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Remained GaMe  作者: ぼんばん
5章 さて友よ、足掻いて死のうか
42/50

調査編⑤

1番最初に温室を押し開けた恵は自身の目を疑った。


目の前に横たわるのは風花だけで、茉莉花の姿はない。

彼は目を瞑っており、モニターから繋がるコードに囚われていた。どうやら首元のコードに繋ぐように、半円型の首輪がついているらしい。



すぐに千藤も追いついてきた。

彼は一瞬だけ固まるとすぐにモニターに触れる。彼は画面を見て眉間に皺を寄せた。




「え、芳樹?」


「ちょっと、迂闊に触らないでよね。」



千藤は2人にそう言うと、モニターの方に手招きする。そこには、メッセージが浮かんでいる。



『17時間49分後までにパスコードを入力してください。最後の処理を行います。』




そう書かれていた。端末とは違い、4桁の数字じゃ足りないようだ。



「何、処理って……。」

「それより、芳樹くんは、茉莉花ちゃんは」



恵がそう言い、彼を振り返ると横になっていた風花が唸りながら身体を起こした。

その拍子に首輪があっさりと取れる。




「芳樹くん!」

「芳樹!」

「……あの首輪、何もないわけ?」



千藤は駆け寄る前にモニターを見やったが、特に変化はなかった。




「芳樹くん! 無事?!」

「おう、頭凄く痛いけど、まぁ何とかな。3人は何で温室来てんだ?」



呑気にそんなことを言ってのける彼に2人は安心やら呆れやら息を吐いた。



「だって朝起きたら芳樹くんいないんだもん。しかも夜中にあんな不穏なこと言っていなくなっちゃうし。」

「え、夜中? 」



彼は目を丸くした。自身の異常を自覚し始めたのか難しい顔をした。



「……あのさ、今この世界になって、何日目?」

「何日目、って、もう4日目だよ?! しかも茉莉花ちゃんが、たぶん。」

「はぁ?! それ、どういう、」



風花が口を開きかけた時、突然彼の身体が温室から引き摺られ押し出された。



「春翔、何してるの?!」

「……【強制退場】が起きた時になる音、聞こえなかった?

現状、赤根さんを消したのは風花くんだよ。それにこんな得体の知れない装置の側で倒れてた、なんて怪しすぎでしょ?」

「それは、」




恵は言い返そうとした。

しかしそう言ってのけた千藤の表情があまりにも真剣で苦しそうだったため、紡ぐはずだった言葉は声にならなかった。




「……分かった、赤根さんが、【強制退場】させられて、よく分からないけどもう4日目なんだよな?」

「そ、もし僕たちが知っている風花くんなら大人しく【捕縛】されてくれる? 残念ながら、君の身体能力を評価すると、そうせざるを得ないんだよね。」


「千藤くんは芳樹くんを疑ってるの?!」



恵の悲鳴のような声が上がる。

千藤は一瞥もくれずうなずくばかり。恵は納得がいかず、千藤に掴みかかろうとした、その時それを止めたのは意外にも風花だった。




「いいよ、乙川さん。」

「でも、」

「千藤の言ってることは事実だし……それに、オレ自身も自分に何が起きてるか分からない。もし、それで3人に危害を加えるなんてなったらごめんだから。千藤の言う通りにしていい。

