第11話 毒蛇と天声 ②
〜屋根〜
「はぁ……はぁ……くそ……」
荒い息を吐きながら、屋根の上に膝をつき、うずくまるゾイ。
足は完全に機能停止し、手にも力が入らない。
目眩も起き始め、意識を保つのがやっとの状態だった。
そんな彼を見下して見るパオ。
その手には、うねるように動く刀身の刀があった。
蛇刀だ。
「どうや?此処で終わりにしないか?俺はクローバー達と違って、人を殺す趣味はないんや。現に毒を食らったお前が生きてるのがその証拠。体の神経を麻痺させるだけの弱い毒や」
提案を出すパオだが、ゾイの耳にその言葉は入らなかった。
もはや、聴覚さえも正常に動かない状態だ。
「(あぁ……此処までか……意識が薄れて来やがったぜ……これじゃ…フューチェに飽きられるよな……くそ……あんな水みたいな…かた…な…に…………水?)」
意識の薄れかけてる中、ゾイの目がカッと開く、停止しかけていた脳が一気に動き出す。
「(水……液体……まてよ、もしかしたら!?)」
ゾイの顔に笑みが浮かび上がる。
「(こいつ……何考えてやがる……)」
先程までの弱りきった顔とは打って変わって、生気が戻り、生き生きとした顔へと変わっていく。
「(何かされる前にやるしかねえか!!)」
刀を構えて、ゾイを狙う。
「死なない程度に喰らえ! 蛇刀・追!!」
パオの刀の刀身が一気に伸び、頭身の蛇はゾイの肩に噛み付く。
「ぐうっ!?」
「これでお終いや」
「……お前がな!!」
神経が鈍っている腕を、無理矢理動かし、刀の刀身を掴む。
その一瞬だった。
パオの右腕が、刀ごと凍るのは。
「な、何やと!!??」
一瞬の出来事に、パオは一時思考が停止した。
「(冷静に考えれば簡単なことや。この刀は全体液体毒出来ている、だからあんな複雑な動きで俺を攻撃することが出来たんや。そしてこれが液体なら、個体よりも遥かに凍る速度は速い。それを利用すれば、此奴に触れることはできなくても、刀を通して此奴を凍らすことが出来る!)」
「ぐっ!」
「お前が言ったんやぞ、発想力がある方が勝つってな!!」
ゾイは残ってる全ての力を振り絞り、氷の造形を始める。
「やられてたまるかぁ!!!」
パオも、凍ってない左手で蛇刀の造形を始める。
しかし、彼が魔法を発動し始めた頃には、もうゾイの造形は終わっていた。
太陽に照らされ、キラキラと光る、氷の槍の造形が。
「喰らいやがれ!!氷造"槍"!!」
枯れかけている声を振り絞り、大声で叫び氷の槍を放つ。
「ガハッ!!」
氷の槍は、パオの腹を貫通し刺さる。
そして、刺さった場所からパオの体は徐々に凍り始める。
「畜生がぁ!!!」
パオも負けずと蛇刀を造形し、ゾイに向けて刀身を伸ばし攻撃する。
しかし、刀身はゾイの顔の寸前で止まる。
ゾイの目には、全身凍りついたパオだけが映っていた。
それを見、安心したのか、ゾイはそのまま倒れこむ。
「(あぁ……流石に毒くらい過ぎたか……回復するまで少し……寝る……か……)」
自分の役目は終わりと感じ、そのまま夢の中へと、ゾイのは入っていった。
***
〜列車内〜
「ねぇねぇ、この後どうするの?」
キラキラと光るレイピアをフューチェの首に接触させながら、笑い問うミル。
しかし、フューチェは以前と変わらず無表情だった。
「(大ピンチだってのに……この子、きみがわるいわ……さっさと倒して、ティナテの強奪しよっと)」
勢いを付けるため、首元にあったレイピアを、一度離す。
その瞬間をフューチェは見逃さなかった。
地面に転がっていた水晶玉を、魔法で浮かばせミル向けて飛ばす。
「ごはっ!!」
水晶玉は、ミルに激突。
そのまま後方へと吹き飛び、地面に倒れこむ。
「はぁ……はぁ……この野郎!!」
地面から起き上がった、ミルの目は充血し真っ赤に染まっていた。
「口調が悪くなってますよ?それとも、それが本来の貴方ですか?」
飛ばした水晶玉を戻しつつ、体を起こす。
無表情は変わらず。
