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Remained GaMe  作者: ぼんばん
4章 アンダーグラウンド流でサヨウナラ
33/50

リプレイ オブ ザ トラジディ

浅い眠りを漂っていた風花は自分の背後から物音が聞こえたことで意識を浮上させた。

千藤が寝返りを打ったか、はたまた桜庭が帰ってきたのか。ほんのちょっとの期待とほんのちょっとの興味で風花は寝返りを打ち、千藤の方に顔を向けた。



そんな軽い気持ちだったからか、いや起床してすぐに状況を把握できるような気の持ちようは‘普通’に生活していれば養われることはないだろう。



千藤の手首が背の方で縛られており彼は確かに拘束されていた。



「せっ、ぅあ!」



風花が彼の名を呼ぶことは叶わず、彼は急に背中に落ちてきた重みにより、再び地に伏せた。

首元にひやりとしたものが当たる。

このパターンでは、多くの者はそれを凶器と思うだろう。風花も違わなかった。



「……芳樹。」


「桜庭さん、か? 何でこんな、こと。」


「芳樹は、オレの質問に答えるだけでいい。」



首元の冷たい感触がより強くなる。包丁の背の方でも当てているのだろうか。嫌な汗は止まらない。




「何で、芳樹は春翔を許せたんだよ。……何で、皆、オレを責めんの?」




風花は思考を巡らす。

誤れば、恐らく自分は死ぬだろう。しかし、ここで嘘をついたところで本当に桜庭の質問の答えになるか、答えは否だ。

それに風花はどうしても桜庭に嘘をつきたくなかった。




「間違ったことをしたら、責められるもんでしょう…、これまで誰かを退場させた人も、今ここにいる人たちも、消えた人も、みんな間違ったら誰かが手を差し伸べてた。」


「でも、オレには誰も……。」


「そんなことある訳ないじゃないですか! 八重島さんはアンタを頼ってたし、當間さんだってアンタのこと想ってなければ最後にあんなこと言えるはずがない。

それに、もしオレが千藤を許してるように見えるならそれは間違いです。」



桜庭は息を漏らした。

それは驚嘆か、諦めか、察することは難しい。




「オレは若狭先輩や乙川さんと違って引きずる人間ですよ。若狭先輩が黙って消えたことも許せないし、若狭先輩が行動に出るきっかけになった乙川さんだって正直恨みました。小塚さんだって謝ってくれたけど本心はずっとモヤモヤしてたし。他の参加者を蔑ろにする、千藤だって……。」


「ならっ、」


「でもそのままじゃ前に進めないから!」



風花が怒鳴ると桜庭は言葉を続けることをやめた。



「でも、みんなが笑っててくれれば嬉しいのはまぎれもない事実で、仲間なんだって思ってるのもオレなんです……。

桜庭さんのことだって、何やってんだかって呆れたし、八重島さんのこと利用して許せないって思ったけど、仲間じゃないって思ったことは一度もなかったっすよ。」



場を沈黙が支配する。

すると首元から冷たい感触がなくなった。器用に顔だけを振り向くと同時だっただろうか、意識が遠のき始めたのと彼の顔が見えたのは。




「それ、もっと早く聞けたら、オレも変われたのかな……。」




後悔のように呟く彼はもう止まれないのだろう、それは痛いほどに理解できた。

でも、まだ止まることはできるのではないか、その言葉は風花の口から出ることはなかった。




風花がカフェテリアで外傷治療アイテムを使用し、怪我を治している間に2人を起こす。

風花は、若狭の時以来の苛立ちや焦りを見せていた。

事情や起きたことを話すと茉莉花も琴乃も、もちろん最初に風花を見つけた恵も沈鬱な表情を浮かべた。

風花は今にも走って探しに行きたいのだろう、しかし3人を残すことにも不安があるのか、辛うじて留まっている状態だ。




「……ごめん、オレのせいだ。」


「気休めかもしれないけど、そんなことないよ。そこで嘘をついていた方が絶対に桜庭さんを傷つけたと思う。」

「……あたしも、そう思う。」



茉莉花と琴乃が風花に迷いつつも言葉をかける。唸る彼は半分は理解しており、半分は納得がいかないのだろう。

恵は意を決して話題を投げた。




「……肝心の桜庭さんと千藤くんの場所だけど。」


「どう考えても隠し部屋、じゃない? 意識がないとしても、千藤くんを抱えながら移動するのは危険すぎるよ。」

「でもさぁ、みんな倉庫探したよね?」

「……とりあえず施設全体を探して、倉庫もう1回見てみる?」

「それしかないかも。」




風花の提案に乗る形で動き始める。

しかしながら、結果は予想通り。施設のどこにも2人の姿はなく、倉庫に隠し部屋は無かった。

時間がいたずらに経過する。


明らかに風花に焦りが滲んでいた。




「クッソ……。どこにいるんだよ。」


「1回、桜庭さんの行動を遡ってみようか。単独の時に見つけたんだとしたら、ちょっとどうしようもないけど。」

「茉莉花の意見に賛成〜。」

「私もその方がいいと思う、けど私あまり桜庭さんと行動してないんだよね…。」




恵は申し訳なさげに肩を竦める。



「乙川さんの世界の1日目は確か八重島さんと調査してたはずだ。で、2日目、3日目は米田さんといた気がする。調査の時は、……米田さんの【強制退場】した場所をオレとした。」