ま、オレもそっちの立場だったら千藤と同じこというかな!」


「でも、でも……。」



風花が仕方なさそうに笑う。




「今は、ちゃんと赤根さんが【強制退場】させられたことに向き合うべきだ。オレは調査できないけど、頼む。」




彼は頭を下げた。

本当に【捕縛】が正しいのか、千藤は内心で迷っていた。しかし残りの2人にその決断をさせるのは無理だ。

彼は温室の外で風花をしゃがませ、コードを読み込んだ。




「調査だけどどうする? 僕の端末はここに置いていかなきゃいけないけど、僕は調査にいくつもり。」

「……自分勝手な。」



琴乃が呆れて呟く。



「なら、交代制でどうかな。2人組30分ずつ、気になるところを見てくる。」

「うん、舘野さんの提案通りでいいんじゃない?」



千藤は上機嫌に頷く。

しかし、恵は肯定も否定もせず俯いていた。風花は仕方がなさそうに笑うと彼女の肩を叩く。

恵は彼と目が合うと数瞬前に彼が言った言葉を思い返す。


風花だって茉莉花のために調査を進めたいに決まっている。しかし3人を想って行動をやめたのだ。自分が動かなければならない。


恵は自分の頰を勢いよく叩いた。


3人は驚いたような顔を見せたが、彼女が切り替えたことをすぐに察して言及はしなかった。




「うん、私は行く! 今回のことだって、真実を見つけてみせるよ。」


「……決まりだね。最初は僕が留守番するから行っておいでよ。」

「あれ、あたしが居残れって言われるかと思った。」



琴乃が小首を傾げながらそう言うと千藤は悪巧みするような、含みのある表情で言う。



「君たちがスクリーニングしてきてくれた方が僕も詳しく調べやすいでしょ。風花くんのこと、温室のこと気にならないわけではないしね。」

「スクリーニング?」

「データを選別する、とかそういう意味だから情報を選別してこいってことだよ…。」

「……相変わらず。」



琴乃はそれだけ言ったが結局抵抗は無駄と踏んだのか自分の端末を開き始めた。




「時間の無駄だし、退場情報確認したら早く行こ。」

「そうだね。」



3人は琴乃の端末を覗き込む。




「【今回退場させられた人物】は茉莉花、【退場させられた場所】温室、【アバター状態】無傷……【退場させられた時間】が不明?」

「不明ってありかよ。」



風花が温室の横に座り込みながら怪訝な表情を浮かべた。



「温室は僕が一応見とく。何か異変があったら呼んでね。」

「分かった。」


「……私たちはまずモニタールームから見ようか。」

「あのメールを見るんだね。」




それから別々になり、恵たちは急ぎ足でモニタールームに戻った。

モニターは殆どが砂嵐のようになっているが、辛うじて読めるところには『今回【強制退場】をされた赤根茉莉花は【サポーター】だ。』という文言が表示されていた。



「……やっぱり茉莉花は【サポーター】だったんだね。」

「いつ気づいたんだろう…。」



恵にはもしかしたら自分が彼女を追い詰めてしまったのかもしれないという自責の念があった。



「恵、今は調べることに集中しよ。」

「……うん。」



恵は頷く。どうやらモニタールームにはそれ以上の情報はないらしい。



「そういえば恵は夜中に芳樹のこと見たんだよね?」

「うん……、そのはずだけど。」

「はず?」



恵は頷く。

自分の記憶にどんどん自信がなくなっていくのだ。時間の経過とともに。



「その時の様子教えて?」


「うん。

何でか分からないけど不意に目が覚めて……確かその時は雨風の音はしなかったかな。目の前に【濡れた芳樹くん】がいたの。頰に水が滴ったから確かだと思う。何でか芳樹くんは驚いていたけど……。

彼に話しかけようとしたんだけど口がうまく動かなくて。そしたら『友だちになれてよかった』とか『たぶんもう会えない』とか、『赤根さんのこと忘れないで』とか……そんなこと言ってきて。」



