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Remained GaMe  作者: ぼんばん
3章 明日のない私たちは
26/50

調査編③

目が覚めたとき、私の目の前に落ちてきたものは絶望だった。


やはり、犯人は私の予想通りであった。


しかしここで私が倒れているということは私は犯人に消されるのであろうということが容易に想像できた。



怖い




怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。





でも伝えなきゃいけない。





若狭が、彼女に希望を見出したように。

私も恵に希望を見出している。





這いつくばるに近い状態で私は倉庫を出た。

頭から血が出ているみたいだし、ふらふらする。

途中手に入れた証拠を隠し、犯人を伝えるために歩く。


何とか歩いていると恵が視界に入る。



聞いて! 今回の犯人はーーーー。




言葉を紡いだ。

でも意識が遠のいていく。


彼女は何が起きているか分からないといった顔でこちらを見ていた。



ああ、そんな顔しないで。

もうあなたを悲しませたくなかったのに。



でも、そんな顔でも。

最期に見られたのが犯人じゃなくて恵だったなんて、なんて幸せだろう。


私はそう思ってしまったんだ。


何が起きたか分からなかった。

恵はその場でへたり込み、茉莉花でさえも駆け寄ることが許されなかった。




「な……んで? 何で、由香ちゃん?」



「いや、だよ。由香ちゃん、何で?」




恵の口から無意識に、断続的に続く言葉で茉莉花がハッと我を取り戻した。




「め、恵ちゃん。モニタールームに、行こう。」


「やだ……由香ちゃんが消えたなんて嘘。嘘だよ……。」




虚ろな目で呟く恵の手からはいつの間にか由香の端末は消えていた。

何とか茉莉花に引きずられ、モニタールームに行くと全員がすでに集まっていた。




「……乙川さん、赤根さん。」

「わかってる、小塚さんは私たちの目の前で消えた。」




茉莉花の言葉に風花が酷く傷ついた顔をした。

そして次いで問いかけてきたのは、意外にも千藤だった。




「見てたよ、資料室から。もう少し、詳しく教えてくれる?」




何で、何で、とうわ言のように呟く恵を見兼ねて茉莉花が頷いた。




「まず端末情報を踏まえて話すね。【今回退場させられた人物】は小塚由香さん。【退場させられた時間】は4:30〜5:30、【退場させられた場所】は温室横、裏庭入り口。

人、場所はいいよね? モニターを見るあたり【サポーターでない】のは明らかだし。

【アバター状態】は頭部より出血、つまり誰かに勢いよく殴られたってこと。実際歩いている時も血痕が残っていたから新鮮なものだと思う。


ここからは私からの視点の話になるね。桜庭くんと當間さんが合流したことを確認した後、とりあえずモニタールームをもう1回調べようと思ってA棟に戻ってきたんだ。

その時に恵ちゃんと合流した。その時に小塚さんはトイレって行ってもういなかったんだけど。戻ってこない彼女が心配になってトイレを覗いたら窓が開いててもぬけの殻になってた。

だから私たちは裏庭を抜けて施設を1周探した。でも見つからなくて……、みんなに相談しようと思ったら裏庭から小塚さんが出てきて、目の前で消えた。」



「合ってる? 乙川さん。」




風花の問いに恵は微動だにしない。

桜庭たちも冷静になったのか、恵に同情の視線を送る。



「……とりあえず集合時間再設定して調査、だよ。組み分けは、あたしが萊と小雪に合流。2人は茉莉花と恵に合流、ね。」

「何でその組み分けなの?」



小雪が尋ねると千藤が代わりに答えた。




「疑わしいのは君たち4人なんだよ。

まず、八重島さんの時は……フラット、と言いたいけど強いて言えば【部屋から出てこなかった桜庭くんと赤根さんは怪しい】。

次に小塚さんの時、【僕と風花くん、舘野さん以外は単独の時間があったんだよね? 乙川さんは小塚さんと別れた後、赤根さんと當間さんは桜庭くんを探している時、桜庭くんは単独調査をしている時】。そうしたらほぼほぼ容疑者から外れる僕たちを分散するのが妥当じゃない?」


