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Remained GaMe  作者: ぼんばん
1章 太陽は雲に隠れ平等でなかった
9/50

窮地に立つは独りか

3日目だ。

恵に許された時間はあと半分もなかった。


彼女が目を覚ますと由香はいなかった。

おかしい、ここ数日は部屋で待っていてくれたのに。

恵は首を傾げつつ部屋を出ると、外側から驚いた声がした。



「何だ、乙川さんか。」

「風花くん? どうしたの?」


「……いや、何でもない。今朝になってから誰かに会った?」


「会ってないけど…カフェテリアとかにみんないるよ。一緒に行く?」

「本当? ご一緒していい?」



恵が頷くと彼はやけにゆっくりついてきた。

ゲームの中なので寝不足といった概念はないはずであるが、風花はどこか疲労の滲んだ表情をしていた。


カフェテリアに行くと桜庭、寧々、米田がいた。その傍らには茉莉花が突っ伏して寝ていた。



「おはよう。赤根さんは…?」

「朝まで通して作業してたらしいよ。八重島さんが慌てて僕たちの部屋に飛び込んできたから何とかここまで運んだんだよ。」

「いやー…部屋行ったら倒れてたからびっくりしたよな!」


「……昨日からずっとモニターの前で作業してたんだよ。寧々が寝ちゃった後もずーっと…。本当は止めたかったけど、あんな怖い顔のまりりんには話しかけられなかったし!」



恵の心にチクリとトゲが刺さる。

おそらく茉莉花は自分のために持てる力を以って取り組んでくれていた。きっと彼女は起きたら再び同じことをし続けるのだろう。



「あとで、お礼言わなきゃね。」



恵が僅かに目を細めた。




「……乙川さん、あまり自惚れてはいけないよ。」

「え?」

「ちょ、栄太?」


「ん、言葉が悪かったね。」



彼は探偵のように顎に手を当てて悩むような素振りを見せる。



「僕が言いたかったのはね、君がそんなに苦しそうな顔をする必要はないってことだよ。」

「……?」



風花と目が合い、2人で首を傾げた。



「もちろん、君のために頑張っている人もいる。でもそれは結局のところ自分が助かるためでもある。もし、なんてなんて話は非生産的だけど、君以外が同じような立場になっても、乙川さんは頑張るでしょ?

だからそんなに他の人の心配はしなくていいんだよ。」



そうか、と恵は納得した。

由香といい、若狭さんといい、米田さんといい、今回のゲームは本当に運良く出来た人達に出会えたものだ。

熱くなる目頭を抑えつつ、笑顔で頷く。



「そう、ですね。お言葉に甘えておきます。」

「そうだって! 恵ちゃんは大船に乗ったつもりで待ってればいいよ!」

「桜庭の場合だと泥舟じゃ…?」

「栄太厳しいな!」



カフェテリアで雑談を交わすと、少しだけ元気が出た。




「他の皆さんはどこで過ごしているんでしょうか…? 由香ちゃんも今朝から見てないんです。」


「のんちゃんにはうめっちがついてるよ。」

「図書館に千藤と前川が相変わらず篭ってるよ。」

「……朝早くに小塚さんが部屋に来たけど。」



急に茉莉花が起き上がり発言をしたものだから全員がぎょっとした。



「おきたんだね。」

「うん、テーブル固くて…で、続きなんだけど。何か凄い切羽詰まった表情してたよ?」



切羽詰まった?