ああ、思い返すだけで泣きそうだ。

しかし泣いていても時間の無駄だ。泣くのは真実を知ってからでもできる。

思考を切り替えて思い返す。彼があの時にやっていた行動で不審だったことは2つだ。


まず置きっ放しにしていた自分の端末を漁る。

やはり、そこには彼が残していた。




「【若狭さんの手紙とフロッピー】……。」

「何それ?」

「芳樹くんが私の世界の時に、若狭さんから受け取ってずっと持ってたの。でも、ここにあるってことは……。」



いや、ここで推理しても仕方あるまい。

端末とともに自分のポケットに収めた。



「他には?」

「あと、芳樹くん、私の背中触ってた気がしたんだけど。」

「え、セクハラ?」

「見てもらえる?」



恵が腰が見えるようにシャツをめくる。

すると琴乃は、意味が分からないと言ったようには? と低い声を出した。



「どうしたの?」

「いや、【メッセージ】が書いてあって……。」

「メッセージ?」


「うん。『たんまつ:オレは乙、赤は茉』って言葉となんだろ、芽? みたいな落書き。」



恵は琴乃の言葉を聞いた。

赤は茉、とは茉莉花のことであろうが、オレが乙、というのは風花=乙川というような図式に見えた。

2人とも意味が分からず、解決策は見当たらなかった。




30分経過し、組み合わせを変える。

次は恵と千藤が動くことになった。


彼は集まってから情報共有した方が良いと言い、一先ず調べた場所のみ伝えた。また、箱庭を一通り見たが明らかな変化はないことも伝えた。

千藤は真っ先に図書館に行くことを希望した。



「何を調べるの?」

「やっぱり【サポーター】のこととか、かな。これまでも何かと図書館にはヒントがあったしね。」



彼は真っ先にいつもの資料を取り出し、机に並べていく。



「……ふぅん。今回は履歴を見る限り誰かが【アイテムを使用した様子はない】みたいだね。」

「睡眠薬も?」

「うん。」



では、なぜあの時眠くなったのだろう。

恵ははっきりとしない真実に頭を悩ませる。



「僕は既存の資料をもう一度確認するよ。乙川さんは他に取りこぼしがないか確認してくれる?」

「分かった。」



恵は本棚にならぶ背表紙たちを指差しながら確認していく。

ふと、あるコーナーで足が止まる。



「……植物図鑑。」



彼女の頭には、もう揃うことでないであろう ‘チーム温室’ の思い出が過ぎる。

無意識のうちに、手に取りパラパラと捲る。




「私はツワブキ、で、茉莉花ちゃんは茉莉花、か。」




『花言葉は、困難に負けない』


彼の言葉がずっと頭に響く。茉莉花が消えてしまって既に折れかけているのに、もし彼までも喪ってしまったら、そう考えるだけで負けそうになる。

溢れそうになる涙をぬぐい、パラパラと捲っていると、ふとある欄が目につく。




「……もしかして、」


「ちょっと、何道草食ってるの?」



恵が可能性を、限りなく確信に近いものにした時、千藤が声をかけてきた。どうやら彼は恵の手が止まるのを待っていてくれたらしい。



「ごめん、ちょっと、気になって。」

「ふぅん、やることやったならいいけどさ。ちなみにこっちは収穫なし。ガイドラインもそのまま。とりあえず温室に持ち出すね。」



確か、このガイドラインに書いてある内容は、【サポーターとは自立思考型AIである、ルームには必ず1部屋サポーターが支配権を持つ部屋をもつ、サポーターが暴走した場合は自己消失機能が起動する、サポーターに自覚はなく他プレイヤーの安全を第一に動く。】であったはずだ。



