第22話 被験体
〜ゾイサイド〜
「まさか、逃げた先に地下へと降りる階段があるとはな……」
頭の後ろをかきながら、一人つぶやくゾイ。
此処は地下二階。
イザキの鎌鼬から逃れる為、大広間から脱出したのだ。
幸運にも、逃げた先に、螺旋階段状になっている階段を見つけ、一気に此処まで来るのに成功したのだ。
そして、降りた先には、雑魚兵が数人待ち構えていたのだが、今の彼の敵ではなく、ものの数秒で全員氷漬けにされていた。
「さてと……この感じやともう一階層ありそうだが……」
地面を見ながら、軽く蹴りつける。
上の階が騒がしく聞きづらかったが、確かに空洞音が聞こえた。
しかし、螺旋階段はこの階で終わっていた。
「と、言う事は何処かに隠し階段か何かあるのかね……そして、そこに此処の闇組織のボスがいると……参ったなぁ、俺の魔法は、クッデやリュウセイのように純粋な破壊力が無いんだよな……床けん天井とはいえ、ぶっ壊して先に進む事は出来ないんだよなぁ……仕方がないし、下へ続く階段を探すしかねぇか」
軽いため息を吐く。
そして、地面を見ていた顔を上げて正面を真っ直ぐと見る。
「それか、此処に詳しい奴から話を聞くか……ね」
ゾイの目線の先には、ターバンを巻いた一人の男が立っていた。
〜クッデ&ブラックサイド〜
「……どう思う?」
「……静かすぎる」
リュウセイの作った穴から下の階、地下一階に降りたクッデとブラック。
今は少し長い一本道の廊下を歩いているのだが。
降りてから数分経ったが、敵の姿形を全く見ないのだ。
「侵入者が現れたとなれば、もっとドタバタしてるのかと思ったんだけどな……もしかして、全員上の階へと向かったのか?」
「ふむ、それもありえるな。敵も床ぶち破って、下の階に降りて来るとは、考えもしてないだろうしな」
「あはは、確かにな」
クッデは、リュウセイの行動を思い出しながらケタケタ笑いだす。
しかし、それとは裏腹に、ブラックは真剣な顔つきで考え始める。
「(クッデの言う通り、敵が上の階へと向かうのは行動的には間違ってはない。とはいえ、例えそうだとしても、数人は他の階に配置しないだろうか?組織的に動いているのであれば尚更だ。此処には、そう言った指示を出す司令官がいないのか?それとも……)」
手を顎に当てながら、色々と思考させるブラック。
そんな時だった。
「あ?何だ?」
クッデは何かに気がついたのか、急にその場に止まり出す。
ブラックも、クッデの声に反応し、その場に止まり、クッデの方へと向く。
「どうした?」
「いやなんかよ、変な音が聞こえるんだよ」
「変な音?」
ブラックは耳を澄ましてみた。
すると、上から聞こえるドタバタ音とは違い、何か激しく動く機械の音が聞こえてくるのだ。
それも、そう遠く無いところからだ。
しかし、上のドタバタ音のせいなのか、何処から聞こえるのか分からない。
ブラックは、自然と刀へと手を伸ばしていた。
クッデも両腕を竜化させ、ブラックと背中合わせで立つ。
そんな彼らに、ゆっくりと、だが確実に謎の機械音は近づいてくる。
「気をつけろクッデ。何か来るぞ」
「あぁ分かってるさ。だが、此処は一本道の廊下、来るなら前から後ろのどっちかだ。こうやって背を合わせていれば不意打ち受ける事はないはずだ」
背を向けながら、互いの正面をじっと睨む二人。
ブラックは、念のためクッデが見ている後ろをチラっと確認しながら、攻撃態勢を取っていた。
その行動を二、三回やった時だった。
ふと、ブラックは正面を見るのをやめて、横を見始めたのだ。
そこは、何の変哲も無い普通の壁だった。
一本道の廊下なのだから当たり前なのだが、ブラックにはある違和感を覚えていた。
「(此処の壁だけ……何故か綺麗だ)」
綺麗な壁。
それは汚れとかが無い清潔な壁という意味では無い。
ヒビもなければ傷も無い。
真新しい新品同然の壁なのだ。
しかも、それはブラックの見つめる壁のみなのだ。
「(誰もいない階……謎の機械音……新品同然の壁……)」
不可思議の三つの状況。
そしてこの時、ブラックにはもう一つ、ある光景が浮かんでいた。
それは、"リュウセイが床に穴を開けた"光景だった。
その時だった。
新品同然の綺麗な壁に亀裂が走る。