「……そうね。赤根さんも怪しくなるんだ。」

「……。」



小雪の疑わしげな視線に、茉莉花は何も返さない。



「場所は、まずみんなで倉庫から裏庭を見る。その後はあたし達が校舎側、芳樹達が裏庭側でいい?」

「分かった。」



琴乃の言葉に風花が頷いた。

そして、彼はいつまでも言葉を発しない恵を見つめた。



「……乙川さん、話、聞いてた?」



恵は首を縦に振る。

まずは無視されないことに安心したのか風花は安堵の息を漏らす。




「……乙川さん、立とう。

残酷かもしれないけど時間がない。それに今回小塚さんと一緒にいたのは乙川さんだし、最後に乙川さんと会ったのは、何か小塚さんの意図があった……とオレは信じたい。

彼女の無念を晴らせるのは、乙川さんだろ。」



返事のない彼女に風花はしゃがみ込み、視線が合うように話しかける。



「なぁ、オレが2日目に小塚さんと話したのは覚えてる?」

「……うん。」


「その時にさ、小塚さんは『恵は本当に強くなった、今なら何が起きても恵を信じられるし託すことができる』って言ってたんだ。」



だから、と風花は恵の肩を揺さぶる。

恵は突然のことに驚いて顔を上げた。




「いつまでも下を向かない! 乙川さんなら大丈夫! 本当にダメになりそうだったら、オレが支えるからな。」


「よし…き…くん。」




恵はそこでやっと周囲を見渡すことができた。

皆の顔を見て、ようやく周りの不安や悲しみを感じたのだ。そう、大なり小なり、自分だけではない。自分が、最期まで由香といたのだから、彼女の無念を晴らせるのは自分なのだ。


差し出されたタオルで顔を乱雑に拭くと恵は立ち上がった。




「……ごめん、時間がないもんね。

泣くのは、全部解決してからでも遅くないもんね。」

「そ、さすが親友!」



豪快に笑いながら風花は恵の背中を軽く叩いた。

そこで恵はふと自分の身軽さに気づく。




「……由香ちゃんの端末がない?」

「は? どういうこと?」

「私、トイレに行く前に【由香ちゃんの端末を預かったんだよ】。落とすと怖いからって。」

「それ、見たよ。裏庭で小塚さんが消えるまでずっと彼女は左手に【小塚さんの端末を持っていた】。小塚さんの退場と同時に消えちゃったのかな。」


「へぇ、」



茉莉花も恵もひっくり返すように自身の身体を見るが、互いに自分の端末しか出てこなかった。


それから全員で由香が消えた場所に向かう。

血痕は生々しく残っており、殆どの者が顔をしかめた。




「一応温室は由香ちゃんと調べたよ。」

「……あたし達で見とこうか。」



琴乃の言葉に桜庭と小雪がついていく。

一方で風花は裏庭の方を単独で見渡していた。



「血痕を踏まえると彼女は倉庫の方から来たんだな。」

「うん、でもザッと見たとき見当たらなかった、よね?」

「つまりは隠されてたってことでしょ。」



もう少し冷静に見ていれば、恵と茉莉花の脳裏にその考えが浮かぶ。



「……八重島さんの話に戻るけど、引きずったってことは犯人は女の子かもね。」

「千藤くん、持ち上げられるの?」

「失礼な。」



千藤は恵を手招きすると、あっさりとお姫様抱っこをしてみせた。恵は目を白黒させ、驚いている。




「あえて引きずった可能性もあるけど、そうすると時間が掛かるんだよね。犯人がどう考えたのかは知らないけど。僕より大きくて力のある桜庭くんと風花くんなら持ち上げた可能性もあるかなって。」

