話しかけても答えてくれなくて……ってなんでそんな睨むんですか」
「死ねばいいのなっと思っただけ」
「酷くね」
嫉妬しているのかただイライラしているのか、ブラックは笑み一つこぼさずクッデに対し冷たい目線と言葉を向ける。
「なにお前、恋人とか欲しいタイプなのか?」
「いや、ただ見てて無性に腹が立つ」
「(羨ましいんだな)」
「……そう言えば、ヘルザさんはどうやって此処に来たんすか?合流時に間に合わなかったし、フューチェさんの本部から此処までを繋いだ鏡は、もう閉じてるし」
「本部〜?鏡〜?一体何のことを言ってるんだい〜?」
「え?」
「僕は手紙に現地集合って書かれてたから〜手紙に書いてあった此処に真っ直ぐ来たんだけど〜」
「……どう言うことキャンサー?」
少し離れたところで話を聞いていたメインバは、重症人の手当てをするキャンサーに対して質問する。
メインバの問いに対し、キャンサーは手を止めず淡々と述べ始める。
「簡単よ、全員招集の手紙を出す時、四季四人は本部に近い所で仕事もしくは滞在していたに比べて、ヘルザが仕事をしに行っていた場所は招集日に間に合わない程遠い場所だったから、本部よりも近かった敵の本拠地にあえて向かわせたのよ。伝えておいた方が良かったかしら?」
「当たり前よ」
「なんで?」
「なんでってあんたね」
半切れ口調でキャンサーに詰め寄る。
が、キャンサーは顔色ひとつ変えずに、コテっと首をかしげる。
この様子を見てか、何言っても通じないと感じ、諦めて煙草を取り出し吸い始める。
「もういいわ、結果的に溟海の狂鮫を倒すことには成功したし」
「?? 納得したならいいわ。それより早く本部に戻らない?此処では治療にも限界あるし、この犯罪者達も連れて帰らないといけないし」
「それもそうね……じゃあちょっと待ってなさい。フューチェを叩き起こしてくるから」
「お願いだから寝させてあげて彼女死んじゃうから他の方法を考えてあげて本当に」
**その頃**
自由な旅人が休憩している場所から遠く離れた森林の中。
荒い息を吐きながら一人走るイザギの姿があった。
「はぁ…はぁ……あ…危なかった…しかし運が良かったわ…あの場に緊急脱出用の隠し通路があって…じゃなかったらあの場で捕まってたわ…」
汗だくの顔を袖で拭いながら、リュウセイとの戦いを思い返す。
無我夢中で走っていたイザギだったが、ふと足を止め横を見る。
暗く少し見にくかったが、見覚えのある後ろ姿が目に入ったのだ。
白いスーツに黒髪の男…クッデにやられたハクセイだ。
知ってる人物を見つけて安心したのか、イザギの表情は煌びやかになりハクセイの方へと走り出す。
「いやっほ〜ハクセイ君〜あなた無事だったのね〜!!」
イザギは手を大きく振り、安心しきった声を出しながら近づいて行く。
しかし、イザギに気が付いていないのかハクセイは背中を向けたままだ。
「もぉ〜無視しないでよ〜」
そんな事御構い無しにイザギはハクセイのすぐ後ろまで行くと肩に手をかけようとした。
が、その手は肩に止まることは無かった。
空中で停止した手は小刻みに震えだし、イザギの顔には走っていた時以上の汗が吹き出していた。
イザギは恐怖と苦痛の顔でゆっくりと下を向く。
なんとそこには、背後から自身の体を突き抜ける毛むくじゃらの腕があった。
背後にいたため顔が分からないが、腕を見ただけでイザギは誰のものなのか分かった。
獣化したハクセイの腕だ。
「な…何故…」
「少し静かにしててください。連絡中です」
「わ…私は…あ…あな…たの…ガッ」
口から大量の血を吐き出すと、イザギはその場で力なく崩れていく。
「これで静かになりましたよ」
「えぇありがとうございます」
イザキに背を向けていたハクセイは振り向かず、後ろに立つ分身に軽くお礼を言う。
お礼を言われたハクセイはその場でスゥっと消えていく。
その後、右手に持つ小さな宝玉の通信機を口元に近づけ話始める。
「すみません邪魔が入りました。えぇと…どこまで話しましましたか?」
『溟海の狂鮫が潰されたって話の最中さぁ。全く君がいながら使えないなぁ』
「何言ってるんですか。近からず遠からず僕達が潰す予定だったんですから問題ないでしょう」
『ということはぁ、彼らは使い物にならなかったのかい?』
「そうですね。幹部三人も弱いですし、ボスのナランディアさんも純粋な戦闘能力は僕達と互角ほどなんですけどね…なにせ歳も歳ですからね」
『あらら、そりゃ残念だねぇ。君の潜入捜査も無駄に終わったわけかぁ』
「……そうなりますね。あぁけど一つだけ君に土産がありますよ」
『おぉそれはなんだい?もしかして僕の大好物の海老』
「何でよりにもよって僕の嫌いな食べ物なんですか」
『君の好みは知らないよぉ、それでなんなの土産って?』
「そうそう、君が今行ってる例の実験のことさ。良さそうな実験体を一人見つけましたよ」
『本当かい!!! 今すぐそいつの資料を教えてくれえっ!!!』
「いいですよ。ただし詳しいことは後ほどお話しします…今迎えが来ましたのでね」
此処でハクセイは一度口元から通信機を離し上見上げる。
すると頭上からライオンのような生物が巨大な翼を広げてゆっくりとハクセイの隣に降りて来た。
そして降り立つと同時に身をかがめる。
その行動を見てから、ハクセイは謎の生物に近づき背中にまたがる。
「ではまた後で」
『はいはい、君の土産話楽しみに待ってるよ』
通信機の声の主は高笑いをしながらブチっという音とともに通信機は途絶える。
通信機が切断されると、それを胸ポケットの中にしまう。
それの代わりに、中から仮面を一つ取り出し目につけ始める。
その間に謎の巨体な生物は、バッと翼を広げると荒々しい音を出しながら旅立つ。
そしてその場には謎の巨体な生物の羽毛と、腹を貫かれ冷たくなったイザキだけが、静寂の中置き去りとなっていった。
〜to be contenued〜
遅くなりやした