ブラックの顔が、サァーと青くなり、後ろを振り返る。
クッデは相変わらず正面のみを見ていた。
「(言葉で言っても間に合わない!)」
ブラックは振り返った勢いのまま、クッデの背中を蹴っ飛ばし、その反動を利用して自分もその場から離れる。
「どわぁぁぁっぶ!!」
不意に吹っ飛ばされたため、クッデは受け身を取ることもできず顔面から地面に衝突した。
その後すぐだった。
亀裂の入った壁は激しい音をしながら、クッデ達が居た場所に崩れ始めた。
そして、流れ落ちてくる壁の瓦礫中に、何かを回転させる薄い鉄も一緒に落ちてきた。
いや、"振り下ろされた"のだ。
「いってぇ……って何だこれ!?」
クッデは、顔面をさすりながら、後ろを振り向き、状況を確認する。
「あれは……一度だけ見たことがある。"鎖鋸"だ。多数の小さな刃をチェーンで回転させることによって物体を切断する武器……いや、工具だ」
「こ、工具って……物とか作るのに使う道具の事だよな?こんな破壊力の高い物何に使うだよ……」
「だから言ったろ、物体を切断するって」
「その物体ってのは、俺たち人間も含まれてるってかおい……」
クッデは苦笑いをしながら、地面に刺さる鎖鋸を見つめる。
地面に衝突した際に、回転していた刃は止まり、今は機能停止をしている。
次に、鎖鋸の先から辿って持ち主の方へと向く。
その持ち主を見た時、クッデの目はハッと見開く。
持ち主は、髪が妙に長くボサボサの女性だった。
いやそれだけでは無い。
着衣はボロボロ、身体にも肉がほぼなくやせ細っていた。
何より、クッデを驚愕させたのその女性の目だった。
正気の目ではない、目はカッと見開き、焦点が合っているのか分からないほどギョロつかせていた。
イザキの時とは比べ物にもならない不気味さだった。
クッデは若干震えていた。
それもそうだ、彼は生まれて一度も、こんな得体の知れない人間……いや生物を見たことがないのだ。
女性は、ふらふらになりながらも、重い鎖鋸を持ち上げる。
そして、ニタァっと此方を見た。
「ヒィッ!!な、なんなんだこの薄気味悪い奴は!!俺たちを攻撃したあたり、敵と判断していいんだよな!?」
クッデはすぐさま立ち上がり、戦闘態勢を取り始める。
「待てクッデ!!下手に攻撃を仕掛けるな!!もしかしたら彼女は、"被験体"かも知れない!!」
「ヒ、ヒケンタイ?って、何だ?」
「被験体……つまり、実験台って事だ。メインバさんが言ってたろ。此処の奴は、主に麻薬を取り扱う組織だって。だから、麻薬の効果を知るために、実際に人間に投与して実験してんだ。彼女の正気じゃない目が何よりの証拠だ」
「実験って……強制にか?」
「あぁ、彼らにとって彼女は、ただの奴隷だ。そしてこのフロアは、彼女を実験する階層なんだろう、ここの壁だけ真新しいかったのは、麻薬の影響で暴れる彼女によって他の部屋の壁より壊れる速度が早かったからだ……いや、"彼女ら'の方が正しいか」
ブラックは、鋭い目つきで後ろを睨む。
そこには、鎖鋸を持つ女性と同じく、正気を失った目をした男女数人が、ふらふらになりながら鉄パイプやナイフと言った武器を所持していた。
それは、クッデの背後にもいた。
「なんて奴らだ……無理やり苦しい実験させるに飽き足らずに、こんなボロボロな奴らに戦わせようってのか!!」
クッデも、ブラックと同じく鋭い目つきで睨み、恐怖の震えは、怒りの震えへと変わっていた。
「だが、どうする?俺達が攻撃しなくても、彼女らは容赦なく攻撃を仕掛けてくるぞ!!どうやって倒す?それとも逃げるか?」
クッデは、前後交互に見ながら、ブラックに質問する。
「……クッデ。お前は彼女らの攻撃を手段をを断て。その間に、俺が再起不能へと追い込む」
そう伝えると、ブラックは静かに、ゆっくりと刀を鞘から抜き始めた。
「……ブラック?何をするんだ?」
作戦を理解出来なかったのか、クッデはもう一度聞き直す。
しかし、ブラックはそれには答えず、鞘から抜き出した刀を、サッと目の前にいる男女に向ける。
「攻撃出来ない敵なら、それ相当の倒し方ってのがあるんだよ」
ブラックは、小さくニヤリと笑う。
そんな彼の刀は、薄く不気味に光り始めるのであった。
〜to be continued〜




