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Remained GaMe  作者: ぼんばん
5章 さて友よ、足掻いて死のうか
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解決編⑤ -後編-

「乙川さん、何言ってんだよ……。」

「だって、芳樹くんらしくないよ!」

「芳樹くんらしくないってなんだよ!」



互いにまくし立てるように言葉を言い放つ。



「仲が良いほど喧嘩する?」

「こらこら、呑気なこと言ってる場合じゃないよ。風花くんも落ち着いて。」

「落ち着いてられるかよ!」

「乙川さんだって、証拠なしにそんな馬鹿げたこと言ってるわけじゃないと思うけど。それは君が1番よく分かってるんじゃない?」



彼は千藤の言葉を受けて彼女を見た。恵の強い視線と自分の視線が絡むと、急に勢いを失った。




「僕も、乙川さんが言った疑問点は引っかかっているんだよね。君と仲が良かった乙川さんが言うなら尚更重要なのことに思うんだ。舘野さんはどう思う?」


「……あたしも、ちゃんと全部の謎を解いてからがいい。」


「ほら決まり。」



風花は髪をぐしゃぐしゃと掻き毟る。無理にでも落ち着こうとしているように見えた。



「芳樹には悪いんだけどさ、恵の話聞いてて……その、夜中にきた芳樹が今までの芳樹で、その後今いる芳樹になったって考えると何となく色々見えてきそうな気がするんだよね。」


「でもオレはこの世界の2日目までの記憶は明確にある。若狭先輩が米田さんを階段から突き落として消して、前川が涼宮さんの隙をついて消して、嫉妬に狂った當間さんが八重島さんを、そして偶然居合わせた小塚さんを消して、桜庭さんが千藤を誘導して自分で消えた。

その時のこと、いやでも明確に思い出せる。」



そのように語る風花の話に矛盾はなかった。



「さっき芳樹くんが言った通り、芳樹くんは茉莉花ちゃんが施設から出て行くのを見たんだと思う。体調の悪い茉莉花ちゃんが外に行ったら絶対に追うと思う。」

「……それは否定しない。」



彼は肯定する。

とんでもないことを言われているのに議論に参加する、お人好しだなと場に似つかわぬことを恵は考えていた。




「オレはその風雨の中、温室まで赤根さんを追いかける。この時に濡れるだろうね。で、どうなるの?」


「2人の間に何かが起きて、芳樹は恵にメッセージを残しに行く。そのあとも何かが起きて、芳樹は温室に戻って転がるに至る。」


「……舘野さんの説明だと何かが起きすぎだけど。さて、どっちの何かから取っ掛かるべきかな。」



恵は息を整える。彼女の頭の中には、茉莉花が今まで自分や仲間たちに言った言葉が巡っていた。



『その前に、推理の基本を説明するね。導くべきは1つ目に誰ができるのか、2つ目は動機、3つ目はトリック。』


『この世界が終わったら、みんなでまた前を向いて歩こう。今度は、私も横に並ぶから。』




彼女は絶対に私たちと同じ方向を向いていてくれるはずだ。

それに、風花だって無意味なことをする人間でない。




「……動機、」


「ん?」


「芳樹くんが、もし茉莉花ちゃんを【強制退場】させるなら、それはたぶん茉莉花ちゃんのため。茉莉花ちゃんは、【サポーター】……。

おそらく、トリックはない。」



恵が千藤を振り向く。



「ねぇ、千藤くん。【サポーター】ってさ、」


「【1.サポーターとは、自立思考型AIである。

2.ルームには必ず1部屋サポーターが支配権を持つ部屋をもつ。

3.サポーターが万が一暴走した場合は自己消失機能が起動する。

4.サポーターに自覚はない。他プレイヤーの安全を第一に動く。】

ってことが書いてあったね。

あと、隠し部屋の資料には【サポーター】が装置を使えること、アバターの変更について書いてあっ……。」



彼はハッとした。

恵が無意識に避けていた真実に気づいたらしい。すぐに口を開いた。





「……もしかして、風花くんが茉莉花さんに自分のアバターを明け渡したとでも言いたいの?」





「は」

「え」

「……うん。」



2人の驚愕の声、恵の頷く声が響く。



「オレが、赤根さん?」



彼の顔が歪む。

まるで、あの時恵に怒鳴った時の彼女の表情のように。



「夜中に私に会いにきてくれた後、芳樹くんはその装置を使って茉莉花ちゃんにアバターを譲った。だから温室で倒れていた。

それなら、芳樹くんが手紙とフロッピーを私に託したのも、濡れていなかったことも納得できる。」


「なら、なんで記憶が無くなったの?」


「……確か、『存在を維持できないと自覚的他覚的に認証された場合、アバターの変更が可能である。変更した場合、記憶は変更されたアバターの整理された記憶の引き継ぎが優先的に行われる』って書いてあったよ。