恵はそんな節の話を聞いていなかったため、首を捻る。いずれにせよ後から話を聞いた方がいいかもしれない。

そして、誰も若狭のことは見ていないとのことであった。


恵は独りで過ごすことが苦痛でしばらくカフェテリアに滞在していた。

しかし、目が覚めた茉莉花は寧々を引き連れて再度モニタールームに行ってしまい、風花はまた険しい顔でどこかへ行ってしまった。


結果としては米田と桜庭が残ってくれたが、年上の男性が苦手な恵にとっては耐えられない空間だったため、理由をつけて席を外した。

せめて同い年の男の子、と思ったが千藤も前川も図書館にはいなかった。





どうしたものかと途方にくれていると、2階の一室から若狭が1人でひょっこり現れたのだ。



「あれ? どうした乙川?」

「若狭さん!」



出くわした彼は恵の顔を見て驚いた。

なぜなら自分を見た途端恵の大きな瞳からボロボロと大粒の涙が溢れたからだ。



「良かった…若狭さんいて…。」

「ちょ、え? 何で泣いてんの?! オレがいなくなるわけないだろ!」

「だって今朝から由香ちゃんいないし、風花くんもどこかに行っちゃうし…。」



嗚咽を繰り返しながら彼女は服の袖で何度も目をこする。

恵の涙の理由を理解した彼は恵の手を引いて玄関ホールの目の前にある小庭に彼女を連れて行った。






彼女を落ち着かせ、飲み物を持って腰を下ろす。暫くすると彼女は落ち着いたのかゆっくりと話し始めた。

彼女の腫れた目が痛々しかった。



「………私、本当は自分が助かるとか助からないとかはいいんです。」

「は?! 何言って……!」


「だって、みんな良い人だから! そんな人たちを犠牲にしてまで私生き残りたくないです!」


「………。」




恵の言葉に若狭はかける言葉を失った。




「米田さんは、みんな自分のために頑張ってるから気にしなくて良いって言ってくれたんです。

……でも、独りでいるのは辛いんです。」


「乙川……。」


「最期が独りなんて、嫌です。若狭さん、一緒にいてください。」



泣きじゃくる彼女を彼は見つめた。

そして、何かを決意したかのように彼は話し始めた。



「ああ、いてやる。でも、諦めんな!」


「へ?」



恵がここでやっと顔を上げた。




「確かにここはゲームだけどよ、でもコンティニューはないんだしよ、最後まで足掻こうぜ!

ちゃんと最後までできることをやるんだ!

それでも、もしダメならよ。」






彼は笑顔で親指を立てた。







「オレが乙川を消して一緒に消えてやるよ。」








「……それが嫌って言ってるんじゃないですか!」



しかし、恵はそう言った若狭の手を振り払うことはできなかった。そして彼の胸に縋ることしかできなかった。


そして、その時若狭が恵の背中を叩きつつ、玄関ホールの方を睨みつけていたことは、恵にとって知る由のないことであった。






その後夕食の時間帯には全員がカフェテリアに集まった。勿論、昼間には会えなかった由香も。

彼女はクマがひどく、どことなくやつれているように見えた。



「引き続き図書館を調べてみたけど、他にはアイテムの使用歴、各端末に含まれているアイテムが書いてあるファイルがあったよ。」


「……モニタールームで調べたけど今回起きている状況での、データ処理方法しか出てこなかった。ごめんなさい。」


「倉庫の中身に関しては、今回のルームがスタートした時から1つたりとも変わってなかったです。そして、倉庫のギミックである隠し部屋もありませんでした。」



それ以上の新しい報告はなかった。

沈黙が場を包む。



「……これだけ調べて何も見つからないなんて。」



由香が追い詰められたような、苦しそうな表情で呻く。それを見た恵はふ、と微笑んだ。




「この世界は、あと1日ですけどまだ時間はあります。皆さん、最後まで希望を捨てないでください。」


「……恵?」



由香に対して、安心させるように穏やかに言う。



「勿論、私も最後まで諦めません! もしかしたら、私が手に入れた情報が皆さんを救う手立てになるかもしれませんから。

でも、1つワガママを言うなら、出来れば私を1人にしないでください。」



乙川の言葉に全員が言葉を失う。

誰も何も言えなかった。












突如転機が訪れたのは夜中であった。


端末がけたたましい音を立てながらアラートを告げてきたのだ。

恵が驚いて飛び起きると部屋はもぬけの殻。同室の由香はいなかった。


慌てて部屋を出ると同じく仮眠室からは小雪が顔を出していた。

そして奥からは桜庭が、あとからゆっくり若狭が顔を出す。



「乙川さん、異変はないですか?」


「私は大丈夫です。でも、何ですかこのアラート?」

「みんな、起きてる?」



そこへ駆け寄ってきたのは茉莉花と寧々、梅子。

そして次々と全員が集まってきた。由香もA棟の奥の方から出てきた。おそらくトイレにでも行っていたのか。


しかし、いつまで経っても一向に現れない人物がいた。



「……米田さんは?」



千藤が辺りを見回したがやはりいない。




「ねぇ、みんな!ログインルームに集まって!」



茉莉花の声に反応し、ログインルームに集まる。するとその機器には【強制退場者1名】という表示がされていた。

ふと、モニタールームが気になり、覗き込むとモニターが何やら更新されていることに気づく。



「みなさん、モニタールームも!」



恵が呼びかけるとまた全員で移動した。




『強制退場者が出た時の注意点。

記憶を使われた参加者の自動消滅プログラムは削除される。

代わりに24時間以内に【強制退場】を使用した人物がログインルームにてログアウト処理を行えば、次の世界の構築を開始する。処理が行わなければ使用した参加者以外の消滅プログラムを開始し、残った者は正規の手続きでログアウトを行う。』



次いで画面が更新される。



『なお、今回【強制退場】をされた米田栄太は【サポーター】ではなかった。』




それ以上のデータの更新は無かった。

恵はハッとしてモニターから視線を外す。空間に蠢くのは互いを疑う視線、現状に対する不安、マイナスの思考だ。


始まってしまったのだ。



疑念と信頼が駆け巡る戦いが。





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