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竜の声  作者: 水仙(スイセン)
鬼列車編
12/43

第11話 毒蛇と天声 ②

〜屋根〜

「はぁ……はぁ……くそ……」

荒い息を吐きながら、屋根の上に膝をつき、うずくまるゾイ。

足は完全に機能停止し、手にも力が入らない。

目眩も起き始め、意識を保つのがやっとの状態だった。

そんな彼を見下して見るパオ。

その手には、うねるように動く刀身の刀があった。

蛇刀だ。

「どうや?此処で終わりにしないか?俺はクローバー達と違って、人を殺す趣味はないんや。現に毒を食らったお前が生きてるのがその証拠。体の神経を麻痺させるだけの弱い毒や」

提案を出すパオだが、ゾイの耳にその言葉は入らなかった。

もはや、聴覚さえも正常に動かない状態だ。

「(あぁ……此処までか……意識が薄れて来やがったぜ……これじゃ…フューチェに飽きられるよな……くそ……あんな水みたいな…かた…な…に…………水?)」

意識の薄れかけてる中、ゾイの目がカッと開く、停止しかけていた脳が一気に動き出す。

「(水……液体……まてよ、もしかしたら!?)」

ゾイの顔に笑みが浮かび上がる。

「(こいつ……何考えてやがる……)」

先程までの弱りきった顔とは打って変わって、生気が戻り、生き生きとした顔へと変わっていく。

「(何かされる前にやるしかねえか!!)」

刀を構えて、ゾイを狙う。

「死なない程度に喰らえ! 蛇刀・追!!」

パオの刀の刀身が一気に伸び、頭身の蛇はゾイの肩に噛み付く。

「ぐうっ!?」

「これでお終いや」

「……お前がな!!」

神経が鈍っている腕を、無理矢理動かし、刀の刀身を掴む。

その一瞬だった。

パオの右腕が、刀ごと凍るのは。

「な、何やと!!??」

一瞬の出来事に、パオは一時思考が停止した。

「(冷静に考えれば簡単なことや。この刀は全体液体毒出来ている、だからあんな複雑な動きで俺を攻撃することが出来たんや。そしてこれが液体なら、個体よりも遥かに凍る速度は速い。それを利用すれば、此奴に触れることはできなくても、刀を通して此奴を凍らすことが出来る!)」

「ぐっ!」

「お前が言ったんやぞ、発想力がある方が勝つってな!!」

ゾイは残ってる全ての力を振り絞り、氷の造形を始める。

「やられてたまるかぁ!!!」

パオも、凍ってない左手で蛇刀の造形を始める。

しかし、彼が魔法を発動し始めた頃には、もうゾイの造形は終わっていた。

太陽に照らされ、キラキラと光る、氷の槍の造形が。

「喰らいやがれ!!氷造(アイス)"(スピア)"!!」

枯れかけている声を振り絞り、大声で叫び氷の槍を放つ。

「ガハッ!!」

氷の槍は、パオの腹を貫通し刺さる。

そして、刺さった場所からパオの体は徐々に凍り始める。

「畜生がぁ!!!」

パオも負けずと蛇刀を造形し、ゾイに向けて刀身を伸ばし攻撃する。

しかし、刀身はゾイの顔の寸前で止まる。

ゾイの目には、全身凍りついたパオだけが映っていた。

それを見、安心したのか、ゾイはそのまま倒れこむ。

「(あぁ……流石に毒くらい過ぎたか……回復するまで少し……寝る……か……)」

自分の役目は終わりと感じ、そのまま夢の中へと、ゾイのは入っていった。


***


〜列車内〜

「ねぇねぇ、この後どうするの?」

キラキラと光るレイピアをフューチェの首に接触させながら、笑い問うミル。

しかし、フューチェは以前と変わらず無表情だった。

「(大ピンチだってのに……この子、きみがわるいわ……さっさと倒して、ティナテの強奪しよっと)」

勢いを付けるため、首元にあったレイピアを、一度離す。

その瞬間をフューチェは見逃さなかった。

地面に転がっていた水晶玉を、魔法で浮かばせミル向けて飛ばす。

「ごはっ!!」

水晶玉は、ミルに激突。

そのまま後方へと吹き飛び、地面に倒れこむ。

「はぁ……はぁ……この野郎!!」

地面から起き上がった、ミルの目は充血し真っ赤に染まっていた。

「口調が悪くなってますよ?それとも、それが本来の貴方ですか?」

飛ばした水晶玉を戻しつつ、体を起こす。

無表情は変わらず。

「この……くそあまがぁ……私を舐めんじゃねぇよ!!パオ兄に、人殺しはするなと言われてるから、手抜いてやってんのによぉ!!テメェがそんな態度だから殺さなきゃいけないじゃないかぁ!!」