「……確かに。」



茉莉花は恵を何とかお姫様だっこしたがそこから動くことは叶わず足を震わせていた。




「乙川さん! 発見発見!」




裏庭から風花の嬉しそうな声がした。

駆け寄ってみると土まみれの彼は端末を持っていた。




「これ、小塚さんのじゃねーか?」

「どこにあったの?」

「血痕があっちに続いてたから何かあるかなって見たらこれが落ちてた。」



彼が指差すのは林の方だ。土も茶色で見にくいだろうによく見つけたものだ。

恵は手早く、由香のパスワードを入れたが、画面は決して開かれなかった。



「あれ?」

「パスコード間違ってないよな?」

「……そのはず、なんだけど。」

「じゃあ別の人のってことか。なら、オレが持ってるわ。誰かに狙われるかもしれないし。」



風花がポケットに端末を入れる。

そのタイミングで温室から琴乃達が戻ってきた。



「……そういえば、【春翔も上から現場を見てた】よね? 何か思い当たる節ないの?」




え、と琴乃と風花以外が千藤を見る。

疑いの目を感じたのか風花があー、と唸りながらもフォローを入れた。




「オレ達、小塚さんが消えたタイミングで図書館に居たんだ。その時にオレと舘野さんは資料を見てて千藤は図書館のあの窓から裏庭の方を見てたんだよ。」

「そ、僕がアラートより先に2人に小塚さんが消えたことを伝えたわけ。」


「それで裏庭に行く途中で當間さんと桜庭さんと会って……アラートがなり始めて、って感じだな。」


「たしかにその時は乙川さん、【端末を2つ持っていた】ように見えたよ。」




ふむ、と皆頷く。今回の情報については風花と琴乃の言葉もあるため信憑性は高そうだった。



「倉庫の方も見とくか。」



風花の誘導により、全員が移動し始める。

恵もそれに続こうとしたが風花に腕を掴まれた。それは琴乃も同様だったらしく2人は列の後方に位置することとなった。

風花にしては珍しく小声で尋ねた。



「あのさ、図書館にあったアイテム使用歴のデータについてなんだけどさ。舘野さん、睡眠薬何個か出してるよな?」

「へ?」



彼女は慣れた手つきでロックをしていない端末を開き、処方歴を確認する。

覗き込むとどうやら【明け方に2つ処方されていた】。



「あたし、薬出した覚えないよ?」

「……端末盗まれたとか。」

「さすがに【今回は放置してない】!」



琴乃は自分の端末に自分の名前が出ていることを見せる。ふーん、そう。と呟くと次に風花は彼女に先ほど拾った端末を見せた。



「何これ、誰の?」

「さぁ、小塚さんのではなさそうだけど。」

「……じゃあ寧々の? なら開けるよ?」


「「えっ。」」




琴乃は手早くパスコードを打ち込むと起動した。

すると画面には【強制退場】実行済み、となっていた。

琴乃も風花も小さく声を漏らした。

恵は一度画面を閉じ、プロフィールの方に移った。



「持ち主は【八重島さん】、か。」

「でも意味が分からないんだけど。」

「それはーーー。」


「おーい、いつまで内緒話やってんのー?」



倉庫の方から桜庭の声が聞こえ、風花はとっさに端末をポケットにしまった。

3人が慌てて倉庫の方に行くと、倉庫には【血のついたビニールシート】が落ちていた。

恐らくそれに包まれて由香は隠されていたことが伺えた。


内部では千藤と琴乃が辺りを見回していたがそれ以外の目ぼしい発見はなかったようだ。




「じゃあここからは二手に分かれようか。」

「恵ちゃん、施設の中調べる?」

「いや、待ってほしい、かな?」



小雪の提案を止めたのは茉莉花だった。



「……ちょっと実験したいことがあるんだよね。當間さん達は施設の方、お願いしたいかな?」

「何だよ、茉莉花ちゃん。証拠隠滅でもしたいわけ?」



疑わしげに見るは桜庭だった。

どうやら彼は自分と同じようにアリバイが希薄である茉莉花を疑っているらしかった。



「……あたしはいいよ。確認したいことあるし。そっちは4人もいるから例え茉莉花が犯人でも平気だと思うし。」



琴乃は先ほど聞いた睡眠薬について気になっているようであっさりと提案を受け入れてくれた。

桜庭は苦々しげな表情であったが小雪も同意したことで3人は再度施設内を確認することとなった。




「それで、容疑者赤根さん? 実験したいことって?

「千藤、言い方。」

「別にいいよ。事実だもん。」




茉莉花のドライなリアクションに恵は苦笑した。千藤はつまらなかったのかそれ以上の揶揄いはしなかった。




「実験、なんだけど【強制退場】がどの範囲でできるのか知りたいんだよね。」

「というと?」

「若狭くんが言ってたよね? 【強制退場】ってさ、アプリを開いて、私たちの首元のバーコード読み込んで、実行をすることで成されるって。

なら、読み込むところまでやって、実行は別の所でもできるんじゃないかなって思ったの。」


「……なるほどね、その仮説が正しければその画面を保持する時間が永久であるか、タイムアウトがあるか。対象から離れたら無効になるかそうでないのか、それを検証する必要があるってこと。」