「……あとは、隠し部屋で見つかった情報かな。そっちは舘野さんともう少し詰めてくるよ。」

「うん、お願いします。」





それから温室に戻り、千藤と琴乃は施設の調査に発った。恵は何となく、風花を放って温室の調査をするのは気乗りせず、彼の隣に腰を下ろす。

彼はそれに気づくと幼い子どものように顔を明るくさせた。



「嬉しそうだね。」

「ああ、だって2人ともオレ放置して温室の中に行ったし……信頼されてるのかされてないのか。」



不機嫌そうに下唇を尖らせる。



「……でも、赤根さんが消えたって実感湧かないな。結局、名前も呼んであげられなかったし。」

「それは、芳樹くんがいつまでも練習してるから……。」

「え、何で知ってるの。」



彼はハッとして口を塞ぐ。

大分前に千藤に教えてもらったことを告げると風花は怒りの矛先を彼に向けたようだ。



「実際のところ、どう? 何か思い出せた?」

「いや、スキャニングとかダストボックスの話とか、赤根さんが体調崩してたのは覚えてるんだけど、やっぱり2日目夜に寝てからの記憶がなくてさ。」

「……そういえば、若狭さんの手紙、私のところにあったよ?」

「え?」



彼は唯一動く手で自身のポケットを漁る。



「ほんとだ。ないな。……でも、乙川さん持ってて。」

「いいの?」

「うん。」



彼はあっさり了承する。



「理由はわからないけど、きっと意味があるんだろうし。疑わしいオレが持ってるよりはいいんじゃない?」

「……別に疑ってるわけじゃ。」

「知ってるって。」



意地が悪いことをするものだ。

恵は頬を膨らませる。




「あとさ、オレが不思議に思ったこと。3日目の夜って、雨が降ってたんだよな?」

「うん。」

「千藤たちの話を聞く限りだと、夜に温室に行ったか運ばれたかだと思うんだけど、オレ、【全然濡れてない】んだよね。」



確かに、彼の服は土汚れていたが濡れている様子はない。

かなりの土砂降りだったため夜に乾くことも考えにくいが何故だろうか。



「あとさ、オレずっと気になってたんだけど、【赤根さん、日に日に調子悪くなってた】よな。アレって純粋に無理してるから、って理由なのかな。」

「それは……分からない。」




何となく、二の句を継げなかった。



それから、風花に聞いた情報を踏まえ、考察をしているといつの間にか30分経っていたらしい。

琴乃と千藤が戻ってきた。

風花に伝える前に3人で温室の中で情報共有を行う。巡ったチーム順に報告していく。




「あたしと春翔は隠し部屋の資料を確認したよ。箱庭について調べたんだけど【通常なら天候は変わらない】んだって。」


「【サポーター】については、以前確認した時と変わりなしだったよ。相変わらず【温室では端末も使えない】し、嫌になるね。

ほかに調べ残した所ある?」



2人は首を横に振る。

千藤は端末により風花の【捕縛】を解き、彼を温室の中に招く。

なんとも言えない緊張感が温室に漂う。




「さて、じゃあ始めようか。」




千藤が声に出すと、皆の顔が僅かにこわばる。

恵は既に頭の中で情報を統合し始めていたが、どうも今までの案件とは違って、明瞭な解決策が浮かばなかった。


しかし、その理由が真実は既に理解しているがそれを認めたくないという防衛本能によるものだとは、まだ恵は知らない。



①退場情報

【今回退場させられた人物】赤根茉莉花

【退場させられた時間】不明

【退場させられた場所】温室

【アバター状態】無傷

*彼女はサポーターである。



②【恵が見た風花】

夜中に彼はモニタールームの恵の元を訪ねた。その時彼は濡れていた。



③【フロッピーと若狭の手紙】

恵の端末の傍らに置かれていた。

どうやら恵の世界の時に若狭が風花に渡したものらしい。



④【風花の言葉】

『友だちになれてよかった』

『たぶんもう会えない』

『赤根さんのこと忘れないで』



⑤【恵の背中に残されたメッセージ】

『たんまつ:オレは乙、赤は茉』

どうやら風花が書いたものらしい。



⑥【アイテム使用歴】

履歴を見る限り誰かがアイテムを使用した様子はない。



⑦【サポーターの情報 要点】

1.サポーターとは、自立思考型AIである。

2.ルームには必ず1部屋サポーターが支配権を持つ部屋をもつ。

3.サポーターが万が一暴走した場合は自己消失機能が起動する。

4.サポーターに自覚はない。他プレイヤーの安全を第一に動く。



⑥【風花の様子】

2日目までの記憶しかない。

土に汚れている以外は傷は見当たらす、衣類は乾いている。



⑦【赤根の様子】

茉莉花は日に日に体調を崩していた。



⑧【温室のルール】

温室内では端末を使用できない。



⑨【世界の異変】

通常なら箱庭内の天候は変わらない。


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