ステージは如何程
「じゃあここからは自由時間だね。」
千藤が周りに尋ねるようなトーンで聴くと誰も反対するような人たちはおらず、好き勝手に動き始めた。
すると先程リーダーシップを発揮していた若狭が恵の方に大股で走ってきた。
「あのさ、さっきはビビらせてごめん。良かったら少し話してくれねーかな…。」
「え、私…?ですか?」
「おう!」
「ちょっと、恵、男子得意じゃないんだから自重してくれる?」
恵が若狭の返事に肩を震わせると2人の間に由香が入った。
「ちょっと…先輩を庇うわけじゃないんだけどアンタ過保護すぎない?」
「は?」
「ちょ、お前らタンマタンマ!」
若狭をぞんざいに扱われたのが気に食わなかったらしい風花は不快感をあらわにして由香を睨みつけた。
流石に恵もまずいと感じて、あの、と声を出した。
「た、確かに2人きりは困るけど…由香ちゃんと一緒なら大丈夫…ですよ?」
「本当か?!小塚も乙川と仲良いんだろ?小塚とも仲良くなりたいし、4人で少し回らねーか?」
「え、オレも?」
自分にまで指名が来ると思っていなかったらしい風花は素っ頓狂な声を上げたが、うーん、と少し悩んだ様子を見せて分かった、と了承した。
「変なことしたらはっ倒すからね…。」
「しねーよ!」
「仲良いね…。」
「良くないから!」
由香に頰を抓られ、痛いと悲鳴をあげた。
「へー、いつも13人部屋の時は同じ施設なんだ。」
「そうです…ログインルーム、さっきの自己紹介のホール、シャワー室2部屋、仮眠室4部屋、トイレ、モニタールーム、作業室2部屋があります。」
「で、玄関ホール繋がってB棟なんだな。この突き当たりってなんだ?」
「中庭のテラス。向こうの壁は渡り廊下で乗り越えたら裏庭に繋がってるよ。」
ふーん、と幼い子どものように目を輝かせながらテラスを覗き込む。空には青空が広がっているが所詮仮初めの空だ。
恵も、そんな無邪気な彼に毒気を抜かれたのか、なんとか由香の背中から出てくることができた。
無遠慮ながらも、案外、彼は人との距離感を取るのが上手いらしく必要以上に近づいてくることはなかった。
「B棟は部屋がいっぱいあるんだな。」
「一応2階建てっすよ。そこの玄関ホール側の階段と奥のトイレ横の階段がありますね。部屋自体は下に図書室、娯楽室、テレビルーム、音楽室、トレーニングルーム、美術室、空き部屋2つの8部屋、上に個室みたいな部屋。空き部屋2つはモニタールームから外部に注文して部屋をカスタマイズできるんすよ。」
「へぇー…すげーな。」
中央に3部屋構える形で廊下をぐるりと回るとB棟はぐるりと回れる仕組みになっている。
一同は外に出た。玄関ホールを出ると表には噴水、出て右側にはグランドと体育倉庫があった。
「で、こっちに行くと温室があるんです!照会の時にデータのダウンロードを依頼しておくと、他のゲームの時に育てた植物を置いておけるんすよ!」
「風花くん、温室のヘビーユーザーなんだね…。知らない植物がいっぱいある…。」
「そうそう、ゲーム内なら絶対枯れないだろ?だから部活で忙しくても安心して育てられるんだー。」
風花は先程由香に見せた険しい顔とは一変して、破顔した。どうやら恵と風花は案外ペースが合うらしい。
「………温室はいいから、次行くぞ!」
「アンタ、どうしたの?」
「なんでもねぇ!」
憤慨する彼に由香は首を傾げつつ、温室の植物に夢中になる2人に声をかけ、温室を出た。
施設の裏手に回ると鬱蒼とした木々が並ぶ裏庭と倉庫があった。
扉を開けると、どうやら不足分の生活必需品が並んでいるようだった。
「何か物が多いな〜。地下室とかありそうだよな!」
「一応ギミックで、毎回ランダムにどこかの部屋に隠し部屋があるらしいですけど…。」
「そうそう、隠し部屋探しを趣味にしてるようなユーザーもいるらしいよ。」
「へー…オレ暇だし探してみっかな。」
「本当暇っすね。」
「お前は先輩を敬え!」
ぐりぐりと風花の頭を撫で回す2人の姿を見て、恵と由香は顔を見合わせ微笑みあった。
「ほんっと、男ってバカね。」
「ふふ…でも、安心したな。2人ともいい人そうだね。」
「あ、でも2人っきりになっちゃダメよ!男は狼なんだから!」
「えぇ〜?」
由香の過剰な心配に恵は苦笑した。