「この……くそあまがぁ……私を舐めんじゃねぇよ!!パオ兄に、人殺しはするなと言われてるから、手抜いてやってんのによぉ!!テメェがそんな態度だから殺さなきゃいけないじゃないかぁ!!」
先程とは別人のような性格に変わったミルは、荒々しく息を吸い込み出す。
先程の天使の歌声よりも多く。
「(喰らえ!!"悪魔の歌声"!!)」
吸い込んだ息を、声とともに吐き出す。
その瞬間、ミルたちのいる車両内は大きく揺れた。
人一人の声で揺れたのだ。
そして、ミルの渾身の攻撃は、勢いを落とすことなく、フューチェの元へ向かっていく。
……フューチェの前までは。
「(え!?)」
フューチェは、顔色一つ変えずに立っていた。
耳を塞ぐどころか、苦しむ様子もなく、ただただ無表情で立っていた。
少し時間が経ち、ミルは息が無くなったため、声を出すのをやめた。
荒い呼吸で息を整え、フューチェの方を睨む。
「何故……何故平然と立っていられるの!?私の"悪魔の歌声"は、聞けば鼓膜が弾けば程の声量よ!!!なのにどうして!?」
「あら?言ってなかったっけ?私の異名は"境界"。そして、私の使用する魔法名は"鏡中"。鏡の中を自由自在に行き来できるのよ」
説明しながら、フューチェは水晶玉を自分の顔の前まで持っていく。
人の顔が映り込むほど、綺麗な水晶玉を。
「鏡と言っても、写ったものを反射することが出来れば、それを鏡として魔法を発動することが出来るわ。つまり、貴方の声の魔法は、私のこの水晶玉を通過して、鏡の世界に入って行ったのよ」
その説明を聞き、ミルは嫌々納得した。
「私の魔法が効かなかった理由は分かったわ、ありがとう。まぁ、それが分かったところで、私にはこのレイピアがあるわ。殺していいなら、もう容赦なく斬りかかってもいいからね、さっきみたいに簡単に避けきれないわよ」
ドス黒い殺気を出しつつ、二本のレイピアを構える。
その光景を見て、フューチェは深いため息をつく。
「何よ!!魔法が効かないからって余裕ぶっこいてんじゃないわよ!!!」
「貴方……私の話聞いてた?」
「は?」
「私の魔法は、鏡の中を自由自在に行き来できるのよ。つまり、鏡の中に入れたものを、別の鏡の中から出せるのよ」
「それがなんだって言うのよ!!」
声がどんどん荒らしくなっていく。
そんな様子を無視し、フューチェは説明を続ける。
「私は、貴方の声を任意でこの水晶玉を通して鏡の世界へと入れたの。そして、その声を鏡の外へ出すのも私の任意で可能なの」
「はん、そんなことかよ。私の声をその水晶玉から出して、私を倒そっての?んなもん、来る方向が分かれば、もう一度声を出せば、相殺することが出来るのよ!!」
そう言って、ミルは大きく息を吸い込み始める。
「そう、来る方向が分かれば相殺できるのね……来る方向が分かれば……ね」
聞こえるか聞こえないかな小さな声で呟き、フューチェは魔法を発動する。
鏡の中に入れた、声を外に出すために。
しかし、声が場所は水晶玉からではなかった。
ミルの持つ、"レイピア"からだ。
「ギャャャャャャャ!!!」
耳を塞ぐ暇なく、大音量の声がミルの頭の中に響く。
「(レイピアの刀身も、細いけどしっかりと反射する。ならば、鏡の世界の入り口を開くことができるのよ……)」
フューチェは、こちらに漏れて来る声を塞ぐため耳を塞ぎながら、苦しむミルの姿を静かに見守る。
ミルはすぐレイピアから手を離し、耳を塞ごうとする。
手を耳に近づけた瞬間から、プチっと、何かが潰れるような音がした。
それは大音量の中でも何故か聞こえた。
鼓膜が破れる音だ。
その音が鳴ったと同時に、ミルは白目を剥き、そのまま倒れこむ。
フューチェは、その光景を見てから指を鳴らし、魔法を止める。
それが合図だったのか、レイピアから流れ出た声の魔法は何もなかったかのように止まる。
フューチェは、ミルへとゆっくりと近づき、気絶していることを確認すると、安堵したのか、深いため息をつく。
「自分で自分の首を締めるとはこの事ね……」
一言だけ呟くと、どっと疲れたのか、その場に座り込む。
〜to be continued〜