「あたしの世界の時は最初の調査で小雪とあたしの仮眠室を調べてたかな〜? 2日目は宗佑と、3日目は春翔のお守りだよねぇ、振り切られてたけど。調査はまた小雪と。」


「八重島さんの世界の時は、基本的に1人部屋だったよね? それで初日は當間さんと八重島さんと行動してたよね。2日目は分からないけど……3日目はたぶん、八重島さんといたんだよね。調査は當間さんと舘野さんとかな。」




恵が確認を取ると琴乃は頷いた。




「でも、あたしが一緒にいた時は隠し部屋を見つけたような様子はなかったよ? お手洗いに行っている間に2人で見つけてたならまだしも。

いなくなるなんてことなかったし。」




ここにいる参加者でで桜庭と行動を共にした人が風花と琴乃がしかおらず、それもごく短時間という時点でかなり詰みに近かった。




「あっ。」




しかし、風花が何かを思いついたように呟く。

琴乃の最後の言葉とほぼ同時であったろうか。

そして恵の方を勢いよく見上げた。




「あのさ、乙川さん。」

「うん?」


「この前襲ってきた人が、桜庭さんだとしてさ、オレたちは玄関からB棟に行く桜庭さんを見てるわけだよね?」

「そうだね。」


「で、オレたちがB棟を探そうとした時に白煙を吹くやつが落ちてきた。」

「うん。転がってきた、っていうよりは。」



確かに甲高い音を立てながら転がってきたから、落ちてきたという方が正しいだろう。




「ーーー、落ちてきた?」


「そう、上から落ちてきたんだよ。それと、今思い出したんだ。オレ、調査中は頭に血が上ってて気づかなかったけど、桜庭さんと離れた時間があるんだ。」



琴乃からえっ、と非難の声が上がる。

恵は思い返す。

確か、調査の時、風花と初めて会ったのが階段の所、その時には2人でいた。しかし、2回目に会った時、桜庭は風花がトイレにいると言っていた。



「トイレに行ってた時?」


「そう、その時!

詳しく言うと、あの辺調べてた時に桜庭さんがいなくなって、先にモニタールームに行ったんだよ。いつまで経っても来なかったし、……汚い話で申し訳ないんだけどトイレに行ってたんだ。そしてら急に個室のドアをノックされてさ。」


「……その芳樹のお腹事情と迷子事情が不審者情報に何か関係が?」

「舘野さん、その言い方やめてくれねーかね。」



風花が頭を抱えた。

しかし、聡い茉莉花はすでに解にたどり着いたのか成る程と1人納得していた。




「不審者と会ったのがB棟奥の階段、芳樹くんが桜庭さんとはぐれたのもB棟奥の階段、つまりは。」

「B棟奥の階段に隠し部屋があるってこと?」



確かに階段は踊り場があり、折り返し型の階段だ。その踊り場に隠し部屋への入口があるのだろう。



「でも、それが当たりだったら、萊はずっと前から隠し部屋を知ってたんだねぇ。」

「見つけたのは偶然だろうけど……、最悪の時のエスケープにもなるし。隠す理由は分からなくもないかな。」

「そう決まったら探そう、まだあそこは見てないもんね!」




風花がすでにB棟に差し掛かったところで3人を呼んでいる。本当に動くのが速い。

もう既に日は頂点に達し、傾き始めている。

時間の流れの早さを感じながら恵たちも風花を追いかけ、B棟奥の階段に向かった。

途中、万が一のためと箒やらマイクスタンドやらを手に取り、駆けてきた。



身軽な方がいいからと丸腰の風花が先頭で壁をペタペタ触っている。



「お。」



壁が不自然に凹む。

すると向こうが半透明になるようなエフェクトが壁に浮き上がる。

4人は無意識のうちに顔を見合わせてうなずきあう。


恵は箒を強く握りしめた。手汗が尋常でないくらい噴き出している。



桜庭に言いたいことを纏めて、意を決して部屋の中に入った。

それと同時だろうか。






あの不快なアラート音が部屋中にこだまし始めたのは。







「……は?」




風花が信じられないものを見るような目で目の前の人物を見た。





それは所々に血の滲んだ千藤で。




もちろんアラートの理由である、‘彼’ は消えていて。




「……遅かったね、みんな。待ちくたびれて【強制退場】させちゃったよ。」




妖艶に微笑む彼が手に持つのは血のついたサバイバルナイフだった。

彼は手を開くとそのナイフを床に落とす。


千藤は4人の横を通り過ぎようとした。

西部劇の決闘さながらの緊張感だった。




風花のやや後方に差し掛かった時、動きはあった。



風花は千藤に殴りかかり、千藤はそれを避けようとしたのだ。

しかし身体能力についても、リーチについても風花の方が上であった。避けきれずかばった腕をそのまま掴み捻り上げた。抵抗するも軽く足払いを喰らい、倒れた彼を組み伏せると、風花は端末を取り出す。



「乙川さん、オレの端末使って、【捕縛】!」

「へ、あ?」

「早く!」



風花の言葉に弾かれ、恵は慌てて駆け寄る。

パスコードは1893だと告げられ、そのまま打ち込む。抑えつけられる千藤の首元のコードを読み、彼を捕まえた。


彼は途端に大人しくなった。

一度【捕縛】されている彼は抵抗が無駄だと察しているようだった。




「……モニタールームに行こうか。」




茉莉花の呼びかけに応えはしなかったが、全員がのろのろと動き始める。

風花は千藤と言葉を交わすことなく、彼を俵担ぎにして運ぶ。



なぜ桜庭があの狂気的な行動に出てしまったのか


なぜ千藤がわざわざ手を下してしまったのか




恐らく裏があるであろう今回の事件に誰もが言及をできず、モニタールームまでの短い距離の間に気持ちを整理しようと4人は口を噤んでいた。




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