先程とは別人のような性格に変わったミルは、荒々しく息を吸い込み出す。

先程の天使(エンジェル)歌声(ソング)よりも多く。

「(喰らえ!!"悪魔(デビル)歌声(ソング)"!!)」

吸い込んだ息を、声とともに吐き出す。

その瞬間、ミルたちのいる車両内は大きく揺れた。

人一人の声で揺れたのだ。

そして、ミルの渾身の攻撃は、勢いを落とすことなく、フューチェの元へ向かっていく。

……フューチェの前までは。

「(え!?)」

フューチェは、顔色一つ変えずに立っていた。

耳を塞ぐどころか、苦しむ様子もなく、ただただ無表情で立っていた。

少し時間が経ち、ミルは息が無くなったため、声を出すのをやめた。

荒い呼吸で息を整え、フューチェの方を睨む。

「何故……何故平然と立っていられるの!?私の"悪魔(デビル)歌声(ソング)"は、聞けば鼓膜が弾けば程の声量よ!!!なのにどうして!?」

「あら?言ってなかったっけ?私の異名は"境界"。そして、私の使用する魔法名は"鏡中(ミラー)"。鏡の中を自由自在に行き来できるのよ」

説明しながら、フューチェは水晶玉を自分の顔の前まで持っていく。

人の顔が映り込むほど、綺麗な水晶玉を。

「鏡と言っても、写ったものを反射することが出来れば、それを鏡として魔法を発動することが出来るわ。つまり、貴方の声の魔法は、私のこの水晶玉を通過して、鏡の世界に入って行ったのよ」

その説明を聞き、ミルは嫌々納得した。

「私の魔法が効かなかった理由は分かったわ、ありがとう。まぁ、それが分かったところで、私にはこのレイピアがあるわ。殺していいなら、もう容赦なく斬りかかってもいいからね、さっきみたいに簡単に避けきれないわよ」

ドス黒い殺気を出しつつ、二本のレイピアを構える。

その光景を見て、フューチェは深いため息をつく。

「何よ!!魔法が効かないからって余裕ぶっこいてんじゃないわよ!!!」

「貴方……私の話聞いてた?」

「は?」

「私の魔法は、鏡の中を自由自在に行き来できるのよ。つまり、鏡の中に入れたものを、別の鏡の中から出せるのよ」

「それがなんだって言うのよ!!」

声がどんどん荒らしくなっていく。

そんな様子を無視し、フューチェは説明を続ける。

「私は、貴方の声を任意でこの水晶玉を通して鏡の世界へと入れたの。そして、その声を鏡の外へ出すのも私の任意で可能なの」

「はん、そんなことかよ。私の声をその水晶玉から出して、私を倒そっての?んなもん、来る方向が分かれば、もう一度声を出せば、相殺することが出来るのよ!!」

そう言って、ミルは大きく息を吸い込み始める。

「そう、来る方向が分かれば相殺できるのね……来る方向が分かれば……ね」

聞こえるか聞こえないかな小さな声で呟き、フューチェは魔法を発動する。

鏡の中に入れた、声を外に出すために。

しかし、声が場所は水晶玉からではなかった。

ミルの持つ、"レイピア"からだ。

「ギャャャャャャャ!!!」

耳を塞ぐ暇なく、大音量の声がミルの頭の中に響く。

「(レイピアの刀身も、細いけどしっかりと反射する。ならば、鏡の世界の入り口を開くことができるのよ……)」

フューチェは、こちらに漏れて来る声を塞ぐため耳を塞ぎながら、苦しむミルの姿を静かに見守る。

ミルはすぐレイピアから手を離し、耳を塞ごうとする。

手を耳に近づけた瞬間から、プチっと、何かが潰れるような音がした。

それは大音量の中でも何故か聞こえた。

鼓膜が破れる音だ。

その音が鳴ったと同時に、ミルは白目を剥き、そのまま倒れこむ。

フューチェは、その光景を見てから指を鳴らし、魔法を止める。

それが合図だったのか、レイピアから流れ出た声の魔法は何もなかったかのように止まる。

フューチェは、ミルへとゆっくりと近づき、気絶していることを確認すると、安堵したのか、深いため息をつく。


「自分で自分の首を締めるとはこの事ね……」

一言だけ呟くと、どっと疲れたのか、その場に座り込む。


〜to be continued〜

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