「千藤くん、あたり。」



風花と恵は感心したように納得していた。




「で、芳樹くんに私のバーコードを読み取って時間と範囲を調べてほしいんだけど。」


「えっ、オレ?」


「そうなるよね。茉莉花ちゃんと私は今回容疑者だし。千藤くんは……問題児だし。」

「容疑者の乙川さんに言われたくないなぁ。」



3人の様子を見て風花は不満げであったが了承した。



「あ、なら芳樹くん。自分のと私のでやってみて。所有者と所有者でないかで差があるかみてほしいから。」

「……分かった。絶対押さないように気をつける。」



恵は風花にパスコードを伝えた。

そして彼は茉莉花の首元からバーコードを読み込み、行くぞと言ってそのまま施設の対角線の方まで走って行ってしまった。



「乙川さん、アピールうまいね。ここで端末を預けるとか、犯人ならできないよ。」

「別にそんなつもりじゃ……。」

「この結果次第では風花くん以外は容疑者が増えるわけだけど。」

「どうして芳樹くん以外?」


「彼、移動の時は殆ど僕の腕掴んでたし、退場者情報も僕の端末を横見してたからね。彼は端末に一切触れてない。」



そんな話をして10分くらい経つと風花が少し汗をかいて戻ってきた。




「エリア中全部歩いたけど10分くらいでタイムアウトになった。1分前からカウントダウンが始まって……、ちなみに乙川さんとオレの、ほぼほぼ同時だった。」


「つまりは【エリア中は有効、時間制限は10分】だね。」




恵が端末を返してもらいながら、纏めると3人とも頷いた。




「そろそろ集合時間だしログインルームに行こうか。」

「そうだね。」



恵は頷いた。

カフェテリアに行くとすでに3人は待っていた。どことなく琴乃が苛々しているようであり、気になった恵は声をかけてみた。



「どうしたの、舘野さん?」

「聞いてよ、恵!」



はっと何かに気づいたように急に声をひそめる。



「あの2人何かずっと考え事してるのか気がそぞろなのか、あたしが無言でトイレ行っても気づかないんだよ? アリバイなんてあってもないようなものだよ。」



何のための2人組だと、とブツブツ文句を言っていた。

確かに今回は桜庭については疑われる立場で余裕がないのだろうし、小雪は決してメンタルが強いわけではないから仕方がないのかもしれない。



「乙川さん、舘野さん、中入るぞー。」



風花の声に反応して2人もログインルームに向かう。




この時、誰が気づいていただろうか。

とある人物が大きな嘘をついていたということに。





①退場情報 その1

【今回退場させられた人物】八重島寧々

【退場させられた時間】3:00〜4:00

【退場させられた場所】温室

【アバター状態】全身に擦り傷

*彼女はサポーターではなかった



②退場情報 その2

【今回退場させられた人物】小塚由香

【退場させられた時間】4:30〜5:30(恵と茉莉花が目撃していたため、4:40くらいが正確な時間である)

【退場させられた場所】温室横、裏庭入り口

【アバター状態】頭部より出血

歩いていた時流血していたため新鮮な傷であることがうかがわれる。

*彼女はサポーターではなかった



③【小塚の証言】

寝る前に八重島が桜庭に謝っていた。

その後急に眠くなり気づいたらアラートが鳴っていた。



④【温室前の跡】

裏庭から温室に向かって何かを引きずった跡があった。

犯人が意図的につけたか、それとも引きずらざるを得なかったのかは不明。



⑤【みんなのアリバイ】

八重島がいなくなった時、部屋から出てこなかったのは桜庭、赤根。寝ていたため、一応他のメンバーにも実行は可能。

小塚がいなくなった時、単独行動をしていたのは乙川、赤根、桜庭、當間。



⑥【小塚の端末】

小塚がトイレに行く前に乙川に端末を預け、彼女が消えるまで端末は乙川が持っていた。



⑦【八重島の端末】

小塚の血痕の先、林のあたりに落ちていた。

起動すると強制退場実行済みとなっていた。



⑧【千藤の目撃証言】

千藤もまた小塚の【強制退場】の場面を見ていた。小塚が消える前、乙川は確かに端末を2つ持っていた。



⑨【睡眠薬の処方について】

明け方に2つ処方されているが、唯一使用できる舘野は睡眠薬を使った覚えはないと証言している。



⑩【血のついたビニールシート】

恐らく小塚はそれに隠されて倉庫にいた。



11 【退場画面保持の時間】

エリア中は保持可能、10分経つとタイムアウトになる。

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