これに準ずるならば、存在が維持できないと赤根さん自身、風花くんが認証した。そして記憶は2日目の夜までしか整理されていなかったってなるね。」



千藤は完璧な記憶力を見せつけた。

しかし、彼の推論に矛盾点はない。




「私が思うに、記憶の整理っていうのはシンプルに睡眠だと思う。もし、3日目の夜、本当は芳樹くんが眠らずに茉莉花ちゃんを待っていたら、記憶が引き継がれなかったことも納得できるの。」


「……もしそうだとしても確証は。」


「芳樹くんが私達の所に尋ねたのは、その事実を私たちに伝えるためじゃないかな。何らかの影響で私たちは目覚めないはずだった。だからその時の芳樹くんは驚いたんじゃないかな。」



風花がおし黙る。次に口を開いたのは琴乃だ。




「もし、アバターの姿も2日目の夜のが引き継がれるなら、何か証拠残ってないかな。」



そういえば、と思い出す。



「芳樹くん、シャワーから出た後に小指ぶつけたって言ってなかった?」

「え、」



彼は腰を下ろし両側の靴下を脱いだ。

しかし、彼の指は綺麗であり、傷の1つもない。




「……オレは、風花芳樹じゃない? でも、」




彼は緩慢な動作で端末を出す。

恐る恐るといった様子で端末に触れる。そうだ、もし彼が赤根茉莉花だとして端末はどうなるのだろうか。

3人も固唾を飲んで見守っていたが、電源を押した彼はこれ以上ないくらいに顔を青くした。




「画面、点いた……。」




そう、【温室で開かない端末】が開いた時点で彼が持つ端末は【サポーター】ものである可能性は高い。風花は自分のパスコード、1893を打ち込むが開かない。



「……何だよ、これ。」



「たぶん、それは今の芳樹くんじゃ開けない。でも、芳樹くんはちゃんと開けるように残してくれているよ。」

「もしかして、恵の背中に残っていたメッセージ?」


「「背中?」」



男性陣から疑問の声が上がる。



「私の背中に書いてあるんだよ。たぶん、風花くんからのメッセージ。」


「へぇ、僕も見ていいの?」

「オイオイ……。」


「……緊急事態だし、いいよ。」



腰の辺りだから仕方あるまい。

千藤は照れることなく、恵の背中に回り込み、そのメッセージをまじまじと見た。



「『たんまつ:オレは乙、赤は茉』。端末のパスコードだろうけど、君たちには意味が分かるの?」


「うん、分かったよ。そして、芳樹くんの記憶があるなら、あなたも分かるよね?」




芳樹はすぐに分かったらしい。

恐る恐る、打ち込む。しかし1つ目はハズレであったらしい。一度大きく息を吐いた。しかし手の震えは止まらないらしい。



「たぶん、オレが乙川さんに残すなら、温室に関連したもの、オレの端末は乙川さん、赤根さんの端末は赤根さんに関わるパスコードになってるってことだよな。」


「うん、そして、あなたは前に私をツワブキ、茉莉花ちゃんを茉莉花に例えた。誕生花として考えるとそれぞれ、11月20日、6月8日。」


「だから、君は植物図鑑見てたんだ。」




感心したように呟く。

彼は意を決したように番号を打ち込む。そして、彼はふっと微笑み、何か操作するとかくりとロボットのようにうな垂れた。

手からこぼれた端末を恵は何とか受け止めた。。




画面を3人が覗き込む。




『新規のアバターに【サポーター】のダウンロードが完了しました。』




慌ててプロフィールを見ると、そこには赤根茉莉花と書かれていた。

もしや彼女は最後の操作で、完全に風花のアバターに上塗りをしてしまったのだろうか。





「……ごめんね、恵ちゃん、千藤くん、舘野さん。」






風花は記憶があろうとなかろうと、迷わず茉莉花に身体をさしだしてしまうのか。


その行動が、風花の語る全てであったのだ。

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